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魔導士たちの非日常譚  作者: 抹茶ミルク
研究施設編2 契り
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研究施設

 


 まだ日も昇らないうちから、ソリューニャたちは起き出した。


「おはよう」

「うーん……暗い。いつかの早起きを思い出すよ」

「あれは笑えたよ。ぷっ」

「もう、笑わないでよ」

「…………」


(いつもなら『笑うなよー!』って元気よく言うのにな)


 一晩経っても、相変わらずリリカはいつもと違った。


 何かあったのは明白だが、何があったのかは分からない。負けた話までは聞いたが、それだけでここまで長く落ち込み続けるリリカではない。

 ただジンが何も言わないのだから、ソリューニャも何も言わないことにしている。


「リリカ。髪、とかしてあげる」

「あ、うん。お願い」


 昨日のうちにまとめておいた荷物を持ち、集合場所に向かう。ジンがイライザたちを相手に暴れた森の入口が集合場所だ。


「ふぁー。眠ぃ……」

「あっ、来た来た」


 研究施設への殴り込みメンバーは、ジン、ソリューニャ、リリカの主力組に、人質ゴヨウ、他に一部有志の竜人で構成される。

 実際に誰が参加するのかはジンたちには知らされていなかったため、セリアが紹介する。


「紹介するよ。この剣を持ってるのが、バッカル」

「へぇー」

「いや、ついこの間君に助けられた者だが……」


 バッカル。若い剣士で、悲しいかな実力はゴヨウに一方的にやられる程度だ。


「で、クリート」

「……どうも。今度もまた助力をお借りします」

「ソリューニャー。何言ってんだこいつ?」

「ありがとう、またよろしくってさ」

「…………」


 クリート。口数の少ない戦士で、今回の襲撃時には多くの命を救った影の功労者である。


「へぇ、アンタみたいな大人しそうな人が、なんでこんな無茶なことに」

「自分、実は熱い奴とよく言われます……」

「あはは! いーな、面白い!」


 寡黙だが、内に秘める情熱は本物のようだ。


「で、話はついたのか?」

「喧嘩別れ」

「いいのか? こういうことに馴れてるアタシたちはともかく、アンタたちは死ぬかもしれないよ?」

「はっきり言うねぇ……」

「さすがに命の危険があるしね」


 バッカルが手も足も出なかったゴヨウを一方的に追い詰めたジンと、それに準ずる実力のソリューニャたち。

 セリアたちの実力では、身を守るにも不安だろう。


「ありがとう。でも覚悟してきたよ」

「……拐われたのは、村の仲間だ。他人事と切り捨てはできない」

「それにさ、こっそり行ってこっそり助けるんだから大丈夫だよ」

「こっそり……ねぇ……」


 ソリューニャがちらりとジンを見る。それにつられてジンを見た竜人組は、言わんとすることを理解した。


「おい、もう行こうぜ。早く殴りてぇよ」

「あぁ……」

「ま、それ込みで作戦立てたけどね」


 さすがにソリューニャはもう分かっているため、ジンの意向を取り込みつつ救出もできるようにしている。

 メンバーが未定だったため、その作戦はまだはっきり決まっているわけではないし、当然のことながら伝えてもいない。


「なんだか改めて無茶なことするって実感が湧いてきたよ」

「いつものことだよ」

「大変だね、ソリューニャ」






 一行が出発して、一日と少し。一行の前に立ちふさがるカーテンウォール、その麓にたどり着いた。


「ここだ」

「ほぉ、なるほど」


 研究所に繋がっているというトンネルの、落石で塞がった入り口。まずはこの奥に進む。


「ってなんじゃこりゃ!」

「塞がれてる……」

「ゴヨウ、どういうことだ?」

「知らん」


 少なくともゴヨウたちが通った時はこうなってはいなかったようである。


「塞いだってことか。アタシたちが来ることが警戒されてるね」

「バレてるってこと?」

「いや、念のためってところじゃないか?」


 ゴヨウを生きたまま置いてきたわけであるし、可能性としてはあり得なくもないということだろう。現にこうやって追う者たちがいる。


「……任せろ」


 と、ここまで黙っていたクリートが道を塞ぐ岩に両手をつく。すると岩はゆっくりと動き、人が一人通れるほどの道をあけた。

 襲撃時にはこの土石を操る魔導で、彼は多くの命を救ったのだった。


「便利だな」

「戦うのは苦手だが、役には立てるつもりだ……」

「頼もしいね」


 あっけなく切り抜けた一行はゴヨウを先頭に立たせて奥へと進む。ゴヨウが前なのはどんな罠があるのか分からないからだ。

 しかしこれといった仕掛けもなく、また塞がっていたのも入り口だけで、一行は何事もなく最奥部にたどり着いた。


「……!」

「すっげぇ。なんだここ」

「魔方陣……!」


 松明の揺れる炎に照らされて、その部屋の床に刻まれた文様が顕わになる。

 魔方陣は平らな一枚の岩に掘られており、その岩だけ周りと色が違う。明らかに人工的なものだが、それ以上に明らかなのは最近作られたものではないということだった。少なくとも100や200では済まない年月を経ている。


「信じられない……! こんなものが……!」

「驚いてねーで、行こうぜ。この向こうにあるんだろ? 研究所」

「あ、ああ」


 ジンの一声で全員が魔方陣の上に立った。


「向こうに着いた途端に罠が、なんて可能性もある。本来ならここに見張りがいると思ってたけど、それもなかったからね」

「うん」「おお!」

「……よし! 気を付けて行こう!」


 魔力を注がれた魔方陣がそのラインを光らせる。そして次の瞬間、一行は研究所と思われる施設の一部屋に立っていた。


「……!」

「ふはっ、ソリューニャの言った通りだ!」


 ずらりと一行を囲むように敵が立っていた。


「うおおおっしゃああ! 暴れるぞーーーー!」

「ぐあああ!」

「う、撃て」

「おりゃああ!」


 ジンとソリューニャが飛び出す。敵の武器から無数の魔力弾が放たれる。

 しかしそれらが一つでもジンとソリューニャに当たることはなく、僅かな時間で敵は全滅させられた。


「マシンガンだったか? 実弾だったら怖かったね」

「けっ、全然大したことねーや」

「あ、ありがとう」


 床に伏せていたセリアたちが立ち上がって礼を言う。

 だが、悠長にしてはいられない。すでに一行のことはばれていたと考えるべきだ。


「ソリューニャ!」

「近い! この方向は……やっぱり獣棟か!」

「よっし、行くぜ!」

「作戦1だ!」


 ソリューニャが自分を引き寄せる感覚を掴んだこの瞬間、作戦が決まる。

 あらかじめ、原因がどこにあるのかによっていくつかの行動パターンを用意していたのである。作戦1はそれぞれ獣棟と人棟に別れるパターンだ。


「ん、次が来た!」

「行くよ!」


 増援がこちらに向かっている。ジンはゴヨウを盾にして突っ込んでいった。


「こっちにゃ人質がいるぞぉ!」

「や、やめろ貴様!」

「ははは、撃ってみやがれぇ!」

「き、汚い……!」


 ゴヨウを盾にしたことでたじろぐ敵は、ジンにとって恰好の的だ。瞬身で一気に距離を縮めたジンが一人を蹴り上げる。


「ぐぁ!」

「なっ、何だ!?」

「おぉりゃぁぁぁ!」


 創造した巨大なハンマーで敵をまとめて吹き飛ばす。


「ジンすご……」

「セリア! 急げ!」

「う、うん!」


 あっという間に片付けたジンに慄きながら、セリアたちも行動を開始する。

 現在一行がいるのは、兵棟の地下二階。ソリューニャとジンは獣棟を、セリアとマトマとリリカは人棟を目指すが、そのためには三つの棟をつなぐ中央棟へ行く必要がある。


「クリート! バッカル! 頼んだよ!」

「ああ! 生きて帰って来い!」

「……幸運を」

「お前らもな!」


 バッカルが剣を掲げ、クリートが強い意志のこもった目で見送る。

 彼らは退路を守るためにここに残るのだ。


 まずは兵棟の地下一階を目指して、一行は走った。兵棟には詳しいゴヨウから情報を引き出せたため、まっすぐ階段のある部屋に向かう。


「あった階段! 上れ!」


 階段を駆け上がって、一行は地下一階へ。


「中央棟はあっちだ!」

「ちょ、速……」

「急げ! 時間が経つほど不利だ!」


 その勢いのまま一気に中央棟の地下一階へと向かう。ランプ型の魔道具が発する光を頼りに、広い通路をまっすぐ走る。

 しかし、侵入者が敵地でそう易々と動き回れるはずもない。何事もなく進んでいられたのもここまでだった。


「っ!」

「え?」


 先頭を走っていたジンが急に立ち止まったかと思うと、すぐ後ろのソリューニャを押し倒して床に伏せた。

 直後、進路で爆発が起こった。

 ジンに引きずられていたゴヨウは爆発に巻き込まれて悲鳴を上げる。


「ぐあああ!」

「あ、人質が」

「助かった、ジン」

「大丈夫!?」


 やや後ろを走っていた三人が追いついて手を貸す。


「ああ、魚に気を付けろ!」

「魚? 分かった!」

「じゃあ俺は行く!」

「は?」


 ジンは単身煙に突っ込んだ。そして煙を抜け、通路の先の部屋に飛び込む。

 広い部屋だった。どうやら別の部屋ともつながっているようで、あちこちに扉がついている。


「また待ち伏せかよ!」


 そしてジンの周りをふよふよ泳ぐ魚たち。

 魚はほとんど完全な球体で、今にも爆発しそうな状態だ。


「へっ!」


 ジンは小さく笑うと、脚に魔力を集め、瞬身で包囲網を抜けた。直後、背後で魚が一気に爆発する。


「そう何度も食らうかってんだよ、なぁ!?」

「くっ、ほんっとしぶといわね……!」

「今日はテメーをぶん殴りに来たんだ。覚悟しやがれぇ!」


 ジンがイライザに突進する。溜まりに溜まった怒りを開放する機会がようやく来たのだ。彼の顔には壮絶な笑みが浮かんでいた。


「ふ、何のためにのこのこ私が姿を現したと思う?」

「あぁん!? ……っ!」


 ジンのその驚異的なカンがなければ、その一撃は確実にジンを行動不能にしていただろう。

 風切音とともに小型の砲弾がジンを掠め、着弾したところで爆発した。すぐ近くで発生した爆発でジンが吹き飛ぶ。


「ぐあっ! くそ、どっから……!」

「ジン!」


 そこに遅れてソリューニャたちも部屋に入ってくる。今の攻防を見ていたソリューニャは素早く、隠れた敵の居場所を割り出して竜の息吹を放った。

 セリアたちも散開して戦闘態勢を取る。イライザと遭遇した場合、爆弾で一網打尽にされるのを防ぐための策だ。


「おうっ!? こらこら、危ないじゃないか」

「ゴーグルに、金色の筒。アンタが“ボマー”か」

「これはバズーカっていうのさ。まだまだ試作段階だけどね」

「要警戒だと思ってたけど、ここで見つけられたのは幸運だ」


 物陰から現れたその男はゴヨウから聞いていた兵棟の三大戦力の一人。着弾すると爆発する特殊な弾と、一点物の小型バズーカ砲で爆撃を行うという。


「やいやいやい! 邪魔しやがってコラ!」

「行くよ……!」

「はぁっ!」


 会敵した場合、セリアら救出組はなるべく早く離脱することになる。まともにぶつかって足を止めてしまうのは悪手だからだ。

 リリカを先頭に、三人はまっすぐ中央棟に繋がる扉へ走った。


「行かせないわ!」

「テメーは俺が相手だってんだろ!」

「おっ、チャ~ンス……」

「だと思うか?」

「だよねっ!」


 イライザをジンが、ボマーをソリューニャが止める。

 イライザたちがここで待ち伏せていたのは、侵入者をこの先に進ませないためだ。しかしこのままではその目的も果たされない。


「あれをやろう、イライザ!」

「ええ!」


 苦しい二人は用意していた札を切る。


「行くわ!」

「何する気だ!」

「ふふっ! さあね!」


 イライザが大量の魚を召喚すると同時に、ボマーがそのうちの一匹を撃ち抜く。魚たちは連鎖的に誘爆を起こし、ジンはそれに巻き込まれた。


「ぬわーーっ!」

「うっ……! ジンーー!」


 爆炎は部屋中に広がる。逃げ場すら残さない勢いの爆炎がソリューニャを飲み込んだ。

 お読みいただき、ありがとうございます。これまで撒いてきた伏線とこれから先の展開を整理していたらこんなにも時間が経っていました。

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