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始まる時
派手な足音と共に天文庁の使者が夜警当番の司祭と共にノックの返事もそこそこに飛び込んできた。
そして意外な物を見た。
ここに居るはずの教皇では無く、昼行灯のどら息子が教皇の椅子に座って毛布で拘束した少女を抱きしめ頬ずりしている図。
「静かにしたまえ。この子が起きてしまう。」
この非常時にといきり立つ使者を睥睨しつつ注意する。
「枢機卿、何故あなたがそこに座っている?!猊下はどこに行かれた?」
「先ほど全権を委任された。」
教皇の杖を示しつつ続ける。
「報告を聞こう。」
「ダメだ!教皇に直接報告しなければならん。」
「すでに猊下は最後のミサの準備をしている。もう君の報告内容は知っているんだよ。」
「な!何のことだ?」
「全権委譲されたと言っただろう、さっさと報告しろ。時間が無いんだろう。」
「話にならん!さっさと教皇様の居場所を教えろ。」
「あの方に付いて行けば生き残れると思ったのでしょうが、あなたはすでに切り捨てられてるの。」
腕の中で凛とした声が響く。
「くっ、起こしてしまいましたか、まだゆっくり寝ていてください。まだ始めませんよ。」
「なんだこの小娘は!何を言っている?」
「曾お爺さまはもう帰ってきません。彼の地で民達と共にその時を迎えます。あなたは邪魔になるので星見の場から出されました。」
「すでに選抜は終わっている。貴公はもはや使者としてのみの存在だ。さっさと役目を果たし何処へなりと行くが良かろう。」
もはや言葉を紡ぐ気力も無くしたのか握っていた親書のケースを取り落とし、へたり込む。
すかさず案内してきた司祭が親書を拾い新しい指導者に渡す。
「うむ、確認した。ただいまを持って教皇庁の全機能は大聖堂付の葬祭部に委譲する。”箱船”最終段階に入る。直ちに実行部隊の出動を命じる。」
「御意。」
走り去る司祭を見送り、彼女を抱いたままゆっくりと立ち上がる。
「さあ私達も行こうか。おや、また眠ってしまいましたか。」
いまだ苦しげな寝息を耳元で聞きながら、作戦司令部に向かおうとする。
「お待ちを!わたくしめもお連れください。何でもしますどうかお助け”ガシッ”がっ!!」
顔面にやくざキックを喰らいはねとぶアカン僚。
「邪魔です消えなさい。」
気絶して静かになったので放っておきましょう。
壁の一部に外部カメラの映像を映しながら各部署からの報告を聞く。ここは教皇庁の地下作戦室。あくまでも対人用避難壕。
目の前にメモの山があった。引き出しにいつの間にか入っていたのだが目を通すと時系列も表記する内容も共通な物は無く何が書いてあるか分からなかった物もある。
ただこのメモはルベルの直筆で有り、全て相応しい時に対応されていた。
事前に予定されていた避難ルートに異常があれば最適の変更ルートのヒントが書いてあり、また巡礼者の暴動が起きそうな所と解決策が書いてあるのもある。殆どが私の解釈により始めて情報となって皆に伝えられていく。
事前に作られていたとしたらこれだけでもどれほどの無理をしたのでしょうか。
何枚かに涙と血の跡があった。
専用に作らせたベルトで毛布ごと体に固定して常に胸に抱いていられるようにした。
たまに意識が戻った時に俺が抱いていないと泣きわめき暴れるのでやむを得ない処置だ。
すでに彼女は意識が混濁して時々うわごとのように言葉を紡ぐ。
それが全てその場で必要な情報だったりするのは聞いているのが辛い。
最後の時まで巫女として働かされるのか・・・いや、これはルベルの意思だろう。
たとえ見ず知らずの他人でも生き残る可能性があるなら努力する。今はそういう時だ。
最初の日、首都の昼時に政府の公式発表があり、自治体独自の避難所等に避難が始まった。
すでに配置についていた教会の特務隊員はどさくさに紛れ二,三次で決まった人員を確保移送していることだろう。
夕方には、薔薇の星の殆どの花ビラが散り、その幾つかがこの星に向かって飛んでくるのが見えだした。
あれが三日後にはこの星に到達して地上は壊滅するのだろう。




