◇第二十九話 底辺令嬢、そして騎士 ②
「失礼、一つお聞きしてもよろしいでしょうか」
そんな時だった。王城のメイドとは全く違う服を身にまとった女性が私に話しかけてきた。服装と、この国ではあまりよく見られない容姿。恐らく彼女は隣国使節団の方なのだろう。
「ロドリエス侯爵がどちらにいらっしゃるかご存じでしょうか?」
「ロドリエス侯爵、ですか……」
近衛騎士団長の居場所か……私は詳しくは知らないけれど、昼間の今であれば陛下のお近くにいらっしゃるだろうか。いや、でも副団長と交代して違う場所にいるのかもしれない。
「あら? あなた、女性の方?」
そして、彼女とまた違った高いトーンのお声のする方が私に話しかけた。とても華やかな赤いドレスを身にまとう方は、赤髪の綺麗な女性。私よりも年下だろうか。……いや、まごうことなく、今回ご来訪された、第三王女殿下なのでは……?
「あっ……ご機嫌麗しゅう、殿下。はい、女性の、騎士団員でございます」
「この国には女性騎士の方がいるのねぇ、ふふ、素敵だわ」
「……光栄です」
そんな花のように笑う御方は、本当に可愛らしい女性だと思った。それと同時に、素敵だと言ってくださる事が新鮮でどう受け止めればいいのか分からない。
殿下の口ぶりからするに、隣国では女性騎士がいないのかもしれない。珍しい、のか。
「私、ロドリエス侯爵を探しているの。案内してくれない?」
「……かしこまりました。ですが、把握はしておりませんのできちんとご案内できるかどうかは……」
「それでもいいわ。あなたの話も聞きたいの」
「……かしこまりました」
私の話を聞きたい。そんな事を言われるとは思ってもみなかったから、一体何を話せばいいのか全くよく分からない。ただ、質問に答えればいいのだろうか。
近くにいた先輩に一言伝え、まずは近衛騎士団員の方を探すことにした。誰か団長様の居場所を知っている人がいるかもしれない。となると、まずは近衛騎士団事務室か。
「貴方はご令嬢なのかしら?」
「はい、男爵家の一人娘です」
「あらそうなの。おいくつ?」
「22歳です」
地方騎士団に入れるのは16歳から。私は16歳の時に入団し、三年勤め上げてから王城騎士団に入り3年勤めている。だから今年で22歳だ。
殿下は今年で17歳。とても可愛らしい方で、クスクス笑う姿を見ればきっと殿方は惚れてしまうのではと思うほどだった。
「そう、じゃあ16歳から働いているのね……素晴らしいわ」
「いえ、とんでもない」
「だって、私が16歳の頃はただ遊んでおやつを食べて、その傍ら勉強するだけだったもの。それに比べればとっても立派だわ。これからも頑張ってちょうだいね」
「光栄です」
こうも言われてしまうと、調子が狂いそうだ。今までこんな方が近くにいなかったし、お相手は隣国の第三王女殿下。下手な事は言えないからだいぶ緊張する。
それに、本来ならこんな下っ端の団員ではなく使用人か近衛騎士団員が案内するところのはずだ。本当に私でいいのだろうか。
そんな気持ちで内心心臓バクバクでご案内していた。早く近衛騎士団員かあわよくば団長様が見つかってほしい、という気持ちが大きくなっていく。
そんな時だった。
「あっ!」
私達の前方に、廊下をこちらに曲がった方が一人いらっしゃった。私達が探していた、近衛騎士団長ロドリエス侯爵だった。何か資料を持っていらっしゃる彼は、私達を見つける。そして、私の隣にいらっしゃる殿下は、そんな彼に駆け寄った。
「ようやく見つけたわ! ごきげんよう、リアム様!」
耳を疑った。彼女は今、リアム様と言っただろうか。
確か、第三王女殿下はこちらに初来日されたはず。近衛騎士団長である団長様は、あちらに来日された事は、確かないと思った。
もしそうなら、今回の来訪で初めて顔を合わせたという事になる。
お互い独身の男女二人が、名前で呼び合う。それは、それだけ親しみのある関係であるという事。例えば、家族とか……あと、婚約者とか、恋人とか。
「……殿下、今は公務中のはずですが」
「あら、いいじゃない。兄様が今遅れているのだから、明日到着するまで待つつもりよ。それよりもお話をしましょ」
団長様は、その件に関して何も言わない。という事は……そういう事、だ。
けれど、その後の殿下の言葉に、頭を殴られるような衝撃を受けた。
「〝私達の婚約〟の話、早く進めなくっちゃ!」
「殿下、それは」
団長様が言いきらないうちに、殿下は団長様の腕に絡みついた。
「ここまでありがとう、女性騎士さん。この後も頑張ってね」
「……ありがとうございます。では、失礼いたします」
頭を下げ、その場を離れた。団長様の顔は、一切見なかった。いや、見ることが出来なかった。
私は、今の気持ちを顔に出さずに出来ただろうか。
今の私にこう言いたい。
何浮かれてるんだ。お前はただの騎士団員だろ。そして、底辺の令嬢。
夢なんて見ていると、あとで後悔する。まさにその通りだ。
さっきまでの私が恥ずかしい。




