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覇天の翼  作者: さばだんご
覇天の翼
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第二章 白銀の司令塔と、零の誕生

 ## 第二章 白銀の司令塔と、零の誕生


 江東の夏は湿っていた。


 長江から吹き上げる風は重く、空は低い。

 だが菅野直――今は孫策の体を得た男――にとって、その空は妙に広く見えた。


 丘の上から川を見下ろす。


 長江。


 巨大な流れだった。


 幅は数キロ。

 川というより、海だ。


 菅野は腕を組んだ。


「……滑走路だな」


 背後で杉田庄一が吹き出す。


 甘寧の格好をしたまま、笑いをこらえている。


「菅野さん、それ言うと思った」


 武藤金義――周泰は静かに川を見ていた。


「確かに」


 彼は呟く。


「広い」


 杉田が言う。


「でも飛行機ないっすよ?」


 菅野は肩をすくめた。


「作ればいい」


 杉田が固まった。


「……作る?」


 その時だった。


 背後から足音がした。


 振り向く。


 そこに立っていたのは、長身の男だった。


 細身の体。


 鋭い目。


 知性がにじみ出ている。


 男は三人を見て、静かに言った。


「やはり君たちか」


 菅野は眉を上げた。


「……誰だ?」


 男は少し笑った。


「久しぶりだな」


 その笑い方。


 菅野の記憶が動いた。


 航空参謀。

 海軍航空の頭脳。


 菅野の目が大きくなる。


「……源田?」


 男は頷いた。


「源田実だ」


 周囲の兵たちは意味が分からない。


 だが三人だけが固まっていた。


 杉田が頭を抱える。


「うわぁ……」


「来ちゃったよこの人」


 源田は淡々と続けた。


「この世界では周瑜らしい」


 菅野はしばらく黙っていた。


 そして突然笑い出した。


「ははは!」


「参謀まで揃ったか!」


 源田は眉をひそめる。


「何がおかしい」


 菅野は長江を指差した。


「見ろ」


 川が広がっている。


「滑走路だ」


 源田は黙った。


 しばらく川を見つめる。


 やがて、ぽつりと言った。


「……なるほど」


 杉田が呆れる。


「理解しちゃうんだ」


 源田は振り返る。


「航空戦は戦争を変える」


 そして地面に枝で線を引いた。


 長江。


 艦隊。


 編隊。


「水軍は艦隊ではない」


 線を描く。


「**編隊だ**」


 菅野が笑う。


「さすが」


 源田は続ける。


「空を取れば、戦争は終わる」


 杉田が手を挙げた。


「でも飛行機ないっす」


 その時だった。


 後ろから穏やかな声がした。


「それなら、作ればいい」


 全員が振り向いた。


 そこに一人の男が立っていた。


 優しい目。


 職人の手。


 菅野は思わず息を飲む。


「……堀越さん」


 男は少し照れたように笑った。


「久しぶりだね」


 堀越二郎。


 零戦の設計者。


 この世界では呉の工匠。


 杉田が笑う。


「役者そろいすぎでしょ!」


 堀越は菅野を見た。


「菅野君」


 そして静かに言った。


「君の戦いを見たよ」


「美しかった」


 菅野は照れたように頭をかく。


「馬だけどな」


 堀越は笑った。


「だから考えた」


 懐から図面を取り出す。


 広げる。


 そこには翼が描かれていた。


 木の骨組み。


 絹の皮膜。


 美しい曲線。


 源田が目を細める。


「……滑空機」


 堀越は頷いた。


「そう」


 そして言った。


「エンジンはない」


「だが飛べる」


 杉田が身を乗り出す。


「マジで!?」


 堀越は説明する。


「竹で骨格を作る」


「江東の絹を張る」


「漆で固める」


 菅野が呟く。


「モノコック構造か」


 堀越は嬉しそうに頷いた。


「さすがだ」


 源田は図面を見つめている。


「射出は?」


 堀越は川を指した。


「船」


 一同が黙る。


 長江を見た。


 巨大な流れ。


 源田がゆっくり言う。


「空母か」


 杉田が笑い出す。


「戦国時代に空母!」


 堀越は図面をたたんだ。


「名前をつけた」


 菅野を見る。


「**真・紫電改**」


 その言葉に、菅野は黙った。


 遠い記憶が胸をよぎる。


 沖縄の空。


 燃える翼。


 だが今は違う。


 ここには、まだ空がある。


 菅野はゆっくり頷いた。


「いい名前だ」


 源田が言った。


「航空隊を作る」


 杉田が手を挙げる。


「俺も乗る!」


 武藤は静かに言う。


「護衛は任せろ」


 源田は三人を見た。


 そして言った。


「これで揃った」


 菅野が笑う。


「何がだ」


 源田は長江を見つめる。


 空を指差した。


「**航空戦力だ**」


 風が吹いた。


 長江の水面が光る。


 その空には、まだ何も飛んでいない。


 だが間もなく――


 江東の空に、新しい翼が生まれる。


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