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魔導士たちの非日常譚  作者: 抹茶ミルク
研究施設編1 導き
107/256

村へ 2

 

 

 ウィミナたちとの激戦から半日、昼。

 レンは目を覚ますなり飛び起きようとして失敗した。


「いででででーーっ!」

「ぴっ!? あっ、レンさん!」


 肩に毛布をかけ、椅子に座って眠っていたミュウは驚いて椅子からずり落ちた。


「ミュウ! あの後どうなっ痛つつつ!?」

「わわっ、落ち着くのです! 傷は治ってるですけど、まだ万全じゃないのです!」

「はぁ~……。ここ、宿か」


 痛みが強制的にレンを落ち着ける。すると見えていなかった部屋の内装が見えてきた。

 今まで泊まっていて、昨日扉と窓を破壊した部屋だ。冷たい風が窓から扉へと吹き抜けていく。


「あのあと、レンさんをここまで運んで、また戻って荷物も運んで、大変だったのです」

「そっか、ありがとな。敵はどうなった?」

「見逃してもらったというか……とにかく、もうあの人たちが来ることはないのです」


 あの時、ディーネブリが言った言葉。それを仲間で共有する必要はあるが、それよりもまず伝えなくてはならないことがある。


「レンさん。私たちが戦っていた間に、ソリューニャさんが動き出したのです」

「なっ、マジでか! くそ、追うぞ痛ぇえ!」

「だから落ち着いて欲しいのですーー! レンさんを運んだあと、あの家の人に話を聞いたのですけど、どうやらいつものあれみたいなのです! さらわれたとかじゃ、ないのです!」

「だからってこれが落ち着いてられるか! 早く追わねーと……!」


 ミュウには選択肢が二つあった。そのうち選ばなかった方の行動が、一人でソリューニャを追うことだ。

 しかしそれはリスクの伴う選択である。準備もなしで走って追いかけ、彼女を抱えて引き返すのは難しい。先の夜襲での消耗もあり、確実性にも欠けた。


「う……ごめん……」

「え、な、泣いてないのです!」

「オレをここに連れてきてくれたりしたんだもんな、うん。オレが悪かった」


 ミュウだって悩んだのだ。ほんの少しだけ涙ぐむミュウを見て、流石に頭が冷えた。


「じゃあ、なおさら行かねーとな!」

「動けるのです?」

「なんとか歩くくらいはな」

「分かったです! いきましょう!」


 ミュウのヒールボールはそれが怪我ならば骨折すら治癒できるが、疲労をはじめとした蓄積ダメージは消せない。むしろ治癒には体力を使うくらいだ。

 そのため、透明な白の発動に伴う負担やウィミナとの戦闘で受けたダメージは今のレンにも残されている。元通りに動けるようになるには、今しばらくの時間が必要である。


「結局私たちも行くのですねー」

「そうだな」

「もしかしたらジンさんたちも気づいて引き返してくるかもですよ。そうしたらソリューニャさんも安心です!」


 これはミュウの願望も混じった推測だが、悪くはないパターンだろう。

 しかしレンは即座に否定した。


「いや、ジンは進む。戻っても原因は分からねーままだし」

「あー。さすが、よく分かってるのですね」


 などと言いつつちゃっかり荷物の準備は万端で、ミュウがすぐに動く可能性も考慮して行動していたことが分かる。よく分かっているのはミュウも同じであった。


「あ、そうだったです」

「ん?」


 ソリューニャに気をとられて、大事なことを忘れていた。ディーネブリからの情報、それはこれから先に進む上で必ず気にしておかなければならないことだ。


「レンさん。昨日の襲撃は終わったのです。でも、次があるです」

「んむ? どーゆーことだ」

「組織、とディーネブリさんは言っていたのです。組織に依頼した、組織が殺しにくる、と」

「何ィ!? どこだ! 出てこ痛い!」

「ちょっ、最後まで聞いてほしいのです!」


 相変わらずレンは気が早い。ミュウが続ける。


「重要なのは、二つです。まず、いつ襲われるか分からないこと。そして、敵は昨日よりももっと手強いこと、なのです」

「!!」


 ピクリ、とレンの動きが止まった。ミュウにはレンが何に反応したのか分かった。


「つえーのか」

「つえーのです」

「そうか」


 今のレンの実力は、ウィミナと相討てるほどだ。そのウィミナよりも強い敵が来たとき、レンが勝てるのかは分からない。


「行くか。ミュウ」

「はいです」


 こうして二人はソリューニャを追って進み始めたのだった。


 ◇◇◇





 一方、当のソリューニャは山を前にしたところで我に返っていた。


「……どこだ!」


 記憶は格闘祭あたりから曖昧である。断片的に宿に戻っていたことや時間の経過があったことは分かるが、だからといって目の前に山があれば驚かずにはいられないだろう。

 しかしソリューニャ。さすがに今の今まで“あの状態”だったことはすぐに理解した。


「はぁー。どっかでリリカが隠れて見てたりしないかなぁ。その方が逆に安心なんだけど……」


 誰も追ってきていないのはおかしい。いつも向かう方角は同じなのだから、探し出すのも難しくないはずだ。

 何か理由があるに違いないだろう。


「……ん? これは」


 手首に見覚えのない布が結ばれている。ソリューニャがそれを解くと、今度は見覚えのあるサイコロが転がり落ちた。


「おっ、とこれはお守り……。ミュウかな? 怖いくらい準備いいな」


 ともあれ、これがあればみんなが今どこにいるのか分かるだろう。ソリューニャはそれを手に乗せて魔力を与えた。目を閉じて集中すると、四つの反応がぼんやりと感じられる。


「……どういうこと?」


 二つ、山の向こうから。あとの二つは来た方向、恐らくシラスズタウンの方から。

 少し考えて、ソリューニャはシラスズタウンに戻ることに決めた。ソリューニャは来た道を引き返そうと振り返り──







「────はっ!?」


 気がつくと山の頂上付近に立っていた。遠くにシラスズタウンが見えて、ソリューニャは自分がさらに進んでいることを知る。


「ここで戻ろうとすると、今度は山を越えてるのかな……」


 どうやら戻ることは許されないらしい。ソリューニャの胸中には自分のものでない焦燥感があり、それは進むほどに強くなっている気がした。


「うーむ、仕方ない。進むしかないか……」


 ただ、予感があった。それほど遠くないところ、遠くない未来で、その原因ははっきりすると。


「行けば分かる、か」


 ずいぶんと強引な不可抗力に引かれて、ソリューニャもまた進むのだった。


 ◇◇◇






 そしてジンとリリカはセリアと共に山道を進んでいた。

 だが、道と言えどもそれは人が歩くためのものではない。獣が行き来するうちに作られた、いわゆる獣道だ。


「動物いないねー」

「動物はこの時期になるとほとんど眠っちゃうよ。寒くなって食べ物がなくなるからね」

「へー。確かに最近ちょっと寒いかも」


 山の冬は厳しい。そのため動物たちはそのほとんどが、エネルギーを消費しないよう冬眠を行うのである。

 また、冬が厳しいのは竜人たちにも同じである。


「私も町で買い物がしたくてわざわざシラスズまで行ってたんだよねー」

「え? 喧嘩するためじゃないの?」

「そんなわけないじゃん。行ったらやってるっていうから、せっかくだし参加したんだよ」

「お。村って、あれか?」


 少し開けたところに出たジンが指差してセリアに聞いた。まだだいぶ離れてはいるが、確かに村だ。


「あーそうそう。ちっちゃな村でしょ」

「あれ全部竜人か。耳尖ってるな」

「ほんとだー。ソリューニャといっしょー」

「目いいね!?」


 このまま進めばあと半日もせずに到着できるだろう。


「行けば何か分かるといいな」

「うん!」

「原因が私の村にあるなら、それはそれでいい気分じゃないんだけどね」


 セリアにはまだ微妙にソリューニャに対して引け目を感じている。だからこうして案内役も請け負ったわけである。


「もしあったら、ありがとうって言うね!」

「うん……? それって正しいのか……?」

「ねージンも言うよね?」

「案内してくれてサンキューな」

「今じゃないよ! あとちょっと違うよ!」


 三人は山を下る。途中で魔獣に遭遇して戦ったり、リリカが躓いた拍子にジンを掴んで二人仲良く滑り落ちたりしたが、特に何事もなく進んだといえる。


 しかしどんなことでも、万事が順調にいくことの方が少ないのが世の理だ。

 村まであと少しというところで、ジンが村の異変を敏感にキャッチした。


「……ん? 少し騒がしくねぇか?」

「えっ。私は分からないけど……」


 そのすぐ後のことである。

 村の奥の方で大きな爆発が起こった。


「うおっ!?」

「きゃっ!」


 揺れはジンたちの所まで届き、燃え盛る炎ははっきりと見えた。

 どうやら今の爆発で建物に引火したようだ。


「セリア! どういうことだ!?」

「分からない!」

「ジン!」

「おう! 先行く!」


 ジンの行動は早かった。力強く土を蹴ったかと思うと、その姿はあっという間に木々の向こうに隠れてしまった。

 やや遅れて、リリカとセリアも走り出す。


「行こう! セリア!」

「っ、ああ! 手伝ってくれ、リリカ!」


 何が起こったのか、それはセリアにも分からないし心当たりもない。分かるのは自分の村が危機に陥っているということだけである。


 木々の間をすり抜け、二人は山を一気に駆け降りるのだった。

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