表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔導士たちの非日常譚  作者: 抹茶ミルク
研究施設編1 導き
111/256

合流と尋問

 


 襲撃者たちが立ち去った後の村では急ぎの復旧作業が行われていた。幸いにして死者はおらず、村人たちは無事だった家に集まって休んだり、建物の修復を手伝ったりして過ごしている。


「いやー、セリアのおかげで助かったね。格闘祭にも参加できたの?」

「うん。去年行った時にはもう終わってたから、今回は幸運だったよ」

「へー。じゃあ俺たちも運がよかったんだな」


 セリアとマトマは、ジンとリリカとともに村長に集められていた。ちなみにここは、粉々になった村長宅の代わりの空き家だ。


「で? 結果は?」

「……準優勝」

「あらら」


 談笑する彼女らから少し離れたところの柱にはゴヨウが縛り付けられていて、四人をじっと睨みつけている。


「くそ……ほどけ!」

「うっせーぞぉ」


 憐れ仲間に見捨てられたゴヨウはこうして重要な情報提供者として捕縛されているのであった。


 そこに村長夫婦が戻ってきた。


「セリア、マトマ。どうやらお前たちの兄弟は攫われたようじゃ」

「は?」


 いきなり受け入れがたいことを言われて、空気が凍り付いた。


「どっ、どういうこと!」

「嘘でしょ!」


 襲撃があった時、セリアの弟とマトマの妹は二人で遊んでいたという。そして襲撃を受け、その騒動の中で家族は必死に二人を探したようだが、ついには見つからなかったという。


「だが、子供を二人抱えた敵の姿を見たものがおった」

「!!」

「どうしたリリカ」


 隣でびくりと反応したリリカを、ジンが気遣う。


「…………!」

「え? なんだって?」

「あたしのせいだっ!」

「はぁ? おい、どこ行くんだ!?」

「リリカ!」


 そのままリリカは出て行こうと立ち上がる。ジンも追おうと立ち上がったが、


「来ないで!」

「んだと! 一体どうしたんだよ! さっきから喋んねーし!」

「今は一人にしてっ!」

「!?」


 ジンがリリカの叫びに怯んだ隙をついて、彼女は飛び出していった。ジンはすぐに我に返って追おうとしたが、セリアに足を掴まれてずっこけた。


「いてぇ! なにしやがんだ!」

「ちょっと、落ち着きなって!」


 取り乱していたセリアたちは今のやり取りで逆に冷静さを取り戻していた。


「あのリリカって子、負けて落ち込んでたでしょ! そっとしといてあげなよ!」

「ぐ……けど」

「それよりも! ジンも見たんじゃないの? 弟たち!」


 二人の説得で、ジンは再び座り直して思い出す。


「え~~っと、たぶんいたな。なんか寝てたみてーだけど」

「詳しく!」

「知らねーっての。あいつに聞けよ、仲間だったみたいだからさ。見捨てられたけど、ぷぷっ」

「うるさい笑うなっ!」

「つーかなんでこんなとこにいんだよ」


 ジンがめんどくさそうにゴヨウを指す。


「おほん! あー、連れてきた理由はだな」


 ようやく発言の順が回ってきた長が言う。


「仲間というなら、いろいろ知っているだろう」

「あ! そうだな!」

「ふん! 貴様らにくれてやる情報なんかない!」

「あ~ん? こいつ、あの女の仲間だよな。そう考えるとムカついてきたぞ」


 ジンが床に拳を叩きつける。ダン! と大きな音が鳴った。


「っ……!」


 一度ボコボコにされたゴヨウが怯えるのは仕方のないことであった。


(くそっ、本当のことなど言うものか)

「ちなみにばあさんの魔導が嘘を見抜くから、正直にな」

「…………」







「……っ! はぁっ! たぁ!」


 飛び出してきたリリカはひとり、村はずれの森の中でひたすら木を相手に戦っていた。

 パンチやキックを打ち付けられて、木がミシミシと軋む。


「はぁぁぁっ!」


 身体を捻って、背後の木へと回し蹴り。揺れた木から葉がひらひら舞い落ちる。

 すっと腰を落として、強く踏み込んで、全力の正拳突き。木の葉はわずかに振れて、それで何もなかったように地に落ちた。

 固定された魔力の軌跡が消える。


「っ……くぅぅ……っ」


『そっか』


「っ!」


 ジンの声が頭に浮かんで、それをかき消すように叫びながらリリカはがむしゃらに木を殴った。殴った。






「ハイ次。ほら、さっさと吐け」

「……知らない」


 ジンが振り返り、老婦人のジャッジを待つ。尋問はつつがなく進行していた。


「嘘」


 ズドン!

 次の瞬間にはジンのパンチがゴヨウの頬を掠めて柱にめり込む。頭を動かしていなければ鼻がつぶれていただろう位置だ。ニタニタ悪い笑顔をしたジンが言う。


「おっと外しちまったぜ~。けっけっけ」

「ひっ! 何か、調べると言っていた! これ以上は本当に知らない!」

「……」

「本当」


 老婦人の言葉に胸を撫で下ろすゴヨウ。そしてプライドの高いゴヨウは小声で悪態をつく。


「くそばばあが……」

「嘘」


 ズドン!


「おわっ! なな何も言ってないだろう!」

「嘘」


 ズドン!


「嘘」


 ズドン!


「今のはなんでだ!?」


 ジンは嘘という言葉を聞くと反射的に柱を殴る機械と化していた。老婦人ももはや遊んでいる。


 その隣では十人ほどが集まって喧々囂々の言い争いをしていた。主にセリアたちと村長たちとで意見が割れているようで、なかなかまとまる気配もない。


「見捨てろって言ってんのと変わんないじゃん!?」

 ズドン!

「ああその通り! 村を見てみろ! 食糧庫が燃えて、このままじゃ全員餓死するぞ!」

「おれのうちも猛獣に壊された!」

 ズドン!

「考えてみてよ! もしあんたの嫁さんが攫われたら心配するでしょう!?」

 ズドン!

「いーや願ってもないね!」

「あんた、ちょっと話があるわ」

「あごめっ、いててててて!」

 ズドン!

「おい、さっきからうるせーぞそこ!」

 ベキィ!


「あ」

「あ?」


 全員が不穏なものを感じて音のする方を見ると、ボロボロになった柱と腕を突っ込んだジンの姿があった。


「やべ」


 ジンが慌てて腕を引き抜いた。穴の空いた柱は今にも壊れてしまいそうで……


「あ、逃げよ」


 ジンが言った瞬間、柱が折れた。


「「「あほぉぉーーーー!」」」

「あっはっは!」


 笑うジン。血相を変えて逃げ出す竜人たち。動けないゴヨウ。

 そして家が潰れるように倒壊した。


「…………」


 全員、さっきまでの喧騒が嘘のように黙って夜空を見上げたのだった。


「きょうは解散だな……」

「うん……」




 残ったのは、ジンとセリア、マトマだった。


「……え、なにがあったの?」

「ん。リリカか」


 いつの間にかリリカも戻っていた。


「あー、さっきは悪かった」

「ううん。気にしてない」

「……」


 ジンはまだ元気のないリリカに気づいていたが、何も言わなかった。見かねたセリアがすこしぎこちない二人に割り込んだ。


「あー二人とも! これからどうすんの?」

「うん? とりあえず待つ」

「もしかして、追って来てる仲間のこと?」

「おう。そんで、どうしよっかな~。できればあいつら殴りに行きたいんだけど、ソリューニャが先だしなぁー」


 ジンが唸る。


「だったら今晩はここで寝るの?」

「そうなるかな」

「リリカは?」

「うん。あたしもそれでいいよ」

「だったら、マトマの家に泊まれば?」


 と、提案したのはセリアだった。


「え!? なんでうち!?」

「だって、壊されたくないじゃん?」

「だったらうちも勝手に勧めてんじゃないよ!」

「わはは」


 結局今日は四人で野宿することとなった。


「セリアとマトマはいいよ? 家族、いるんでしょ?」

「いや、顔合わせづらくってね」


 リリカの言葉に、マトマが苦笑いで返す。


「私たち、行くよ。敵の場所とか分かったことだし、それにやっぱり家族だし」

「うん。でも親は複雑だろうしね、さっき話したけど、泣いてて見てらんなかったよ」


 二人とも、親の気持ちが分からないほど子供ではない。我が子を助けようとする我が子に対し、止めればいいのか希望を乗せればいいのか、それはもう大変な悩みだろう。


「……ごめんね」

「あ、も、もう! リリカは関係ないってば!」

「そうそう! 気にしないでよ!」


 あれから分かったことだが、リリカが戦った相手がやはり二人の兄弟を攫った相手のようだった。だからといってリリカを責められる者はいないが、まったく気にしないでいろというのもリリカには無理な話である。

 会話は暗くなる一方で。それを吹き飛ばしたのはジンだった。


「よっし! 決まりだな!」

「何が?」

「だからさ、取り戻せばいいんだろ? そうすりゃリリカも元気になるし、俺もあいつ殴れるし、ついでにガキも助かるし! だろ?」

「ジン……」


 ジンが不敵に笑う。

 セリアとマトマも顔を見合わせて笑った。相変わらず無謀は承知だったが、少しは頼もしく感じていたのと単純にこう言ってもらえて嬉しかったのとで気が楽になったからである。

 ちなみにこの二人は、彼らがカキブに三人で乗り込んで五体満足で脱出したとんでもない伝説を知らない。


「行こうぜ! 研究所!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ