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世界が滅びた後の話をしよう  作者: 辛子高呑
第一章 世界が滅びた後の話
4/6

狩人と獲物

それは俺の後ろにいた。


寸胴な胴体に2つしか穴のないレンコンのような鼻、それに加えて口元から空へと伸びる左右対称な牙を持つこの生物は、



(いのしし)だよな?」



そう、そのはずだ。普通ならそこまでだ。こんな森の中なら野生動物なんて沢山いるだろうし、その内の一匹と遭遇したとしてもなんら不思議ではない。


だが。だが違う。どう見ても違う。いや、姿形は俺の知っている猪そのものなのだが、その、スケールがなぜか…ちょっとだけ……‘‘ビッグ”なのだ。普通猪というのは、こう、なんと言うか大きくても片方の手を広げた程度の大きさ、のはず。


そのはずなのに今俺の真ん前にドーン!という効果音とくっさい獣臭がもれなく付いてきそうなくらいの至近距離にいるそれは、どう考えても全長が170cm以上ある俺の身長よりも巨大に見える。しかも、その扁平(へんぺい)な鼻からふんふんと絶え間なく息をしているのだからもうそれは猪ではなく名作ものOけ姫に出てくるナゴの守なんじゃね?と思ってしまう。いや、ナゴの守ならまだいいだろう。森を荒らしていなければ別に襲われないのだから。だがこのナゴの守もどきは歯茎を見せながら唸っているわ、前足で土を蹴っているわでどう見ても俺を襲う気満々だろこれ。



「シェアーマン、どうすればいいと思う?」


「死んだふりでもしたらいいんじゃぁない?」


「そりゃ熊だろうが。てか、名古屋にはケニア人もびっくりのこんな猪が生息してたのかよ」



ゆっくーり、ゆっくーり、努めてゆっくり後ずさる。ナゴの守もどきはこっちをガン見しているが、今にも襲いかかってくるという様子は感じない。このまま奴の視界の外に出られれば全速力で走り、人里に逃げ込めばいい。完璧な計画だ。映画などではこういうシーンで枝を踏んでパキッなんてこともあるだろうがさっき見た限りでは踏んで音のなりそうな物はなかった。それに俺はそんな間抜けな真似はしない。後数メートルもすれば奴の視界から外れるだろう。己が完璧過ぎて涙が出てきそうだ。



エヴィバディパッション!!!!



「は?」



完璧な計画達成まであと数歩のところで陽気な外人の声が辺り一帯に響き渡る。テレビのCMや甲子園で流れるこの曲は誰もが一度は聞いたことがあるであろう。正しくはEverybody dance now!と言っているらしいがどうしてもエヴィバディパッションに聞こえてしまう。だがそんなことはどうでもいい。こんな状況下に一番出してはいけない音の発生源を辿(たど)る。その音は俺の手の平、もっと言えば俺の手の平が掴んでいる四角い物体から垂れ流されていた。俺がその物体(シェアーマン)を注視すると、カチッという音とともに音楽は止まった。



「てへへ、ごめんごめん。緊張してたら間違って再生しちゃった」




ブォォォォォォオオオオ!!!

ふざけんなよぉぉぉおお!!!



ナゴの守もどきと俺は同時に叫び、全速力で駆け出した。木々の間を抜け、丘を滑り落ちかけながらも何とか体勢を立て直してまた走り出す。後ろをチラリとでも振り返って見たいという願望が湧くが堪える。恐らくだがそんなことをしたら命取りになるからだ。


猪は猪突猛進(ちょとつもうしん)という言葉に代表されるようにその突進力はかなりの脅威となっている。通常の猪でも時速45kmを出すことができ、突進を喰らったら訓練を受けた猟犬でさえ大怪我を負う程だ。しかもそれは‘‘通常の”猪の場合だ。この巨大なナゴの守もどきの突進を喰らえば衝撃で背骨をやられるか大動脈を傷つけられるかして間違いなく死ぬ。そんな全くもって嬉しくない予想が容易に想像できてしまった。


横腹が痛みを訴え始める。呼吸が不規則になりつつあり、血を吐きそうな気分にさせた。しかし、走らなければ三途の川へと一直線。もはや死への恐怖だけで足を動かしていた。だが、どのように心を持っていようもと身体の限界はいつか必ず来る。流れるように過ぎ去っていった風景のスピードは遅くなり、大きな倒木一つを越えるだけでも足元がふらついた。もうダメかもしれないという思いと走れ走れ走れという思いとが激しく葛藤を繰り広げる。



「あっ」



足が地表にひょっこり出ていた根の一部に引っかかる。走ることのみに専念していた身体はその非常事態に体勢を立て直すことはできず、なすがままに乾いた地面へと顔面から突っ込んだ。


さすがに気を失ったりはしないものの、顔を強く打ったことで意識と視界がクリアにならない。何だかモザイクが視界全体にかかり、左右に揺れているような気がする。


これで終わりなのか?不意にそんな思いが浮かんできた。人の一生は呆気ないと言うがこれ程とは。


クソッ、大したことのない人生だったが悔しさが滲み出してきた。だがもうどうしようもならない。目を閉じ、覚悟を決める。

死を待つだけ、その時だった。



ドンッ!ヒューーー



何かが爆発する音と風を切る音とが同時に聞こえた途端、揺らぐ視界の中へとナゴの守もどきが勢い良く滑り込んできた。俺と目が合う位置で停止したナゴの守もどきはそれ以降動こうとはしなかった。よくよく見ればその頭にはゴルフボール大の穴が開き、そこから赤黒い液体が流れ出ている。


ガサッと近くの草むらをかき分ける音が聞こえてくる。まだふらつく頭を押さえながら立ち上がった。何かが近付いて来る。揺れた視界の中では人の形をして現れたそれが男なのか女なのか判別できないが背の高さ的には俺の肩くらいの高さだろう。黒っぽい服を着ているのか影のようにも見える。



「ありがとう…おかげで助かったよ」


「…ま…!……く…!」



そう言いながら立ち上がると何者かは何かを叫び始めた。



「え?何だって?」



よく聞こえなかったため、さらに何者かに近付く。はたから見たらゾンビのような挙動だろう。



「………!……ら…つ…!」



何者かは依然何かを叫び続ける。ゆっくりとだが手の届く距離まで近付いた。



「動くなと言っているだろうが!」



その叫びが鮮明に聞こえた時、何者かは拳を振り上げ、俺の顎へと鋭いストレートをかました。ガッと不様な声を上げ、大自然に倒れ込む。


今日は厄日だわ!そう劇中で叫んだある人物の気持ちが分かったような気がしながら、電源を切ったテレビのごとく俺の視界はプッツリと途切れた。




〜数分前〜




「ふうっ」


黒いキャップをかぶり直しながら鎌枷神門(かまかせみかど)は息を短く吐いた。少し高い丘の上に伏せ、ライフルを構えながらスコープを覗き込み続けているのは中々疲れるものだ。


別に朝からずっとここでこうしていた訳ではない。近くを歩いていると急におかしな音楽が流れ出したのでこの場所へ来てみたところ、男が巨大な猪、キラーウォッグに追われていたのである。どうせ不注意に巣にでも近付いたのか先ほどの音楽で挑発でもしたのだろう。まったくもってバカな男だ。もちろん神門に男を助ける義理はないし、助けるつもりもない。だが、つい最近食料も尽きかけ、どこかで補給しようとしていたところだ。あのキラーウォッグを仕留めれば数週間は飢えずに済むはず、と神門は考えた訳である。


ガサガサと草むらを分けて何かが現れる。いつもならば真っ先に警戒する神門だが、誰が現れたのか分かるため、今回は特にそういう行動をしなかった。



「上手くいってる?」



現れた幼女、神奈川飛鳥(かんながわあすか)が問う。大きくてくりくりした目と白い花柄の模様が付いたピンク色の甚平が特徴的で、短く切り揃えられたショートボブがいつも通り似合っていた。


問題ない、と簡潔に答えると飛鳥は、えへへ、美味しそうだねとヨダレを垂らしながら顔を綻ばせる。食べることに関しては飛鳥ほど熱心な奴はいないと改めて思わされた。


目をスコープへと戻す。まだ全速力で逃げ回っている男がそろそろ射界の外に出てしまいそうである。キラーウォッグが男を仕留めて止まったところを狙撃しようと思ったが、どうやら走っている途中で狙撃するしかないらしい。


愛銃であるL96A1のボルトを上げて力一杯に引いてから元の位置へと戻す。カシャッという音と共に弾丸は装填された。現在、目標のキラーウォッグは全力疾走中、それに加えて距離はおよそ2ヤード(約182.8メートル)といったところだろう。キラーウォッグの頭に合わせていた照準(クロスヘア)を進行方向の1フィート先へと水平移動させ、偏差を取る。息を吐き、再び吸う。それを2度繰り返すと今度は息を止めた。心臓の鼓動がダイレクトに全身へと駆け巡るが、次第に弱くなっていく。緊張はもうしない。こんなことは今まで何百、何千回としてきたことだ。ミスなど犯さない。心を無にして、引き金に指をかける。息を止めてから8〜10秒経つまでに撃つという狙撃の原則を遵守しながら、神門は何も思わずにに引き金を引いた。



ドンッ!ヒューーー



反動を肩で受け流し、スコープを覗きながら結果を見届ける。銃声の直後にはキラーウォッグの頭に穴が開き、鮮血が辺りへ飛び散った。もし弾が貫通したならば反対側の穴ははゴルフボール大くらいに大きくなっているだろう。



「ヘッドショット」



小さくそう呟きながらボルトをもう一度引き、空となった薬莢を排出した。キラーウォッグが地面へと倒れ込み、動かなくなったのを見届けた後、立ち上がる。展開していた二脚(バイポッド)を畳むと慣れた動作でL96A1を肩に担ぎ直し、仕留めたキラーウォッグへと近付いた。


草むらの中をかき分けながらキラーウォッグの死体に到達すると、さっきまで逃げ回っていた男が急にのっそりと立ち上がった。まだ生きていたのかと感心しながら、念のため飛鳥に下がっていろと指示を出す。



「止まれ!動くな!」



(もも)に付いたホルスターから9mmけん銃を引き抜き、男に向ける。だが男はボソボソと何かを呟くだけで、ゆっくりとした歩みを止めようとしなかった。



「動くな!来たら撃つぞ!」



そうは叫んだもののこれ以上銃を使えば銃声に寄ってくる者が出てくる可能性も高まる。できる限り撃ちたくはなかった。それを見越されたのか聞こえていないのか男は更に近付いてくる。もう手を出さずにはいられなかった。



「動くなと言っているだろうが!」



男の顎へと右ストレートを繰り出す。嫌な感触とバキッという音を立てながら男は地面に倒れた。


いつの間にか横にいた飛鳥がどうする?と尋ねてくる。



「とりあえずキラーウォッグを解体しよう。男はその後だ」



神門はそう言い、気を紛らわすためにキラーウォッグへと向かった。






皆さんおはこんばんにちわノンです!今回も読んで頂きありがとうございます。やっとヒロインが出てきましたね、遅くてすいません。次からは少しずつこの世界について明かされていくのでまた見て頂ければ幸いです。


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