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魔導士たちの非日常譚  作者: 抹茶ミルク
カキブ編2 喧嘩と救出
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竜人の復讐 3

 


「か、かわいい……!」


 城内のとある一室にて。リリカは思わず声を上げた。


「そそ、そうでしょうか?」


 視線の先には顔を赤らめてもじもじしているミュウ。


「うふぇへへへ~」

「なにそれ気持ちわ……怖いですよ!」


 白黒のゴシック調ドレスに、白黒のカチューシャや靴などの小物。そして、それらに飾られたフリルが上品さを残しつつも可憐さを醸している。


 そう、メイド服である。


「うんうんうん! すっごく似合ってるよ!」

「え、あ、ありがとうです……」

「きゃ~~!」


 ミュウが何か反応するたびにリリカのテンションが跳ね上がる。

 ミュウがテンションについて行けずに困惑し、その困り顔に萌えたリリカはさらにテンションを上げる……という生産性のないループ。




 事の発端はリリカがミュウの服装を不憫に思ったことだった。


「ミュウちゃん、ずいぶんボロボロの服着てるわね」

「あ、はい。さっきまで牢屋にいたので……」

「あーなるほど。でもその格好はあんまりねー」

「はい、ちょっと寒いです……。足も冷たくって……ていうかさりげなく牢屋をスルーしないでほしいです」


 そんな会話をしながら開けた……というか鍵のかかった扉を壊して入った部屋に、大量のメイド服が置いてあったのだ。

 そこはメイドたちの更衣部屋だったのだが、そんなことはリリカたちにとってはどうでもよく、「タイミングよく現れたモノクロの衣類」しか目に入らなかったのだった。




「リ、リリカさん! そろそろ行きましょう!」

「あ、うん、そうね!」


 リリカはミュウの提案にようやく落ち着きを取り戻した。落ち着いたといっても人の話を聞けるレベルまでで、テンションは高いままだったが。


 部屋を出て、それらしい部屋を探索していると、兵士たちが出入りしている大きな部屋、というか物置が見えた。


「あれかな?」

「多分、そうです」


 それはまさしく武器庫。アリのように列を為して兵士たちが入っていき、同じ槍を持って出て行く。


「槍ばっかりじゃないかな?」

「いえ、武器は一つの部屋にまとめて入れられていると聞いたです」

「へ? どこで?」

「お城の中でです。私、牢屋の前はお城に部屋があったです」

「へ?」


 思わず身構えるリリカ。お城に部屋があるということはつまり。


「……もしかして、ミュウちゃん敵側?」

「ち、違うです! 気づいたらここに連れてこられてたです! 誘拐なのです! 拉致なのです!」

「えぇー!? 大変じゃん!」

「と、とにかく! 敵じゃないです! あとで詳しく話しますから!」

「うん分かった!」

「へ、し、信じてくれるですか?」


 あっさり信じるリリカに逆に困るミュウ。

 そのとき、背後から声が掛けられた。


「おい、お前たち」

「ぅわわっ!?」

「ひゃぅっ!?」


 リリカが恐る恐る振り向くと、そこには背の高い兵隊が二人を見下ろしていた。


(……やるかー!?)


 リリカが一瞬迷い、騒ぎを起こす覚悟を決めたとき、兵隊が口を開いた。


「む。侍女か? こんなところで何をしている」

「へ、じ、じじょ?」


 聞き覚えのない単語に気勢をがれるリリカだったが、彼女が何か言う前にミュウが動いた。


「そうです新人メイドです!」

「その服を見れば分かる。避難命令が出ているはずだがなぜこんなところに?」

「おつかいを頼まれたです。その武器庫の中に用があるですが……」

「……なるほど。それにしても、見たところダークエルフのようだが、珍しいな」

「こっちに知り合いがいるですよ。その人の紹介なのです」


(ありがとミュウちゃん!)

(しっ。はなし合わせて下さいね)


 咄嗟の嘘だったがなにやら勝手に納得されたようで、二人はすんなりと部屋に通された。

 リリカの顔が指名手配犯のそれと気づかれなかったのは幸運だった。


「ところで、そこのお前はなぜそんな格好をしている?」

「え、あ、あたしですかっ? えええええ~っとぉ~……」

「この人は、その、そう、私の友人です! メイド志望ということで見学に来てたです」

「そうか、それはタイミングが悪かったな」


 途中そんなピンチもあったが、それもミュウのアシストでクリアー。リリカはミュウのアドリブりょくに感心するばかりである。



 そして、潜入成功。

 部屋の中はたくさんの武器でいっぱいだった。槍だけでなく、幹部や一部の兵隊のための特殊な武器も置いてある。


「ゴルティ副隊長! その二人は誰でありますか!」

「少しここに用があるらしい。メイドとメイド見習いだ」

「そうですか! こちらの準備も整っておりますが!」

「む、よし。お前たち、さっさと用を済ませて早く避難しろよ」

「分かってますです! では!」


 そんなやりとりの後、背の高い兵隊は二人を残して行ってしまった。

 まだ兵士たちはたくさんいるが、誰も怪しむ者はいない。急いでいて、それどころではない。

 チャンスである。


「何を探すの?」

ワンドです。私、それがないと魔導が使えないんです」

「え、でもレンとかは何も使わないけど……」

「私のはそういう魔導なんです。杖を使う、そういう条件のもとで発動できる魔導なんですよ」

「へぇー。じゃ、治療とか」

「もちろん、いるですね」



 魔導の中には制約のあるものが存在する。制約を定めることでより強力な魔導が使えるようになったりするのだ。

 例えばウイリラは、「部屋の中限定」という制約を己に課すことで魔導を強力なものにした。あれは汎用性を犠牲にした分、特定状況下での圧倒的な支配力を得られるといったものである。

 そしてミュウの魔導には杖を用いるという制約があるというわけだ。



「わ、これ何?」

「箱に書いてありますよ。えーと、“ヌンチャク”ですね」

「へぇー。強そう~」


 二人は目的のものを探して奥へ進む。


「あ、これは? ツルツルの紐と……尖った靴?」

「えーとですね……。“鞭”と“ヒール”らしいです。んん? “ミラプティ専用”とも書いてありますね」

「何に使うんだろ?」

「さあ?」


 こんなものまで置いてあるが。


「これはー……。武器なの?」

「……分かんないです。“荒縄”と“蝋燭ロウソク”を武器に戦うなんて想像もつかないですよ」

「あ、まだ何か書いてあるよ」

「……これも“ミラプティ専用”らしいです」


 ……こんなものまで置いてあるが。


「うわ、かっこいい!」

「あ、それは知ってるです。鉄砲です」

「へぇー」

 ちなみにロナウ用のライフルである。


 そしてとうとう。


「あったです!」

「本当だ」


 1メートルほどの長さの杖が何本か、立てかけてある。

 ミュウは木製のそれらを一本ずつ触って確かめていく。


「……これは安定型。……これは変質型ですか。レアですね」

「何言ってるの?」

「杖にはいくつか種類があるですよ」


 ワンドはこの世界でかなりメジャーな道具だ。

 その主な使われ方としては、魔力の安定化である。

 魔力は精神状態などに影響を受けやすく、慣れない頃は常に安定しないものだ。それを安定させる手助けをする道具として、杖が用いられることがある。素材が常に一定の程度に魔力を通すため、それを媒介させることで安定したコントロールが可能になるという仕組みである。

 また、必ずしも初心者向けの道具ではなく、その使い勝手のよさから広い層に使われる。


「安定型は魔力を安定させるもの、変質型は魔力の質を変化させるものです」

「うーん。よく分かんないけど、すごいんだね!」

「…………」


 先の文で説明した用途で使われるものは安定型といい、杖と言えばこれを指すというくらいには一般的だ。またそれ以外の用途、特に武器としてのそれに変質型なども存在している。


「……え、こ、これは!」

「どうしたの?」

「はい、すごいもの見つけたです! 増幅型ですよ! 初めて見ました! これにします!」


 増幅型。

 使用者の魔力量を増加させる……のではなく、杖を介した魔力を活性化させることで魔導の威力を底上げするというものである。

 安定型の逆を行き、魔力を暴れさせるというキワモノなのだが、使いこなせればかなり強力な道具ぶきとなる。

 その活性化の度合いも様々で、ミュウが手にしているものはそれなりに強いようだ。


「んっ……、つつ! これなら、なんとか……!」


 ミュウは魔力を通し、手に馴染ませようとする。それは暴れ馬を制御するようなもので、そのためにはかなりのセンスと技量が必要とされるが。


「だ、大丈夫なの?」

「……はいっ、もともと、私たちの種族は……ん、魔法関連に、造形が深い……あっ、のです」

「……うん? よく分かんないけど、頑張って!」

「…………」


 ミュウが荒れ狂う魔力と格闘しながら説明する。

 そうしてしばらくの間格闘を続けていると、早くもほとんど適応してしまった。


「……ふぅ。だいぶ慣れたです」

「もういいの? 早い!」

「はい。これであとはレンさんとジンさんのところへ戻るだけです」

「じゃ、行こー!」


 これで治療が可能になった。ミュウはリリカを連れてレンたちのもとへ急ぐ。

 兵士が少なくなったところを見計らって、部屋を脱出。

 幸運にも呼び止められることもなく、あっさりと脱出に成功した。


「こっちです!」

「おーけ!」


 道中で兵士たちに見つかることもあるが。


「お前たち、早く避難をするんだ!」

「きゃーー分かりましたですーー」


 ミュウの演技で難なく突破。


「こういうのは勢いが大事です」

「助かる!」




 二人は順調に進んでいた。

 しかし、もうすぐレンとジンがいる部屋……というところで空気が変わった。


「誰か来る!」

「リリカさんもですか? 私も何かイヤな予感がするのです……!」


 二人は立ち止まって警戒を強める。

 確実に、何かある。二人とも同じことを考えていた。

 やがて、コッ、コッと石の床を叩く靴の音が聞こえてきて。


「……来た、ね」

「です……っ」

「……あなたたちね。侵入者というのは」


現れたのは、リリカと同い年ほどの少女。年の割に長身で、スレンダーな体躯と整った顔つきをしている。


「……ミュウちゃん、行って」

「え、リリカさんは」

「あたしはあの人を足止めするから。二人のことはお願いね」


 リリカのそれは、対ディーネブリ戦で自信をつけた故の行動だった。

 あの戦いはリリカをかなり変えるきっかけとなったのだ。リリカは戦闘に関して最初ほどの抵抗感はなくなっていた。


「ロナウ先輩のかたきよッ!」

「早く、ミュウちゃん!」

「……わかったです!」


 ミュウが走り去り、残されたリリカは少女と対峙する。

 リリカの第二戦が始まった。

 メイドなダークエルフ(銀髪ロリ)。

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