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魔導士たちの非日常譚  作者: 抹茶ミルク
研究施設編1 導き
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合流と尋問 2

 

 


 ソリューニャが目を覚ました。久々に休眠を取れた彼女は、大きく欠伸をする。


「ふぁぁ……」

「あ、ソリューニャ!」


 視界にリリカの顔がぬっと現れた。


「おはようリリカ。さっきはありがとうね」

「いやー、いきなり倒れて心配したよー。まったくもう、レンは何やってんだか!」


 ソリューニャは三日三晩歩き通した末、村まであと少しというところで気を失ったのだった。

 ほとんど食べるものもなく、疲労と空腹で無理をした結果だ。


 幸運だったのは例のお守りを持っていたことで、それを頼りにジンたちが迎えに来てくれていたことである。

 ソリューニャのお腹がくぅと鳴いた。


「あはっ。今ねー、マトマが料理してくれてるよ! あっ、マトマっていうのはセリアのお友達でねー」

「はは、後で全部聞くよ」

「うん!」


 おかしいな、とさっそくリリカの異変を見抜いたソリューニャ。空元気とでもいうのか、いつものような自然な軽さが感じられない。


「ソリューニャー。目覚ましたって?」

「おはよ、なんか大変みたいじゃん」

「ああ。ジンと、セリアか。さっきはありがとう」

「おう! 飯食ったら話さなきゃなんねーことがたくさんあんぞ」

「そうだね。まあ待っててよ」


 そして食事が終わると、ソリューニャはまた別の所へ連れていかれた。


「竜人の村か。懐かしい雰囲気だ」

「ここだよー」

「うん。入ろっか」


 村長に挨拶をして、円になって座るジンたちに混じって座る。話し合いは相変わらず平行線のまま言い争いに発展していた。


「あーと、じゃあ先になんで四人が別々の場所にいるのか、ここで何があったのか、教えてほしいな」

「ん、ソリューニャのアレの原因を探すために来た。そしたら襲われたから戦った」

「アンタの説明は簡潔でいいね。セリアお願い」


 あっさりすぎるジンの説明の補足をセリアに求める。

 セリアはこの村で起こったことと、今の状況に至るまでの話をした。


「だから、むざむざ死ににいくことは許さんと言っている!」

「私の妹とセリアの弟だよ! どうやって見捨てろってのさ!」

「今は少しでも人手がいるのだ!」


 マトマと村長が言い争っている理由まで理解したソリューニャは、今度は縛られているゴヨウを見た。


「ふーん。こいつにも色々聞かないとね」

「何を?」

「もちろん、敵の本拠地のことさ」

「お! やっぱ行くのか!」

「それはまだなんとも。でも情報は欲しいよね」


 ソリューニャもゴヨウの話には興味があった。

 というのも、ゴヨウたちが来た方角がまさにソリューニャが引き寄せられる方角だったからだ。どうやらこの村に原因はないようで、ソリューニャの心は今も何かに引かれている。




 大陸にはいくつかの山脈が存在する。その中でも最大最長のものが、この村の北にあるホークラム・ヒルだ。通称カーテンウォールとも呼ばれるそれは、大陸を南北に分断するまさしくカーテンである。

 カーテンの向こうにあるのは、おおよそ大陸の四半分もの面積を持つゼルシアである。ゼルシアはその位置柄、南部からは謎の多い巨大な国であるとの認識が強い。カーテンの向こうへは容易に行けないのだから当然だ。


「セリアは知ってた?」

「名前は聞いたことはあるけど、正直まったく関係ないからね。それに誰があんな山登りたがるの?」

「確かにね」


 しかしゴヨウ他襲撃者たちは、そのカーテンの向こう側から来たという。そこには巨大な研究施設があり、襲撃者たちはそこで護衛を務める武力である。

 研究施設は三つの区画に分かれ、それぞれ獣棟(じゅうとう)兵棟(へいとう)人棟(じんとう)と呼ばれている。区画同士はほとんど関りを持たず、互いに何をしているのかは分からない。そのためゴヨウの情報も大したものはなかった。

 今回の首謀者は獣棟の博士長ファウスト。同じくイライザ、ステア。また襲撃にあたっての武力を募集した結果、兵棟で開発された武器の試し切りをしたいゴヨウと、実験体に竜人が欲しい人棟が遣わせたニゴイが加わったのだ。


「待て。そもそもどうやってここを知った?」

「分からないな。獣棟の奴らがいきなり山の向こうに行きたがって、兵棟に来たんだ。で、言われるがままに探したら秘密の通路があって、それがカーテンを越えるトンネルになってた」


 ゴヨウの話は怪しいものだが、嘘ジャッジが出ないことから本当だと思われた。


「今日はやけに素直だな」

「昨日屋根の下敷きになったのが効いてるんじゃろ。ほっほっほ」

「そっかそっか、あはは~」

「笑うな!」


 しかし疑問は疑問。ソリューニャは鋭い質問を投げつける。


「どうして獣棟が知れたのか、心当たりくらいはあるんじゃない?」

「っ!」

「図星って顔だね」


 うまい質問である。これならば口に出さなかった心の内まで知ることができる。

 ゴヨウは観念したように話し始めた。


 そもそも研究施設は、かなり以前からあった。そしてその時は獣棟のみであったという。一度は使われなくなって廃墟同然というところまで寂れたそうだが、再び利用しようと修理が行われた。

 そして研究所が再開したのは最近の話で、埋もれていた昔の資料を見つけたからではないかというのが彼の推測だった。


「ふーん。じゃあその資料でここも知ったのかな。“宝玉”のことも」


 ソリューニャは先ほど村長から聞いた話を思い出す。

 “宝玉”。それはこの村にはるか昔より伝わるもので、「大いなる災厄を封じるもの」という伝承が残っている。この村がこんな山奥にひっそりと存在するのは、それを守るためであった。

 しかし、それも襲撃によって奪われてしまった。


「そうですよ! あれを取り戻さなくては!」

「代々大切に守ってきたものでしょう!」

「だめだ! 所詮は言い伝え、皆の命を懸けるほどのものではない!」


 村長には、宝玉を取り戻すつもりがないようだった。今ではもうその正体すら分からず、それよりもこれから厳しくなる生活に備える方がよっぽど重要との考えからだった。


「うーん、宝玉かぁ。その線もあるのかなぁ……」

「なんか関係はありそうだけどな。っつーかわけ分かんねー! もうめんどくせーよ!」

「あはは。けど、決まったね。きっとこれで終わるよ」

「昨日から決まってたぞ!」

「それなら話は早い」


 ゴヨウからいろいろ聞きだしたりもしたが、結局は「どこにあるのか」と「どうやって行くのか」さえ分かった時点で終わっていた。


「さてさて、そうと決まれば聞きたいことはまだあるよ。作戦を立てないと」

「くそ……」

「そんな嫌そうな顔するなって。とりあえず研究施設の戦力と構造と……」

「ねぇねぇ」


 リリカがソリューニャの隣に来て言った。


「ソリューニャ、まだ疲れてるでしょ? レンとミュウちゃんも来るの待ってようよ」

「心配してくれてありがとう。でも、時間がないんだ」

「え?」

「時間がたつと、またアタシは勝手に歩いて行っちゃうだろうから」


 ソリューニャは自分が意識を保つには進むしかないと理解している。仮に研究施設に原因があるとしたら、そこから一定の距離を越えて遠くへは行けないのだ。そしてその距離というのも、彼女を追いこむように短くなっている。


「感覚じゃあ、明日の朝が限界だね。だからそれまでに出発したい」

「そうなんだ……。ミュウちゃんたち、間に合わないね」

「仕方ないさ。だから今日はじっくり休ませてもらうよ」

「うん! 何でもあたしに言ってね!」

「はは、リリカもな」


 こうして、ソリューニャたちの話し合いは一足先に終わった。

 目的地は研究施設。出発は明日だ。

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