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魔導士たちの非日常譚  作者: 抹茶ミルク
シラスズタウン編
102/256

カキブからの刺客

更新がない間も少しずつ読者さんが増えているようで、嬉しい限りです。ありがとうございます。

 

「たっだいまー! ソリューニャは!?」

「おかえりです。今は落ち着いてるですよ」


 ミュウは元気よく手を振るリリカを、宿の前の大通りで迎えた。


「あの後どうなったですか?」

「おー。教えろー」


 ジンとミュウは、セリアとリリカで決勝を戦ったことを知らない。運営側の判断を聞く前に会場を出たからだ。


「リリカとセリアで決勝戦やったぞ」

「へぇー。結果は?」

「勝ったよ! 褒めて褒めて!」

「おめでとうございます。すごいですー」

「えへへ~~」


 少しかがんで頭を差し出すリリカと、当然のようにそれを撫でるミュウである。

 ちなみに上位入賞者へは賞金が出るようで、一通りミュウの手を堪能したリリカは自分の分とソリューニャの分、それなりの額の賞金を彼女に預けた。


「ジン。医者には見せたんだろ?」

「うん。多分魔導がらみだってよ」

「じゃあ誰にって話だけどな」

「それで考えたんだけどよ……」


 レンとリリカが戻ってきたことで話題は、自然と今後の行動を決める話し合いへと移っていった。


「とりあえずこれからのことを考えなきゃです」

「これから? ソリューニャが治るまでここにいるんでしょ?」


 それ以外の選択肢があるのかと言いたそうな顔でリリカが言った。

 しかし、ジンからの返答は彼女にとって予期せぬものであった。


「イヤだね」

「えっ」

「性に合わねー。それより……」


 リリカは自分の耳を疑ったが、次の瞬間にはジンを殴り飛ばしていた。


「のわーーーー!?」

「信じてたのに! 乱暴だけど、仲間を見捨てるようなことはしないって!」

「ストップです! 誤解です!」

「まーまーまー。最後まで聞けって」

「どういうことっ!」


 レンが止めてミュウが説明する。


「二手に分かれて、片方がソリューニャさんの看護を、もう片方が原因を探しに行くことになったのですよ」

「えっ」

「ソリューニャさんがいつも歩いていく方向に何かあるんじゃないかって、それを調べに行くです」

「えっ」


 つまりジンは調査チームがいいと言っていただけである。確かに誤解を招くような言い種ではあったが、リリカも早とちりだった。

 ジンが腫れぼったい頬をさすりながら戻ってきた。


「何か言うことは」

「…………」


 不機嫌なジンの声から彼の表情が容易に想像できる。きっと今後ろを見ればその通りの表情があることだろう。

 どうすれば安全に済むのか考えたリリカは、いい感じの笑顔で振り向きざまにこう言った。


「信じてたよ!」


「やかましいわ!」

「きゃーー! 悪かったよーー!」






 紆余曲折の話し合いを経て、ソリューニャの看護チームと原因の調査チームが決まった。


「オレも調査がよかった!」

「我慢してくださいです。ソリューニャさんの周りには強い人を置きたいのですよ」

「強い人……。そりゃオレじゃなきゃ務まんねーな!」


 看護チームは、ミュウとレン。

 ミュウはいざというときにヒールボールが使える。女手であることも重要なポイントである。

 またレンは単純な戦力として有事の際の活躍が期待できる。異変の原因が不明で何が起こるか分からない以上、備えておくことは大切なことだ。


「んだとこら! せいぜい安全なとこで留守番してろ!」

「なんでよりによってこの組み合わせ!? あたしさっき虐められたばっかりだよ!?」

「そもそもてめーが原因だろうが!」


 調査チーム、ジンとリリカ。

 サバイバルに長けたジンと、それについて行けるリリカの組み合わせである。


「レンさんとジンさんの組み合わせよりは喧嘩しなさそうですから!」

「そんな理由!?」

「レンこらてめぇ!」

「やんのかジン!」

「ほら、もう喧嘩してるですし」


 正直ジンとレンは逆でもよかったが、最終的にミュウはこれがベストな形だと判断した。


「てゆーかソリューニャも連れてみんなで行けばいいのに」

「このソリューニャさんを連れ出すつもりですか? それに近づけても大丈夫という保証もないのです」

「そっか、そうだね。ソリューニャは安全に寝てて欲しいね」


 とにかく真っ直ぐ進んで、何か原因と思われるものを発見するのが調査チームの役目だ。

 できることならミュウも行きたかったが、体力的な問題で足を引っ張ってしまいそうなこと、ソリューニャの側にいるなら自分であるということなどの理由で断念した。


「二人を信じるしかないです」

「おう、任せとけ。すぐ行ってすぐ帰ってくる」

「そーだね! 今はあたしたちにかかってるもんね!」


 他に解決のきっかけになりそうな手段がない以上、今は二人が頼りだ。きっと何かを見つけて欲しいとミュウは願った。


「ってことで行くぞおら」

「今から!?」

「たりめーだろ。あんまトロトロしてソリューニャが手遅れになったりとか冗談じゃねーぞ」

「うっ……それは絶対やだけど……」


 二人揃った途端にこの行動力である。

 特にリリカは格闘祭を勝ち抜いたばかりだ。さすがに無茶だとミュウは思ったが、


「もー。じゃ少し待ってて。荷物まとめてソリューニャも見てくるから」

「行くのですっ!?」

「うん、行ってくるよー」


 ひらひらと手を振るタフなリリカに舌を巻くミュウだった。


 ◇◇◇





 二人が宿を発って一日が過ぎた。相変わらずソリューニャの具合は悪く、一度はふらふらと歩いて行こうとすることもあった。幸い昼だったためすぐに気づけたレンが連れ戻したが、どうやらソリューニャの症状は少し悪い方に変化があったようだ。


「うーん。いつもは夜とか、朝方だったのですけどね」

「寝てるときならいつでもありえるってことか?」

「そうとも考えられるです」


 ちょうどミュウも同じことを考えていた。時間帯が関係ないとして、考えられる魔導的な仮説をたててみる。


「誰かがソリューニャさんに取り憑いて、寝てるうちに操っちゃう……とか?」

「おおー。なるほど」

「だとしたらそれは何がしたいんでしょうかね?」

「そりゃあ……あっちに行きたいんじゃねー?」


 することがなく、自然と二人の間の会話も増える。


「ならあっちに何があるのです?」

「それを調べるのがジンたちだ」

「まったくその通りなのです」


 しかし結局話の終わりはいつもこれだ。今は待つしかないのだ。不安で退屈な時間はいつもよりゆっくり過ぎ去って、夜。


「ソリューニャさんの手にお守り結んでおいたですー」

「なるほど! だったらオレはここで座って寝るぞ!」

「……本気です?」


 レンは部屋の扉に背を預けてあぐらをかいた。


「それなら出て行く前に止められるですけど」

「だろだろ!」

「それ、レンさんは眠れるのです?」

「三秒で寝れる」


 ここまでキッパリと言われてしまっては止める理由もない。


(……あれ? そもそもここって女の子二人の寝室……)


 あまりに自然に馴染み過ぎていて素通りしてしまったが、よく考えると寝れる寝れない以前の問題である。


「あの、やっぱり……」

「ぐー」

「……本当に三秒……」


 彼にデリカシーなど求めても無意味であることは学習済みだ。呆れながらもあっさり受け入れてしまったあたり、ミュウもだいぶ染まっているのだろう。






 誰もが眠りについた深夜の街は、朧げな月明かりに照らされる。

 その下で闇に紛れて移動する少数の人影。僅かばかりな衣擦れの音を残しながら、それはとある部屋の前で止まった。

 先頭の男が扉に耳を当てて集中する。


「…………」

「「……!」」


 男は後ろで息を潜める仲間たちに素早く指示を送る。ばばっと形を変える指が意味するのは、


(突入だ!)


 荒々しく扉が開かれた。

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