◇第九話 戦力外通告? ②
「で、その落ち込みようは仲間外れにされたからか?」
「……仕事中ですよ、先輩」
「はいはい」
狩猟大会で大忙しの王国騎士団ではあるが、私は会場に行かずずっと城で雑務ばかり。まぁ、警備に参加しないのだから仕方ないが。
ガストン先輩は資料を取りに来たから一時的にこちらに来たが、ニヤニヤとこの状況を楽しんでいるように見える。酷い先輩だ。
「交流会に参加するんだろ? ドレスとかは? 準備出来てんのか?」
「……一応」
まだボックスを開けていないけれど、一応ある。もしあの送り主が正解だったとしたら、何でもしますと言ってしまった手前あれを着ない選択肢はない。もし間違いだったとしたら急いでドレスを用意するが。
先輩の言うこのテンションは、確かに仲間外れにされた事もちょっとある。けれど、久しぶりの面倒なドレスを着なくてはならなくなってしまった事。そして一番は、あの近衛騎士団長が用意したドレスはきっと上等なものだから、あれを私が着てしまってはもったいないのではと思ってしまっている事。
……団服が、恋しくなりそうだ。
「俺達、テレシアのドレスが何色か賭けてるんだよ。俺は緑だ。髪がハニーブロンドだからぴったりだろ」
「……後輩使って賭けなんてしないでくださいよ」
「その賭けた金でテレシアをねぎらってやるつもりなんだけど? 賭けに勝った奴とテレシアはその掛け金で何でも食っていいって言われてるからな」
「……誰にです?」
「副団長」
なるほど、言い出しっぺは副団長か。後で文句を言いたいところではあるけれど、奢ってもらえるなら言えない。
「……お酒はやめてください」
「それ、俺に言ってるんか」
「他に誰がいるんです? この前だいぶ飲ませてきたのは先輩じゃないですか」
また大惨事を起こすなんて、笑えない。
それなのにいつも通りの調子で笑って出て行ってしまった先輩。途端に、部屋には私一人となり静かになってしまった。いつもなら第三騎士団の事務室はだいぶ騒がしいから余計静かに感じる。
「はぁ……」
当然、このため息も誰の耳にも入っていない。
箱を開けていないからドレスが何色すら知らない。だから先輩のその予測は正解なのか今の時点では分からないけれど、奢ってくれる事は決まっているから何でもいいや。
そんな時だった。
いきなり、後ろから手が伸びてきて、私を抱きしめた。白い服に、袖は黒。そして、この匂い。振り向かなくても誰なのかすぐに分かった。そのせいで、声は抑えられても分かりやすい程に肩が上がる。
「私が贈ったドレス、気に入ってくれたか?」
「っ……」
低めのトーンの声。やっぱりそうだ、と納得してしまった。あのプレゼントボックスは近衛騎士団長が贈ったもの。けれど、ドレスが気に入ったなんて聞かれても、見ていないからそれは答えられない。とはいえ、それを正直に言う事は出来ず、とりあえず小さく頷いた。
「そうか、それはよかった。団服の君も素敵だが、ドレス姿の君も見てみたかった。私が選んだドレスを着る君が見られるのはだいぶ楽しみにしているんだ」
「っ……」
私のドレス姿が見たい、か。普通の令嬢とかけ離れた私のドレス姿なんて見るに堪えないだろうから、がっかりさせてしまうはずだ。
けれど……何故、がっかりされてしまう事がこんなに悲しいんだろう。
ちらり、と小さくそちらに視線を向けると、彼は懐中時計を取り出しふたを開けて時間を確認していた。家紋のようなものがふたに刻まれた、懐中時計だ。
「名残惜しいが仕方ないな。ドレスは寮母に手伝ってもらうといい」
「……」
さすがにドレスは着慣れていないし、普通誰かメイドに手伝ってもらうのが普通。だから最初からそのつもりだけれど……きっと私がお願いしたら寮母は驚くだろうな、と苦笑いしてしまいそうだ。いつ事前にお願いしようか……と思っていた時だった。
耳元で、囁かれた。
「……サイズはきっとぴったりだから安心してくれ」
「っ!?」
サイズっ!?
その言葉に急に顔を火照らせてしまった。何てこと言い出すんだ! あ、いや、でも私のサイズを誰かに聞いたのか……と、焦っていると後ろから首を伸ばしキスをされてしまった。
その事にまた顔の熱を上げてしまったけれど……後ろに戻った彼を視線で追うと、すぐに消えてしまっていた事に焦ってしまった。どういう事だか聞きたかったのに。いや、聞いて後悔するかもしれない。
けれど、どうしてだろう……彼がすぐにいなくなってしまった事に、寂しくなってしまったのは。
きっと、先輩達が皆会場に行ってしまい一人置いてけぼりにされてしまったからなのかもしれない。
とはいえ、中々収まらないこの顔の火照りようの目撃者がいなかった事は幸いだけれど。
また、ため息を吐いてしまった。私のドレス姿は、大丈夫だろうか。
だいぶ不安になってしまった。




