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騎士団長様、クビだけは勘弁してくださいっ!  作者: 楠ノ木雫


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◇第五話 後ろにいるのは ①


 あぁ、またやってしまった。


 目を覚まし、一番最初にそう思ってしまった。昨日の記憶が鮮明に残っている。夢? 夢なの? いや、夢であってほしい……


 隣に視線を移すと、誰もいなかった。ベッドには私だけ。けれど、触れるとぬくもりを少しだけ感じる。今はだいたい9時。仕事だったらもう出勤してる時間だ。



「はぁ……」



 一体何故私の所にもう一度来たのだろう。もしかして、ただ遊ばれてるだけ? さすがにあの近衛騎士団長に限ってそんな事は……と思うけれど、まさかそういう方だったのかと思うと、複雑である。


 昨日は、一昨日の事は黙っていてやると言っていた。本当だったら、もうクビどころではなかった。最悪牢屋行きだ。それなのに今こうして自室で寝ていられる。



「……はぁ」



 どうしたらいいんだろう。ただあの人の言う事に従っていればいい? これがお父様にバレでもしたら大変な事になるんだから。


 私は一応マーフィス男爵家の男爵令嬢。そしてお父様は男爵家当主。今はお母様と一緒に首都から離れた田舎にいるけれど、もしあの人の耳に入りでもしたら……殺されるだけでは済まされない。あぁ、恐ろしい……


 けれど、気を抜くと脳内に響く。



『テレシア』



 昨日、何度も呼ばれたこの声が、波紋のように広がる。先輩達にテレシアって何度も呼ばれているから男性に名前を呼ばれるのは慣れている。そのはずなのに……



「……あぁもうっ!」



 どうしてこんなにも、昨日の団長様を思い出すとこんなにドキドキしてしまうのだろう。


 興味本位で遊ばれているのかもしれないけれど……そう考えたくないと思ってしまう私は、ただのちょろい女なのだろうか。


 今日一日休みではあったけれど、休めるなんて事はなかった。また団長様が来たらどうしよう、とか。頭を抱える事ばかりだ。


 疲れが取れないまま次の日、仕事の日を迎える事になってしまった。



 今日は雑用ではなく王城内警備の日。同じ班である先輩方と、今日は後宮警備に向かった。後宮では今日もお茶会がいくつも催される予定だから、会場である東屋の一つにて警備となる。だからいつも通り気を抜かず仕事をしよう。



「お前、大丈夫か?」


「え?」


「いや、暗いなと思って」


「見間違いですよ。それよりガストン先輩、ひげ剃ったらどうですか」


「正装の時には剃るからいいんだよ。面倒くさい」


「……そうですか」



 頭を切り替えないといけないのに、中々に難しい。気を抜くと考えてしまうけれど、答えなんてどこにもない。


 はぁ、一体どうしたらいいんだろう……そう思いつつも、持ち場に立ちながらお茶を楽しむご令嬢達に目を向けた。



「ふふふ、わたくし婚約が決まりましたの。両親が許してくださいましたのよ」


「まぁ! おめでとうございます!」


「とってもお似合いだと思っていましたの。幸せそうで何よりですわ」



 ……きゃっきゃうふふで楽しそうで何より。けれど、こういう時に思うのは、団服を選んでよかった、という事。


 女の子ってこういう恋バナが好きなんだろうけれど、私としては結構苦手だ。これのどこがいいのやら。まぁ私には全く関係な……いわけではない。はぁ、どうしよう……



「侯爵家なのだから子爵家に嫁ぐのは許さないと言われてしまっていたのだけれど、彼がこちらに婿養子に入る事で落ち着いたの。彼は下位貴族の子息であっても、とても優秀で貴族学校を首席で卒業していたから、許してもらえたのよ」


「そうでしたか。この国では身分は重要ですが、遺伝子に限らず優秀な方はいらっしゃいますからね」



 ……すごいな、首席で卒業だなんて。


 確かに、この国では身分は重要。けれど、子爵家の子息が侯爵家のご令嬢と結婚だなんてだいぶニュースになりそうな話だし、これからも大変そうだ。重要、という事は自分の生まれた家が一生付いて回る事になる。何かあればその話が出されてしまうのだから。


 まぁ、愛さえあれば乗り越えられるとでも言うんでしょうね。具体的にはどうするのか知らないけれど。


 自分の持ち場にて警備をしつつ、風の音色のようにご令嬢達の話を何となく聞いていた。


 幸せ、か……私は剣を握っていられれば幸せだと思う。でもこれは、同じ年のご令嬢達は全く理解出来ないらしい。まぁ、私には関係ないけれど。


 そんな事を思っていると、お茶会が終わりお帰りになった事を確認すると私達はお昼休憩という事で違う班の第三騎士団員と交代した。



「ふぁ~腹減ったぁ……早く食いに行こうぜ」


「私、途中で先輩がお腹鳴らしてたの聞きましたよ」


「……マジ?」


「はい」



 いいなぁ、ガストン先輩は呑気にお腹空かせられて。私なんてお腹いっぱいだよ……


 内心ため息を吐きつつ、先輩達3人と騎士団専用食堂に向かった。


 第一、第二、第三騎士団員達、そして近衛騎士団員達がここを利用する食堂は広くて料理の量もすごい。まぁ、筋肉ムキムキ脳筋騎士ばかりだから当たり前か。とはいえ、近衛騎士団長はここを使わないらしく、私も見たことがない。執務室かどこかで食べてるのだろうか。


 私達のように交代で食事を摂る団員達も多いから、人数が多い時と少ない時とバラバラ。


 今はお昼時より早い時間。四人席が並ぶ食堂には、ぱらりぱらりとしか団服姿の男性達がいなかった。これなら並んですぐ食べられるから楽だな。


 ……とはいえ、面倒なやつらがいるのは確か。



「おやおや、お優しい先輩達とお食事ですか? 仲がよろしい事で」


「ですが、若い男性達と一緒にいては婚約者が嫉妬してしまうのではないですか?」


「おいおいよせよ、マーフィス嬢はこの前婚約破棄言い渡されたんだから」


「おっとっと、それは失礼した。だが……〝普通の可愛らしいご令嬢〟とはかけ離れてるんだ。破棄されても仕方ないな」



 黒板に書かれている2種類の料理どちらかを選び、調理場にいるおばちゃんに注文しその場で待ち受け取るのだが……煩いのが2人。青い団服を着ているから第二騎士団員だろう。ここで絡まれるのは大抵第二騎士団員。本当に、この仲の悪さはなんとかしてほしい。


 まぁ、その仲の悪さの原因は第二騎士団長が勝手にうちの団長をライバル視しているということなのだけど、その原因に私も入っていることは確かだ。


 女性騎士団員がいる事をよく思わないやつは騎士団の中にもいる。第三騎士団員の先輩達はとてもよくしてくれているけれど、第一も、そして特に第二騎士団員達は顔を合わせるたびにそう煽ってくる人達が必ずいる。


 まぁ、ここにはエリートの近衛騎士団の方々も利用するから、こういう人数が少ない時、近衛騎士団員達がいない時を狙ってくるが。


 最初の頃はこの煽りにカチンと来たけれど……



「あ、から揚げありますよ先輩。私唐揚げ定食にしようかな」


「じゃあ俺も唐揚げにすっか。もちろん、テレシアも大盛りだろ?」


「当然ですよ」


「一体お前のどこにそんな量の飯が入るんだか……」


「いっぱい食べなきゃ仕事中にエネルギー切れになります」



 入団して3年。もう私は大人になったし、レパートリーが少ないのか飽きてきたところでもある。だから、こういうのは無視するに限る。いちいち構ってやるほど私は暇ではない。それに、色々と頭の中がパンクしているから余裕なんてものはないし。


 けれど、それでも人に突っかかる事が好きな第二騎士団員達は引かない。まぁ分かってはいたけれど、暇かお前ら。



「マーフィス令嬢、無視はいけませんよ? これだからちゃんと礼儀作法を習っていない令嬢は……」


「……ガストン先輩、何か聞こえましたか?」


「いんや? 虫の羽音じゃね?」


「何だって? ……っ!?」



 仕方ないな、と内心ため息を吐いた。煩いからさっさと勝手にメシ持って食ってこい。その意味を込めて、あらかじめカゴに用意されていた食事用のフォークを持ちその煩い彼の喉ぼとけに突き付けた。


 いや、騎士団員ならこれくらい避けろよ。それとも何、どうせ相手は女性だからと余裕ぶっこいてるのか。これでは王城騎士の名が泣くぞ。


 内心呆れつつも、ビビっている煩い団員の目の前でフォークをくるっと回す。そして、今日一番の満面の笑みを向けた。



「はいどうぞ。まだフォーク取ってないですよね?」


「っ……」


「じゃあ、私達はここで失礼」



 食堂のおばちゃんから「大盛りにしといたよ!」と唐揚げ定食を渡してくれたので受け取り、窓側の空いている席に先輩達と座った。


 後ろから悔しそうな視線を送ってくる奴らはいるけれど、今日は色々と疲れているんだからこういうのはやめてほしい。



「お前、意外と怖いよな」


「どういう意味ですか、先輩」


「おいガストン、テレシアがナイフを持ってる時にその話はやめた方がいいぞ。ナイフが飛んでくる」



 ……先輩達の方が酷くないですか?


 ふと私は窓を見た。私を見つめる、騎士団服姿の私。本当に、可愛いご令嬢とは全く似ても似つかないな。けれど、それを自ら選んだことに後悔は全くしていない。


 私は、自分の意思で剣を握ることを決めた。王城騎士に入団出来たこと、今でも剣を握りこの国のために働いていられる事に、私は誇りを持っているのだから。



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