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魔導士たちの非日常譚  作者: 抹茶ミルク
カキブ編1 街並と竜人
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異文化とリリカ

 

 

「……さぶっ!」


 三人はしばらく朝日を眺めていた。

 雨と波でずぶ濡れのまま。

 そして真っ先にリリカが音を上げた。


「あはははは! そういやオレたちびしょ濡れだったな!」

「おーそういやそうだっぶしゅん!」


 レンとジンはそれを忘れていたが。

 不思議なもので、気付くととたんに寒くなる。ジンがくしゃみをした。


「このままじゃ風邪ひくわね。火、起こせない?」

「ん、無理だな」

「薪になりそうな枝もねぇし」


 砂浜と、岩場と、それらを囲むように高い崖がそびえている。

 木があるとすれば崖の上だろう。


「よし、そいじゃリリカは船から荷物おろしてくれ」

「あんたたちは?」

「乾いた木がないか探してくる」

「へ? 探すって?」


 崖の上を指差すレン。


「登るの!?」

「どのみち登らなきゃ先には進めなさそうだしな。下見も兼ねて行ってくら」


 そう言うが早いが、二人は岩の上に服を脱ぎ捨てた。

 パンツだけはいているあたり、ある程度の躾は伺えるのだが。

 仮にも女性であるリリカに対する配慮は、著しく欠けていた。


「いきなり脱ぐなよー!」

「このまま着てても風邪ひくだけだしな」

「お前も脱げば?」

「本気で言ってるなら殴る!」


 レンとジンは慌てて逃げ出した。


 ◇◇◇




「オレの勝ち!」

「バカ言え、俺だ!」


 身体強化を施した肉体なら、簡単に崖を登れた。


「おお! 高いとこから見る海もいいなぁー!」

「ホントだー! 広いなぁー!」


 海がキラキラと陽光を反射し、二人の目を刺激する。

 そこにはどこか新鮮さを含む爽やかさがあった。


「そして、こっちも広ぇーーー!」

「おおーーー!」


 海と反対側には、森があった。

 クラ島のような背の高い木はないが、クラ島より圧倒的に広い。


「どうーー? 木ぃあったーー?」


 下からリリカが声をかけた。


「あったけどーー」

「火ぃ起こせそうーー?」

「わかんねーー」


 火を起こすのに適した木はあまりなさそうだ。


「まあ奥の方ほどじめじめしてそうだしな。手ごろなところから探してくか」

「そうだな……っとぉ。これとか使えそうだ!」

「なにをー! オレだって!」






「……あったか~い」

「うわ! これもか!」

「これもダメだ!」


 レンとジンは父親に仕込まれたサバイバル技術で火を起こすことに成功した。

 乾いた板の上で枝を回し、摩擦熱で集めた枯れ草の束に引火させたのだ。


「全部食えねー!」

「腹減ったー!」

「……モグモグ」


 船に積んでいた食料、主に乾燥した保存食は、雨水や海水を浴びてすべて駄目になっていた。さらにレンたちが戻ったとき、リリカは唯一無事だった果物の類をあらかた腹に収めた後だった。

 言い分は、「あんたらは海で食べてたでしょ。あたしは二日以上お腹が空っぽだった」である。


「あんたらのことだから熊でも狩ってくるものかと思って~」

「ぬけぬけとてめぇ」

「うっさい! 船であたしがしんどいのに、あんなおいしそうに食事しやがって!」

「八つ当たりだーー!」


 ワイワイと騒いでいても埒が明かないと、レンとジンはその辺を飛び回る海鳥を焼いて食べることにした。


「こんなことならスルメ取っとくんだったなー」

「罰当たりだよ」

「まあまあ。それよっかどうやって落とす?」


 海鳥とはいえ、普通に追いかけて捕まえるのは骨が折れる。


「石投げんのが楽だと思うが、当たりどころ悪いと食えるところがなくなるからなぁー」

「きっと弾け飛ぶだろうな」

「どんな威力!?」

「飛んでるやつは風で落とせねぇ?」

「そのへんの砂とかまき散らしていいなら」

「絶対やめてね!?」


 アイデアが出ては消えていく。

 結局、瞬身からの手掴みという案に落ち着いた。普通に追いかけても捕まえることは難しいだろうが、瞬身なら一瞬で距離を縮められるため有効だろう。


「よっしゃ! 両手に掴んだるぜ!」

「行けー! ジン!」

「あ。あたしの分もねー」

「てめーはフルーツ食べたろーが!」


 そう言いながら構える、スターティング。

 魔力を張り巡らし、特に脚部を強化して、


「へぶっ!?」


 その場で盛大にコケた。


「きゃー!?」

「ぺっぺっ! なにしやがる!?」


 後方に砂を撒き散らして。


 瞬身は巨大な力で地面を蹴って進む技術だ。

 当然足場がなければ使えないし、足場が脆いと推進力は得られない。例え成功したとしても砂浜では停止ができない。


 ……ということを、三人とも忘れていた。

 そういう意味では三人ともに責任があるわけだが、すでに関係ない。


「下手くそかてめぇ! こうやるんだよ!」

「ギャーー! 学習しろバカどもがぁ!」

「目、目がぁーー! 砂掛けんなよレンてめー!」

「お前が言うなーーー!」


 その後、乱闘騒ぎに発展。

 そしてそれはレンとジンがリリカに殴り飛ばされて海に落ちることで終結した。


「理不尽!」

「また濡れた!」


 ◇◇◇




「うわー、昼なのに暗いなぁー」

「ほんとねー。じめじめしてる」

「人が住んでるとこまであとどのくらいだ?」


 三人は現在、森の中を進んでいる。

 時々遠くで虫や鳥が鳴くくらいの、静かな森だった。


 空の魔導水晶は回収したが、ヒビが入ってしまっていて恐らく使い物にはならないだろう。コンパスは波にさらわれたようで見つからなかった。

 そのため、方角は分からないけどとりあえず歩こうという感じになっている。


「そういやリリカはどうすんだ? これからオレたちはカラカサ探すけど」

「あれ? 言ってなかったっけ?」

「んー。忘れた!」

「覚えてねぇ」

「…………」


 三人は整備されていない林道りんどうを、雑談しながら歩く。障害があればジンが文字通り切り拓いていく。


「とりあえずあんたらの家まで旅しながら、大陸のこと勉強するわ。知らない言葉とか文化とか、いろいろね」

「へぇー」

「その後は?」

「まだ考えてない。旅の途中でやりたいこと見つかるかもしれないしね。とにかく楽しむ約束だもん!」


 レンとジンは、家に帰るという明確な目的があってここに来た。

 それに対しリリカは、憧れと冒険心のみに突き動かされてここに来た。

 単純な動機とは言っても、その思いは十年近くも諦めきれず、つのっていったものなのだが。


 生まれつきの好奇心に加え、他の村人たちとは大陸の存在を知っていた期間が違う。

 大陸がどんなところかということも、なまじ知ってしまっていたのだ。リリカでなくても、強い関心を抱くのは当然だろう。


「なんかいいなー、そういうの」

「そうだよなー」

「え?」

「何にも縛られず、好きなように旅してるってのが、さ」

「俺らなんかさ、帰らねーと母ちゃんに……殺される」

「ああ……」

「えぇ!? そんなに怖いの!?」


 リリカにとって村というのは、一つの家族のようだった。

 島そのものもそこまで広くなく、帰らないということ自体あまり馴染みのない感覚だ。


(この恐れを知らない二人がこんなに怖がるなんて……。お母さんって何者……)


 二人は一気に消沈し、リリカはそれを見て、どんないかつい母かと想像する。

 まあ、少しすれば基本前向きな二人は復活するのだが。


 そんな感じで、三人は大森林を進んでいくのだった。


 ◇◇◇




 三人は約一週間、川に沿って森を彷徨さまよった末に、開けた広い土地に出た。

 そこだけ木がなく、地面が明るい様はクラ島の村を思わせる。


「おお、広い……腹減った」

「なんかの遺跡か? ……腹減った」

「見て、あそこ。誰かいるみたい……お腹空いた」


 ここにくるまで、人とは会えなかった。

 本当に静かで、拓けていない森だった。


 その間の食事は三人に襲いかかった獣が一頭と川魚。

 川魚は船上の暇つぶし玩具としてもってきた釣り竿があったため、簡単に釣れた。

 だが、川魚といっても小さいものばかりで、しかも上流に行くほど数が減っていったため、ここのところはずっと空腹状態である。


 ちなみに、最低限体調を崩すのは避けなければならないため、料理のつど火を起こさなければならないのには骨が折れた。油や布などの準備があれば松明たいまつを作って、火を持ち歩くことができたのだが。

 やはり人がたくさん住む街に行くのは、旅を続ける上で早いほうがよかった。


 それが、大陸に来て一週間。

 とうとう見つけた。人だ。しかも、それなりの人数の集団だ。


「おーい! 何やってんだー?」

「なんか食えるもん持ってねーか?」

「すいませーん! あたしの言葉通じてますかー?」


 三人はこの近くに街、少なくとも村があることを期待して声をかけた。


「む! 誰だ! 貴様ら!」

「怪しい奴! そこで何をしている!」

「警戒態勢!」

「ミッセ様をお守りしろ!」


 だが、三人に気付いた彼らは、警戒心を露わに武器を向けてきた。彼らの中心にいるのは、レンたちより一回り小さい、太った子供だ。


「いやいや、今は喧嘩したい気分じゃねぇから」

「そうそう。腹減ってんだよ。なんかくれ」

「わ! 言葉が通じる」


 リリカだけは大陸に来て初めての人間に興奮気味だが、レンとジンはいつも通り。図々しくも食料の提供を要求した。


「なに!? こいつら食糧を狙っているのか!?」

「答えろ! ここで何をしていた!?」

「オイオイ。狙ってるって……」

「まあ、間違いでもないけどよ……」

「キャー! 鉄の服着てる!」


 なにやらスムーズにいかなさそうな雰囲気に、早くもイライラし始めるレンとジン。


 そしてリリカははしゃいでいる。

 ちなみに「鉄の服」とは鎧のことだ。

 雰囲気から鑑みるに、どうやら彼らは太った子供の護衛であるらしい。彼の回りは特に人が多い。


「だぁーーっ! 少し飯分けてくれってんだよ!」

「そうすりゃ大人しく通り過ぎるからさ!」

「どうやら腹を空かせているようですが、いかがなさいましょう? ミッセ様」

「やらん! 怪しい奴、捕らえてしまえ!」

「うわー! あの子の服だけキラキラしてるー!」


 レンとジンは、自分たちに敵意はないと主張するが、聞く耳を持ってはもらえなかった。

 もともと喧嘩っ早い二人だ。我慢も限界近くまで来ていた。

 相変わらずリリカは、両者の間に流れる緊張感に全く頓着することなくはしゃいでいる。


「おいこらガキィ。いい加減にしろよ」

「こちとら腹減ってイラついてんだよ」

「ひぃ!」

「なっ……!? ミッセ様になんてことを!」

「ぶぶ、無礼者め! 捕らえろ!」

「わー! 不思議な棒持ってるー!」


 話を一向に聞いてもらえなかったうえ、捕らえられそうになっているこの状況。

 苛つくレンとジンと、槍を向けられている状況よりもその武器に興味があるというリリカ。


「生け捕りだぞ!」

「はっ! もちろんでございます!」

「ここで怪しい三人を捕らえたと父様につきだせば、きっと褒めてくれるぞ……ふふふふ」



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