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魔導士たちの非日常譚  作者: 抹茶ミルク
プロローグ
1/256

はじまりの風

 


「おおおおおお!」


 ひたすらに巨大な破壊が、戦場を襲う。めり込んだ鉄の塊が魔力に戻って消えていく。


 満身創痍。

 万からの大軍を相手に、しかしそれでも一方的に戦場を蹂躙する、圧倒的な個。


「わらわら、わらわらと……!」


「鬱陶しい!!」


 倒した敵はすでに数えるのも億劫なほどだが、それでも敵はまだ増える。


 そんな窮地に立っても彼が無茶苦茶に、消耗すら無視して戦える理由。それが、


「時間稼ぎサンキュ、できたぜっ!」


 頼れる仲間の存在。


 彼がつくり出したのは、空間を裂いて広がる穴。存在と非存在の中間、二次元と三次元の狭間、そんなところにある穴がぱっくりと口を開けて待っている。


「……じゃあ、任せた。ありがとな」

「ああ、せめてしっかりとやるさ。……またな(・ ・ ・)

「そうだな、また(・ ・)……!」


 二人は拳を合わせると、笑った。別れには笑顔が似合う、そんな二人だから。


 戦場に、閃光ヒカリが走った。


 ◇◇◇





 どこか静かな土地の小さな草原で。二人の少年が拳をぶつけ合う。


「っだらぁあ!」


 柔らかな黒髪の少年は、レンという。無邪気を絵に描いたような性格で、それが無垢な顔にも表れている。


「んなろっ!」


 もう一人の少年は、ジン。レンと比べると硬質な髪、そして纏う雰囲気もどこか荒々しい。


 蹴り、投げ、殴打、頭突き。なんでもありの組み手はただの喧嘩にみえるが、見る人が見ればそれが狙いや威力ともに申し分のない「技」だと分かるし、隙の少ない立ち姿からは彼らが少年らしからぬ技術を持った「玄人」だと分かるだろう。


「はぁぁあっ!」

「ぬぉぉおお!」


 互角。単純な体術だけなら、優劣つけることはできない。足の速さも、握力も腕力もほとんどが同じなのだ。



「おーい、一旦そこまで」

「父ちゃん」

「おう。そろそろ俺にもやらせろよ」


 少し離れたところで見守っていた彼らの父親が立ち上がった。

 この父こそがレンとジンに戦闘技術を教える師匠であり、


「なら先手必勝!」

「ジン!」


 二人にとって最大の壁、遙か高みの目標である。


 父親の死角から不意打ちを放ったのは、ジン。いつの間にかその手には鈍く光る鉄の武器、トンファーが握られている。


「おーおー、相変わらず我慢のねぇ奴だなぁ。でも、つくる(・ ・ ・)のはだいぶ巧くなってきたじゃねぇか」

「くらえっ!」


 軽々と、見ることもなくジンの攻撃をかわした父親の真正面から、レンが突っ込む。そして、風の渦巻く拳を真っ直ぐに突き出した。


「レンは、まだ真っ直ぐすぎるな。だから読まれる」

「うわっ!」


 風が父親の顔面を掠めたはずだが、父親は一歩も動くことなくレンを投げ飛ばした。その先には父親の虚を突こうと移動中だったジンがいて、二人は盛大にぶつかる。


「お前ら、そんなんでなにかと物騒なこの世の中生きてけると思ってるのか」

「てめぇなんでそこにいる!?」

「てめーこそ投げられてんじゃねぇか!」

「……聞いてねぇな」


 言い争う二人を見て父親が嘆息する。


 この世界には魔法が存在する。ジンが鉄の武器トンファーを創造したり、レンが風を操ったりしていたのがそれだ。

 そんな世界で二人が強く生き抜けるようにと、父親はこうして戦闘訓練をほどこしているのである。客観的に二人はすでに「強い」存在に成長したが、まだまだ先はあるし、


(……足りねぇ。あいつらがどんな危険な目に遭っても切り抜けられるようになるには、まだ)


 なにより二人に伝えていない、胸に秘めていることもある。


「おおおお!」

「来い」


 さっきより数段威力の増した拳が父親を襲う。そしてそれが当たるか、という瞬間にレンの陰からジンが飛び出してトンファーを振るう。

 タイミングをずらす工夫だが、ジンはさらに一つ仕込んでいた。


「おお、これはなかなか」

「まだ終わらねぇぞ!」


 なだらかな曲線を描くトンファーが伸びて、さらにタイミングをずらしてくる。ジンはトンファーに限りその長さを自由に調節できる。ちなみにトンファーに限るのは習熟度の問題だ。


「はっっ!」

「ん」


 レンとジン、二人は高め合うライバルであるとともに、息の合う相棒でもある。ここぞというところでの連携にはたまに父親も驚かされる。


 絶妙なタイミングで、レンの拳が届……かない。上半身をわずかにそらして、下から軽くレンの腕を打つ。まさに最小限の動きでレンの攻撃は空を切る。


「分かってた!」

「んん」


 それを、読んでいた。何度となく父親に挑み敗れ続けたレンだ。初披露の札を切る。


「はっあああ!」

「のわ! 俺ごとか!」

「ほお」


 拳に込められた魔力と空気が一気に放出し、爆発するように膨れ上がった。




「ああーー、負けた」

「くそぅ。また負けたな」


 大の字に寝ころんで二人。もう何度目か。父親が先に帰り、こうして反省会をするといういつもの流れは。


「ジン。なかなかトンファー捌きも手慣れてきたな。特にあの伸びるやつ、あれすげぇお前のスタイルに合ってるな」

「ああ、まだまだ。たぶん父ちゃんにはゆっくり伸びてるように見えるんだ。それこそ一瞬で伸ばさねーと不意もつけねぇ」


 会話の内容はいつも、遙か先の領域のことだ。


「俺もあの風爆弾はいいと思うぜ。すげー威力じゃん。あれが父ちゃんじゃなかったらかなり効いてたはずだ」

「はは、意味ねー。オレたちの目標は父ちゃんだ」

「けっ。分かってんよ。素直に喜べっての」

「んー。まだ収束が弱いから威力も低いし、それに維持ができねー」


 レンが拳に風をまとい、それを圧縮する。込めて、放つ。単純な原理だが、それゆえ力量が如実に顕れる。


「やーめろやめろ。今爆発したら俺ふっとぶから」

「あ……悪い……」

「んあ!? うわぁぁあ!」


 疲労がレンの制御を乱し、あっけなく風爆弾が破裂した。その威力は、本物の爆弾に劣らない。


「ぶわぁーーー! バッキャロォォォォア!」

「おわああああ!? すまーーーーん!」


 この偶然が、二人の冒険のはじまりである。すべては、ここからだった。

 一人称「オレ」はレン、「俺」はジンです。


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― 新着の感想 ―
[一言] どうもはじめまして。 作品拝見しました。 とても面白かったです。
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