表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔導士たちの非日常譚  作者: 抹茶ミルク
研究施設編2 契り
115/256

研究施設 3

 


 ~兵棟地下一階~


 隠れて敵をやり過ごしながら、ソリューニャは着実に目的に近づいていた。


「にしても、凄いな。研究施設なんてどんなものかと思ってたけど、目を引くものが山ほどある」


 去っていく兵隊を見てつぶやく。彼らの手にはマシンガンがあり、それがいかに重要なことなのかソリューニャには分かるのだ。


「あんなものを量産して、しかも誰でも使えるように。とんでもない技術だ」


 この世界では、一人の天才が千人の凡才に比することがある。

 では、才能ある一人を育てるのと才能なき千人を戦力に仕立て上げるのとではどちらの方が簡単だろうかと問われた時、答えは言うまでもなく前者だろう。

 ここに、この世界では郡より個が強いと言われる所以がある。


 しかし、もしマシンガンのような中距離兵器が大量に生産され、魔法使い全員が使えるとしたらどうだろうか。


「戦力の底上げ。全体の練度は一気に上がる。そうしたら、世界の常識が変わるぞ……!」


 それほどコストをかけずに戦力を生み出し、その戦力も高い水準で均一になる。それは今までの郡の常識を覆すほどの脅威となるに違いない。


「うぅむ、まさかこんなところでこの知識が活きてくるとは……」


 カキブで復讐のために必死に蓄えた知識が無ければ、彼女もここまではっきり脅威を認識することもなかっただろう。


「けど、今はとにかく獣棟に行かないとな」


 彼女の心のうちにある焦燥感はここに来た瞬間から大きくなった。近づいているということだけではない。何かもっと大きな、抗い難いものを前にしたような、そんなものが流れ込んでくる。


 と、隠れながらソリューニャは機を見て走り出す。見回りの兵はソリューニャに気が付かない。


「ふぅ。ここが……」


 そうして彼女は辿り着いた、中央棟の地下一階。ここから獣棟の地下一階を目指すのだ。

 ただ、ここは中央棟。三つの区画に繋がる重要な施設だ。先のイライザのように、どの区画からどれだけの敵が待ち構えているとも分からない。

 獣棟や人棟にも強敵は配備されているだろうし、その全員と戦うわけにもいかないため、ここから先はますます注意して進むべきだろう。


「よし、行けるか?」


 物陰から物陰に、音を殺して移動する。どうやら兵棟ではまだジンが暴れているようで、研究施設の意識はそこに向いているようだ。

 ちなみにこれは作戦通りであったりする。潜むなどジンには土台無理な話、ならば開き直って注目を集めさせようということだ。


「リリカたち、上手くいってるかな……」


 お守りからは、リリカのものと思われる反応が上の方から感じられる。分断された後、彼女は地上から人棟を目指そうとしたのだろう。そしておそらくそれを思いついたのは彼女以外のはずだ。

 少なくともセリアかマトマは生きていて、彼女と一緒に行動している。


「リリカ……気を付けてね……」


 ソリューニャは本調子でないだろうリリカを案じるのだった。





~兵棟一階~


 ジンの大暴れは、彼女たちにも大きな恩恵を与えていた。

 兵棟一階を走る、セリアとマトマ、そしてリリカだ。


「すごいな、ジンは」

「うん。だいぶ動きやすい」

「あ、隠れて! 人が来る!」


 リリカの凄まじい聴覚が、前方から近づく靴音を捉えた。彼女たちは近くの物陰に身を隠して、敵が通りすぎるのを待つ。


「……行ったね」

「うん。にしてもリリカ、耳良すぎじゃん?」

「そうだね。とっても助かってる」

「えへへ、そうかな……ッ!?」


 リリカは恐らく敵のものだろう魔力を感知した。振り向くとそこには奇妙な機械を目に装着した男が杖を向けている。

 その先端から巨大な魔力砲が放たれ、三人が隠れていたところに直撃した。


「わああっ!?」

「マトマ!」

「私は無事! 二人ともこっちに!」


 マトマに言われるがままに、リリカたちは近くの部屋に飛び込んだ。広い部屋だった。


「どうすんの!?」

「とにかくあそこはまずいよ! あの大きさ、狭い通路じゃかわし切れない!」

「二人とも! あいつが来るよ!」

「隠れて!」


 三人はそれぞれ別の場所に隠れ、入り口を注視する。静まり返った部屋の中、張り詰めた空気が漂う。

 そこに、先ほどの男が現れた。


「イイねぇ! 実験場、ここなら存分に撃てるよ!」


 男は首を動かして部屋を見回す。しかし無機的な部屋に動くものもなく、入り口からネズミを見つけ出すのは不可能に思われた。

 が、男はひたと笑うと迷いなく杖を向けた。セリアが隠れている場所へ。


「隠れても無駄! そこでしょ!」

「な……!?」

「ショーット!」


 セリアは直撃こそ避けたものの、着弾の衝撃で吹き飛ばされた。


「うあ!」

「ンーー? 見えた、そこにいるね?」

「え……あぅ!」


 マトマも同様に吹き飛ばされ、その姿を敵にさらした。


「さ~~て、あと一人。どこかな~~」

「ここだっ!」

「ノー! 出てきたらつまんないよ!」


 隠れても見つかるだけだと直感したリリカは思い切って飛び出した。

 放たれた砲撃を、身をかがめてかわすリリカ。彼女はその低い姿勢のまま敵に迫る。


「ナイスラン!」

「はぁぁ!」

「でも、惜しいね!」

「っ、くあっ!」


 杖の先端から魔力が膨れ上がる。密度は小さいが広範囲に広がった魔力は、接近していたリリカを弾き飛ばした。


「もう少しで届いた……!」

「むー? 二匹隠れたか」


 セリアとマトマは今の攻防のうちに再び身を潜めていた。

 だが、男は二人がいる場所をすぐに見つけ出して杖を向ける。


「無駄だって! 言ったよ!」


 放たれた砲撃が目標に命中する。


「う~ん、増幅型はやっぱり楽しいね!」

「セリア! マトマ!」

「大丈夫だ! マトマの言った通りじゃん!」

「これで確信した! あいつは見えてる!」


 しかしセリアたちは撃たれると分かって隠れていたため、怪我もなかった。


「その通り、兵棟には面白いものがたくさんあるよ!」

「目に着けてるあれか。あれを壊さない限りこっちの居場所は筒抜けで、そこに撃ち込んでくる」

「あれをよけ続けるなんて無理だし、逃げ場がないじゃん?」

「逃げなくていい! 倒せばいい!」


 リリカが突進する。

 敵は杖を向け、砲撃を放つ。リリカがそれを横っ跳びに回避すると、それは触れるすれすれで飛んで行った。

 ここまでは先ほどと同じ。リリカが一撃を与えるには、ここからもう一つの壁を超える必要がある。


「無駄ってさ!」

「うっ……あぁっ!」

「リリカ! 大丈夫か!?」

「うん。あれは食らっても大丈夫なの」


 来ると分かって踏ん張っても、堪え切れない。飛ばされたリリカのもとに駆け寄ってきた二人が心配するが、リリカは自分で立ち上がった。

 もとよりあれは接近された場合に対処するためのもので、攻撃力はほとんどない。リリカ自身最初に受けた時にそれを知り、今回はそれを承知で受けに行ったのだ。


「何言ってんだ! 食らっても大丈夫とか、そういうことじゃないじゃん!?」

「……。でも、何とかなりそうなの。二発目で離れなかったら、それで……」

「また食らう気か!? なあ!」

「セリア、ここはあいつを倒すのが最優先。喧嘩してる場合じゃ……」


 たとえ勝つためだとしても、普通は自ら攻撃を食らいに行くことはないだろう。セリアはリリカの異常性を垣間見たような気分になった。


(レンやジンなら、もう倒してる。あたしは……!)


 リリカの握り拳に力がこもる。

 今までの彼女ならもっと敵の攻撃を警戒して、手堅く戦っていただろう。今のリリカは悪い意味でレンとジンの戦い方を真似ている。


「ハッハーー! 三人固まるとは愚策!」

「来るよ!」

「ああ! とにかくリリカ、無茶はするなよ!」


 三人は散らばってそれをかわす。

 敵はどうやらリリカを警戒しているようで、彼女に追撃を撃ち込んだ。

 リリカは部屋の中を駆ける。何発もの魔力砲が、彼女を追い立てるように撃ち込まれる。


「セリア! リリカが突っ込んだら、私たちが背中を支える!」

「なんでそんな……」

「急がないと援軍も来る! だから、今しかない!」

「……分かってるよ」


 リリカが引き付けているおかげで、セリアとマトマの負担はかなり削られている。砲撃はリリカだからこそ避け続けられるのであり、もしセリアかマトマが狙われていたとしたら無事ではなかっただろう。

 だが、敵を倒せるとしたらそれもリリカしかいない。やはり接近しながら砲撃をかわせるのはリリカしかいないためだ。

 そこで二人にできることと言えば彼女のサポートくらいである。


「ム~~! しつこいね!」

「っ、今だ!」


 敵から一定の距離を保ち円を描くように走っていたリリカが、まっすぐ突っ込むような動きに切り替える。


 放たれる一発目。

 かわすリリカと、彼女に続くように走るセリアとマトマ。


「ふん! だったらまとめて……」

「来るよ!」

「吹き飛ばす!」


 そして二発目。

 リリカはグローブの力で壁を張る。


「……あっ!」


 しかし魔力は彼女の手が動いたところにしか固定できない。がら空きの脚部が耐え切れずに浮き、バランスを崩す。


「ああもう! あとで覚えとけよぉ!」

「っ、セリア!」


 ところをセリアが支える。

 しかしそれでも耐えるには足りず、二人の姿勢が崩れる。


「間に合った!」

「マトマ!」

「助かった!」


 ところをさらにマトマが支える。


「何!?」

「これなら……!」

「行け、リリカ!」


 二人に支えられて、ついに耐えきったリリカが飛び出す。


「はぁぁぁあ!」

「うごぅ……!」

「たあーー!」


 右拳が敵に炸裂し、とどめの回し蹴りが決まった。




「やったね」

「二人とも、ありがとう」

「私は無茶したこと許してないよ。あんな戦い方、おかしいじゃん」

「……ごめん」

「まあまあ、早く移動しよ? 敵が集まってくる前にさ」


 マトマの仲裁で場は一旦収まり、三人は部屋を後にする。目指すは人棟、セリアとマトマの捕らわれた家族を救い出すのだ。



現在地

ジン、ソリューニャ……兵棟B1

リリカ、セリア、マトマ……兵棟F1

クリート、バッカル……兵棟B2

レン、ミュウ……??

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ