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赤い星  作者: lassh-leyline
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   『その日(審判の日)



「最後の告知です、明朝の嵐により花が散り大地に帰るでしょう。猶予は4日、みえない炎は大地を焦がしこの空を消し去るでしょう。その時をもって以後の事象は白き闇の中へと消え去ります。私の”みえる”のはそこまでです。」

「ご苦労だったな。もはや何も案ずるなその労をねぎらってやることは出来ぬができる限りのことはしよう。」

「お言葉ありがとうございます、猊下。もはやこの身もあとわずか。付きましては最後の時をあの方と共にありたく思います。お願い申し上げます。お暇をいただきたくぞんじます。」

「うむ、避難の邪魔をしない限りは全ての行動の制限を解除する。これを使え。あやつに渡せば良い。」

 教皇の杖(太陽と光の杖)を受け取りその胸にかき抱く。

「ひいおじいさま・・・私は、あの人に振られてしまいました。やはり奇跡は起きませんでした。最後の望みも潰えてしまいました。せめてこの身が果てる前にと・・・でももう良いんです。この神の祝福(時空神マリア様の瞳)を受けた者は私の代で終わります・・・もう終わります・・・(ぐふっ)」

 力なくよろめくその身を受け止めた老人。

「すまんな。あの朴念仁め!我が子ながら情けないほど使えん奴じゃ。・・・おぬしらの家族には迷惑を掛けっぱなしじゃった。もうゆっくり休めと言いたいがそれも良しとせぬのじゃろ。もう好きにすればええ。さあ最後のお仕事じゃ。あ奴を起こしに行ってやってくれぬか?もうすぐ知らせが届くのじゃろう。」

 吐血で服を濡らしつつも気にすること無く胸に抱きしめ頭を撫でていた手を止め、涙と血をハンカチで拭いてやりながら侍女として最後の奉仕に促す。

「それでは猊下、心お安らかに。」

「そちも大義であった。せめて幸せなときが少しでも長く続くことを祈っておるぞ、我らが愛おしき娘ルベルよ。」











 まどろみの中何気なく、横にいるはずの少女の背中を抱いてやろうとして、伸ばした手が空を掴む。

 驚愕により飛び起きた。

「ルベル!何処に!?」

 見回すと数歩離れたところに跪き、見慣れた杖を捧げ持つ少女がいた。

「卿、お目覚めですか。ならばお召し換えを。」

 誰か分からなかった。その弱々しげな声。震える肩と身につけている衣装。

 見上げた顔、その纏っている『時と空間の神』(「世界」)の巫女服と疲労と苦痛のために消耗しているその姿を見て、全てを悟ってしまう。


「もうすぐ第一報がもたらされます。始まりました。」

「あい分かった暫し待て。」

 まだ動揺する私を無言で見つめる愛しき人。後悔、いや悲しみが胸を締め付ける。

 声が震えそうになるのを押さえて、ベット脇の移動式クローゼットの中の正装取り出す。

 簡易の洗面台も用意してあった。略式の清めの祭壇まで用意してある。

 お清めも済ませ服を着替えつつ怖れていることを問う。

「あなたはいつから”巫女”に?」

「かれこれ10年になります。お母様が亡くなってから引き継ぎました。」

 思わず振り向き詰め寄るが、その安らかな笑顔にその歩みは止まる。

 彼女は全てを受け入れている、そう思わせる優しい笑顔。

 もはや言葉はいらない。振り向いた時に落としたベストを拾い上げ再び身支度に戻る。


 時空神マリア様は炎の神ラーナ様の娘で全ての時間と場所を見守る少女の姿の女神様である。

 この星では巫女の血筋は絶えて久しいと言われていた。

 その神の巫女は黄金色の縁取りの巫女服を纏い確定した未来を告げ、過去を紡ぐ。その言葉は全て真実となり違えることは無い。

 そして選ばれるのも少女だけ。任期いや寿命は六年から八年。一度巫女となるとその消耗は激しく殆ど成人を迎えるまでに力尽きてしまう。

 そのため子孫を残せずに途切れたと伝わっている。

 なのに十年。

 すでに限界を迎え、今この瞬間にも命の炎が消えてしまってもおかしくは無い状態だろう。

 昨日までおくびにも出さなかったのに。昨夜に限界が来たと言うことか。

 しつこく行為を強要していたのももう限界が近かったためか。


 鏡で正装を確認して振り向く時に今脱いだ夜着が目に入った。胸に点々と赤い物が付いていた。

 何故あの時気付いてやらなかったのか。いやそれ以前にもっと早く気付いてやれれば、また辛い思いをさせなくて済んだろうに。

「おじさま、しっかりしてください。今はしなければいけないことがあるでしょう。すぎた過去より未来に目を向けてください。猊下からこれを預かって参りました。」

 差し出された杖をぞんざいに鷲づかみにして、つい恨み言を吐き捨てる。

「全て知っていて、裏で糸を引いていたのだろうに、ここに来て全て俺に押しつける気か?」

「曾お爺さまは何も知らない民達の元に向かいました。大聖堂の方で最後の時までミサを続け皆を死の女神さまの元まで案内するそうです。そしてそう(・・)なります。」 

「はあ・・・そうなるだろうなあぁ。いや分かっていたことだけどねえ。」

「今は、プロジェクトの最期を見届けるのがおじさまの役目です。」

 おもむろに杖をベルトにさしてゆっくりと少女を抱き上げる。

「もう無理に我慢しなくて良いからな。俺も我慢せず今を大切にしたい。最後の時までいやこの身が共に滅びても一緒に居たい。もう放さないからそのつもりでいろ。」

「    (嬉しい)  (もっとぎゅっとして)(はぁ、はぁ)ごふぅ!」

 やはり。

 かしずいていたのでは無くもはや立ち上がることも出来なかったのだ。

 いつものルベルなら服を取り落としてもすぐに受け止め、床に落とすことは無かった。

 取り落とすのが分かっているのだから受け止めるのは簡単だろう。

 有能と言われるゆえんの一つが完全なる先読みであったのだろう。

 そしてそれはこの星の最後も読み取っているのかもしれない。

「ご、ごめんなさい最後まではみえなかったの。」

「気にしなくて良い。もはや出来ることは全てやった。キミのおかげだ。全てこのときのためにしてきたことだ。」

 道すがらどこからか現れた侍女頭に渡された毛布にくるみ、抱きあげたまま教皇庁の執務室に向かう。

 彼女は三次に選ばれたためこれ以上の自由行動が出来ず最後の別れを告げてきた。

 ただルベルの父にあこがれ後妻の座を狙っていたと告げられたのは誤算だった。もっと早く分かっていたら取り持ってやれたのに。

 最もこの日に別れが待ってはいたが。だからルベルも口を出さなかったのだろう。

 いつの間にか胸の中で苦しそうながら寝息を立てる愛しい人を起こさないように抱き直し執務室に入り教皇の椅子に座り杖を傍らに置く。




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