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魔導士たちの非日常譚  作者: 抹茶ミルク
天雷の大秘境編1 魔族と人間
144/256

遭遇、魔族とリリカ

リリカサイド一日目

 


 リリカは深く息を吐いて、敵の挙動に注意を払う。


「ふぅー……!」


 微妙に息苦しい。気温はやや肌寒いくらい。体に異常はない。

 いける。


「やる気だぜ、こいつ!」

「細い腕で何しようってんだろうな、はは!」


 細身のギザと太めなザギ。

 赤みがかった皮膚と、尖った耳、そして黒い眼球。

 見たことのない人種である。


「多少傷つけても死なねぇよなぁぁ!?」

「来た!」


 ギザが単槍を片手に突進する。

 リリカはそれを見切り、いつもよりも大げさにかわした。


「ハァ……っ、息苦しい……!?」


 たったこれだけの行動で息を切らせていることに驚く。

 ダメージや疲労のせいだけではない。リリカは自分が今、疲れやすい環境にいるのだと理解した。


「どうしたぁ!?」

「っ!」


 異変に気を取られたリリカの背後から、ザギが大槌を振り下ろした。

 リリカは前方に跳んでそれを回避する。


「それで避けたつもりかァ!?」

「え、うわわ! 割れた!」


 槌を振り下ろしたところからリリカのところまで、地面に大きな亀裂が走った。リリカが慌ててその場を離れると、今度はギザがリリカに襲い掛かった。


「ちょ、とあっ!」

「ぐあ!」


 リリカは何とか反応して避けると、無防備な敵の背中に一蹴入れた。

 蹴った感触や挙動から、姿形に差異はあれども、敵が人間と変わらない生き物であると直感する。言葉はなぜか通じるし、魔力も感じる。


(戦える……うん、大丈夫)


 リリカはもう一度深く息を吐いた。

 動悸は激しく、思ったように体が動かない。だが、勝てる。もっと強い相手と戦ってきたから。


「いてて……人間の分際で舐めやがって」

「おいおい、相手が子供だからって油断するなよ?」

「キレたぜ……! 三番隊の斬り込み隊長の実力、叩き込んでやる!」


 ギザが魔力を槍に纏わせ、突進する。


「死ね!」

「嫌!」


 気持ちで気圧されてはいけない。

 リリカは強気に言い返すと、今度は自分からも前へ出た。

 槍が突き出される。

 リリカはグローブの力で魔力を固め、槍を受け止める。


「ふっ!」

「何だと!?」


 そしてそのまま一直線にザギの元へと走った。


「ザギ!」

「へっ、心配いらねぇ」


 ザギは槌を地面にたたきつけた。

 今度は何本もの亀裂がリリカに向かって伸びる。


「きゃ!?」

「挟まっちまえ!」


 ジグザグに走る亀裂の軌道が読めず、リリカは立ち止まる。

 足元に亀裂が届く直前、リリカは無事な足場へと飛び乗った。先ほどまでの足場は亀裂でボロボロに割れている。たとえ巻き込まれなかったとしても、この足場ではとてもいつものように動ける気がしない。


「よくもコケにしやがって!」

「来ると思った、けど!」


 ギザは器用に亀裂の小さい足場を蹴って接近してくる。


「おらぁ!」

「くっ、動きにくいなぁ!」


 いつものように動けない今、短槍の素早い動きが厄介だった。リリカは反応こそできるが、足場を気にしなければならないためにかわすので精一杯だ。


「ザギぃ!」

「おうよ!」


 視界の端にザギが槌を振り下ろしたのが見える。

 足元が揺れ、さらに亀裂もリリカの足を捕らえようと伸びてくる。


「わっ!」


 リリカが足を取られた。


 短い隙。だが敵はこの隙を作るための動きをしていて、この隙を突くための訓練をしてきた。

 ギザは亀裂の影響などまるでないように突っ込み、槍を振るう。


「死ね!」

「んんっ、でもヤだ!」


 リリカは槍の穂先をグローブではたいた。グローブで魔力を固めていれば可能な芸当だ。

 うまくピンチを回避したリリカは、魔力を込めた脚で土を蹴った。とにかくまず足場を確保できなければ危険だ。


「えいっ!」

「ち! 逃げられた!」


 少し離れて、リリカは自分がいかに不安定な足場で戦っていたのかを知る。


「うわぁ、ズタズタのバキバキだ」


 遅かれ早かれ、リリカは転んでいただろう。

 むしろあのタイミングで転んでいてよかった可能性すらある。引っ掛かったものよりもっと大きな亀裂がいくつもあり、それに躓いていたら槍をよけられなかったかもしれない。


(最初はハンマーで正解だった……! きっとたくさん練習してるんだ、今の戦い方!)


 リリカの推測通り、彼らの戦い方はザギが動きを止め、ギザがとどめをさすというものだ。この連携のために、二人は多くの時間を訓練に割いてきた。


(一対一なら自信あるもん!)


 ギザが走る。

 ザギが槌を振り上げる。

 速いのは、


「あんただ!」

「今度こそくたばりあぁ!」


 リリカは突き出された槍を掴んだ。


「なにぃ!?」

「ジンよりずっと遅いよ!」


 そして槍を引きながら、倒れ込んでくるギザの腹部へ強烈な蹴りを放った。


「ごぶっ!!」

「レンよりずっと軽いし!」


 ギザは短槍を手放し、勢いよく転がった。


「ふー。武器は怖いなあ」

「ギザ!?」

「うん、次!」


 足元に大きな亀裂ができる。

 だが今回はギザがいないため、冷静に足場を探して回避することができた。


「危ないから、捨てるね!」


 そして目の前にパックリ割れた亀裂に向かって、手にした槍を力一杯に投げ込んだ。槍はかなり深いところに半分以上もその身を埋まらせ、止まった。


「よっし! ないすすろー!」

「人間の分際でぇ!」

「あんたらも人じゃないの?」


 リリカは不思議そうにつぶやくと、真っすぐザギへと走り出した。


「おああ!」


 ズン、と鈍い衝撃と魔力が大地を伝わり、遅れて亀裂が走り出す。


「よかった!」


 リリカが思わず笑う。

 もしも次にこの攻撃が来た時のことを、すでに考えてはいたのだ。そしてそれがうまくいきそうなことに、ちょっとした高揚感があった。


 リリカは亀裂が届く寸前、前へと跳んだ。


「馬鹿め! 潰してやる!」

「うん!」


 前方ならば、亀裂はすでにできた後。見えている足場が安全な足場である。

 着地に成功したリリカに、大槌が迫る。


「はぁっ!!」

「ぬん!」


 リリカが両手を突き出して、魔力を固める。大槌は魔力にぶつかり、一瞬動きを止めた。


「な!?」


 リリカのグローブは空間に魔力を固定する。故に、腕力は関係ない。リリカへダメージが伝わることもない。

 魔力の壁が割れるが、その時にはリリカは敵の懐へ潜り込んでいた。


「はぁ、たぁー!」


 大きなボディはただの的だ。

 リリカの拳は吸い込まれるように打ち込まれ、とどめの回し蹴りが刺さった。

 骨が砕けるような感触が靴越しに伝わり、リリカは顔をしかめながら脚を振り抜く。


「はっ……ああっ!」

「ごふぁ!!」

「ザギーー!」


 ギザが立ち上がり、リリカへ突っ込んでくる。


「よい……しょっと!」

「な!?」


 リリカは体ほどもある大槌を拾い上げると、ギザに向き合い、脚に魔力を込めて体を支えて、


「やめっ」

「どーーん!」

「ぐあああああぁぁ!」


 スイング。

 勢い余って二回転してから見ると、敵は木の幹にぶつかって気絶していた。


「勝った! でもすっごい疲れた! あと目も回った!」


 上陸して早々の戦闘で不利な条件だったが、こうして白星をあげた。未知の世界でいきなり戦闘とは決して幸先がいいとは思えないだろうが、それでもリリカはひとしきり喜んぶと森の奥へと進み始めたのだった。






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