表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔導士たちの非日常譚  作者: 抹茶ミルク
時を超えし因縁編
138/256

THOUSAND

 


 ハルやカルキにとってマオらの登場は不意のものだったが、ミツキたちにとっては予定通りである。が、果たしてそれが喜ぶべき展開であるかというと、実は全く逆であった。


「うあ、やべっ!」


 ジンが慌てる。

 本来の目的を完全に忘れていたということではなく、それに思考を巡らせる余裕が全くなかったのである。


「ちぃ! このタイミングか!」


 それはミツキも同じで、作戦そのものは意識してはいたが、しかしどうにもできなかったのだ。

 仕方のないことである。ミツキは格上の相手によく食い下がっていたし、ジンが未だ生きていることに至っては、幸運が幾重にも折り重なった上でのまさに奇跡だったのだから。


 あれから戦況は少し変わり、ジンとミツキ、カルキとハルが互いを補助しあいながらのタッグマッチの様相を呈していた。ハルが背中合わせのカルキを呼ぶ。


「……カルキ!」

「ああ!」


 短いやり取りで互いの認識をすり合わせる。どうやらカルキも同じことを考えていたようだった。


 一つ。あれは敵の仲間である。

 一つ。この状況で上を取られるのはまずい。

 そして一つ。敵はまだこちらに気が付いていない。


(今ならまだ……確実に!)


 刀を握るカルキの手に力がこもる。


「くっ!?」


 幸いにして、ミツキが瞬時に考え付いた「最悪のシナリオ」とカルキが起こそうとしていた行動は一致していた。

 一瞬が命取りになる状況。ミツキは最善の初動に成功した。


「させん!」


 ミツキが突進する。カルキに刀を振らせてはならない、それだけを考えて。

 しかしその前にハルが立ちふさがる。

 ハルもまたカルキと作戦を共有しており、故に作戦の失敗、つまり空中の敵を無傷で合流させてしまうことこそが彼らにとっての「最悪のシナリオ」であると理解していたのだ。


「く、間に合わ……っ!!」


 ミツキは届かない。カルキは守りをハルに任せて、魔力を一気に高めている。


 そのとき、氷の剣に阻まれたミツキの隣を何かが抜けていった。


「うおおお!」

「っ!?」


 ジンが瞬身で一気にカルキに迫っていた。


 瞬身はまばたきほどの時間で距離を大きく詰められる、強力な技術である。

 しかし、相応のリスクもある。まず、失敗すれば大きな反動を受けること。また動きが直線的なため、カルキのように一定以上の力量がある相手にはカウンターを狙われやすいこと。


 故にジンはずっと待っていたのだ。自分が完全にノーマークになり、魔力の制御に集中できるこの時を。


「おらぁっ!」

「!?」


 カルキが刀でジンの不意打ちを防ぐ。異常なまでの反応はさすがの一言である。


「危なかった……!」

「振らせねぇ!」

「それは困るな……!」

「がはっ!」


 虚を突かれはしたが、単純な戦闘技術はカルキが上だ。一撃目を止められたジンは二撃目を放つ前に蹴り飛ばされた。


「これでなかなかピンチなんだ、邪魔しないでくれ」

「そりゃ無理だな!」

「っ!? 今度はなんだ!?」


 再びマオらを狙って刀を構えたカルキに、突風が襲い掛かった。姿勢を保てないほどの強風の中、たまらずカルキはしゃがみ込み、それでも素早く風上へ斬撃を飛ばす。


「うわっ!」


 斬撃は草を斬り裂きながらレンの頭上を掠めて行った。

 反撃は予測できていたため攻撃と同時に移動したのだが、それでも正確かつ迅速に反撃された。改めてカルキが脅威であると認識したレンは、草の陰から飛び出す。


「待たせた、ジン!」

「まったくだこの野郎!」

「おいおいおい、厄日かよ今日は」


 カルキが軽口を叩く。

 レンの復帰によって数的不利が成立してしまった。レンにはそのまま隠れていてもらった方が都合がよかったのだが、白刃の元に身を晒すその思い切った判断には舌を巻く。


「……やられた……」

「そうみたいだね、ハル! つくづく嫌になるな、向かい風強すぎない?」


 それだけでなく、上空にマオたちの姿もない。

 気づかれたと考えていいだろう。


「……っ、カルキ」

「悪い、代わる!」


 ミツキを留めていたハルが退く。カルキは身を翻してハルと入れ替わると、ミツキの追撃を受け止めた。ハルとミツキではミツキに分があるが、逆にカルキではミツキが不利だ。


「ちっ! まずいな」


 それを理解してか、ミツキは数歩退いてカルキと距離をあけた。本来ならそこもカルキの射程内で、むしろミツキからの攻撃が届かない一方的な距離なのだが、レンの復帰でカルキの動きが制限される今なら魔導は来ないと踏んだのである。


「とはいえ、助かったぞ。レン」

「リリカはどうした?」

「今頃あいつらと合流してるはずだ」


 読みは外れず、カルキは動かなかった。ここでミツキを斬っていればその隙はカルキを殺していただろうから、間違った選択ではない。

 そしてひとまず危機は脱したというところだろう。こちらに向かっていた二羽は姿を隠した。

 息を整えながら、ミツキはこれからの展開に思考を巡らせる。


(リリカが合流したなら少なくともこっちの状況は伝わった。二羽ってことは、恐らくソリューニャともう一人は竜の方に行ってる。竜は任せられると判断したから、別れたんだろう)


 考えながらも、ミツキはカルキから目を離さない。少しでも妙な動きがあれば斬る、そういう気構えのままで。


(だったら、おれたちはここを生きて脱せられればいい。殲滅でも、休戦でも……)


 一方、背を預け合うNAMELESSの二人も呼吸を整えながら同じことを考えていた。


「はぁ……はぁ……。嫌な予感、本当によく当たるよねぇ」

「……手を、抜きすぎだ……。死んだら、楽しむもない……」


 ジンとミツキを相手にやや遊んでいたこと。眷属たちが邪魔をしてくること。ハルのために取り乱してジンに隙を突かれたこと。利き腕に大きな傷を負ったこと。レンに重要な局面を潰されてしまったこと。

 条件が悪い。タイミングが悪い。いろいろと言い訳はできて、その全ては事実なのだが、それを認めたところで何が変わるわけでもない。


「耳が痛いや。半分は僕のせいだね。埋め合わせはどうしようか?」


 埋め合わせ。それはつまり、生きてこの窮地を脱することができたらという話だ。

 彼らもまた、ここはひとまず退散しても生きる方法を考えていた。



 しかし。



(けど、ここで休戦の交渉なんてうまくいく可能性は低い。向こうは援軍を待っていれば十分に勝てると考えてるんだろうしね……。この膠着は時間稼ぎかな? だとしても、今は無理に動く場面じゃない……か?)



(レンが来たはいい。が、援軍は期待しない方がいいな。マオやミュウちゃんもいない方がいい。リリカも戻っては来ないだろう。だが……このまま戦ってもまだ敵が勝つ可能性があるうちは下手に動けない。逃げるにしても、カルキ。奴の魔導が危険すぎる)



 このとき両者は不幸にも、互いを警戒するあまり目的が合致していたことに気付けなかった。


 故に状況は固まる。


 これを動かしたのは、三度目にして最大の“異変”だった。


 ◇◇◇






 ソリューニャとミュウは全速力で火山湖の中心、その直上にたどり着いた。


「ミュウ、感じるか」

「……はいです。これが漆黒の竜の魔力……!」

「魔力の蓄積が予想よりも早い。すぐに始める! 離れてろ!」

「ですっ!」


 ミュウが離れていく。

 ソリューニャはここまで連れてきてくれたアイの羽毛を撫でて、語り掛ける。


「アイも、ありがとうな。ミュウについて離れていてくれ」


 魔獣であるアイたちは、人の言葉を簡単に理解するだけの知能がある。ソリューニャがアイの背から飛び降りると同時、アイはその場を離れてミュウたちを追いかけて飛んで行った。


「……血の契約に従って」


 重力に引かれ、ソリューニャが落ちてゆく。

 彼女は目を閉じて、臆することもなく。


「その因縁に決着をつける時だ」


 暗転した視界の奥に呼び掛ける。

 “竜の祝福”が静かに漏れ出す。


「さあ来い!」


 目を見開いた。瞳は赤く光る。視界いっぱいに金色の湖。眼下に伸ばした掌の先。


「竜よ!」


 溢れる真紅。広がる波動。


 空間を切り取ったような魔力の円。それは波動と共に十倍にも、百倍にも広がって、今度は中心へと収束しながら竜の姿を象ってゆく。


 そして亀裂が走る、弾け飛ぶ――――!




「グオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」




 ――――咆哮轟かせ、真紅の竜が降臨した。



「……やった、呼べた!」


 ソリューニャは竜の背に着地する。竜を覆っていた深紅の殻が粒子になって消えてゆく。


「あぁ。やはり美しい……」


 ゴツゴツとした赤い鱗に触れて、そこに圧倒的な存在感を確認した。研究施設の地下で見たような、地と砂と埃に汚れた姿ではない。傷の消えた躯から伝わるのは、感動的に神秘的な、生命の力強さだ。


 ソリューニャは鱗を撫でて、呟いた。


「竜。まずはあなたの番だ」


 竜も応えた。


『主よ。しっかり掴まっていろ』


 深紅の竜は旋回しながら湖に近づいてゆく。


 漆黒の竜の封印はまず異世界の空間に閉じ込め、この世界と繋がる“穴”を封じたものだ。これに加えて漆黒の竜そのものにも封印はかけられ、活動はひどく制限されているという。


「……そこまでやらなきゃ、ダメだったんだよな」


 深紅の竜からは絶対的な力が伝わってくる。その竜の力を以てして、漆黒の竜は倒せなかったのだ。


「あ――――」




 その時ソリューニャが感じたのは


 悪意。怨嗟。憎悪。悪意、歓喜、憎悪絶望、希望憎悪嫌厭懐古憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎――――


『主よ!!』

「――――っはぁ!!」


 激しくせき込むソリューニャ。


(っ!? 何だ、何が起きた!?)


 肩で息をする。混乱する頭は辛うじて、呼吸が止まっていたことを理解した。

 竜に呼ばれなければ、そのまま心臓が止まっていたかもしれない。


『まずいことになった!』

「げほっ……どうしたんだ!?」

『奴め……! 待っていたのか!』

「なぁ、今のは何だ!?」


 聞かずとも分かっていた。

 触れただけで息を詰まらせるほどの、魔力の中に渦巻くその意志。


(純粋で深い……“人類への悪意”!!)


 それを向けられたのだ。いったい誰に?


(くそ、そんなの決まっているじゃないか……!)


 分かっていた。



「グオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」



 ――――咆哮轟かせ、漆黒の竜は降臨した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ