◇第三十三話 秘めた想い ②
「おっと、見つかってしまったか」
「ぇ……」
彼のその言葉と同時に、後ろから私の肩を掴まれ体が後ろに引っ張られる。そして、私の前に誰かが立った。この背中は、知っている。黒い正装を身にまとうこの方は、私が会いたいと思ってしまった方。
たったの10分でも会いに来てしまい、帰れと言ってもハンカチを置いていってしまう、私をとことん振り回す方。
忘れたくても、忘れられない……大好きな方。
「こんな場所で何をさっているのですか、殿下」
「ん~、密会かな?」
「おふざけも大概にしていただきたい」
ずっと、会いたかった。けれど、これは絶対にしてはいけないと分かっていた。
だって彼は、これから隣国の第三王女と婚約をする事になるから。
私は見ているだけしか出来ないのだから。
「おふざけ? その言いがかりはやめてほしいな。それと、君には関係のない事だから口を挟まないでくれ」
「いいえ、彼女は私のものです。ちょっかいを出されては困ります」
「残念ながら、彼女はもう僕のものだ」
その言葉に、目を見開いてしまった。そして、ついさっき自分が言ってしまったことを酷く後悔してしまった。仕方なかった、それしか選択肢がなかった。でも、それでも。彼に知られたくなかった。
でも、今更だ。妾になると言ってしまったのだから、もう戻れるはずがない。
「国家の王族たる貴方が、友好関係を持つこの国の騎士に強制させるなど、あっていいとは到底思えません」
「君はただの他国の貴族だ。私に口出しをするいわれはない。それ以上何か言うつもりなら、どうなるか分かるだろう?」
例え、上位貴族の侯爵家当主であり近衛騎士団の団長だったとしても、相手は王族。到底太刀打ち出来ない存在。
これ以上、迷惑はかけられない。
私は、団長様の肩に手を置いた。後ろに引っ張ったけれど、動いてくれず、肩に乗せた手に手を重ねられ降ろされた。
「それだから、詰めが甘いのですよ、殿下」
「……何?」
つ、詰めが甘い……?
どうしてこの場面でそんな言葉が出てくるのだろう。一体何に対しての言葉なのだろう。
「だいぶこの国での〝旅行を満喫〟されたようですが、そろそろ自国に戻られた方が身のためです」
「……」
旅行を満喫、とは……使節団としてここに来訪した事を言っているのだろうか。それにしては、殿下は怖い顔で団長様を睨みつけている気がする。
第二王子は、第三王女よりも一日遅れてこちらに来訪した。その遅れた理由は、私は知らないけれど……それが関係しているのだろうか。
「こちらではもうすでに商人を取り押さえ文書を隣国の国王陛下へお送りいたしました。我が国との関係に大きく亀裂を入れたいとお思いでなければ、すぐに戻られた方がよろしいかと存じます。こちらで帰国のご準備をいたしましょう」
「……仕方ないな。では、後で迎えに来るよ」
そう残し、あっけなく去っていってしまった。
今のは、一体何だったのだろうか。あっさりと行ってしまった……
と、思っていたら、私に背を向けていた彼がこちらに振り向いた。そして……思いっきり抱きしめてきた。
「こんな事になるなら、仕事なんて放り出してちゃんと話をつけておくべきだった……」
「……」
こんなところで抱きしめられるなんて、誰かが見たら大変なんじゃ……? ガストン先輩が戻ってくるんだったっけ……というよりなにより、今、この人はとんでもないことを言った気がする。
あの、近衛騎士団騎士団長様……?
今だって、こんなところにいていいのだろうか。パーティー中なら国王陛下のそばで護衛をしなくてはいけないのでは……と思っていたら、いきなり離れて横抱きで持ち上げられてしまった。
いきなりのことで何が起きたのかすぐに理解出来なかったけれど、早歩きで歩き出してしまい我に返った。
「あっあのっ! 警備がっ……!」
「知らない」
いやいやいや知らないじゃなくて!! もしもし近衛騎士団長様っ!?
「いやっ護衛どうしましたかっ!」
「副団長に任せたから心配いらない。もう意地悪は言わせないぞ」
い、意地悪!? 私がいつ意地悪を……と記憶を辿り、つい昨夜の事を思い出した。あれを意地悪と、お思いで……?
あれは意地悪ではなく、事実を言ったまでで……じゃない!
「いやっでもっ!」
「静かに」
「……」
そう言われ、無意識にも口を閉じた。
こんな姿を他の人に見られたらと思うと、恐ろしくなってしまった。しかも警備をしている団員に見られたら、終わる。
そんな想像をしてしまい、背筋が凍って血の気が引いてしまったが……辿り着いた先を見て悟ってしまい、次は身震いした。




