◇第八話 戦力外通告? ①
「3人一組の態勢は絶対に崩すなよ!」
「はいっ!」
今日は狩猟任務の日。ここ首都の周りには森が多いから、様々な動物達が生息している。狂暴化する動物もいるため王城騎士団には定期的に数を減らす任務を課せられている。
そして、貴族達が揃って行う狩猟大会が目前に控えているため、今回は動物達の数も確認しないといけない。何と面倒な。
当日は私達騎士団員も森の中に入り警備をする事になるから、騎士団にとっては本当に大変な大会だ。貴族のお坊ちゃん達が参加して重傷を負ってしまったら、最悪責任は全て警備をしているこちらになる。本当に迷惑極まりない。
周りが甘やかして自信たっぷりに育ったお坊ちゃん達に危ないものを持たせて狂暴化した動物達の前に置いてみろ、最悪な地獄絵図が完成する。
「そっち行ったぞテレシア!」
「はいっ!」
それに、久しぶりに城外で剣を振るっているからいつもよりも気合いが入る。昨日まで色々と頭の中が大混乱していたから考えないように全力で動物達を仕留めているわけでもあるけれど。
なんて思いつつ、動物を一刺しで仕留めた。
「おぉ、一刺しか。やるな」
「小さいのは全部私にお任せください」
「大型は難しいくせして小さいのは確実に仕留めるからな、お前。さすが元近衛騎士団のマーフィス男爵の娘だよ」
「父は出さないでください」
「ははっ、悪い悪い」
一応遺伝子というものがあるから、確かにそれもあるのだろうけれど。でもやっぱりその名前は出さないでほしいと私は思う。
私は剣士の家に生まれたから小さい頃から剣を振っていた。女とあって力はなくとも仕留められるものは確実に仕留めますとも。
……半分八つ当たりなところもあるけれど。
近衛騎士団長様の考えが全く分からない。興味本位で遊ばれているんだろうけど、これは一体いつまで続くのだろう。振り回されているのは分かってるけれど、それなら私は一体どうしたらいいのだろうか。
あの執務室の魔王と、その帰り際に後ろから抱きしめてきたあの男性は、本当に同一人物なのかというところにも混乱してしまっているから困ったものだ。
「そっち行ったぞ~」
「はいっ」
この状況をただ私は耐えればいいだけなの? じゃあ、どこまで続くの?
よく、分からないな。
「こんなもんか?」
「このエリアはだいたい仕留めたか。一旦戻るか?」
「そうだな」
昨日、気をつけてって言われたんだったっけ。ついさっき葉っぱで切っちゃったところ以外は無傷だ。これを傷と言うのかは分からないが。これくらい血を拭いて放っておけば治る。
でも、何となく団長様に気付かれたくないと思ってしまうところもある。どうしてだろう……
あらかた終わったのか、戻ってきていた先輩方がちらほらいた。その中には団長の姿もある。
けれど、デカルド団長は私を見つけるなりすぐにこちらにやってきて。
「マーフィス、戻ったらすぐ執務室に来るように」
「えっ?」
「話がある」
「……分かりました」
話、か。
もしかして、近衛騎士団長との事で何かバレた……? それは、やばい。デガルド団長の耳に入ったら最悪殺される? クビ確定では?
いやいやいやクビだけはダメだって!! ど、どうしよう……!
「お前、何かやったか」
「……お、覚えは、ないんですけど……殺されます?」
心配しているのか先輩にそう聞かれたけれど、私の顔はひきつり、冷や汗なんて全く止まらない。
どうしよう、今からもう覚悟を決めておいた方がいいのだろうか。いや、諦めるのはまだ早い?
「お前のことは一生忘れない」
「親父さんにはテレシアは立派に騎士をやってたって言ってやるから安心しろ」
……うちの先輩達は、後輩を助けるなんて言葉は全くないという事か。安心なんて出来るわけがないでしょ。
一体何を言われてしまうのか。そんな不安と恐怖に押し潰されつつも、任務終了との事で城に戻った。
鉛のような身体に鞭打って鬼団長の執務室に向かった。ノックをして、デカルド団長の声が聞こえてくる。私には、この奥に潜む鬼の声にしか聞こえない。今から生贄になるような、そんな気分だ。
冷や汗が止まらない中、執務室に入り団長の座る席の前まで静かに進み足を止めた。
「いきなりで悪いんだが……マーフィスには狩猟大会の警備から抜けてもらう事になった」
「……えっ」
もうすでに決まっていた狩猟大会の警備から、目前に控えたこのタイミングで抜ける。その原因って、まさか……
鬼団長は、引き出しから二枚の手紙を出してきた。これはお前宛だ、と渡され手に取る。その差出人は……はぁ!?
声は出すことはなかったけれど、その差出人に顔が固まった。近々手紙は来ると思っていた。けれどこのタイミングで、しかも狩猟大会の警備を抜けさせろと言い出した人物に、鬼団長よりも恐ろしさを感じた。
「マーフィス男爵から、お前を外すよう頼まれたんだ。お前には、狩猟大会の交流会の方に参加してもらう」
「……そう、ですか」
交流会、という事はまさか、お父様はあの貴族達の中に私を放り込もうとしている事で間違いないだろうか。
その原因は、きっとこの前の婚約破棄だろう。婚約が破棄されたのだから、相手を探すために社交界に顔を出せと?
震える手で、私宛の手紙を開いた。お父様の字で、何となく婚約破棄はどうでもいいからさっさと次の相手を探せという圧がにじみ出ているような、そう感じた。
あの窮屈なドレスを着て、煩いご令嬢達の餌食になれと言いたいのかという文句を言いたいところだけれど……これは、何が何でも相手を見つけなければ命はないような。そんな危機感を覚えた。
「他ならぬマーフィス男爵の頼みだ。聞くしかあるまい」
「……承知しました」
鬼団長の言いたいことは分かる。うちのお父様は優秀な元近衛騎士団団員だし、田舎暮らしをするために退職届を出した時陛下からどうしてもと言われ騎士という役職だけはそのままにして田舎に行ったという話は団長も知っている。そんな人物にお願いされたら聞かずにはいられない。
これは……しょうがない、か。
そして、下がっていいと言われ退出した。
もし近衛騎士団長とのことがバレてクビを言われてしまったら……と思っていたけれど、大丈夫そう? まぁ、バレたら剣が出てくることは確定したけれど。
けれど、あの、お父様。何で私宛の手紙を鬼団長の方に送ってるのよ。どうせ私宛にしても隠して鬼団長に言わず警備に参加すると思ったか。……私の事をよくお分かりで。流石親だ。
こうなってしまえば私が狩猟大会の交流会の方に参加する事は決定事項。狩猟大会では主に男性の方、当主だったり子息だったりといった人たちが参加する。自分達が獲った獲物の大きさに応じてにポイントが付き、多くポイントを取った方が優勝となる。
そして、その狩猟をしている間に、狩猟に参加していないご令嬢やご夫人達が森の近くで優雅にお茶を楽しみつつ誰が優勝者か予測をする。その交流会の方に私が参加しろだなんて……お父様は正気?
はぁ、とりあえず準備するために明後日の貴重な休日を返上しよう。貯金はどれだけあっただろうか。
物欲がなくてあまり使わないから、恐らく間に合うはず。安物のドレスになってしまうけれど、まぁ一目を気にしたらきりがない。それよりも、次また社交界参加を決められてしまう前にこちらが手を打たねばならないからそちらを考えよう。
またドレスを着てパーティーだのお茶会だのに引っ張り出されるのは絶対に勘弁してほしい。
……と、思っていたのに。何故、私の部屋に見覚えのない大きな箱があるのだろうか?
ようやく仕事が終わって帰ることが出来たというのに、部屋を開けてみればテーブルの上に大きな箱が。見たところ、上等なプレゼントボックス。
これは、もしやお父様が何か……いや、それなら女子寮にいつもいる寮母が渡してくれる。となると、鍵がかかっているにもかかわらず、私の部屋に入れた人物という事になる。
……最近、この部屋に鍵を使わず入った人、いたっけ。
いやまさか、と思いつつプレゼントボックスの上に置かれた小さなメッセージカードに目を向けた。
〝狩猟大会でこのドレスを着た君の姿を見られることを楽しみにしている〟
この狩猟大会の警備員、参加者名簿まで把握している人。そして……赤のボックスに黒のリボン。確か、赤い瞳に、黒色の髪がよく似合っていらっしゃる方がいたような。
……後にしよう。うん、間違えて置いてしまったかという可能性もあるし、もしかしたら違う人なのかもしれない。もし送り主が正解で私へのプレゼントだったとしても、休日にゆっくりと中を確かめた方がいい。
けれど、一番は……一体どれだけの金額で用意されたのかというところが気になる。だから、手を付けないほうがいいのではないだろうか。
半ば現実逃避をするかのように私は女子寮の共用大浴場に向かった。




