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魔導士たちの非日常譚  作者: 抹茶ミルク
カキブ編2 喧嘩と救出
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竜人の復讐 5

 


 ソリューニャは城の中を王の姿を探して駆け回っていた。

 王の姿がないということは、彼がどこかへ避難していることを示す。


(だが、この敵の動き、恐らくまだ王はいる! ならば隠れられる前に見つけなければ!)


 姿を隠されてはせっかくのチャンスがフイになってしまう。

 それだけは、阻止したかった。


「いたぞ!」「捕らえろー!」

「これ以上暴れさせるなー!」

「うおおお!」


 焦るソリューニャに兵隊たちが群がってくる。


「邪魔を……ッ、するなァーーー!」


 煩わしい。こんなところで足止めされるわけにはいかず、ソリューニャは強行突破を図る。


「……っ! くそっ、鬱陶しい!」


 廊下という場所はどうしても敵の密度が増してしまう。兵隊たちは倒しても次から次へとソリューニャを押し戻すかのように現れる。


「ぉおおああーー! 道を、あけろーー!」


 この無茶な進撃は体力的にも、魔力的にも激しい消費が伴う。

 この兵隊たちの誰も王の居場所を知らず、情報を得られないことも苛立ちを加速させるのだった。


 ◇◇◇






 ミュウが部屋を出て、リリカと別れた地点へ向かっているときだった。


 誰かに、見られている。


「っ!?」


 慌てて周囲を確認するも、木の扉と、石の廊下と、太い柱があるばかり。人影も、物音もない。が、見られている。確かに、見られている。

 視線だけは感じるのだ。



「あ、ミュウちゃん~。相変わらず可愛い~」

「あひゃっ!?」


 いきなり間延びした声が聞こえて、ミュウはびくりとした。

 慌てて振り返ると、そこにはリリカが立っていた。いたるところにかすり傷があり、服もあちこち破れている。


「り、リリカさんですか……」

「うん? どうかし……」


 ミュウがホッと気を抜いたときだった。


「──っ、ミュウちゃん!」

「ひぇぁっ、わ!」


 リリカがミュウを引き寄せた直後、一本の矢が通り過ぎていった。


「矢!?」

「あっちからです!」


 二人が矢が飛んできた方を向く。

 規則正しく立ち並んだ柱のどこかに敵がいるのだろう。

 物音の一つも、少しの気配も伝わってこなかったことから推測するに、敵はかなりの手練れ。

 また、隠密系の魔導を保持している可能性が……


「ぃあっ!」

「え!? リリカさん!」


 リリカの背中、肩のあたりに、よけたはずの矢が刺さった。

 痛みに膝をつくリリカだが、それ以上に何か、おかしい。


「うっ……。か……熱い……」

「まさか、毒です!?」


 ミュウは急いで、その場にうずくまったリリカを近くの柱の後ろまで引っ張っていき、柱を背に座らせる。

 そして刺さった矢をそっと引き抜く。床に捨てられた、血の絡まった矢がカラカラと音を立てた。


「とりあえず、治療するです! ヒールボール」

「……っ……ぅ」


 黄緑色の魔力がリリカを包む。

 ヒールボールには強力ではないが解毒作用がある。弱い毒ならば解くことができるだろう。


「だ、大丈夫ですか?」

「……ま、は」

「む、無理はだめです!」


 ミュウは立ち上がろうとしたリリカを慌てて座らせる。

 状況はすこぶる悪い。動けないリリカを守りつつ、未だ姿を見せない敵と戦わないといけないのだ。



「ん!」


 二人の隠れる柱の横を、一本の矢が通り過ぎ、


「やっぱりそういう魔導ですか」


 カクンと方向転換した。

 ミュウはある程度予想していたため、少しばかりの余裕を持ってよけた。


(追跡じゃなく、あらかじめ設定されてるですね。牽制でしょうか……)


 これは牽制。このまま隠れていても、敵にはそこを攻撃する手段があるということだ。

 つまり、誘われているということか。


「だけど、乗るです! リリカさんは私をかばってくれたですから! 今度は私が!」


 ミュウは杖を握って陰から出た。

 そして油断なく周囲を見張る。どこから矢が飛んできても落とせるように。


「……!」


 ミュウから見て右手側から矢が飛んできた。

 矢そのものに攻撃力はあまりない。落とすのは簡単である。


「はっ!」


 杖の先端から放たれた純魔力のビームが矢に当たり、矢を破壊した。


「む、そこ!」


 今度は正面から飛んできた矢を同じ魔導で破壊する。


(移動しているです! そして直接()ってきません! 顔も出さないなんて、敵は冷静で慎重です)


 隠れたまま一度は別方向に放ち、それから矢の進行方向を曲げてミュウに向かわせている。

 そして敵はその後なんらかの方法で見つからずに場所を移動するのだ。

 そのように、ミュウは推測した。


(だとしたら難しいです! 放つ瞬間の隙を狙えない!)


 顔を出さないということは、こちらから敵を見つけることも、まして攻撃を当てることもできないということだ。


「あっ、また!」


 左から。今度はカクカクと細かく動きながら迫ってくる。


「それくらいじゃ、外さないですよっ!」


 ミュウは少し範囲を広げたビームを放つ。

 矢はあっさりと光に飲み込まれた。


 射手はいろいろとやってくるが、ミュウにとってはそのすべてが単調な攻撃だった。

 一本ずつ、別方向から動く矢が飛んでくるだけ。多少動くくらい、ミュウにしてみれば誤差のようなものだった。


「…………!?」


 そんな中で放たれた、ただミュウを狙ってまっすぐ迫るその矢に、彼女はたじろいだ。

 落とされることを望んでいるかのように、ただただまっすぐ。


「は……」


 罠である可能性。一瞬迷ったのちに、ミュウが杖を向けると。


「っ、わぁ!」


 矢が、増えた。いきなり現れた魔方陣の中心を矢が通った刹那、矢が魔方陣から飛び出てきたのだ。

 間に合わない、そう直感したミュウはとっさにしゃがみ込み、さらに範囲を広げたビームを放った。


「逃がし、ませんですっ!」


 落とし損じた矢を無理な姿勢から撃ち落とす。

 どの矢がリリカを狙ってくるのか分からないため、なるべく全ての矢を落とすのが理想なのだが、そうすると攻撃に転じることができないのが難点だ。

 それにしても、危なかった。杖を握る手が汗でじんわりと湿る。


複製(コピー)魔方陣……。向こうもそろそろ本気です)


 複製魔方陣。

 外見だけ似せた魔力を作り出すという効果の魔方陣である。

 結局は性質までは再現できない上、ごく短時間で自然消滅してしまう魔力のハリボテだ。


(上手い。矢ならその短所も気にならないです。……相当な使い手? 私じゃ勝てない強さの相手……です?)


 ミュウが杖を真正面に向けて、魔力を杖の先端に集めていく。

 増幅型の欠点、制御の難易度の高さが彼女を苦しめるが、なんとか魔導を組み立てる。


(でも、やるしかない。魔力も温存したいですし、やるなら急いだほうがいいのです)


 増幅型は魔力の消費を抑えられるため、こういった場面では助かる。

 普段より少ない魔力で普段ほどの魔導が使えるのだから、欠点に対する見返りは十分にあるといえる。

 やがて杖の先端に、光る球が浮かんで大きくなっていく。そしてそれが一抱えほどの大きさになったとき。


「照らせ、輝る衛星(ホーリーボール)!」


 それは放たれた。

 ゆっくりと、ゆっくりと空間を照らしながら進んでいく。

 どこからか矢が飛んできて球を貫くが、矢はそれをすり抜けて地に落ちた。


「無駄です。あれは魔力が光っているだけ。物理攻撃は無意味ですよ」


 そう。あれは攻撃魔導ではない。ただ光るだけの、魔力の塊である。

 そんな無害なものを打ち出した理由、それは。


「矢が飛んできたということは……っ、見つけました! 速撃の飛星(ソニックスター)!」

「きゃぁあ!」

「手応えありですっ!」


 影だ。

 透明化などでなく柱などに隠れているだけならば、実体は存在している。

 そして光を浴びることがあるなら、


「影が伸びるです! 速撃の飛星!」

「ぁぁあ!」


 一度広がってからカーブを描いて一カ所に着弾する速撃の飛星は、柱の陰に隠れる敵にも有効だ。

 思わぬ攻撃を受けた女の悲鳴がそれを証明している。


「ふぅ。別の作戦も考えてたですが、運よく一つ目で見つけたです。あとはもう隠れる隙も!」


 三度目の速撃が柱の後ろを直撃した。

 砕けた石が塵となって舞う。その中から転がるように何かが出てきた。


「…………!!」

「がっ、げほっ!」


 射手が初めてミュウの前にその姿を現したのだった。





 ミュウは射手を冷静で手練れた人物だと予想していたが、ミュウ自身まだまだ未熟。読み違えることなど普通にあるものだ。

 実際の敵はミュウの予想とはかけ離れていた。


 射手の名は、ウラ。チイタバーナが師事する次世代H7の一人である。

 彼女の戦い方はスナイパーに近いが、防御や回避に能力を割き、その分攻撃力に欠けている。

 しかし、欠けた攻撃力はチイタバーナ直伝の多彩な魔導の効果や毒矢で補うことができる。いわゆるトリックタイプのスナイパーだった。


(な、なんですの! あ、あんな幼いのにあの精度、胆力は!)


 そんなウラだったが、彼女には魔導や戦術でないところに欠点があった。


(こ、こ、怖いですわ! もし見つかったりしたらあのビームが……)


 彼女は怖がりであったのだ。

 魔の才能は同期の中でもピカイチ。容姿も抜群にいいお嬢様。

 だがしかし、怖がり。それだけはどうしようもなく、克服することもできず彼女のハンディとなった。


(ひ、一人目は上手くやれたわ。なのに、もう一人が!)


 向こうの手の内を探るつもりで牽制を仕掛けた。だが、どんなに軌道が変わるように設定してもことごとく撃ち落とされた。

 結局敵はビームだけで矢を全て凌いでしまい、ウラの方から札を切ることになってしまう。

 が、虎の子の複製魔方陣すらも通じなかった。初見の攻撃すらビームで一本残らず落とされてしまったのだ。さらに勇気を出してつついてみた光球は矢を素通り。

 ことごとく外れる思惑は彼女を追いつめていく。


(か、勝てないですわ! ここはいったん逃げ……いえ、体勢を……)


 そこに飛んできた敵の攻撃は、彼女をパニックにさせるに十分だった。


「…………っ、なぜ!?」


 速撃の飛星、一撃目。

 ウラは冷静さを失った。

 二撃目。

 ウラの心は折れ、戦意を失った。

 そして、三撃目が当たる前に、彼女は柱から飛び出した。


「こ、こ、」

「覚悟ですっ!」

「ひい!」


 降参だ、と。ウラが言う間もなくビームが迫り、ウラはあっさりと不可視のタネをバラした。


「も、潜ったです!?」


 ちゃぷんと音を立て、ウラが地に沈み込んだ。ビームは彼女の頭上を抜ける。

 これが彼女が、ミュウに見られないように柱から柱へ移動できた理由である。

 地中を移動すれば、なるほどそれも可能であろう。


「まずい……! また見失うです!」


 そしてその結末は。




(な、な、なんとか逃げられたですわ! このまま安全な……)


「見っけ! すっごく痛かったじゃない!」

「え?」

「お返しよ!」

「きゃふん!」


 復活したリリカに地中から引っ張り出され、きっちりと仕返しされることで決したのだった。なんとも呆気ない終わりである。







「あの中に手をつっこむとは……。リリカさんは怖いもの知らずですか……」

「あ、ミュウちゃん! 助けてくれてありがとね! すごいねあれ!」

「あ、いえ、こちらこそ助かったです。ありがとうですリリカさん」


 リリカとミュウ、二人の間の友情が少し深まった。

 

 ウラの魔導、「潜行者ダイバー」。


 物質の中に潜ることができる。中にいるときはその物質の影響を受けないため、極端なことを言えば溶岩の中にも潜行できる。ただし、顔を出した瞬間顔が蒸発する。無意味。

 潜行時、使用者の周りの物質は液化する。呼吸は不可能で、長くは潜り続けられない。増えた体積分の液が溢れたりはしない。体に付着することもない。

 次世代の中でこの魔導を習得できるのは才能で頂点に立つウラのみ。案外、難しい魔導である。

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