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魔導士たちの非日常譚  作者: 抹茶ミルク
研究施設編2 契り
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研究施設 2

 

 

 部屋を蹂躙した爆炎でも、入り込めない場所がある。


「ふぅ、さすがに冷や冷やさせられた」

「わお……!」


 爆発の規模を知っていたはずのボマーたちはそれを回避する手段を持っているはずだ。そこまで分かればあとは簡単である。ボマーに接近してその手段を横取りすればいい。


「こりゃすごいね。バリアか」

「兵棟の試作品さ」

「こんなものが誰でも使えるってのか?」

「兵器とはそういうものじゃあないかな?」


 床に仕掛けられた魔道具から魔力の壁が発生している。これがボマーとソリューニャを守っていた。


「ところで、キミの連れは無事かな?」

「無事さ」

「ずいぶんはっきり……くぅ!」

「言うさっ!」


 煙で仲間の姿は見えないが、不安に負けてボマーから目を離すような愚は冒さない。


「信じてるからね」

「ははっ、まずいね!」


 ソリューニャが深く踏み込んで突きを繰り出す。

 ボマーの勝機は、ここまで接近された時点で消えていた。接近戦でソリューニャに敵うはずはなく、そもそも近距離では自分にも被害があるために爆弾は使えない。


「はぁ!」

「ごっっ……!」


 ソリューニャの拳が突き刺さり、ボマーは壁まで吹き飛ばされて意識を失った。


「よし、一番危険な奴を始末できた。あとは……」


 ソリューニャはボマーが落とした金色の魔導具を破壊した。一切の慈悲が与えられることもなく原型を失っていく技術の結晶。

 これで仮にボマーが動けるまで回復したとしても脅威ではなくなった。遠距離から気づかれずに撃ち込まれるという不安要素を取り除き、ソリューニャはやや安堵する。


 その時、煙を突き破って見たこともない生物が飛び出してきた。


「うわっ!」


 牛と魚を合わせたような、奇妙な生物の背には一人の女が乗っていた。


「イライザ……!」


 突進を転がって回避する。しかし敵はソリューニャに見向きもせず猛スピードで駆けていく。


「ってジン!?」

「逃がすかぁーー!」


 ジンが牛魚の尾に片手で掴まって引きずり回されていた。

 イライザとジンはそのままボロボロの扉を蹴破って部屋を出て行く。


「まったく……仕方ないな」


 ソリューニャは単身獣棟に向かうことにした。こういったイレギュラーが起こった場合、各々の判断で目的を遂行し、集合場所に戻ることになっている。

 ソリューニャは中央棟を目指して動き始めた。






 リリカは爆発に巻き込まれる寸前、別の部屋に転がり込むことで難を逃れていた。隣には同じく爆発から逃れたセリアとマトマ。


「ダメ、開かない!」

「分断、されたね」


 爆発で歪んだか、あの大部屋に戻る扉は開かない。目的の扉とは別の扉に飛び込んだため、ここからの道も分からない。


「どうしよう、中央棟に行くにはさっきの道しかないよ」

「……考えてる時間はない。上を目指そう」

「上?」

「うん。どっちにしろ人棟には地上からしか行けないんだ」


 マトマの提案で、リリカたちは上に繋がる道を探すことになった。はじめは中央棟の地下一階から中央棟の一階を経由して人棟に侵入する予定だったが、先に兵棟の一階に上がっても行けないことはない。


「ただ、二人を残していくことになるけど……」

「それは心配ないよ」

「リリカがそう言うなら……」


 確信を持って断言するリリカ。付き合いの長い彼女に言われたらそれを信じるしかないだろう。

 リリカたちもまた動き始めたのだった。





 それぞれが作戦に従って動き出し、ジンはイライザを逃がさんと追駆していた。


「ぬおおおおおお!」

「ちょ、いい加減離しなさいよ!」

「今度こそはぜーーーってぇ逃がさねぇからなぁ!」


 はた目からはイライザに引きずり回されているようにしか見えないだろう。しかし紛れもなくジンは追う者で、イライザは必死に逃げる者だった。

 ジンの両足と床との間では鉄板が激しく火花を散らし、ジンは巧みにそれを操って廊下を滑っている。


「おぉっ、へへ。滑ってると楽だな」

「くっ」


 爆弾魚を召喚してジンに差し向けるが、簡単にかわされてしまう。イライザ自身の手札はもう残っておらず、そのすべてを見たジンに対して打つ手はない。


「だったら……!」


 イライザは舌打ちをすると、曲がり角をスピードを落とさずに曲がる。ジンの体が浮いて、足から鉄板が離れて飛んで行った。

 そして迫る白い壁。


「のわぁっ!?」


 壁に足をついて、まるで走るように二度、壁を蹴る。ジンの体はバランスを取り戻し、うまいこと鉄板の上に着地して再び床を滑り始めた。


「っぶねぇー!」

「しぶとい……! どうにかして振り落とさないと……!」


 と、道の先の行き止まりで魔力マシンガンを構えた戦闘員たちが待ち構えていた。


「しめたわ……!」

「構わん撃て!」

「嘘」


 イライザに当たることも厭わず、魔力弾が狭い廊下にばらまかれる。魔術が使えるイライザにとっては一発ごとの威力は大したことないが、逃げ場がないところでこれをやられるとさすがに無傷とも行かず、それでなくとも十分に恐怖だ。


「私が獣棟だからって、さすがにこれはないわよぉ! しかも助っ人なのにーー!」


 基本的に棟同士は不仲ではないが、特別仲間意識が強いわけでもない。兵棟で暴れるならばそこには兵棟か敵かしかないということだろう。


「あああああ!」

「うわーー!」


 イライザは牛魚の背中にへばりつくようにして、兵たちが守っていた扉を壊して部屋に突っ込んだ。

 そこは臨時の避難所になっていたようで、非戦闘員の研究者たちが一斉に悲鳴を上げる。


「はぁ、はぁ、心臓に悪いわ……」

「なーに安心してんだァアン?」


 振り返るとすれ違いざまに奪い取ったのだろうジンがマシンガンを向けていた。


「これでもくらぇぇぇぇぇえ!」

「きゃああああ!」


 無数の魔力弾に襲われ、牛魚から落ちるイライザ。


「今までの分全部……」


 ジンはイライザの顔面を力いっぱい鷲掴みにすると、片腕で振り回して全力で投げ飛ばした。


「返すぞぉぉぉォォォォ!!」

「あああああああっ!」


 イライザは宙を舞い、研究者たちに突っ込んで気を失った。

 ジンは溜め込んでいたものを出せてそれは満足そうに笑ったのだった。


「ざまぁ!」

「う、動くな!」


 悦に浸るジンを兵たちが取り囲む。研究者たちがいるだけにさすがに数も多い。


「……つーかどこだここ!?」


 と、囲まれてジンが我に返る。ソリューニャとはぐれてしまったことに今気が付いたのだ。


「あ~~どうしよ」

「動くなと言ったのが聞こえなかったか!」


 ここにはそれなりに腕に自信のある者も配置されている。そのうちの一人が、先の出来事を見たにも関わらず勇敢にも前に出た。


「うっせーな」

「な……」


 鼻っ面にマシンガンがめり込んで、その兵はぶっ倒れた。

 ジンが面倒くさそうに頭をかく。イライザへの報復を済ませた今、ジンの目的はソリューニャの異変の原因を突き止めることなのだ。


「ソリューニャはどこだ。言うなら少しは手加減してやる」

「……ッ、撃て」

「邪魔すんなっての!」



 ジンによる一方的な暴力が収まったあと、ただ一人立っていたジンがポンと手を叩いた。


「お守り!」


 セレナーゼからもらったお守りは、ほかの仲間がどこにいるのかを教えてくれる便利な代物だ。

 ジンがそれを握って魔力を込めると、さっそく二つの反応を感知した。ただし、どちらがソリューニャの反応なのか分からないのが唯一ともいえるこれの欠点である。


「まーいーや。行こ」


 が、些細なことだ。

 ジンは、二つに一つ。片方の反応を追って再び駆け回るのだった。

現在地

ジン、リリカ、ソリューニャ、セリア、マトマ……兵棟B1

バッカル、クリート……兵棟B2

レン、ミュウ……??

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