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魔導士たちの非日常譚  作者: 抹茶ミルク
時を超えし因縁編
136/256

人殺しの眼

 


 ミツキは自身の実力がハルやカルキに劣っていると分析していた。

 しかしその差は大きくはないだろうということ、自分はハルと相性がいいだろうということもまた推測していた。


「なるほど、そんな使い方ができるのか」


 ハルが取り出した小さな筒のような魔導具に魔力を当てる。すると魔力が筒から薄く噴き出した。

 魔力はすぐに凍り付き、氷の剣になる。


 カートリッジ。

 ハルが魔導水晶を使って自作している、魔力に指向性を持たせて放出するだけの小さな魔導具である。ハルが自身の弱点を補うために開発したもので、“自分の魔力を凍らせる”魔導と組み合わせて様々な武器を形成する。


「…………っ」


 ミツキの刀とハルの剣がぶつかる。


「硬い……!」


 刀でハルの氷を斬れなかったことに驚くミツキ。すぐにその原因について考えを巡らせる。


(氷は自分の魔力……そこにさらに魔力を纏わせているのか……)


 氷がハル自身の魔力なら、それはハルの魔力を通すことも可能だろう。魔力による強化を二重にかけている状態だといえる。


(魔力を通す物質はあるが、なるほどな。自分の魔力ほど伝導性の強い物質はない)


 そして、ミツキは刀に付いた淡い群青色の氷を見る。剣身から伝導させた魔力を凍らせたのだろう。

 ハルに触れるのは危険だと思っていたが、考えを改める必要がある。触れなくとも、広がる氷に囚われるだけで危険だ。


(だが、手元に近づくほど氷は薄く少ない……。そうか、おれの魔力に阻害されたのか)


 たった一度の接触で多くの情報を集めたミツキは、その上で「勝てる」と結論付けた。


「…………手強いな」

「ありがとう。今度はおれの魔導を見せよう」


 凍ってしまった刀を空中に放る。


「“千本刀”」

「……っ!」


 早期決着をつけてジンを援護するために、ミツキは隠していた魔導を見せる。空中の刀が消え、入れ替わるように別の刀がミツキの手に納まった。


「はぁ!」


 高速の突き。

 ハルは剣身でそれを受け止めたが、一点に集中する圧力には耐えられなかったようで、刀が剣身を貫いた。


「く……!」


 ハルが冷や汗を流す。刀はあと一寸で胸に刺さるというところで凍りついて止まっている。


 しかし、これはまだミツキの一手目でしかない。


「おおおお!」

「……っ、ぐ!?」


 凍った刀をすぐに手離し、次の刀を掴む。

 剣に刺さった刀は戻さずに残しておくことでハルの動きも制限する。


「!?」


 剣を捨て、辛うじて攻撃をかわしたハルは自分の周囲に計三本の刀を見た。


(これは――――)



 千本刀。

 自身の周辺空間に刀を召喚する魔導で、刀の向きや種類も任意にコントロールできる。


 この魔導を使ってミツキは、刃を返す動き、刀を引き戻す動き、その他諸々の“隙”の動作を消すという技術を得た。

 武器を次々使い捨てていくそれは奇しくもジンが作り上げた戦闘スタイルによく似ている。隙を消すというと少し語弊があり、ミツキは土台となる剣術の全ての動作を攻撃に繋げるという、超攻撃的な戦闘スタイルを確立したのだ。



(予測か……!)


 ミツキはハルの次の動きを予測して、次の一手のために有効ないくつかの刀を“置いて”いる。


 瞬時にそれを理解したハルは自身も切り札の一枚を、特殊なカートリッジを使った。


「“凍原(イバラ)”」

「っあ!?」


 特定の言葉(コマンド)で発動するように設定したカートリッジが周囲に魔力を撒き散らす。


 魔力はすぐに凍りつき、まるで氷でできた茨の園のような光景を作り出す。

 凍てつく茨に囚われたミツキは、足元と半身を氷に覆われながらもとどめを刺すべく刀を掴んだ腕を伸ばす。


「くぅ!? 届け……っ!」


 しかし、動きの鈍った一振りが届くことはなく。

 半身を後ろに反らしたハルの喉元を刀はむなしく通り過ぎ、ハルが形成された細身の剣を突き出して、


「…………っ!!」


 ハルが飛び退く。刀が一本、地面に突き立った。

 あのままミツキを攻撃していたら、その刀はハルの脳天から串刺しにしていただろう。


「千本刀」


 ハルの死角となる直上に、刃を下向きにして召喚した。

 動きを止められたミツキが、自分の身と引き換えにする覚悟で選んだ攻撃だ。


「!?」


 再び魔力の動きを感知して、ハルが上を見る。

 それはちょうど、刀が雨のように降ってくるところだった。その全てが刃を地に向けており、一つとして当たっていいものはない。


「く……おお!」


 避けられない。

 剣で致命傷になりそうな刀だけを弾く。刀の雨がハルの肩を、腕を、鍛えられた身体を切り裂き、足元に次々と刺さってゆく。


「ぐ……!」


 上からの攻撃に意識を向けたハルに、氷の束縛から逃れたミツキが迫る。

 見えているが、見えていても、ハルはそれから逃れる術を持たなかった。


 煌く凶刃。走馬灯のように頭を駆け巡る死神の嘲笑。

 そして聞こえた、空気を斬り裂く――――






 ミツキが戦いを優位に進めていたのとは対照的に、ジンは圧されながらもなんとか命を繋いでいた。


「はぁ!」


 攻める。攻めなければならない。

 シドウとの戦闘も、カルキとの戦闘も、相手に攻撃する隙を与えないようにと攻め続けるのがジンが格上と戦うときのやり方である。


 カルキの魔導は奇襲に優れているが、こうした正面戦闘でもその脅威は変わらない。近づけば神速の剣技で、離れれば息をつかせる間もなく魔導で、カルキは必殺の間合いがとにかく広い。

 それに対し、ジンの得意の間合いは短い。だからジンはせめて得意な間合いで戦うため、刀を持つカルキに接近戦を仕掛けるのだ。


「いいね! どんどん良くなってるよ!」

「うおおおお!」


 余裕綽々のカルキに噛みつく余裕はジンにはない。

 吠えて、ぶつかるしかない。そうすることで今もギリギリ命を繋いでいるのだから。


(攻めづらい……)


 一方でカルキも手を抜いているわけではなかった。レンとリリカを取り逃がした以上、奇襲を受ける危険がある。

 決死の覚悟でレンとリリカを逃がしたジンは、そうすることで逆に身を守っていたのだ。カルキが微妙に攻めきれないのも、ジンだけを警戒してはいられないからだった。


(でもそれだけじゃあないな……これは)


 例え意識を全てジンに向けられなくとも、彼を圧倒することはできる。カルキはジンにミツキまでを同時に相手して無傷だったのだ。


「っ!」


 一瞬、ジンとカルキの間に距離が生まれた。

 当然カルキは見逃さない。一発、返す刀でもう一発。


「ぬあぁっ!」


 ジンはこれをよけられただろう。しかしジンの眼にはカルキしか映ってはいなかった。


「あああっ!」


 ぱっくりと頬が裂けた。腕にも浅くない傷を負う。

 最小限の動きで致命傷を避けて、ジンは前に出た。


「ははっ、マジか!」


 カルキから余裕の表情が消えた。

 ジンがよけられることを分かって、よけることを前提に追撃の構えに入っていたカルキはジンの思わぬ動きに僅かに後れを取る。


 初めて訪れたチャンスだった。

 そしてそれは紛れもなくジンが自分で作り出した、カルキとの戦いで彼を出し抜いたことで開けた活路だった。


「らぁ!」

「ぐ!」


 鉄で覆った拳で殴りつける。カルキは刃を立ててこれを受け止める。

 刀を弾いて砕ける鉄の装甲。だが、ジンの手にはすでに新たな武器が握られていた。


「うおおおお!」


 刀を弾かれて、カルキの右腕が上がっている。

 ジンが逆手に持ったナイフで首を狙う。

 カルキは左腕の鞘でナイフの刃を受け止め、


「んな!?」

「おおおおおおお!」


 られなかった。

 ナイフが消えて、ジンの拳は止まることなくカルキの頬に吸い込まれる。


「がふ!」

「っはぁっ!?」


 カルキを殴り飛ばす。

 しかし同時に鞘がジンの鼻面を殴り飛ばした。



「“凍原”」



 それは偶然だった。

 殴られて首が向いていた方向に、偶然ハルがいた。


 凍原。死神。窮地。親友。


 考えるよりも先に、その一瞬はジンをも忘れて、カルキは斬撃を放った。


「ハルっ!!」


 斬撃は空気を斬り裂いて――――

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