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魔導士たちの非日常譚  作者: 抹茶ミルク
研究施設編2 契り
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次世代のクロノス

 


 ジンたちが村を出た日の昼過ぎ、レンとミュウはようやく村にたどり着いていた。


「爆発があったのはここか」

「びっくりしたですね、あれ。何があったのでしょうか」


 彼らはこの村で何があったのか知らない。


「お、人がいるぞ……んん?」

「あれは、亜人です?」

「耳が尖ってるしな。おーい!」


 レンが声を上げて呼ぶと、亜人は一度引っ込んだ後に人を引き連れて戻ってきた。


「あなた方はもしや、ソリューニャさんのお仲間ですかね?」

「なに、ソリューニャ知ってんのか!? 今どこにいるんだ!?」

「せ、説明いたしますからどうぞこちらへ」


 たじろぐ亜人に連れられて、レンとミュウはとある家の中に通された。

 そこには老夫婦と数人の若い亜人が座っていた。

 さっそくレンが嚙みつく。


「おい、ソリューニャは!」

「ちょっと、落ち着くのです!」

「その前に、お二人はレン殿とミュウ殿でよろしいかな?」

「そうですけど……」

「ソリューニャさんから、伝言があります。お二人には必要な情報だろうとのことです」

「「!!」」


 ソリューニャはレンとミュウがここに来ることを予想して、伝言を残していたのである。

 内容はこの竜人の村で起こったこと、探していた原因は恐らく研究施設にあること、これからジンたちとともに乗り込むことなどであった。

 ひとまずソリューニャの無事を確認して、ほっと安心する二人。特にここまで無理をしてきたミュウは気が抜けたようになっている。


「大丈夫か? ミュウ」

「あ、はいです。ちょっと安心したら力が抜けて。えへへ……」

「そっ…………ッ!!」

「!?」


 レンの耳が遠くの鳥の鳴声を捉え、なんとなしに上に意識を向けた時であった。


「何か来る!」

「え、レンさん!?」


 レンが飛び出す。あとに続いてミュウも出ると、レンは険しい顔で上空を睨んでいた。

 ミュウも空を見上げると、四羽の鳥の影が見えた。


「鳥です?」

「魔力を感じるぞ……!」

「あっ、本当です!」


 黒い影はだんだんと大きくなり、それが降下してきていることがわかる。それと同時に感じる魔力も強まっていく。

 ミュウがディーネブリとの会話を思い出す。


「まさか、もう来たのですか!? “組織”が!」

「だったら先手必勝だァ!」

「わっ、レンさん!」


 レンが両手に風を集めて、上空に向けて放った。凄まじい圧力に、たまらずミュウがレンから離れる。

 白い竜巻は確かに四羽に直撃したかに見えた。

 しかし。


「マジか!」


 撒きあがった砂埃が晴れると、何事もなく四羽の鳥が飛んでいた。今の攻撃でレンの存在に気が付いたのか、四羽は降下をやめて旋回している。

 ならばとレンは二発目を撃とうと構える。


「……!!」

「いい反応だけど、そこまでだよ。……動くな」


 いつの間にかレンの首に刃が当てられていた。

 完全に動きを押さえられ、命を握られたレンの首に一筋の汗が伝う。


 レンに当てられているのは、微妙に反りのある薄い片刃の剣であった。そしてその珍しい剣を握っているのは、レンより少し年齢の高いくらいの青年だった。輝くような金髪と整った顔立ちをしている。


「レンさん!」

「え、おおっ?」


 ちらりとミュウを見た彼は、なぜかそこで硬直した。

 その隙を見逃さず、レンは身を翻して回し蹴りを放つ。しかし敵はそれを片腕で防ぎ、そこにわずかな膠着状態が発生した。


「速撃の飛星!」


 放たれる魔力の槍。

 だがそれは突如として発生した魔力のバリアによって防がれた。


「はぁ、あんた今食らう気だったでしょ」

「当然だろう?」

「胸を張るな」


 レンの背後に、もう一人。あきれたようにため息をつく彼女は、睨んでいるようにも見える半分閉じたような目が特徴的だった。それでも元々目が大きいのか、なかなかに整った顔をしている。


 二人に挟まれたレンは距離を取ろうとするが、それより早く刃を向けられて再び動きを止められてしまう。


「くそ……!」

「はいはい、動かないの」

「レンさん!」

「あなたも動かないでね。彼がどうなっても知らないわよ」

「おい彼女に手を出したら斬るぞ」

「何を敵の味方してんの!」


 そこに四羽の鳥が村に降り立ち、そのうちの一羽の背中からさらに一人の女性が降り立った。


「さて、あなたたち。単刀直入に聞くけれど、どうしてこんなことをしたのかしら?」

「お前らがオレたちを殺しに来たんだろうが!」

「ええ!?」「殺し!?」

「……?」


 相手の驚きように、ミュウは一つの疑問が浮かぶ。レンを抑えられるほどの実力があったためにてっきり組織かと思ってしまったが、もしかしたら関係ないのかもしれない、と。

 それを確かめるために、ミュウが口を開く。


「あの。もしかして人違いかもです?」

「もしかしてじゃなくて、絶対そうでしょ。あなたたちのことは知らないわ」

「…………」

「…………」

「その、一度お話をしませんか?」

「賛成ね」





 結論から言うと、人違いであった。


「えーと、ごめんなさいなのです……」

「もう気にしてないわ。ミュウちゃん」

「よかったな! ミュウ!」

「あなたは気にしなきゃいけないの!」

「はは、誤解も解けたようで。次はあなた方のお話が聞きたいのだが」


 村長が促す。

 頷いた女性が、初めに自己紹介をした。


「どうも、お騒がせしたみたいでごめんなさいね。私の名前はヒバリです」


 ヒバリは落ち着いた所作で頭を下げる。癖っ毛の茶色いボブヘアーがふわりと揺れる。この三人の中では一番の年長者のようで、リーダーのような立場にあるようだ。


「おれはミツキ。よろしくミュウちゃん」

「おい、無視してんじゃねえぞ!」

「悪いがおれは幼い女の子が好きだ」


 キリリと決めた表情でミュウを見る。ミュウが苦笑いを返すと、満面の笑顔で照れたように頭をかいた。

 また、何の作法か腰に差していた剣は鞘に収められて彼の左側に置いてあるし、上着を脱いだ下には懸衣式の珍しい衣装を着ているし、つまりは変な人であるとミュウは認識した。


「こら、何言ってんのよバカミツキ。あ、私はマオ。よろしくね」

「お前、眠いのか?」

「この目は元々この形なの!」


 半眼の少女は自らをマオと名乗った。よく梳かされた艶やかなショートヘアの金髪はミツキとよく似ているが、血縁関係にあるわけではないようだ。

 額を出すように前髪を分け、それを留める赤い三角のヘアピンが彼女の髪色によく映えていた。


「ここに寄ったのは、二日前このあたりで何かあったでしょう? 遠くから煙が見えたわ。それが気になって」

「オレたちと一緒か」

「なのです」

「なるほど、ならば話さねばなりませんな」


 村長が襲撃の話をすると、ヒバリたちは予想外の食いつきを見せた。


「研究施設! そのあたり、もっと詳しく聞かせて!」

「ヒバリさん、どうしたのです?」

「それはね、ミュウちゃん。おれたちの本来の目的がそこの調査だからだよ」

「え?」


 ミュウの質問にミツキが答える。

 これから向かおうというところで、同じ場所を目的にしている一行と出会うというのは、偶然にしろ興味のひとつも湧かないわけがなかった。


「その、研究施設には何があるのです?」

「正直なところ分からない。おれたちはマスターにこっそり見て来いって言われただけだからね」

「ほんっと、何にも教えてくれなかったよね。いっつもそうなの」

「マスター、です?」

「そうよ。私たちが所属してる組織の、一番偉い人」


 組織、という言葉に思わず反応してしまうミュウ。それに目ざとく気づいたミツキが、ミュウに尋ねた。


「ミュウちゃんは何をそんなに警戒してるのかな?」

「あんたでしょ」

「失敬な! おれはすべての少女の味方さ!」

「そういうところよ!」


 マオがミツキの頭をはたく。


「どうしよう、この人たち……」

「ああ……」

「もしかして、面白いのかもしれないです……!」

「ああ……!」





 マオたちはギルド「クロノス」のメンバーである。そんな彼女らに、マスターからとある命令が下った。

 それが、ゼルシアにあるとある研究施設の調査。どうやってその存在を知ったのかとか、なぜバレないように動かなければいけないのかとか、分からないことばかりだったがそんなことは今更だそうだ。


「い、色々とおかしいのです」

「そんなもんさ。うちのマスターは」

「そうね。今回もとりあえず見てこいくらいのおつかい感覚だったわ」


 しかし、それには大きな問題があった。単純に距離があるということと、カーテンウォールの向こう側まで行かなければならないことだ。

 しかし、マスターは移動手段も抜け目なく準備していた。


「それが私よ。相変わらず人使いが荒いのよあいつ」

「お、聞きたいことは聞けました?」

「ええ」


 彼はヒバリとその相棒である鳥たちをあらかじめ手配していたのである。

 一行はヒバリの鳥たちに乗ってカーテンウォール沿いに南部を移動するルートを進んだ。いかにカーテンウォールといえど端は存在するし、さらに言えば端に近づくほど標高も下がる。そこでこの村を越えて少ししたところでカーテンウォールを越え、ゼルシア国に突入する予定だったのだという。


「あの子たちもそんなに高いところまで飛べるわけじゃないの」

「ここに来るまでにも、越えられる場所はなかったのです?」

「あるにはあったけど、ゼルシアで見つかったら少し面倒なのよ。だからなるべく研究施設から近い場所で越えるのが理想だった」

「ヒバリさん。だったってどういうこと?」


 マオが聞く。


「どうやらここから北に行ったところに、研究施設の内部に繋がる洞窟があるみたい」

「嘘! すごい!」

「今ジンさんたちが向かっているところなのです」

「え?」


 ヒバリたちはレンたちが置かれた状況を、ここで初めて知った。


「えぇー!? 殴りこみー!?」

「何ィ!? 女の子が攫われたぁー!?」

「そーだった! 急いで追いかけねーと祭りが終わっちまう!」

「祭り違うです!」


 こっそり侵入してこっそり脱出する、クロノス組の作戦はすでに崩れたも同然だった。なにしろあのジンが突撃するというのだから、大騒ぎにならないわけがない。


「どうしよう、ヒバリさん。少し時間をおいて侵入する?」

「いえ、警備が厳重になってやりづらくなるだけだと思うわ」

「よしミュウちゃん。おれも行こう! キミはおれが命に代えても……」

「てお前は何勝手に決めてんのーー!」


 マオキックがミツキに炸裂する。しかしミツキも何も考えていないわけではなかった。


「イテテ……。いや、ここはミュウちゃんたちと一緒に突入して、むしろ堂々と調査した方が得策じゃないか? 隠れていたら見えないところまで見ることもできるし、混乱に乗じれば正体がバレる危険も少なくなるはずだ」


「…………」

「……正論ね」

「気持ち悪ッ!? あんたのそういうところホント苦手なんだけど!」

「ひどいねー、ミュウちゃん」


 ヒバリが肯定する。マオも感情が拒否しながらも理性ではそれが最善と分かっていた。

 ミツキは基本的には優秀な人間なのである。そしてそれゆえ残念な性癖が際立つのである。


「分かったのです!」

「どうしたんだ? ミュウ」

「ミツキさんは“ヘンタイ”なのです!」

「ミュウちゃん正解」


 マオは深く頷いたのだった。



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