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魔導士たちの非日常譚  作者: 抹茶ミルク
天雷の大秘境編1 魔族と人間
164/256

決着、第九小隊

 


 ミツキが数人の獣人を連れて戻ってきた。


「おうジン、でかした!」

「ミツキ! そいつら何だよ」

「ちょっとあっちに向かう伝達係を捕まえてきた。帝都……リーグだっけか?」


 今日だけでいくつか分かったことがある。

 その中で特に重要だったのが、ジンたちの存在がまだガウスに伝わっていないということである。もちろん一時的なものでしかないだろうが、敵に捕捉されるまではかなり自由に動ける。


「おれたちは昨日第七小隊を壊滅させた。その生き残りからおれたちのことを知ったこの第九小隊は伝令をリーグまで走らせた」

「ふんふん」

「今日中には伝わるだろうね。もしかしたら別のルートでもう伝わってるかも」

「別のルート? なんだそりゃ」

「レンやリリカだろう?」

「そうだ」


 この時点では、リーグにはまだ真紅の竜が人間を連れてきていたことは伝わっていない。が、もうしばらくでジンたち三人の存在は知られることになる。レンとリリカについても同様に、彼らもすでにガウス軍とは遭遇してしまっているから時間の問題だ。


「問いただしたところじゃレンやリリカのことは知らないみたいだったけどな。意外と目撃者は少なかったみたいだ」

「ここに“人間を捕まえろ”って命令がないし、帝都からも本当に知られてないと考えていいだろうね」

「なるほど」


 しかしジンたちが第九小隊を襲いなおかつ壊滅させたという情報は辛うじて止めることができた。これで最後の目撃情報は第七小隊のキャンプ地付近まで。つまりジンたちがグリーディアを突破して帝都に近づいてきていることまではバレていないはずだ。


「今が好機だよ。見つかっていない今のうちに一気に近づいて、向こうの態勢が整う前に救出する」

「運が良ければ捜索に人手が割かれて帝都の守りが手薄になるかも」

「混乱もあればなおよしだね」

「よっしゃあ! そうと決まりゃあ行くぜ!」

「その前に後始末しなきゃ」


 刀を抜いたミツキを、やはりジンは止めた。


「待てや」

「……せっかく裏をかけるんだ。おれたちのことを知られてるんじゃあ危険すぎる」

「けどよ、降参した奴にそりゃあんまりだろ」


 ミツキの言い分も分かっているのだろう。

 それでもジンはかばおうとする。

 二人が揉め始めたところで、生き残りとともに一か所に集められていたグリーディアが口を開いた。


「小隊は全部で九つある。このスカイムーンの各ポイントに配置されていて、それぞれ調査や準備を行っている」

「なんだ、急に?」


 グリーディアは淡々と続ける。


「いくつかの小隊ごとにそれらを統べる者がいる。驟雨のレインハルト、陽炎のローザ、氷獄のグリムトートー、紅霞のスカルゴート。四天と呼ばれる怪物たちだ。それぞれ広範囲を制圧するのに長けた魔法を使う」

「…………」

「小隊とは別に戦力を持つ者もいる。特に“雨の三剣士”と“幽幻の隊”には気をつけろ」


 グリーディアはそこで一つ息を吐くと、今度は重々しく口を開いた。


()()()は雷を操ると言われている。一瞬で、苛烈で、不可避だ」

「雷……!?」

「いいか? 四天と、ガウスだ。絶対に正面から戦うな」


 グリーディアは念を押すようにそう言った。


「何それ命乞い?」

「警告だ。無駄かもしれんが、言っておきたかった」

「ふーん。まあ、いいんだけども」

「命乞いは……そうだな、今からする」


 茶化すカルキを気に留めず、グリーディアは両手をついて頭を下げた。


「お前たちの邪魔はしない。もしもこの先お前たちの仲間に会ったとしてもだ」

「…………」

「だから頼む! せめてこいつらだけは助けてくれ!」

「待て、グリーディアさん!」

「それじゃアンタは……!」


 カルキは肩を竦めて後ろのジンとミツキを見た。もともとカルキはグリーディアの殺生与奪についてはジンに投げている。ここは二人に任せるつもりだった。


「俺はどうなってもいい! だがこいつらは折れ曲がってしまった俺にもついてきてくれたんだ!」

「バカ言うなよ! 駄目だグリーディアさん!」

「隊長!」


 ジンたちが知らない絆もあるのだろう。グリーディアと部下たちのやり取りがそれを感じさせる。

 ミツキは困ったようにジンに笑いかけた。


「うっわ、ははっ。超殺りづれぇ」

「なぁー俺からも頼むぜ。見逃してやってくれよ」

「見逃した後で刺されるのはジンじゃないかもしれないだろう」

「わかってる。だから戦って、俺が勝った」

「……う~ん……」


 言い争っている時間も惜しいが、ジンに譲る気はないようだ。最終的にタイマンで勝ったジンの主張が通ってこの場は収まった。


「ま、ジンに感謝することだね」

「恩に着る……」

「とはいえ君たちは主人を裏切るわけだ。結局今見逃されても命はないだろうに、どうするつもりだい?」

「さぁな……。ただ命惜しさにお前たちのことを話すような真似はしないと誓おう」

「当たり前だ。生かしたことを後悔させないでくれよ」


 こうしてジンたちは第九小隊を倒し、欲しかった情報も得た。

 それに伴い明らかになる陰謀。複雑に交錯する種族たちとその思惑。

 しかしそれでも尚やることが変わることはない。ソリューニャたちを救う。ただそれだけのために。


 リーグの方角へと遠ざかってゆくジンたちに、グリーディアが声を掛けた。


「ジン! ありがとうよ!」

「んん? ああ!」

「死ぬなよ!」


 ジンはいつもの不敵な笑みで拳を掲げた。


「お前ももう、負けんなよ!!」






 ジンたちは川を越え、再び森の中に入った。

 ミツキがキャンプから盗んできた地図を広げる。簡単なものだが、そこには得た情報をもとに数字が書かれていた。

 数字は1から9まで。それが丸で囲まれ、またいくつかの丸には文字も書かれてある。


「リーグまでは体を休められそうだな」


 それはこの島上のどこに小隊が配備されているのかを示している。

 第九とリーグとの間には数字はなく、つまりこのまま進む限り大きな戦いには遭遇しない可能性が高いということだ。

 ちなみに地図はリーグを上にして時計回りに5、8、4、3、7、9となっている。島の丸い地形もあり、まるで文字盤を弄られた時計のようにも見える。そして7と9にはバツがつけられ、それが壊滅したことを表してあった。


「あれだね。リーグに重なって1と2があるんだ」

「まあ首都防衛みたいなもんだろ。当然っちゃ当然」

「レンとリリカはだいたいこの辺とこの辺だな」


 ジンがまず指し示したのは、オーガと第三小隊の付近。

 そこから少し右下の方にずらし、第四小隊のテリトリーあたりも指さす。


「だいたいだぜ。遠すぎて分かんねぇし、ここに来てから妙に感じにくくなってるんだよな」

「まぁそんなもんでしょ。落下地点は」

「感じにくい、かぁ。聖域は魔力が自然発生してるから関係あるのかもな」


 フィルエルムで預かったお守りは、それを持つ者同士で互いの位置をぼんやりと掴むことができるというものだ。精度はそこそこでかつ本人の感覚の鋭さにも左右されてしまうが、方角や距離が少しでも分かるのは非常に便利である。


「ま、とにかくみんな無事だぜ」

「そっか、持ち主が死んだら反応もなくなるのかな?」

「縁起でもねーこと言ってんじゃねーぞカルキぃ」


 とはいえ実際その通りではある。こうしてジンたちが迷わずリーグへ向かえるのはソリューニャたちが生きていてかつ動いていないからだ。


 傷ついた体を回復させるため何度か休憩も挟みながら、森の中を進むジンたち一行。彼らは絶え間なくそのアンテナを広げて敵の接近を警戒していたが、そのとき三人の網がほぼ同時に何かを捉えた。


「みんな」

「ああ。後ろ」

「一人かな」


 そこそこの距離がある。しかも相手は無暗な接近もしてこない。


「正体が知りたいな。振り返るなよ」

「ああ。気づかないフリしてりゃいいんだろ」

「様子見られてる感じが嫌だなぁ。暗殺かな?」


 この距離では、気づいたことに気づかれれば逃げられる可能性がある。そのためここはわざとおびき寄せ、正体を見極めたいところである。

 果たして狙い通り、相手は気配を隠しながら少しずつ近づいてきているようだった。


「……そろそろかな」


 ミツキが呟いた瞬間だった。

 それは猛スピードで接近し、ミツキを狙って手を伸ばしてきた。

 ミツキは背中に目でもあるような動きでそれをよけると、一瞬で相手の手を捻りながら引きずり倒した。そして素早く関節を極めてうつ伏せの相手に馬乗りになると、そのときにはもうカルキが首に刀を当てていた。


「名前と所属、目的。十秒で」

「……ベルだ。所属はチュピで目的はアンタらを試スため」

「みたとこ魔族だけど。聞きなれないイントネーションだね」

「チュピってどっかで聞いたぞ」

「原住民じゃなかったか?」


 ベルと名乗ったその魔族の青年は、一切の抵抗の意思を感じさせず素直だった。


「抵抗の意思はない。放しテくれ」


 ミツキが判断を問うと、ジンは迷いながらも頷いた。カルキは肩を竦めて刀を引いた。ミツキはベルの手を放すと素早く離れた。


「感謝する。お前たちノ名が聞きたい」

「その前に。なぜ俺たちを試すようなことを?」

「異人を倒し親父を守ってくれた異人の話をスクーリアから聞いた。興味があったし、もし本当に強いなら手を貸すつもりだった」

「スクーリア……あの魔族か」


 ここに来て最初に戦った魔族の女がそんな名前だった。守ったというのはもう一人の方、ウルーガのことだろう。彼を親父と呼んでいるところから察するに、ベルとウルーガは親子の関係なのかもしれない。


「スクーリアは混乱していた。今度空から来た異人は他の異人と仲間というワけじゃなさそうだったという。それも確かめたかったが……ジュウジンとやらがほとんどやられていたからな。確かめるまでもなかった」

「おー。なんか頭良さそうな顔してるぞコイツ」

「考えれば分かることしか言ってないだろ、バカだなぁ」

「ぶちのめすぞコノヤロウ」


 つかみ合いを始めたジンとカルキを見て、ミツキはため息をついた。そしてベルの様子を観察する。

 ウルーガと同じオレンジ色の髪に、鼻から下を覆うマスク。半分隠れていてもわかるほど精悍で整った顔をしていて、体もそれなりに鍛えてあるようだ。

 ミツキは彼を信じられるかどうか、いくつか質問してみることにした。


「ベル。君は最初におれを狙ったね。どうしてかな」

「武器を持っていたからだ。あの棒がまさか刃物とは気づケなかった」

「じゃあ君がおれたちに協力するメリットは? 強いなら手を貸すって、変じゃないか」

「力を貸したあと、力を借りたいと思っているからだ。詳しくは……言えない」

「ふーん。ガウスはどう思う?」

「オレたちチュピの民を殺しニエ・バ・シェロを冒涜する仇だ」


 ベルはマスクに手をかけて、それを取り払った。


「……!」


 ジンが息を飲んだ。


 ベルの顎から鎖骨あたりまで、痛々しい火傷跡が広がっていた。何らかの処置をしたのだろう、健康な皮膚とそうでない皮膚との間に縫い跡がついている。

 左頬などは特にひどく、皮膚だけでなく肉まで削げており、奥歯と歯茎が剥き出しになっていた。


「ガウスに掴まれて、次に目覚めたノは何日も経った後だった」


 ベルは下顎から首にかけて手を当てた。目は憎しみでぎらついている。


「もう一度頼む。オレに協力させてくれ」




 ジンサイド二日目、ラスト。

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