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魔導士たちの非日常譚  作者: 抹茶ミルク
研究施設編2 契り
119/256

電気と鉄

 

 

~兵棟地下二階~


 “トリガーハッピー”と対峙するはミュウとマオ。二人の役目はバッカルたちから引き継いで皆が戻るまでここを守り切ることだ。


「すごいタイミングの助っ人だね!」

「来るのです!」

「今度こそ防御は任せて!」

「まとめてドーーーーン!」


散々バッカルとクリートを苦しめた一撃は、部屋と通路を遮断するように展開したバリアによって防がれた。ミュウたちには余波すら届かない。


「すごい……!」

「でしょ? でも私はこれだけだから、ミュウちゃん」

「はいです!」


マオの魔導はこの通り、バリアを張るというものだ。防御力は非常に高い半面、しかし攻撃力は皆無である。


速撃の飛星(ソニックスター)!」


そこでミュウだ。マオとミュウの魔導や戦闘スタイルは非常に相性がいいのである。

魔力の槍が目標に向かって飛んでいく。それがマオのバリアに触れる直前、バリアが消える。


「うがっ!」

「当たったわ。その調子でお願い」

「はは、痛い! 仕返しだ!」

「向こうの攻撃は一発も通さないから」


反撃にと放たれた魔弾はまたもやマオに防がれる。そしてミュウの一撃が当たり、魔導具は彼の手を離れて地面を転がった。


「動くな! です!」

「あらら……」


ここからのあがきはさすがに無駄だと悟ったのか、敵が落ち着きを取り戻す。


「はー、いやだね。白けちゃうよ」

「悪いわね。この地形もミュウちゃんも、私の魔導に合いすぎているのよ」

「逆にこっちにはそんなに良くないんだよなぁー。はぁ、頼まれても来るんじゃなかった」


 “トリガーハッピー”はお気に入りの魔導具を撃っていればそれだけで昂るが、戦うことが好きなわけではない。あっさりと負けを認めて投降した。


「降参だ。お嬢ちゃんたち、どうか命は取らないでほしいかなー」

「賢明ね。いいわ」

「……あっけなかったのです」


ミュウが呟いた。もちろん余計な体力は使わないに越したこともないのだが、たった二発で勝負がついてしまったことに驚きを隠せないのだ。


「違うわミュウちゃん。彼、本当に限界でもあったのよ」

「え? あっ」

「きっとテンションでごまかしていたのね。ひどい火傷よ」


マオの指摘と、敵が膝を着くのは同時だった。撃つたびにダメージを受ける攻撃を何度も繰り返し、肉体的に限界だったのである。足も腕も真っ赤にただれ、むしろよくここまで戦っていたと言うべきだろう。


その後気を失った敵を縛り、他の兵隊たちと同じように閉じ込めてひとまず危機は去った。


「さて、ようやく落ち着いて話ができるわね」

「ああ。本当にありがとう」

「……助かりました」


バッカルとクリートが深々と頭を下げる。マオもミュウもこの二人のことは聞いているため、スムーズに話は進んだ。


「……なるほどねー。でもこんな風に戦力分散させて大丈夫なの?」

「いや、まあ。恥ずかしい話、完全に敵の実力を読み違えたというか……」


イライザほどの火力ならクリートがいれば耐えきれる。そもそも地下で爆発など危険すぎて向こうもやらないはずだ。


「って思ってたら、あんな奴が来て不意を突かれたのね。たしかに想定は難しいわね」

「運がなかったのです」

「兵隊くらいならクリートがどうにかできたんだけど」


狭い通路だ。ただの兵隊なら短時間で壁を突破するようなこともないだろうし、問題はなかった。

ミュウの言う通り、運が悪かったの一言に尽きる。いったい誰が生き埋めも辞さないような破壊力で自分ごと焼きに来る敵を想定できるというのか。


「ま。結果として無事だったんだから良しとしましょう」

「はいです! あとはみんなが無事に帰ってくるのを待つのです!」






~兵棟地下一階~


お守りを握りしめて走り回るジンは、もう何度目になるかもわからない敵兵の一団に遭遇してこれを蹴散らした。


「あがーーーー! ソリューニャどこだーーっ!」


お守りの反応を頼りにまっすぐ走ってとはいかず、彼はいまだこのフロアを駆けずり回っているのだ。


「くっそーー、壁でも壊せりゃ楽なのになーー!」


それなりに広大な施設内を走り回っているとたまに通ったことのある道を走っていることに気づいて、彼を苛立たせる。しかもそれが一度や二度ではないのだからたまらない。

ジンはまたお守りに魔力を込めて、反応の在処を探る。


「さーて、次はどっちに行こうかなー」


ジンはぴたりと足を止めた。


「やっぱりこっちに行ってみようかなぁ」

「はああああ!」

「お前はどう思う?」


ジンの右手にトンファーが現れる。そして右腕を上げ、上段からの剣劇を防いだ。


「よぉ。無事だったんだなぁ?」

「貴様はあそこで俺にとどめを刺すべきだったな!」

「はぁ~? 死にたかったのか?」

「っ、そのせいで死ぬのは貴様だ!」


イライザの不意打ち爆発に巻き込まれたゴヨウは、装備を改めて再びジンの前に現れた。目的は散々屈辱を味わわされた報復だ。

気合とともに振るわれる剣を、ジンはひょいと躱した。


「もう一回、ボコボコにしてやらぁ! はっはっは!」

「舐めるなよ! より高性能になった武器に貴様の血を吸わせてやる!」

「やってみやがれ!」


ジンが攻勢に転じる。

敵の武器は両手剣。ジンはそれ以上のリーチを持つ武器、槍を創造して距離的優位を確保する。

ゴヨウは繰り出される突きを捌きながら後退していく。


「はっ! それで勝とうたぁあきれるぜ!」

「笑っていられるのも今のうちだ!」


三秒。ジンがトンファー以外を創造したときに、それが存在していられる時間だ。

槍による攻撃はタイムリミットとともに一度止まり、その隙に今度はゴヨウが攻める。


「はっ! やはり貴様の武器には時間制限があるな!」

「け。だからなんだってんだ」


ジンは大きく飛び退いて距離を取り、素早くトンファーを出す。そして突進してくるゴヨウに真っ向からぶつかった。金属同士が打ち合う高い音が部屋に響く。


「いたぞ! 撃て!」

「ちっ、邪魔が!」


部屋に兵隊が入ってきて、マシンガンを構える。ジンは再びゴヨウから飛び退いてトンファーを消した。

代わりに創造したのは巨大なハンマー。その巨大な鈍器をジンの怪力で振り回して兵隊たちを一掃すると、体を捻ってゴヨウに叩きつけた。


「遅い!」

「うおう!?」


ゴヨウは一歩下がってそれをよけると、隙だらけのジンに向かって両手剣を投げつけた。ジンは咄嗟に創造したトンファーでそれを弾く。

その間にゴヨウは腰に差していた次の武器を抜いた。持ち手のついた円柱のような、奇妙な棍だ。


「なんだそれ?」

「行くぞ!」

「はっ! 来やがれ!」


ゴヨウが腰の高さに構えたそれを横に振るう。ジンがトンファーでそれを受け止める。

甲高い音を響かせて、二つの武器が離れる。この一瞬の接触で、ジンは謎の痺れを手に感じていた。


「なんだ、これ。そんな強く当たってねぇのに……!」

「はっ! どうした!」

「だったら確かめてやる!」


金属音、再度の接触。ジンの魔導はしっかりと機能しており、衝撃は小さい。

だが、異変は一瞬でジンの全身を襲った。


「がっ!?」

「くらえ!」

「ぐあっ! 毒か……!?」


全身が引き攣るように硬直した隙をついて、ゴヨウの棍がジンの胸を打つ。

より大きな衝撃がジンの肉体を駆け巡り、たまらずジンは地に膝を着く。


「くそ、何しやがった……!」

「ふはは! それはな、電気だよ」

「でんき?」


ジンを見下ろしながら、ゴヨウは得意げにネタ晴らしした。


「小さな雷のようなものさ。どうだ、効くだろう?」

「ぐ……っ、なんてことねーな」

「はっ、強がりを言うな!」


ゴヨウが棍を振るう。ジンはトンファーを創造してもそれで打ち合うことをせず、棍に触れぬようにギリギリで避ける。

しかしゴヨウはニヤリと笑うと、棍の持ち手についているボタンを押した。


「ぅ!?」

「はぁああ!」

「があっ!」


触れてもいないのに体に電気が流れ、動きが止まる。そこに棍の一撃を受けてさらに強い電撃を浴びる。


「な、にしやがったぁ……!」

「たとえ触れなくとも、電気は金属に引き寄せられるのさ。例えば貴様が握っている、その武器」

「鉄……!」

「覚えておくがいい! そして死ね!」


ゴヨウは腰からくの字型の武器を抜いて、ジンに振り下ろす。まるで弓に張った弦のような魔力の刃がジンの首を落とさんと迫る。

ジンは何とか動く片足で地を蹴り、転がって回避する。そして痺れを我慢して立ち上がった。


「電気か……。なるほどな」

「はっ。足掻くか」

「よっし、動く。次で決めてやるぞ」

「戯言をぉ!」


右手に電流棍、左手に魔力鋸という両刀スタイルでゴヨウが構える。右で動きを止め、左で刈る腹積もりだろう。

一方のジンは左手にトンファーを創造した。彼の基本のスタイルだ。


「だぁぁ!」

「ふん!」


ジンが突っ込み、ゴヨウはそれに棍の一撃を合わせる。ジンは左腕を上げて、それを受ける構えだ。


「馬鹿め!」

「……ぐぅっ!」


トンファーと棍が打ち合わさり、ジンの体に電流が流れる。


「な、がぁぁ!?」

「へへ……!」


ゴヨウの腹にジンの蹴りが入っていた。電気はジンを介してゴヨウにも流れ、互いの動きが止まる。


「が、あ、ああああああ!」

「ごはぁ!?」


先に動いたのは、ジンだった。不意を突かれたゴヨウはまだ動けず、ジンの拳をまともに食らう。


「おおおおおおっ!」

「ぐはぁぁ……!」


ジンが右足で強く踏み込んで、強烈なトンファーの一撃を見舞う。ろくに防御もできずにそれを食らったゴヨウは吹き飛んで、壁に頭を打ち付けて意識を失ったのだった。



「わはは! 慣れれば問題ねー!」


ゴヨウに電気を流したのは狙ってやったことではない。電気で動けなくなるより前に倒せばいいという、彼らしくも無茶な特攻だった。


「さーて、そろそろ追い付かねーとなー」


ジンがお守りに魔力を込める。すると二つの反応の他にもう二つ。


「おおっ! あいつらも来たか!」


レンとミュウだ。

そして二人の参戦に気分が盛り上がると同時、上に繋がる階段を見つけた。


「やっと見つけた! へへ、あいつらにゃ負けてらんねーぜ!」


ジンは意気揚々と踏み出したのだった。



現在地

ジン、レン、ミツキ……兵棟B1

ミュウ、マオ、クリート、バッカル……兵棟B2

リリカ、セリア、マトマ……中央棟F1

ソリューニャ……中央棟B1

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