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「ハル、お前は将来大きくなったら何になりたいの?」
「うーんと……お母様とこの国を守れるように強く立派な騎士になります!」
「あらあら頼もしいこと。でも将来は偉い学者さんになって貧しい人々を助けるのではなかったの?」
「………でも姉様は兄様が王となられた時、この国を守る強い騎士が必要だって…。」
「そうね……でも母様はあなたに好きなことをして、そして周りに喜びを与えられる…そんな素敵な人になってほしいわ。」
「でも母様……。」
「私はあなたにずっと笑顔でいてほしいの。その素敵な笑顔で周りを幸せにして今よりももっと平和で素敵な国を作っていってほしい。」
「……はい。」
「いいこと?戦いは何も生まないわ。ただ憎しみや憎悪が残るだけ。ハル、だからお願い。あなたがこの国を変えてちょうだい。あなたにしか出来ないことよ…。」
「でも母様。僕は姉様や母様のように強い魔法が使えるわけでも父様や兄様のように強い剣士でもありません…。」
「いいえ、あなたは誰にも持っていないその優しさと人を許すことが出来る誰よりも大きな心の器を持っています。あなたは死んでしまった草花に動物たちに涙を流すことができるでしょう。怪我や病気をしてしまった人に優しく声をかけてあげることができるでしょう。それで充分なのです。」
「でも……。」
「でも、は禁止よハル。あなたは私の自慢の子なんだからもっと胸を張って生きなさい。そして強く優しい人になりなさい。」
「はい、母様。」
「ふふふ。少し話しすぎてしまったわね。そろそろ戻らないとまた爺や女中達に怒られてしまうわ。」
「爺は怒るととても怖いです…。」
「あら、それは爺に報告しなくてはいけないわね、ハルが爺は怒るととても怖いと言っていたと…」
「母様!」
「ふふふふふ。それにしても今日はとても良いお天気ねぇ……。」
風が春の香りを運んでくる。
花は芽吹き虫や動物たちは冬眠から目覚め少しずつ賑やかになっていくこの地に
今不穏な空気が漂っている事をこの時は気づくよしもなかった。