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魔導士たちの非日常譚  作者: 抹茶ミルク
天雷の大秘境編1 魔族と人間
145/256

遭遇、魔族とジン

ジンサイド一日目

 


 突如降ってきた襲撃者の姿を見て、ジンとミツキは同時に声を上げた。


「「魔族!」」


 体表は灰色がかっており、耳は尖っている。

 そして顔の左半分には大きな火傷痕が残っており、左眼は潰れ、耳は溶け落ち、毛髪もない。


(この反応、見たことがある奴の……)


 だがミツキはここで魔族に出会ったことよりも、ジンが即座にそれを魔族だと認識できたことに驚いていた。


「やる気かこの野郎!」


 ジンはすでにトンファーを握っており、臨戦態勢に入っている。

 攻撃をしてきたのが相手からである以上、即座に戦意を高めたのは不自然ではない。が、明らかに人間でない相手に対して戸惑わなかったばかりか、迷いなく武器すら手にしている。


(きっとジンは魔族を知ってるんだ)


 だが、それを呑気に聞けるような状況でもない。


「行くぞ!」

「許さん……ゆルさん!」


 相手の魔族も訛りのある言葉で吠えると、一直線にジンへと走り出した。


「ジン!」


 剥き出しの上半身は過剰に盛り上がった筋肉で非常に重量感があり、岩を砕いてもおかしくないように思わせる。もちろん魔力も込みでの威力だろうが、当たればただでは済まないだろうことに変わりはない。


「オアア!」

「ぐ!?」


 ジンなら避けられたようなその攻撃が、命中していた。

 交差させたトンファーで受け止めたジンが飛ばされ、うまく受け身も取れずに背中を打った。


「がはっ!」

「ジン! どうし……はっ!」


 “空飛ぶ魔法使い”の効果が切れ始めて、ミツキはジンの動きが鈍い理由に気が付いた。


「なるほど、空気が薄いのか!」


 高所へ行くほど空気が薄くなるということを、ミツキは数々の実体験とともに知っていた。

 この地には広大な森があり、たとえ雲の上だろうと空気を生産している。だが、地上と同じくらい潤沢かと言われればそうではないのだろう。


(およそ高山に登ったときと同じ感覚……!)


 厳しくはないが、確かに動きづらい息苦しさだ。


「げほっ! ああ、そういうことか……!」


 ジンも気づいたようである。

 低酸素状態ということは、地上と同じ動きでは負担が強すぎるということだ。うまく慣らさなければ高山病などに苦しむことになる。

 まして戦闘中だ。わずかな隙も命取りになる。


「キエろ!」

「断る!」


 仰向けに倒れるジンへ、男が拳を振り上げる。

 ジンは右足だけで岩を蹴ってその場を離れると、転がって勢いを殺し立ち上がった。


「うまい!」

「もっとだ。もっと小さく、弱く……!」


 ジンは右足だけを使い、あとは体を丸めて転がることで消耗を少なく移動をしたのだ。


(凄まじい戦闘センスだな。戦闘中に新しい動き方を、しかも一発で成功させるとは)


 だが、状況はすこぶる悪い。

 こちらは二人いるとはいえ、NAMELESSとの戦闘で消耗しさらには慣れない環境で力も出せずにいる。


「うがあああ!」

「ちぃ!」


 再びジンに接近した敵が拳を振り回す。

 ジンは二発かわしたところで限界を迎え、やむを得ずトンファーで防御、殴り飛ばされた。トンファーも折れて消滅する。


「ぐぁ……っ!」


 岩に背中を打ち付けて止まったが、敵も追い打ちをかけようと突っ込んでくる。


「がはっ!」

「オオオオ!」

「クソがぁ……! 半分でこの威力かよ……ッ!」


 後ろを岩で塞がれている。

 受け止めてもかなりのダメージがある。

 避ける。右か、左か、


「前だろうが!」


 トンファーを、突き刺すように岩に叩きつける。

 そしてジンは魔導を発動し、それを伸ばした。トンファーならば、出した後でも多少の変形ができるのだ。


「ヌ!?」


 創造されたトンファーがジンの体を押し出す。

 予備動作のない急な移動はうまく相手の虚を突き、一瞬相手が硬直する。

 ジンはそのまま姿勢をギリギリまで低く倒すと、力強く地面を蹴った。


「ガァ!」


 勢いは止められなかったようで、敵は素手で岩を粉砕する。

 ジンは敵の脇をすり抜けた後、先ほどのように体を丸めて転がり、立ち上がった。


「はは、シドウクラスかよ……!」


 砕けた岩を見て、ジンは思わず笑った。

 パワーや動きはかつて戦ったアルデバランのシドウと同等のレベルと見える。


 しかしあの時と違うのは、ジンがボロボロであること。


「あーくそ、強ぇな」

「おいおい、おれも一緒だろう?」

「ミツキ!」


 そして、心強い味方がいることだ。

 ミツキは敵に向かって走りながら刀を抜いた。


「……!」


 だが、敵は鞘から覗く刃を一目見ただけで大きく距離を取った。


「へぇ……!」


 ジンの隣で立ち止まったミツキがにやりと笑う。

 どうやら敵はかなり勘もいいようだ。もしも間合いに入っていたならば、ミツキは腕一本くらい斬り落とせていただろう自信があった。


「掠らせる気もないってか? 逃げ回られるのは厄介だな」

「追いかけっこなんてやってられねー。二人で一気にいくぞ」

「ああ、上等さ。とどめは任せろ」

「けっ、俺が倒すってーの」

「くくっ、そうだな。倒す気でいけ」


 ミツキは敵に警戒されている。

 その距離の取り方は単に刀剣類と素手の相性の悪さだけでなく、もっと得体の知れないものに対するそれだ。

 簡単に間合いに入ってはこないだろう。


「ま、そこはジンとの連携でカバーだね」


 ミツキは敵をジンと挟み撃ちできるように移動を始める。

 敵がジンへ攻撃をすれば、ガラ空きの背中から斬りかかれる。ジンが敵の攻撃を引き付け、足止めできるかが鍵だ。


 一方ジンもミツキと逆方向へと動き出した。


「サクッと倒して、ソリューニャたちのところに行く!」

「消えろ! この地をケガスな!」

「うっせぇ! テメーをぶっ倒したら出てってやらぁ!」


 円を描くように動いていたジンが中心、つまり敵へと急接近する。

 敵もジンたちの作戦に気付いているのだろう。それまで挟まれないようにと動いていたが、ジンの急接近に合わせて自身も前へ出た。


「舐めんな!」

「オオオ!」


 ジンは隠し持っていた礫を、敵の潰れていない右目を狙って指で弾く。


「ヌ!?」


 敵はやや体を倒し、礫をかわす。


「おおおおおっ!」

「小癪なリ!」


 ジンは敵の顎をめがけて右足で蹴り上げる。

 敵は左腕でそれを受け止めると、残った右腕を振りかぶった。


「……!」


 片足で、姿勢も崩れたジンがこれをかわすには間に合わないだろう。トンファーで受け止める構えをしているが、それでも大きなダメージは避けられない。


 しかし、ジンは笑っていた。


「へっ、かかったな」

「ナイスだ、ジン!」

「なんだと!?」


 いつの間にかミツキが、彼の刀が届く距離まで近づいていた。

 敵がミツキの気配の消し方と移動速度を見誤った結果だ。

 ここは、ミツキの間合いの中。


「油断したのかい?」

「くっ、オオオオオ!」


 白刃が煌く。

 一閃、灰色の腕が飛んだ。





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