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魔導士たちの非日常譚  作者: 抹茶ミルク
研究施設編3 憂い
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ENEMY 3

 

 

 ~獣棟・地下空間~


「あらら。連れ去られちゃったなぁ」


 ミツキが天井の大穴を見て呟く。

 直後、砕けた天井の礫が降り注いだ。


「キチキチキチ!」

「うーん、虫みたいにすばしっこい奴だ」


 虫みたいな怪物は素早く下がってそれを回避する。

 ミツキと怪物の間に礫は降り注ぎ、光に当たってキラキラ金色に輝く砂埃がたつ。


 そしてそれが収まった時、そこに怪物の姿はなかった。


「潜ったか。状況を利用するなんて、なかなか野生動物らしくもないことをやってくれる」


 ミツキは即座に看破する。

 これまで怪物が地中に逃げられなかったのはミツキがその瞬間を待っていたからだ。その時生じる隙を狙っていたからだ。

 怪物がそれを感じ取っていたから、地中に潜る素振りすら見せなかった。


「賢いけど、二択だ。奇襲か、もしくは……!」


 それと同時に、潜った後の怪物の行動も予測し、走り出した。


「怪物の目的は彼女! だったら次に現れる場所も大体二択!」





 果たして、ミツキの予想通りに怪物は現れた。


「あっ……!」

「キチキチキチィ!」


 ソリューニャの走る階段、その横の壁から。


 完璧な奇襲だった。

 ソリューニャは怪物とミツキのやり取りが砂埃で見えておらず、また先の奇襲を受けて怪物は地面から来るものと思い込んでしまっていた。

 怪物にはソリューニャを殺すだけの力があって、ソリューニャには逃げ場がない。たとえ分かっていてもどうしようもない状況だった。


「本当だ」

「!?」


 ソリューニャは両手に持った刀を振り下ろす。

 薄赤色の鱗状の魔力を纏う刃は、地中の圧力にも耐える強固な外殻を砕いて怪物を吹き飛ばした。


「ギィイッ!?」


 完璧な奇襲だった。

 ミツキがソリューニャに知らせるとともに、二振りの刀を投げ渡していなければ。


「ありがとう! これはまだ少し借りる!」

「ああ! 早く行け!」


 ソリューニャを見送ると、ミツキはつかつかと歩き出した。その先には高所から叩きつけられて動けない怪物がいる。


「キチキチ……!」

「残念だったね。お前は確かに賢くて勘も鋭い」


 ミツキが腰に差した鞘に刀を収めた。


「だけど、見たことないものまでは流石に分からなかっただろう? ほら、“千本刀”」

「ギッ!?」


 ミツキの手の上で刀が現れては消えていく。怪物は驚いているようだった。

 その様子を見て、ミツキは目を細めた。


「まるで魔導も知らないみたいだな」


 怪物は何とか地中に逃げようともがく。

 だが、もう目の前に立つミツキから逃れることは不可能だった。


「本当だったら話でも聞き出したいところだよ。お前からは何か嫌な魔力を感じるんだ」


 ミツキが刀を振り下ろす。

 怪物の頭と胴が離れて、紫の体液が噴き出した。


「……さて、どうしよっかな」


 ミツキが怪物に背を向けて離れていく。そして徐に刀の柄に手をかけたかと思うと、目にも止まらぬスピードで振り向き様に一太刀。

 首のない怪物の腕が飛んだ。


「……まさか首が急所じゃないなんてね」


 首のない怪物はバランスを崩しながらも、残った腕で攻撃をしてくる。ミツキは返しの太刀で怪物を袈裟切りにした。

 怪物はそれでもピクピクと震えていたが、やがて動かなくなった。


「頭を潰されても動き続ける生き物がいるっていうけど、これはやりすぎなんじゃないか?」


 ミツキは大きく息を吐く。危ない場面などなかったが、首なしの人型というのはなかなかにショッキングな光景であったことは間違いない。

 キチキチと耳障りな音を発していた頭部にじっと見つめられて、ミツキはますます嫌な予感を強くしていくのだった。


 ◇◇◇






 ~研究施設・上空~


 キメラはレンを捕まえたまま、生まれて初めて見る壁のない空を飛び回っていた。


「ギャアアアアア!」


 初めこそ恐る恐るといった風だったのが、今は自由に高度を変え速度を変えて遊んでいた。

 しかしそれで苦しむのはレンだ。


「うごえ……酔う……気持ち悪い……」


 何とか堪えてはいるものの、今にも気を失ってしまいそうである。

 地下空間での消耗もあり、レンはろくな抵抗もできないままでいる。


「せめて動き回るのがどうにかできれば……」


 人は本来飛べない。空に耐えられない。だからこそヒバリは空飛ぶ魔法使い(フライングウィッチ)を使うのだ。


「ん? ヒバリ……そうだ」


 レンはヒバリに渡された魔導水晶に軽く魔力を当てて、封じられた魔導を引き出す。

 レンの顔に失われていた赤みが戻った。


「いよっしゃぁあ!」

「ギャア?」


 勢いに任せて、レンは尾の拘束から抜け出した。自由に浮かれていたのと、レンの抵抗がなくなっていたのでキメラが油断していたのも助けになった。


「うぎぎ! 今度こそ吹っ飛ばしてやる!」


 レンはしっかりと尾にしがみつき、木登りの要領で移動する。

 それに気づいたキメラがレンを振り落とそうと動き回る。


「ギャアアア!」

「ふぬぬぬぬぬ!」


 キメラの魔力が高まる。はっとして、レンは衝撃に備える。


「またあれか!」


 そして竜の息吹が放たれた。何を狙うでもない、癇癪のような魔導が破壊をもたらす。


「ギャアアアアアアア!」


 竜の息吹は研究施設に直撃した。

 一直線の破壊跡は中央棟から兵棟にまで及び、遅れて兵棟で巨大な爆発が起こる。竜の息吹が兵棟の火薬庫に引火させたのだ。


「うおおお!?」

「ギャアアア!」

「この野郎! 仲間が怪我してたら許さねぇぞ!」


 ちょうど羽の付け根あたりにまで来ていたレンがキメラを殴りつける。キメラはそれを嫌がってか、長く器用な尾で再びレンを捕らえようとする。


「ギャアアア!」

「二度も捕まるか! こうしてやる!」

「ギッ!?」


 レンは脚だけで体を固定して、両腕で尾を抱え込んだ。

 キメラの長い尾は武器としての機能以外に、体のバランスをとるという機能も備えている。それを封じられたキメラはうまく羽ばたくことができず、急速にその高度を落としていった。


「うぎぎぎぎぎ!」

「ギャアアアアアア!」

「あ、くっそ!」


 地面に墜落する直前に、レンが力負けして尾を手放す。キメラはすぐに体勢を整えて、また空へと羽ばたく。

 だが、地上に出てきたソリューニャがそれを許さなかった。


「ありがたい。この距離なら届く」


 両手に持つ刀に薄赤の魔力を纏わせた。そしてそれを空へと振るう。


翼切(ハバラ)!」

「うおっ!? ソリューニャ!」


 赤い魔力がキメラの羽を引き裂いた。


「ギャアアア!」


 ガクンとキメラの上昇が止まった。

 しかしキメラは無理矢理羽を動かして、なおも重力に抗おうとする。その叫びにはどこか悲痛な響きがあった。


「ギャアアアア!」

「……いんや、終わりだな」


 レンがキメラの首にしがみついて、足から圧縮させた空気を破裂させた。


「アアアアアア!」


 キメラが離される。空から離される。


「行けーーーー! ソリューニャーーーー!」

「ああ!」


 ソリューニャが魔力を刀に込めて振りかぶる。白銀の刃に揺らめく薄赤が映える。


「竜式二刀流、尾撃(オノフリ)!」


 そして地に墜ちた仮初めの竜に、慈悲の刃が振り下ろされる。

 薄赤の魔力が地面を割り、その首を刎ね飛ばした。


「ギャアアアアアアアァァァァーーーー……」


 断末魔の叫びも悲痛に木霊した。


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