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世界が滅びた後の話をしよう  作者: 辛子高呑
第一章 世界が滅びた後の話
2/6

目覚めは始まり

寝起きの気分は最悪だった。本当に。あぁっ!その訳を回想するだけでも忌々しくなってくる。考えてみてほしい。高校生という激務の中で疲れを癒す手段の一つに睡眠がある。その睡眠の中で心地よい夢でも見れれば翌日は朝からアゲアゲのテンションで過ごせるだろう。


だが、その逆だったら?


少女担ぎながら階段ダッシュして化け物にスタングレネード投げたら自分が酔って挙げ句の果てには核ミサイルでヘリから投げ出されるとか、俺はジョン・マク○ーンじゃないぞ。そんなハードアクション朝からやったら普通に死ぬわ。



それだけでも俺の気分を貶めるには充分だったが泣きっ面に蜂。見事なまでの追い打ちがかかってきた。



その追い打ちの正体は、目覚まし。ローマ字でちょっとかっこよくキメるとMEZAMASHIだ。うん、ごめんなさい。自分でも何でローマ字にしたのか分からない。だがとにかく、その目覚ましのせいで俺の寝起きはマイ人生史上最悪のものとなった。



基本、目覚まし時計はイメージとしてジリリリリッて鳴ったり、好きな音楽が流れたりするじゃん?だけど今俺の耳元で何が鳴ってると思う?


ワルキューレの騎行だぜ。音楽のチョイスどう間違えたらこうなるの?もう絶好調でハーヨーハーヨー言っちゃってるよ。頭の中がアポカリプスナウだよ。



つまりだ。まとめると夢世界でジョン・マク○ーン並みのハードアクションこなしてからの黙示録絶讃発動中ということだ。ヤバい、冷静に状況分析したらもう疲れしか出てこなくなってる。



だから俺は耳障りな音の発信源に右手を振り下ろした。耳への当然の防衛行動だ。が、ノーヒット。二発目と三発目も目標にかすりすらしなかった。



分かったのは右手の着弾地点より感じた冷たさと硬さから自分が恐らく床に寝転んでいることのみ。



自分の寝相の悪さくらい17年も生きていればさすがに自覚する。きっと暑くて布団から緊急脱出(イジェクト)したのか無意識の内に見事な180度回転を達成したのだろう。



だとすればアレしかない。ガバッと起きて目覚ましをぶっ叩く!


つまり、普通にさっさと起きればいいだけなんだけどやっぱり朝のぬくもりから出なければいけないのは辛いし、学校行きたくない。だからと言ってこの黙示録を止めなければ再び寝つくこともできないだろう。


「う、うぅぅ」


覚悟を決め、ゴロンと大回りに回りながら上体を起こし、瞼を接着している目ヤニを左手でこすり落とした。目ヤニと眠気(まだ若干あるが)から解放された両眼は最近伸びてきた前髪が刺してくるのを気にも留めずにいつもの散らかった俺の部屋を映し出し、俺に現実を突き付けるだろう。



そう、いつもと変わらない気怠さを伴った現実。単なる眠気だけではない、心の重さも背負った瞼を乱暴に開いた。



まず感覚神経をつたって脳が判別したのは白、真っ白だ。一片の混じり気すら確認できないそれは眠りから覚めたばかりの双眸にはいささか眩しすぎて頭が痛くなる。



しかし数秒もたてば視覚に強烈な刺激を与えた光にも慣れ始め、周りの空間を把握すると疑念はより強さを増していく。


ーここは俺の部屋じゃない?


と言うよりも家ですらないだろう。この場所を一言で表せと言われたら真っ先にこう答えられる。


‘‘隔離室”と。


規則的に設置された天井のLED電灯には暖かみなど微塵もなく、冷たく無機質な光を俺に照射し続けている。



しばらくして目が光に慣れ始め、さらに多くの情報が未処理で脳へとダイレクトに届けられた。ただの白い壁と思われていたものはタイルのように小さく区切られており、風呂の床を思い起こさせる。部屋全体が同色で俺の四方を囲っているので広さはアバウトな表現になるが、テニスコート一つがまるまる入ってしまう程はあるだろう。



その広く潔癖を体現したかのような部屋は何度見てもまさに隔離室。いや、ゴミや埃の一つはもちろんのことウイルスの存在すら認めないだろう様子から無菌室と言っても差し支えないかもしれない。



ちなみに、俺が寝転んでいた床から天井までの高さはよく分からない。だが、それは重要ではないだろう。俺がここから立ち上がれば済む話だし、気を付ける事といえば頭をぶつけないようにすることだけだ。



それよりも、俺は自分の周囲の状況を確認していて少し気になる事を見つけた。

一つ目は服装。一言で言えば汚らしいのだ。元は白であっただろうスニーカーには泥が染み付き、焦げた痕すら確認できた。服は上下ともにクタクタでトライアスロンを三日間ぶっとうしでやったらこうなりそうという感じである。しかも、ズボンは濃緑と黄緑、茶を斑に散りばめたいわゆる迷彩服というやつだし、上は薄い長袖の黒Tシャツの上に今度は黒から薄い灰色までを適当に混ぜて塗ったような下とは違う迷彩柄の上着を着込んでいる。俗に言う市街地用迷彩というやつだろう。確かに俺はサバイバルゲームなどの類いは好きだが、こんなご立派装備を持ってはいないし、エアガンだって10禁のハンドガンだけだ。何よりもこんな姿はこの部屋から排除されかねない程不自然極まりない。例えるなら超名門のお嬢様校にゴリマッチョなスキンヘッド男子が一人いるようなものだ。



それだけでも十分俺の気を引いたが、俺が最も気になったのはその格好自体のことではなく、その格好を俺は一度見たことがあるということだった。



そう、この格好は現実ではなくあの夢の中で俺が着ていたものだったのだ。だが、同じなのは格好のみで手は血濡れていないし、身体を少し動かしても全身を襲う痛みは感じない。加えて、俺はあの夢のような事をした記憶は当然ないし、自分に予知夢の才能があるのはもっとあり得ない。



考えれば考える程難解になっていく気がして一旦この事については思考を停止し、もう一つの気になる事へと目を向けた。



俺の真正面にあるそれは無造作に床に転がっていた。紐を合わせずに本体だけならば35cm程の肩掛け式バッグ。色は黒で俺の服のようにクタクタでボロボロだ。もうそれだけでも怪しさ満天で出来れば触れたくないが、そのバッグの中からあの忌々しきワルキューレの騎行が発信されている。


「やっぱ、行くしかないですよねー」


数分かけて行くor行かないの選択を決めた。半ば観念した気持ちであるのは言うまでもないが…



右足で床を蹴り、すっと立ち上がる。よほど長く眠っていたのか立ちくらみがして、足がふらついた。バッグまでの距離は2〜3歩で埋めることができた。バッグの前にかがみ、チャックをゆっくりと引いて、開けてゆく。



開けた途端に爆弾BOMB!とか酸性液ブッシャーーー‼︎とかはなしだぜ、とけっこう懸命に祈っていたが、チャックを引き終えるまでは何もなかった。ただ一つ愚痴るなら、チャックを開ければ開ける程ワルキューレが大きくなっていくことくらいか。額に浮かんだ汗を拭き取り、ここからが本番と自分へ気合いを注入して右手をバッグの中へ突っ込んだ。今考えれば利き手を入れるのは賢い選択ではなかったかもしれないが、それほど必死だったということだろう。暗闇に包まれたバッグの内部でまず掴んだのは振動する金属の板らしきもの。



多分こいつが俺の寝起きを最悪にした張本人だろう。触った感じだと形は長方形で角は削ってある気がする。手を勢いよく引き抜き、目の前へ掲げた。


「スマホ?」


白を基調としたそれは間違いなくスマホ、もっと詳しくいえばアメリカに本社を構えるリンゴマークの会社のそれに酷似している。



俺は天井を向き、天国から人生初の目覚め方を提供してくれたスティーブ・ジョブズに感謝いっぱい満面の、それこそ鬼瓦(おにがわら)のような素敵な笑顔を送りつけた。



上部にある電源ボタンを人差し指で押し込み、スマホを起動させる。画面に浮かんできたのはパスワードの確認ではなく目覚ましを切りますか?の文字。もちろんYESだ。長きにわたった目覚ましとの戦いに勝利を飾ったのと思ってガッツポーズをとったのも束の間。画面には『エラーが発生しました。再起動します』の文字が出現した。


あるよねー!こういうの時たまあるよねー‼︎


スマホを放り投げそうになったが再起動に入ると一応目覚ましは切れたので、それでよしと割り切って画面を見つめる。



そこで気付いたのだが、進行度を伝える横棒の他には何も表示されていない。疑問に思い、スマホの裏を見ると食べかけのリンゴマークは表示されていなかった。ということはつまり、このスマホはリンゴマークの会社製ではないということだろう。



俺は天井に向かって手を合わせ、スティーブ・ジョブズへごめんなさいと心から謝った。



だが、許してもらえなかったのか再起動の進行度が90%からいっこうに進まない。


「Oh!スティーーーブ‼︎」


俺は上体を仰け反り、腹からの声を吐き出した。そして、こういうことに陥った時、大抵は時間がかかると俺は知っている。気長に待とうと決め、バッグの中に手を入れて探索を続けた。






リザルト


クエスト名:バッグ wo リサーチ!


出てきたもの:何か茶色い球×5

ドライビンググローブ?

缶詰×3


探索者の様子:動かない。ただのしかば(ry


今の俺+その周辺情報をゲームのリザルト画面ぽくまとめるとこうなった。



辺りに散らばるのは野球ボールサイズの茶色い球体×5に、黒くテカっているドライビンググローブ、メッキ剥き出しの何が入ってるのかよく分からないちょっと大きめの缶詰×3。そして、それらの中心で見事なまでのorzポーズを最低3分間はキープしていただろう俺氏。


すうっと息を吸いながらorzポーズを解き、口を目一杯開ける。そして、


「ふっざけるなよ!なんだこれ‼︎人様が爆発したらどうしようとかってめっさビビりながら中調べたら出てきたのこれ⁉︎だいたい車の運転なんて出来ないのにドライビンググローブとか厨二ですか?これはめて我が(いにしえ)の何とかとかって言えばいいんですかねえ?俺はそこまで腐ってねえぞ!次にこの缶詰!何が入ってるかと賞味期限くらい明記しやがれ!下手に食って腹壊したらどうしてくれるんじゃ!食品衛生法守る気くらい見せろよ‼︎それからそこの茶色い球!お前は何なんだよ!何で何に使うのかさっぱり分からんぞ!茶色いとかあれですか?ウ○コですか?ウ○コをリスペクトですか?そして最後に言っとくけどな!スマホ、お前はいつになったら直るんだよ!」


「いや、もう直ってますけど」


「………え?」


「いや、だからもう直ってますって」


あはは、ナンダロウ。スマホが勝手に喋った気がするー。


いや、普通に考えたらスマホがひとりでに喋るわけないじゃないか。



誰かがかけてきて偶然通話ボタンをポチッとしたんだろう。うん、きっとそうだ。間違いない。俺の17年間積み上げた常識に誓っていい。


「えっと、どちら様ですか?」


デフォルトのホーム画面を映し出すスマホを手に取り、極めて丁寧な言葉を選択しながら話しかける。 が、


「はいはーい、こちら様で〜す」


え?何こいつ?小学生くらいレベルの屁理屈で対応してきたぞ?しかもディスプレイを見ると、テレビ電話のように人が映し出されていた。金色に染められた長髪や耳にいくつも付けられたピアス。そう、一馬の苦手とする種族の一つ、チャラ男だ。



「すみません、あまりふざけないで下さい。俺に何か用ですか?」


「いやいやいやいや〜、再起動したの一馬さんだしさぁ、それ僕のセリフなんですけどぉ。まぁ、一馬さんの考えてる事くらい僕には全部お見通しだけどねぇ」


画面の向こう側のチャラ男は改善することなく、挑発的な言葉を投げかけ続けている。


「おい、いい加減にしろ。あんた一体何を…」


「君の大切な肌色画像フォルダーをぜーんぶ削除しようか?」


唐突にチャラ男が訳の分からないことを言ってくる。


「は?何言って…」


「ちなみにパスワードは2108427(ニートは死にな)でしょ?」



当たってる。悔しいが見事なまでに当たってる。ちなみにフォルダー名は、



「『人間の真理へ』だっけ?フォルダー名」


「何で知ってんだよ!」


「本名、叢雲一馬(むらくもかずま)。2003年5月25日生まれ。血液型O型で身長174.3cm体重56kg。ちなみに短所は沸点が低くてすぐキレること。ほら、‘‘全部お見通し”だよ」


「……」



本当何なんだこいつは…。



先ほどまで存在していた怒りは完全に消え失せ、変わって実体の掴めないものへの恐怖が俺の全身を瞬く間に席巻した。



だが、俺がそう思っている事に気付くはずもない。スマホはうーん。と勝手に呻き、囁いた。



「ねぇ、ここが何処で何なのか、そろそろ知りたくない?」



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