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魔導士たちの非日常譚  作者: 抹茶ミルク
天雷の大秘境編1 魔族と人間
161/256

vs第九小隊

ジンサイド二日目、スタート

 

 

 レンやリリカのように現地人の協力者を得られていないジンたちは、情報という点で大きく後れを取っていた。駐屯地で見つけた資料もほとんどが知らない文字で書かれており、役に立つものはなかった。せいぜいが精度の高くない地図くらい。当然、情報の足しとしては役に立たない。

 ここが何なのか、なぜ竜はここに来たのか。最後に受けた攻撃は誰が撃ったのか、あのウルーガという男のこと、第七小隊の隊長を名乗るマーヤという武人のこと。分からないことだらけだ。このあまりにも少ない情報では、下手をすれば生命に係わる。


「おらああ! くたばれぇ!」

「ぐああ!?」


 ではどうするのか。

 決まっている。

 どうもしない。どうする必要もない。


 進めばわかる。敵と遭遇すればわかる。敵を倒せばわかる。

 それだけがはっきりしているから、彼らの行動には何の迷いもなかったのである。


「ソリューニャは無事かァ! ミュウはァ!」

「ぎゃあああ!」

「うああっ!」


 休息を取り終え、行動を再開してからしばらくののち。

 彼らはついに敵と思しき一団と遭遇した。


「あとマオは!」

「おいおいオマケみたいに言ってやるなって……」

「おう、悪い!」


 ジンは一人で敵の小部隊と戦っていた。

 相手は獣人の部隊のようで、高い身体能力を駆使してジンを囲みにくる。元々ジンは傷だらけで、数の差もある。

 それでもその上でジンは圧倒的だった。


 一方、特に重症のカルキは少し離れた後方で待機。

 ミツキも積極的には戦いに参加せず、ジンの戦いを見守っている。


「あーあ。刀……返してほしいなぁー?」

「その体じゃどうせ戦えないだろ?」

「君が僕の刀を返してくれればこの程度は」

「よし戦えないんだな」

「うーむなんという底意地の悪い解釈」

「やかましい」


 カルキの刀はミツキの千本刀でしまってある。カルキの魔導はその気になれば一瞬でジンとミツキを殺せるのだから、完全にカルキを信用していないならば当然の防衛策だろう。

 それに対してカルキも、今のところは大人しくしている。手元にあるならばそれに越したこともないのだが、無いならないであまり変わらない。本当に必要になるのはジンとミツキだけではどうにもならない敵が現れた時。そして自分が一人になった時だからだ。


「くらえや!」

「ごっふぁっ!?」

「ヒィ……!」

「うあ!」


 ジンがトンファーの一撃を獣人の馬面に叩きこむ。

 その返り血を浴びた二人の男が、怖気づいて逃げ出した。


「……ジン! 右の方を追え!」

「おう!」


 二人は別の方角に逃げていく。

 うち一人をジンに任せて、ミツキは残る一人に狙いを定めた。


「ミツキ、あれ!」

「分かってるってー……のっ!」


 ミツキが刀を投擲する。

 刀は逃げた男を追い越してその先の木の幹に突き刺さった。

 その精確なコントロールと木に刺さるほどの刀の切れ味に慄き、その男はへたり込んだ。


「よっしゃ」

「やるねぇ。わざわざ練習したのかい?」

「まあね。飛び道具が欲しかったから」


 ミツキとカルキが近づいて、その男に目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。


「やぁ。言葉は通じるよね?」

「あ……ひぃ……!」

「通じないなら君を殺して別のを探さなきゃいけないんだけど……」

「つっ、通じる!」


 カルキがにっこりと微笑んだ。


「よかったぁ。よかったなぁ?」

「は……はは……」


 なぜ二人は積極的に参加しなかったか。

 その理由は、真っ先に逃げようとする者を見極め逃がさないためだ。

 恐らくこの小隊は哨戒中か、もしくはジンたちの情報を得て探しに来たかのどちらかであろう。となれば、高い確率で本隊への伝達手段を持った者がいる。具体的には魔導を使用する者か、魔導具を使おうとする者、そして逃げ出そうとする者など。

 ミツキとカルキは少し離れたところから、そういった挙動をする敵を探していたのである。


「さて、君は仲間のところへ行こうとした。そうだね?」


 ニコニコとカルキが尋ね、男はこくこくと首を上下に振った。


「うんうん。でも仲間には僕たちを見つけたことも、君の隊が全滅したってこともまだ伝わっていない」


 全滅、という単語にはっとして男が振り返る。そこに立っていた者はなく、確かに全滅していた。

 男は急に黙り込むと、肩を抱いてガタガタ震え始めた。カルキが再度質問を投げ掛けても答えない。

 カルキは笑顔のまま男の手に自分の手を重ねると、指を二、三本へし折った。


「ぎゃああむぐぅ!? んむー!」

「しー。痛くなーい痛くなーい」


 カルキは男の口にその辺の土をねじ込んで口を塞ぐ。そして三度同じ質問をした。

 男は激しく頷いた。


「わぁ! それはなによりだ!」


 カルキがより一層嬉しそうに笑う。

 伝達を行わせないという目的は達成できていたようだ。


「それじゃ二つ目の目的をっと」


 もう一つの目的は、こうして捕らえて情報を引き抜くことだ。

 カルキは笑顔で順番に質問をしていく。

 拷問ですっかり心が折れていた男は知っていることを洗いざらい吐き出した。


 そのやりとりを聞きながらミツキは必要な情報を暗記し、時には推理も挟みながら整理していった。

 この島を原住民はニエ=バ=シェロと呼ぶが自分たちは「スカイムーン」と呼んでいる、というような小さな情報から、その原住民があのウルーガやスクーリアであり、侵略者たちとは別であるというような重要な情報まで次々と出てくる。

 挙句、魔神族の戦争の果てにここに行きついたとか、今立っている大地は空洞があって船が大量に眠っているのだとか、ともすれば作り話のような情報まで出てきた。


「島が兵器……かぁ。なるほどな」

「う……うぅ……」


 一気に情報を詰め込んだために少々の混乱はあったが、おおよそ聞けることは聞いた。

 特に赤い竜から降り立った人間がいるという情報が広まりつつあること。つまりジンたちの存在が魔族サイドにバレているという確認が取れただけでも十分な収穫だった。

 もはや敵の上層部まで伝わるのも時間の問題だろう。時間が経つほどにいよいよ行動は難しくなっていくから、何にせよ急ぐ必要がある。


「地上は火の海だってさ。どうする?」

「興味ないかなぁ」

「そうか。おれは困るぞ」


 ミツキが刀を召喚すると、それらは的確に敵の心臓に突き刺さった。ジンにやられた馬面の男も、吐くだけ吐かされた男も、皆が等しく屍となる。

 ジンはやらなかったが、戦場においては生かしておけない命だ。しっかりと息の根を止めておかないと思わぬところで祟ることを二人はよく知っていた。


「さ。ジンを追うか」

「ああ」


 今ミツキたちは極めて不利な戦いの真っ只中にある。生きるか死ぬか、殺すか殺されるか。

 そこに情けはない。彼らは敗者たちの屍をあとにした。





 もしも逃げる敵が複数いた場合、本隊と合流する可能性の高い方をジンが追う。

 あらかじめ決めてあった行動パターンに従い、ジンは逃げる男に案内させてついに本隊と思われる獣人族らがたむろする駐屯地にたどり着いていた。

 川の周囲一帯の木を切り倒して作られた広い空間だ。簡易の建物や見張りの高台が設置されており、流れの速い川には橋が掛けられている。川岸には先端を削って尖らせた木を組んで作られた柵が伸びており、橋からしか対岸を行き来できないようにされてあった。


「泳ぐのが早いかなぁ。でもあれ泳いでたらすぐ見つかっちまうよなぁ」

「う……ぐ……」

「お前、いい抜け道とか知らねぇか?」


 駐屯地を見つけてすぐに用無しとなったその男は、それまでわざと追いついてこなかっただけのジンにあっさりと捕まって情報を吐かされていた。

 ジンが拷問を好まなかったためミツキたちほどの情報(モノ)は手に入らなかったが、それでもこの駐屯地が第九小隊のものであることやメンバーには獣人族が集められていることなどを聞き出せた。


 そしてそろそろミツキたちが木の目印を辿ってここに来るはずだろうと考えていた矢先のことだ。


「いたぞ! コイツが例の人間だ!」

「こっちだ! 匂うぞ!」

「うげ!? 見つかった!?」


 網に掛からないよう十分に離れていたつもりだったが気づかれてしまった。敵の中に優秀なレーダーがいるのだろう。


「んじゃ仕方ねぇな!」


 ジンは隠れるのをやめて、真正面から突っ込んでいった。


「おらよっ! 通してもらうぞ!」


 殴って蹴って、打って斬って投げ飛ばして。

 次から次へと集まってくる敵をものともせずに、ジンはその中心で暴れ続ける。


「……わーお」

「嘘だろぉ……ジンのバカが……」


 追いついたカルキとミツキが呆れたように額を押さえる。

 情報を入手した今、もはや敵と戦うことにそこまでの意味はないのだ。もちろん殺すことで後々が楽になる可能性はあるが、優先すべきは一刻も早くソリューニャたちを救出することなのである。


「さ。刀ちょーだい」

「はぁーーーー」

「ため息が深い!」

「仕方ないな……」


 ぱっと頭上に現れた刀を受け止めるカルキ。一見するとただの杖だが、所謂仕込み刀である。

 抜き、刃を確かめ、軽く振る。


「うん、いける。手入れもしてくれてたんだね」

「刀に罪はないからな」

「んふふ」

「斬り殺すぞ」


 血や脂が付いたままだと刀は痛む。

 なんだかんだできちんと手入れしてくれていたミツキに、カルキはにやにや笑いを向けた。


「さーて。どう攻めようか」

「ここは関所っぽいな。最初のキャンプとは違って地に足ついてるし、高台があって橋に見張りまでいる」


 ミツキはそう分析した。

 マーヤが率いていた第七小隊とは違い、明らかにこの場所を守っている。それに設備もどう見ても移動には不向きで、ここに居座ってなんらかの作業、例えば農耕などに従事しているのだろう。


「関所、ねぇ。一体なにが通るわけでもないだろうに」

「うん。だけど今はおれたちがいる。情報も知られてたみたいだし警戒されてたんだろうな」

「となると、今回も情報を遮断するように動くべきか?」

「ああ。地図を信じるなら明日にはあの都市に着く。少しでも情報を遅らせるべきだ」


 やることは先ほどと変わらない。

 カルキは刃に魔力を纏わせた。


 突如魔力が通過して、ジンと戦っていた敵たちの首が一斉に飛んだ。残った胴は首から血を派手に噴き出して倒れる。


「げっ、カルキ! 危ねーじゃねぇか!」

「ははっ、僕も混ぜてよ」

「足引っ張るなよクソ野郎」


 カルキとジンを取り囲むのは、50を超える数の敵。

 しかし今さら戦力差を嘆くことはない。味方のいない空の上、もとより有利な戦いなどないと覚悟していたのだから。

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