vs気まぐれの魔神
ここはギルドの中庭。
「俺は人間が嫌いだ」
騒ぎの中心にいるのはレンとジン。
「だが誇りのを斃した貴様らの力を認めている。だから無礼な呼び出しにも応じてやったのだ」
そして気まぐれの魔神、その片割れであるネロ=ジャックマン。
「アァ~? 上から偉っそ~によ」
「わかってんだろ?」
二人は既に戦闘態勢に入っている。
彼らの戦いはまだ終わっていなかった。たとえ空の上でなくとも、たとえガウスを破ったとしても、二人にはまだ戦う理由があった。
「テメェに喧嘩売ってんだよ、わかってんだろ?」
「……はあ、そうだろうな。そこのリリカと同じだ」
「あん? リリカ?」
リリカはあの日、湯のぼりの気まぐれ兄弟と廊下で対面して以来ほぼ毎日ネロの部屋に通っていた。
「勝ったら彼らに謝れと言うのだろう? 貴様らといいそんなことのために魔神に挑むとは、なんとも救い難き愚か者どもめ」
「そうなんデすか? リリカさん」
「うん、実は……。あ、でも喧嘩じゃなくてね!?」
怪我人であり到底戦いにもならないような力量差、そんなリリカの挑戦をネロは作業の合間の暇つぶしとして条件付きで受けた。その条件とは拳と拳での決着ではなく。
「ぼっ、ボードゲーム……」
「そレで、勝ったんですか?」
「…………」
以下、リリカのゲームよわよわ奮闘記。
「えーと、2七にきへー! 行けー馬ー!」
「4五に弓兵。詰みだ」
「はにゃーっ!?」
「よーしあと9マス! 次で上がるかも!」
「ふむ、44ゾロ目。追加で46延べ18。上がりだ」
「ふぎゃーっ!?」
「風と八分咲き……だよね? たぶん強いやつのはず、これなら!」
「ほう! 確かにいい手だが、残念だったな。月と湖岸、満開だ」
「そんなぁー!?」
累計0勝54敗であった。
「兄上は様々な遊戯を嗜んでおります故、互いに初めてだろうと早々勝てませんよ。何度も申し上げたでしょう」
「うるさーい! 頑張ったんだぞ!」
「ホホ。まあ殴り合いよりは分がいいでしょうがね」
ネロは最初は暇つぶしだったはずが、リリカの小気味いい負けっぷりとめげずに向かってくる跳ねっ返りの強さを気に入っていた。今ではもうお気に入りの玩具のようなものだ。
「だが結局一度も勝てなかった。今回も同じだ。謝罪などせんぞ」
「いらねーよ」
バッサリと切り捨てるレンとジン。二人の目的は最初からネロがチュピの民たちやオーガ族に頭を下げる未来などではない。
「謝りゃよ。謝りゃあ島は元通りになんのか?」
「死んだ奴らは生き返んのか?」
「レンさん……ジンさん……」
「……みんな。わかってんだ……!」
二人は魔力を高め、いつ何が起きても対応できるよう気を張り巡らせる。
「とにかく! 俺たちぁテメーがムカつくから殴るんだ」
「もういいだろ。来ねーなら行くぜ!」
「ふはっ、童の駄々だな。感情と理性の均衡がとれていない」
ネロが消えた。
「こーいう奴は後ろだろ!」
「くたばれ!」
この戦いにゴングは鳴らない。話の途中だろうが、構えていなかろうが、気まぐれの攻撃は気まぐれで、そして。
「残念だったな、前だ」
「っそが! 騙したな!」
一瞬だ。
「ああ、やはり後ろにしよう」
「ぐあ!!」
「騙したのではない。攻撃すらも気まぐれに決めるだけだ」
後ろに飛ぶことを予期していた二人が振り向きざまに攻撃するが、ネロは直撃前にまた飛び、それにも何とか反応した二人を嘲るように三度飛んだ先は二人の背後。
「そんな俺をなぜ殴れると思っているのだ?」
「おいジン!」
「あぁ、効いてねぇよ!」
どの瞬間、どの座標にでも気まぐれに存在を確定させる。気まぐれ兄弟の瞬間移動能力は白兵戦でも無類の脅威となる。
「ただ俺も油断はせん。誇りの王に勝ったお前たちを見くびるものか」
「がっ!? くっそ! もっと研ぎ澄ませ!」
「いっ、てぇ! 敵は魔神だぞ、ガウス級のヤベェの!」
「わーってる、けど……!」
ミュウの治癒魔導を受けてレンとジンは動けるようになった。だが完治ではない。療養期間で落ちた筋力、体重。戦闘勘も鈍っている。ガードのない部位に叩き込まれる打撃のその一撃一撃が重く体の芯に響くのは、いつも攻撃を食らった瞬間にダメージを最小限にとどめようとする肉体の動きができていないから。いま彼らが発揮できる戦闘能力はガウスと戦った時の半分ほどである。
「関係ねぇ。どうでもいい、体なんて」
「んだな。どんなときでも戦わなきゃ、生きていけねぇ」
「ふふ、見上げた闘争心だ」
ネロは気の長い遊びも好む。だがそれ以上に、自分のシナリオを超えるイレギュラーを好む。
ガウスの地上侵攻はネロの企てた遊びの中でも特に大掛かりで長い、極上の娯楽になるはずだった。だがガウスは失敗した。
「その獣じみた戦闘勘が冴えわたり、奇跡の如き読みと集中力で誇りのと渡り合った」
レンたちが絡んだことで計画は破綻したのだ。竜の千年越しの決戦も重なった。地上の精鋭が救出に来てあと一歩のところで取り逃がした。
シナリオは台無しになったわけだが、それが遊びの失敗かというとまったくの逆で。
「俺が見た中で最も心躍る戦いだった!」
大成功だったのだ。そして今目の前にそのレンとジンが、ガウスに向けた敵意と同じものを剥き出しに睨んできている。高揚感がゾクゾクと背筋を抜けた。
「だが解せんのはその怒り。仲間を手にかけた誇りのに向ける怒りは理解できた。だが今は過ぎたこと、それも直接の係わりもない俺に向けるにはいささか過剰だろう」
「…………!」
「いったい何がそこまで駆り立てる?」
レンが集めた風で薙ぎ払うが、ネロは何度かの瞬間移動で躱して見せる。
その隙にジンが忽然と気配を消した。
「だから、みんな分かってんだよ……! どうやっても戻ってこねぇもんはあんだ……!」
「どんなに悔しくって、悲しくっても……!」
ジンの低姿勢からの蹴りを跳んで躱すと、ネロは拳を固め放つ。ジンが防御を固めた瞬間、ネロは背後に飛びがら空きの背に攻撃を叩き込んだ。
「それでも生きなきゃなんねぇから! あいつらは生きるのに必死だ!」
「……! レンさん……!」
「テメェがどんなに嫌いでも構ってる暇なんかねぇんだ!」
「ジンさん……!」
エリーンが両手で口元を押さえる。そうして息を止めて堪えていなければ、今にも泣きだしてしまいそうだったから。
どこまでも、どこまでも。彼らは自分の心のあるがままにやっているのだろうが、その行動はいつも誰かのためにも見える。
「うっ、くっ……ああ……!」
「エリーン?」
リリカが心配そうに手を握る。
「だいじょぶ、です……」
仲間の命を預かる自分はそれをしてはいけないから、立場が感情のままに動くことを許さなかった。
しかし二人の心はいつも純粋な子供のように正直で、まっすぐ目を逸らさないから。エリーンが抑えこみ直視しないでいた感情を言葉にして、ぶつけた。
「ただ、嬉しくて……!」
視界は滲み、気を抜けば崩れ落ちてしまいそうだ。それでも自分はこの戦いから目を逸らしてはいけないから、エリーンはボロボロ涙を溢しながら前を向く。
「……ん、でもそろそろ止めなきゃ」
隣のリリカも二人の戦いに釘づけだ。だが彼女たちは気付いていた。
「けどオレらぁそんなお利巧じゃねぇからよ!」
「原因作ったテメェに好き勝手やらせたままじゃ我慢なんねぇ! ぶん殴らなきゃ気が済まねぇんだよ!」
レンが伏せるジンを飛び越えて回し蹴りを放つ。強風が全方位に吹き荒れるが、ネロは二人の上空に飛んでその影響を受けない。
レンは風を集め、ジンは上空のネロを即座に見つけ石礫を投げる。
「理解できねぇだァ!? じゃあそれでいいよ!」
「テメェはただぶん殴られてろ!」
レンが降りてきたネロに向かって殴りかかる。そして直撃の瞬間、暴風を背の方に向けて放った。
「ぐお、罠か!」
「っしゃあ当たり!」
後ろに逃げるだろうという予測がハマり、ネロは空気に吹っ飛ばされて姿勢を崩す。
そこにぬらりとジンが現れ、ネロに強打を叩き込んだ。
「が……! 打ち合わせもせずよくやる!」
「もういっちょ!」
背後から追撃したはずだが、ネロの掌打がジンの拳を受け止めていた。
「ジン!」
「くそ、惜しかった……!」
「でも入った! この調子でいくぜ!」
ジンが口の端から流れる血を乱暴に拭う。レンもすでに息が上がっている。
病み上がりの二人の肉体が、一瞬で景色の変わる超反応の攻防についていけていないのだ。
「レンさん! ジンさん! もうやめて下さい!」
「ミュウ、なんで止めんだ!」
「ミュウの言うとおりだ。これ以上は見てらんない」
乱入したのはミュウとソリューニャだ。
「止めんな! まだ終わってねぇ!」
「ダメー! 傷が開いちゃうでしょ!」
リリカも飛び出し三人がかりでレンたちを制止する。
エリーンはリリカが二人の失調にいち早く気付いていたのだと理解した。
「…………」
ギャラリーは続々と増えている。
ネロはその中にクロードを見つけると、目の前に移動した。
「わ。面白い勝負してたね」
「例の“話”は本当なんだな?」
「うん。本当だ」
「そうか。ならば決めたぞ」
ネロがここに来た理由の一つに、クロードが面白い情報を持っているからだった。そしてその情報はこれから起こりうる未来、この大陸で密かに進行している陰謀。ネロの大好物と言って差し支えない内容だった。
「ジン。レン。やめだ」
「あぁ!?」
「貴様らとの戦いはここまでだ。悪化して後遺症でも残ってはつまらん」
「勝手に決めてんじゃねぇよ!」
「何と言おうと俺はもうやらん。その体で一撃入れたことに免じ、俺が降参したという形でも構わん、とにかく終わりだ」
急に態度を変えたネロに、黙っていないのは二人の方だ。二人はまだ一撃ずつしか入れられていない。リリカたちに止められながらも戦意はまだ衰えてはいなかった。
そんな頑固な様子を見かねて、ネロはある条件を出した。
「ならばそうだな。スカイムーンの原住民とオーガたちを故郷に送ってやろう。この条件でどうだ?」
「ふざけんな……!」
「んなもんテメェが泣くまで殴って言うこと聞かせりゃ同じだ!」
「確かに……! ジンあったま良い……!」
「待って待って待って二人とも! 落ち着け!」
「んぐー! リリカさんも感心してないで止めるのですぅ!」
ネロの提示した戦いをやめる条件は荒ぶる二人ではなく、彼らを止められる三人に向けたものだったといっていい。
ソリューニャとミュウはその条件がとんでもないものであるとすぐに理解し、二人を制止する腕に一層力を入れた。
「ネロ=ジャックマン! 今のは本当か!?」
「貴様は察しが良いな。嘘は言わん、どこへでも送ってやる。貴様らが今ここで生きていられる理由を思い出してみろ」
「二人ともっ、ここは堪えるのですうぅ……!」
レンとジンは納得いかないだろうが、二人の戦いはとんでもない成果をもたらしたのだ。
「長い旅にならずに済む! 人目を避ける必要もない! すごいことだ!」
「二人の気持ちも分かるのです! でもおかげで誰も死なずに帰れるかもしれないのです!」
「なんかよく分かんないけどもうおしまい! 二人とも血が出てるし……!」
「ぬぐぐぐ……!」
必死の説得でようやく、渋々といった感じで二人は引き下がった。
「くっそ!! 次会ったら覚えときやがれ!」
「ああ、やるなら万全のときがいい。今は傷を完全に癒せ」
ネロは羽織っていたシャツの汚れをはたき落とすと、髪をかき上げた。
「それに貴様らはこの先もっと大きなうねりに巻き込まれる……」
ネロはちらとクロードを見る。あの話が真実であれば、レンとジンにはまだ役目がある。
「まだ小さいが原初の灯火を見た。絶やすなよ」
「ふっ、言われなくても」
クロードは小さく頷いた。
ネロはただ待てばいい。そのときが来れば面白いものが見られる。
「クク、来てよかった。人間族の国……!」
ネロはレンとジンに背を向けるとギルドの方へと戻っていく。
「ネロ……!」
「リリカ。帰しはするが、侘びはせん。貴様は一度として俺に勝てなかったのだからな」
リリカは悔しさに俯く。何があったにせよこれがリリカが勝敗に賭け、そして勝ち取れなかった結果だ。
「……リリカ、さん」
「そういうことだ。出発は明日、皆に伝えておけ」
エリーンは一言では表しようのない複雑な気持ちで横を通り過ぎるネロを見送った。
「……ごめんね。あたしどうしてもあいつに謝らせてやりたかったんだけど……」
「いえ、リリカさんは……ありガとう、ございます」
気まぐれの魔神との戦いはこうして幕を下ろした。
◇◇◇
戦いは終わって、再び病室。
ベッドに逆戻りのレンとジンと、見舞いのリリカたち。そして医者のヨルテアの6人だけがこの部屋にいた。
「アンタらねぇ、なんであんなことしたの?」
ヨルテアはベッド上のレンとジンに向かって、珍しく怒気を孕んだ声で話している。
「だってムカつくから」
「ぶん殴ってやんなきゃ気が済まなくって」
「それで病み上がり……いや、完治もしてない体で無茶な喧嘩ってかい」
ヨルテアはレンの包帯巻きの腕に触れる。
鋭い痛みにレンは小さく呻いた。
「確かにウチは許可したよぉ。ミュウちゃんの治癒魔導」
ヨルテアがミュウを見る。小さな治癒魔導使いはびくりと肩を震わせた。
「治癒魔導はね、欠けた指なんかは治せない。腐った内臓を新品にはできない。死人は生き返らせられない……」
「…………」
「ミュウちゃんは良く知ってるはずさ」
治癒魔導の多くは自己治癒能力を極限まで高めることで怪我を高速で治す力だ。故に自己治癒の範疇の外にある回復はできないし、莫大な体力を消耗する。
エリーンの治癒魔導はまさにこれで、焼け死んだベルの皮膚や失われたウルーガの耳などはそのままである。
「確かにミュウちゃんの力はウチの知るどの治癒魔導よりも高度だよ。それでも治癒魔導は、神の光じゃあないんだよ」
一方ミュウのヒールボールは人体医学の知識を取り込むことによって多少の外力が発生する、治癒魔導としては破格の性能を持つ。折れた腕の骨が正常な形で癒着したり、回復に必要なエネルギーを供給し老廃物を排出する働きがあるのだ。
しかしそれはあくまでミュウの知識に依存し、とりわけ彼女が正確に理解できていない内臓の治癒は完璧には行われない。
「途中から腹が痛んだろう? 指先が痺れたはずだ。呼吸がしにくかった? 眩暈はあったかい?」
「あった……」
「それでも鞭打って喧嘩を続けたね。体のことなんかいいだろうって、そう思ったかい?」
「うん、思った……」
それでもヨルテアは許可した。レンたちが完治しないだろうと分かっていて、しかし完治までの時間は大幅に短縮できる。患者が苦しむ時間が短くなるからだ。
「きっと昔からそうなんだろう。体についた古い傷が、アンタらがずっと無茶な戦いを繰り返してきたことを物語ってた」
ヨルテアは二人の手術までしたのだ。二人の肉体はまるでこれまでの無茶をため込む器のようで、しかもそれはそう遠くない未来すべてのダメージを収めきれなくなり割れるだろう器だった。は二人の未来を想ってぞっとしたものだった。
「時には本当に無茶も必要だったんだろうさ。それは分かってるつもりだよ」
ミュウも、リリカも、ソリューニャも。誰一人、何も言えなかった。自分に言われているような気すらしていた。
「ガウスのことはね、本当に感謝してる。無茶して命削って、そのおかげで多くの命が救われた」
ヨルテア自身、一個の生命としてガウスの大量殺戮を止めてくれたこの子供たちに感謝している。武力を持たないただの一医者である彼女の感謝は、ともすれば誰よりも大きなものかもしれない。
「でも今回の喧嘩は必要だったのかい? 調子の出ない体でどうしてもやらなきゃいけなかったのかい?」
結果だけ見ればチュピの民とオーガたちにとても有益な成果を得た。だがあれは私闘だった。
ヨルテアは我が身を鑑みない二人のやり方がどうしても我慢ならなかったのだ。
「はぁぁー……」
二人の怒りには思いやりを感じる。同時にその無鉄砲さに失望も感じる。この感情は己のエゴだという自覚がある。
ヨルテアは大きく息を吐いた。苦しそうに息を吐いて、そして言った。
「ウチはアンタらのこと、嫌いだよ……」
レンとジンは何も言えなかった。
「命を大切にしない奴の怪我を診るなんてまっぴらなんだよ……」
それからしばらく、病室は重たい静寂に包まれた。
「今回の傷はもう看ない。安静にしてりゃ治る傷だよ」
一度手をつけた分の傷は最後まで見よう。だが今回のことも含め、今後不必要な戦いで受けた傷は見ない。
それが譲歩した上でのヨルテアの結論だった。
「わかった。命助けてくれてありがとう」
「そんで、ごめん。俺たちの体を治してくれる人がいるってこと、もう忘れねぇ」
レンとジンは深々と頭を下げた。
ヨルテアの気持ちに納得できたから、あとは自分で治せという言葉には文句の一つもなかったのだ。
「……丈夫な体に産んでもらえたことに感謝するんだね」
ヨルテアが退室した後、残った三人にもレンたちは頭を下げた。
「んー、ごめん! 無茶して心配かけた」
「ミュウも悪かったな。せっかく治してもらった体で勝手なことした」
「い、いえ! いいのです!」
最後に言われた言葉がレンとジンの印象に残っていた。両親のもとに帰るための旅だったはずだが、随分と寄り道を繰り返しそのたびに体を酷使してきた。
「……父ちゃんと母ちゃんに会いてぇなぁ」
「うん……会いてぇ」
「オレ、強くなる。ボロボロんなんなくても戦えるようになるくらい」
「俺の体ぁ俺だけのもんじゃなかったんだな。ちゃんと覚えとくよ」
三人は顔を見合わせた。
「あはは。あたしもボロボロになっても戦う二人が目標になってたって言うか~……」
「自分も体張らなきゃ、怪我するくらいじゃなきゃって気になったりしてたのです……恥ずかしい……」
「うん。耳が痛い説教だったよ……」
体を大切にすること。命を大切にすること。傷つけば悲しむ人がいること。
「ま、ともかく明日だな」
「うん。みんな見送らなきゃね」
「お別れやだぁ」
「よしよしなのです」
戦い続きで見失いかけていた当たり前のことを、五人は再確認させられたのだった。




