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魔導士たちの非日常譚  作者: 抹茶ミルク
天雷の大秘境編1 魔族と人間
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vsウルーガ 2

 



 突然現れたカルキを見て、最初ミツキは自分の目を疑った。


「雲の上だぞ、ここ! お前、どうやって……!」

「竜に乗せてもらったのさ」


 あっけらかんと、カルキは言った。

 確かに、ここにカルキがいるという事実を説明できるとしたらそれしかないだろう。


「いやぁ、竜は優しいね。雲に突っ込んだときはもうダメかと思ったけど、守ってもらえちゃった」

「お前も竜にしがみついてたっていうのか!?」

「どうでもいい!」

「おっ」

「このぉぉ!」


 ジンが飛び出した。

 ジンは瞬く間にカルキへと近づくと、創造したトンファーを脳天目掛けて叩きつける。カルキは杖でそれを受け止め、涼しい顔のままジンに語り掛けた。


「よしてくれないかな。今は君と戦うつもりはないのさ」

「信じられっか!」

「ジン、後ろだ! 来てるぞ!」


 ウルーガがジンとカルキを標的と定め突進する。


「ちぃぃ!」


 ジンが舌打ちする。

 カルキとウルーガ、この二人を同時に警戒しながら戦うのは到底不可能であり、しかしどちらかの警戒を一瞬でも弱めることはそのまま死につながる。

 だから背後から来るウルーガを振り返って確認することすらできないのだ。たとえウルーガに隙だらけの背中を見せていようとも、正面のカルキから目は離せない。


「ほら、こんなところで死んでくれるなよ」

「なっ……!」


 カルキが素早い動きでジンを掴む。

 くるりとジンとカルキの位置が入れ替わった。


「どうか背中を刺さないでくれよ」


 迫るウルーガに向き直り、それは武器を持ったジンに無防備な背中を見せる行為であったが、まるで意識していないように、カルキが仕込み刀に手を掛ける。


「ッ!?」

「おおっ?」


 ウルーガは大きく横に跳び、カルキの正面から外れる。

 その反応、勘の良さに驚きつつも、カルキは抜刀と同時に魔導斬撃を放っていた。

 三日月型の魔力はウルーガの肩を掠めて飛んでゆく。


「避けられるか。僕が万全なら一瞬で殺れてたのになぁ」

「ググ……! 貴様ら……!」


 ウルーガは忌々しげに顔を歪めるが、カルキの脅威はしっかりと感じ取っているのだろう。

 ミツキに対してあれほど警戒していたのだ。同じ武器を持った敵を前に無理に突っ込んでいくことはせず、一旦スクーリアのところまで退いた。


「ウルーガ! 怪我が……」

「構わん!」

「でも……!」

「っ、伏セロ!」


 ウルーガはスクーリアを押し倒すようにして、飛来したカルキの攻撃をかわす。

 退いた、というのはカルキにとって大した意味を持たない行為だ。彼の魔導は多少の距離などものともしない威力とスピードがある。


「きゃ!?」

「スクーリア、目を離すナ!」


 ウルーガはカルキたちを睨みつける。


「……あー」


 そのカルキは、ミツキから刀を突きつけられて両手を挙げているところだった。抜身の刀も足元に転がっている。


「答えろ。戦う気がないとはどういうことだ」

「んん。簡単に言うなら、ここに来たけど帰る手段がないんだよね。だから赤髪の彼女の力をぜひ借りたい」

「だったらどうしてここに来た」


 ミツキのその問いに、ジンがポツリと答えた。


「……仲間のためか?」


 カルキは両手を挙げたまま、首を回してジンに笑いかけた。


「せーかい」


 カルキは続ける。


「だからここで君たちを殺すつもりはないし、君たちと白い都市(あそこ)を目指したいとすら思ってるよ」

「…………」

「それでできれば、彼女に口添えしてほしいなぁ。僕たちを乗せてやってくれ、ってさ」


 ここでジンたちを殺せば、現時点で唯一の生還手段であるソリューニャの協力が得られなくなる可能性が高まる。逆に殺さず、協力できるとしたらハルの元へ辿り着ける確率が高まる。

 カルキの言い分は一応の筋は通っていた。


「だからさ、ね。地上に帰るまでは停戦ってことでどうかな?」

「勝手なことを……!」

「それにほら、アイツ。僕たちが仲間でも敵でも、殺す気満々って顔してる」


 カルキは手を下ろし、緩慢な動きで手放していた刀を拾った。


「そろそろ限界だろう? 僕もさ。空気薄いし、体痛いし、今僕たちが仲間割れしたらきっと全滅だね」

「……仲間じゃねぇ」

「ははっ、手厳しいや」

「……はぁ。いいだろう、どのみち他にないんだ」

「けっ、今だけだぞこん畜生が」


 ミツキは一つため息を吐くと、刀を下ろした。

 完全に信用したわけではないが、かといってミツキたちにとってもここでカルキを殺すメリットは薄い。


「ところで、だいぶ息が上がっているじゃないか。傷も増えている」

「ああ、これ?」


 ミツキの質問に、カルキは答えた。


「君たちを探している途中、魔族と遭遇してね。全員斬り殺してきたのさ」

「!!」


 その発言に、ウルーガが最も過敏な反応を見せた。


「ナ……に!?」

「ああ、もしかして君の仲間だったかな? 弱かったけど、少しはできる奴もいたよ」

「おの……ッ! おのれぇぇぇぇぇ!!」


 ウルーガが激昂した。

 背中から二対の腕を生やして、凄まじい気迫で吠える。


「同胞タちを……よくもォオオ!!」

「ウルーガ!!」


 もはやスクーリアの声も届いてはいないようだった。

 猛り狂い、ただ真っすぐに突進する。


「ふっ……!」

「ガァ!!」


 カルキの斬撃を致命傷だけ避けてかわし、ウルーガは一気に間合いを詰めた。


「ありゃ……」

「ヌゥン!」

「がはっ!!」


 体当たりをまともに受けて、カルキが吹き飛ばされる。


「オオオオ!」

「コイツ……!」


 ウルーガの背後に回ったミツキが、刀を振り下ろす。

 刀はしかし、ウルーガの背中を薄く袈裟切りにしただけだった。


(捨て身……厄介な!)


 カルキが言っていた、万全なら殺せていたというのは嘘ではない。

 しかし、連戦、満身創痍、慣れない環境。その諸々で動きは確実に鈍っていた。


「ふんんっ!!」

「ごふ!」

「ミツキ!」


 ウルーガは独楽のように体を回転させ、六本の腕でミツキを弾き飛ばす。


「クソが……!」

「消えロ!!」

「ぬあ!?」


 ジンがトンファーで攻撃を受け止める。

 強い衝撃が伝わるが、ウルーガもすでに満身創痍だ。最初に喰らったほどではない。


「ぐぅ! ……っへへ、そんなもんかァ!?」


 すぐに立ち上がったジンはウルーガを挑発した。


「お……っのれぇぇぇぇぇ!!」


 ウルーガは簡単に乗ってきた。


 もはや長期戦は不可能だ。

 息は上がり、しかし満足な酸素が肺を満たすこともない。それどころか、息をするたびに全身が悲鳴を上げる。


 一撃で決める。


「すぅ……」


 ジンは息を大きく吸って、吐いた。


「はぁーーっ……!」


 呼吸を整え、体から余計な力を抜き、ウルーガを待ち構える。


「来やがれ、デカブツ」

「ウオオオオオ!!」


 ジンはウルーガの渾身の左ストレートに、体を逸らし、右手を添えるように当てた。

 凄まじい勢いで繰り出された一撃。その勢いに逆らわず、全身でそれを受け流す。ジンの体が力を溜めるように、しなやかに捻じれる。


「な……ニ!?」


 ウルーガが吃驚する。渾身の一撃が空を切ったばかりか、ジンに最小限の動きで懐に潜りこまれていたのだ。その一連の流れを見ていたにも関わらず、鮮やかすぎたそれはウルーガを一瞬呆けさせた。


「っし……!」


 瞬間、ジンの全身に力は漲る。勢いに持っていかれそうになる体が一瞬、ピタリと静止する。


「喰らえ……!」


 軸足でしっかりと足場を噛み、腰から回転を、捻じれた体を戻すように上半身に伝え、そして。


「おおおおあああっ!!」

「ごはぁ!?」


 ミツキは思わず息をのんだ。

 それほど美しく完璧なカウンターが決まっていた。


 ジンの二倍三倍もある巨体が宙を舞う。


「ウルーガ!」


 仰向けに倒れるウルーガの元へスクーリアが駆け寄る。


「おっと。そこまでだ」

「ひっ!?」


 カルキがスクーリアの後ろに回り込んで、首に刃を当てた。


「ぐ……」

「動くなよ。動いたら殺す」


 言われるまでもなく、ウルーガは動けなかった。受けたダメージはあまりに大きく、動かそうとした腕は痙攣するだけだ。ジンのカウンターが深く入りすぎたのだ。


「ふぅ、いてて。やったな、ジン」

「はぁ……はぁ……っ、ああ」


 ジンとミツキも集まり、ウルーガたちを囲む。


「さーて。いろいろ聞き出そうか」

「く……!」

「だんまりや嘘は、この女の命が惜しくないならどうぞ」


 刀がスクーリアの柔らかな首元を撫でる。


 もはや勝敗は決した。

 誰もがそう思い、張り詰めた戦場の空気が緩んだ、その時だった。


「――――!!」


 それは黒くしなやかな棘だった。壁の上から、ジンたちのいる場所まで、高速で伸びてくる。


「な」


 真っ先に気が付いたのは、正面にいたジンだった。

 逆に気づくのに遅れたのは、背を向けていたカルキとスクーリアだった。


 カルキがジンの視線に気づき、振り返る。

 黒いそれを目視して、スクーリアを解放すると同時に刀を構える。


「っ!?」


 黒いそれがさらに無数の細い棘に別れ、ジンたちへと襲い掛かった。


「避けろっ!」


 カルキとミツキが同時に跳ぶ。


「うおお!?」


 スクーリアは反応できていない。

 体が動かなかったジンは防御の体勢を取る。


「ジン!!」


 ドスドスと肉を貫く音が響いた。


「っ……」


 ジンはゆっくり顔を上げた。

 そして、一本たりとも自分の体に刺さらなかった、その理由を知る。


「……お前……!」


 ウルーガが六本の腕を広げて、スクーリアとジンを守っていた。


「ウルー……ガ?」

「ぐふ…………」


 黒い棘は血を滴らせながら、今の出来事を巻き戻すように、岩から、ウルーガからその身を抜き、再び束ねられ、壁の向こうへと消えていった。

 ウルーガが力なく崩れ落ちた。


「嫌、しっかりして!」


 スクーリアがウルーガに駆け寄って、肩を揺する。ウルーガは全身から血を流し、うつ伏せに倒れたまま動かない。


「…………なんだそれ」


 ジンはそんな二人を見て、そして壁の向こうを見上げた。

 黒い棘と入れ違うようにして現れた、その女は黒い目でジンたちを見下ろす。


「カスどもが……」

「次から次からよォ……!」


 ジンと、その女の視線がぶつかる。


「殺してやる」

「ぶっ倒す」


 憤怒の形相で、ジンは呟いた。

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