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魔導士たちの非日常譚  作者: 抹茶ミルク
カキブ編2 喧嘩と救出
27/256

突入

 

 

「しかしまあ、退屈だな」

「まったく。この広い街の中、逃げた子供を捜すなんてな」

「ま、訓練よかマシか」

「そうだな! どっかで酒でも呑んで帰るか?」

「はは! いいねぇ!」


 翌朝の街の一角で。

 レンたちの捜索のため、実に2000ほどの兵士たちが徘徊していた。たった三人の子供のために緊急警戒態勢とは、王の後ろ暗さを示唆しているといえる。

 雑談に興じるこの三人の兵士も、その一部である。だが、彼らは他と比べて少しばかり運が悪かった。


「……うわぁ!」

「どうした……ぎゃあ!」

「お……わぁ!」

「にっしっし!」

「ちょろいちょろい!」


 彼らはいきなり背後から襲われ人目のつかない所に引き込まれると、あっという間に動きと目と口を封じられた。


「もがぁ、んんー!」

「うるせぇ! 騒いだら川に突き落とすぞ!」

「ん……んぐ」


 そして、鎧などの装備を剥ぎ取られた。

 芋虫のように転がされ、恐怖にもがく男三人。


「もがががむんー!」

(助けてくれー!)

「オイ。俺たちがいいって言うまで動くなよ。声も出すな。もしできないなら……」


 片方の男の頭のすぐ横で、地面がえぐれる音がした。パラパラと土が落ちてくる。

 こんな威力のパンチ、されれば大怪我どころか命がない。

 男たちは真っ青になって押し黙った。


「いいかぁ? ずっと見てっからな?」

「「…………」」

(コクコクコクコク!)




「わはははー! 面白ぇー!」

「真っ青になってビビってやんの!」

「あいつら、オレたちがいると思ってずっとあのまんまだぜ」

「ざまみろ! あっはっは!」


 レンとジンは、手際よく装備を奪うことに成功して上機嫌である。


「少しでかいか?」

「大丈夫だ。最低でも歩けりゃ問題ねぇ」



 やることは非常に単純。奪った鎧を着て兵士たちに紛れ、堂々と城内に侵入するのだ。

 そして、城内のどこかに幽閉されているソリューニャを探して、適当に脱出する。

 適当というあたりに不安が残るが、どうなるかは全く分からないため事前に作戦は立てられない。


「おーい、盗ったぞー」

「ちゃんと縛ってきた?」

「ばっちりだ!」

「よし、着替えよう」



 先発はレンである。

 ガシャガシャと慣れない歩きで正門横、兵士用の扉に向かう。

 のを、離れたところで見守るリリカとジン。


「……めちゃくちゃ怪しいな」

「うわぁ、すごい目立ってる……」


 扉の両端には兵士がいて、レンはその片方と何か話し始めた。


「おーおー。なんか喋ってんなー」

「手振りまでつけて、何言ってんのかしら」

「おいおい、腕立てし始めたぞ!?」

「うわぁ、逆立ちしてるよ……」

「見てらんねぇ……」


 非常に奇妙なになった。挙動不審な兵士が腕立てしたり、逆立ちしたりしているのだ。

 そのうちレンの手振りが激しくなり、ついには、


「うわ、もう失敗かよ!」

「えええ!? どうすんの!」


 レンが兵士を殴り飛ばした。作戦は初っぱなから行き詰まりである。


「しゃーねぇ、行ってくらぁ」

「え、ちょっとジン!?」

「お前はまあ、混乱するからそん時に来ればいいや」

「えぇーー!?」


 言うが早いがジンは鎧を脱ごうとした。が、なかなか脱げずにイライラして結局引きちぎった。

 金属製の鎧といえど、ジンの魔術の前には飴細工にも等しい脆さであった。


 一方のレンは片方を殴り飛ばした直後、もう片方の兵に扉を閉められてしまっていた。兵士側の即座の判断である。

 レンが扉に攻撃を加えるも、扉はビクともしない。壁も門も扉も、魔力を封じる能力を持った材質でできているのだ。


「くそっ、鎧が邪魔だ!」


 レンもジン同様に引きちぎる。

 と、向こうから駆けてくるジンが目に入った。


「ワリーな! 失敗した!」

「レン! 門越えるぞ!」

「え、お? あ、なるほど!」

「いっくぞぉーー!」


 腰に長いロープを付けたジンが、スピードを上げて向かってくる。

 ジンの意図を理解したレンは、両手を合わせて腰を落とした。


「せぇーのぉーー!」


 ジンが、レンの組んだ手に飛び乗る。


「あーらよっ、とぉ!」


 レンは、足と腕と風の力を使って、ジンを高く跳ね上げた。風が、巻き上がる。


「ナイストス! レン!」


 ジンは高い門のさらに上を飛び越えて、城内に着地した。

 レンも、ロープを伝って門をよじ登り、越えた。侵入成功。

 そして、大きく息を吸うと、


「ソリューーーーニャーーーーァア!」

「いま行くぞーーーー!」


 解放宣言!


「わはは! すっきりした!」

「おうおう。敵さんがたくさん集まって来たぜ」

「よしゃ! 相手してやっか!」


 二人は、群がってくる兵士たちを見て凶暴に笑った。





「な、なんて無茶苦茶な……」


 リリカは唖然としていた。まさか真っ正面から突入するとは。

 レンを踏み台にジンが飛んだのを見たときに少しやりたくなったことは、鎖で縛って心の底に沈めておく。

 誰があいつらに似てるもんか。とは認めたくない一心である。


「ん、集まってきた」


 門の向こうで二頭の獣が暴れまわっている。なんというか、すごく活き活きして見える。

 二人が派手に暴れているため、捜索に出ていた他の兵士たちも次々に集まってくる。

 一度は閉められたあの扉も、そのうち開くだろう。そしてそのときに兵士として侵入するのだ。

 そして、ソリューニャを助ける。






「おらぁ!」「雑魚どもがぁ!」

「ぐ、このガキども、強い!」

「うわぁぁぁぁ!」

「ちっ、幹部様に援助を要請しろ!」

「りょ、了解!」


 レンとジンは50からの兵士たちを相手に無双していた。

 そもそも兵士たちはほとんどが魔法使い。軽い鎧に、例の紐が出る槍で武装しているだけである。

 対する二人は魔導士。魔術も習得しているため、地力には大きな差があるのだ。

 だが、それでも。


「ぐわっ」

「うわぁーー!」

「強すぎます、副隊長!」

「くそ、なんとしても捕らえるんだ!」


 魔導士である副隊長ですら全く歯が立たない。

 魔術を使っているとはいえ、ただのパンチで鉄の装備を凹ませるなど尋常ではないことなのだ。


「大丈夫か!」

「応援に来ました!」

「おお!」


 扉が開いて、捜索に出ていた兵士の一部が加勢した。人数が一気に倍になる。

 つられて志気も上がるが、それでもまったく


「人数だけか!」「雑魚どもがぁ!」 

「うわぁ!?」

「強い!」


 関係ない。圧倒的な力の前に、脆弱な個がいくら集まろうとも。


「おい、リリカ入ってきたかな?」

「多分いるぜ」

「よしよし。じゃあ俺たちも捜しにいくか!」

「おう…………っ!?」


 二人もそろそろソリューニャを捜しに行こうとした、そのとき。

 無数の魔力弾が二人を襲った。


無数の種(マシンガン・シード)!!」


 一発ごとの威力は低い。が、それが何千、何万と当たり続ければ。

 話はまったく違ってくる。


「ツブは弱ぇ! けど、この隙のない攻撃ッ!」

「ああ! 幹部ってやつか!」


 心強い味方の登場に、兵士たちは沸いた。


「ハーミィスタ様が来てくれたぞ! 全員退避!」

「了解!」


 この世界では、非力な数より優秀な個が勝ると考えられている。そのため、こういった状況では個の邪魔をしないようにするのが当たり前なのだ。

 レンたちにやられた者たちをかかえて、兵士たちが引いていく。その顔には安心の色が浮かんでいる。個に対する信頼の表れだ。



 二人の身体に弾がぶつかる。魔術の防御力が圧倒的に勝ってはいる。だが、弾は当たっているのだ。


「っ!? 魔力が!」

「そういう魔導か!」


 弾が当たった部位の魔力が微妙に薄くなった。これはただの弾ではないと二人は気付く。


 弾の魔力には、当たると魔力を相殺そうさいする効果が付与されている。

 じわじわと、養分を吸い取るように相手の魔力を削っていくから「シード」だ。


 長期戦は不利と悟ったレンが両手に風を集める。

 その間も弾は雨あられと飛び交ってレンたちを消耗させ、こぼれ弾は味方のはずの兵士たちをも襲う。

 強大な個どうしの戦闘では、巻き添えを喰らうこともままある。退却とはすなわち、信頼とともに警戒の表れでもあるのだ。






「ふぅ。無事でいてね……」


 リリカは混乱に乗じることで難なく侵入していた。

 鎧を脱ごうとしたが、やっぱり引きちぎりながらリリカはレンたちを心配する。

 ここは城の裏。大きく回り込んできたのだ。


「はあ、結局ジンとおんなじ脱ぎ方するのねあたしは……」


 無残にもただの鉄くずと化した鎧を見ながら、少しへこむリリカ。


「でも、裏からなんてあたし賢いかも!」


 リリカが裏に回ったのは敵の目が向いていないと思ったからだ。事実、誰もいない。

 我ながらいい考えだ。とリリカの自画自賛。


「にしても、おっきな建物だなぁ。この中捜し回るのは大変そう」


 リリカは誰かに見られていないか、よく確認してから飛び出した。

 城のたくさんある出入り口のうちの一つ。その扉の取っ手に手をかけながら、リリカは深呼吸する。


(どうか、誰にも見つかりませんように! 特に、「かんぶ」と「はけん」って人達には絶対見つかりませんように!)


 幹部は高い戦闘力を持つというベテラン魔導士だと聞いている。そして派遣はその幹部の上をいくと言われるほど強いらしい。

 いずれも、戦闘経験が浅いリリカにとっては危険な相手である。



 がちゃり。



「あら、ほんとに来たわ」

「うっ…………!」


 リリカは生まれて初めて、これでもかというほど己の不運を呪った。

 そこに佇むのは最も警戒していた、敵。独立三人部隊のひとりであり、あの夜ソリューニャを襲った女。


「わたしは、ディーネブリ。“派遣”の一人よ。あなたは確か、リリカちゃんね? 可愛い顔してるわね」

「くぅ~~……!?」

「こうなったのは残念だけど、仕方ないわ。仕事、させてもらいますよ」


 瞬間移動の魔導士、ディーネブリである。



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