◇第二十話 戸惑いだらけの潜入捜査 ①
それから数日後、第三騎士団長にいきなり執務室に呼ばれた。
「近衛騎士団の方から要請が来た。ウチの女性騎士団員を派遣してほしいとのことだ」
「……派遣、ですか」
人払いまでされて一体何を言われるのだろうと危機感を持っていたけれど、近衛騎士団からの女性騎士の派遣と言われてしまい反応が遅れた。
確かに王城騎士団の中で女性騎士は私のみ。なら第三騎士団の私が選ばれるのだろうけれど、何故近衛騎士団が女性騎士を必要なのだろうか?
何となく、予測は付くけれど……その予測は当たらないでほしいなと思ってしまった。
「任務内容は聞いていないが、しっかりやれよ」
「はいっ!」
明日の早朝、近衛騎士団長の執務室に向かうことになってしまった。
デガルド団長が任務内容を聞いていないというところは引っかかるけれど、派遣という事は近衛騎士団の任務に参加する、という事。そんな光栄なことは他にはないけれど、エリート集団に私が入って粗相をしないだろうかと危機感も覚えてならない。
恐ろしくて仕方ない。冷や汗が止まらないな……
恐ろしさと危機感を覚えつつ今日の業務を終え、次の日となってしまった。そしてまた、この恐ろしい魔王城の扉を開くことになってしまった。昨日はなかなか寝付けず、気が付いたらもう朝だ。絶対に遅刻出来ないとすぐに飛び起き準備をして早めにここに来たわけだが……あぁ、帰りたい。
震える手で、コンコンッと魔王城の扉をノックした。
「第三騎士団所属テレシア・マーフィスです」
「入ってくれ」
不安が押し寄せる中、部屋の中に。狩猟大会後、いきなり女子寮の部屋に現れてはだいぶ褒められ……彼にとっては褒めたようだけれど……それから顔を合わせるのが今日。だから、変な事を思い出してしまいそうで緊張する。
今は職務中。彼は近衛騎士団長で、私は第三騎士団の女性騎士団員。そこを忘れちゃいけない。絶対に顔に出すなテレシア。
自分にそう言い聞かせ、彼の座る席の前まで進み止まった。
「悪いな、いきなり呼び出して」
「いえ、問題ありません。デガルド団長からは任務とお聞きしたのですが、どういった内容でしょうか」
「あぁ、潜入捜査に協力してほしい」
潜入捜査。女性騎士を、という事だったから薄々そんなところかと思っていたけれど、本当に来るとはと内心気落ちしてしまった。
とある外国人商人を追っているようで、これは第一騎士団が長期任務として当たっていたのだがなかなかしっぽが掴めていなかったらしい。けれど、誰かが裏で糸を引いている事は分かっているようだ。
そして今回とあるお屋敷で行われる仮面パーティーにその外国人商人が参加する。仮面パーティー参加者の中の数人がその商人の客らしく、仮面パーティーで商人と接触し取引をするらしい。そこを抑えるのか。
けれど、第一騎士団が担当していた任務を何故近衛騎士団が?
「狩猟大会で子息が使った動物誘導煙はその外国人商人から買った事が確認された。あれは国の許可がないと購入することが出来ない。早急に捕まえる必要がある」
なるほど、だから近衛騎士団なのか。
あの誘導煙は素材にいくつか問題があり、そして使用手順を間違えば被害が出るため勝手に購入することが出来ない。ただの子息があの狩猟大会で使用出来た事は国にとって許される事ではない。
本人はこっそり使おうと思って持ち込んだらしいが、使い方を誤りあんな事態になってしまったと聞いている。何故持ち込めたのかは、とある騎士団員を身分で脅して金貨を握らせたのだとか。王城騎士がなんてことしてるんだと言いたいところではある。
どうしてもこの狩猟大会で勝ちたい理由があったようだが、ルールはルール。何故これを使う事を禁止されているのか、ちゃんと理解してほしい。
「君は私達が会場潜入するための同行者として協力してくれるだけでいい。あとはこちらで処理する」
「了解しました」
この仮面パーティーでは、一人の男性が参加するのは珍しい。大半が女性で、男性は誰か女性とペアで来るのが普通だそうだ。
確かに、仮面をつけてのパーティーなんてものを考えるのは女性くらいだろう。趣向を変えた遊び、と言ったところだろうか。それに便乗する者もいるだろうし、普通のパーティーには飽きてる人達もいるはずだ。
なるほど、だから私なのか。そこいらの素人のご令嬢や夫人を協力者にするとなると、何かあった時に足手まといになる。自分の身を自分で守れるような人物でないといけない。
でも、パーティーと言われると気が重いな。またあの重いドレスと締め付けられるコルセットも付けないといけないけれど、任務なのだから仕方ない。
なんて考えていた時、座っていたはずの彼が私の横まで移動していたことに気が付いた。反対側の頬に手を添えてきて、耳元で囁いてきて。
「君のドレス姿、期待している」
「っ!?」
すぐに下がり、囁いてきた方の耳を抑えた。恥ずかしすぎて顔が火照ってしまい、彼から顔を逸らした。けれど、下がってもすぐに距離を詰めてくる。
「協力してもらうのだから、ドレスはこちらで用意しよう」
「え、あ、は、い……かしこ、まり、ました……」
私に見せてきた、少し微笑む、彼の顔。
ダメだ、顔の火照りが全然治らない。心臓だって動悸が激しくなってくる。煩くて仕方ないのに、中々収まってくれない。もしこれを近くにいる団長様に聞かれてしまったらと思うと……恥ずかしい。というより、もうすでに顔が火照ってしまっているから遅いかもしれないけれど……
「テレシア」
「しっ失礼しますっ!」
勢いでそんな大きな声を上げて急いで部屋を出てしまった。少し強めにドアを閉めてしまい、後悔した。近衛騎士団長の執務室をこんな乱暴に閉めてしまうなんて、不敬だ。
周りを見渡せば、誰もいない。よかった……あっ。
話があれで終わりなのか聞かずに出てしまった……戻ったほうが、いい、のかな……?
でも、騎士団員としてきちんと任務を遂行するためには……
そう思いつつ、ドアをもう一度、少しだけ開けて中を覗くように首を伸ばした。
「……い、今ので、お話は、お済みでしょうか……?」
私がさっきまで立っていた場所に、まだ団長様が立っていて、少し驚いているような顔で見ている。すると、クスクスと笑い始めてしまいそのせいで余計恥ずかしくなる。そして、私のところまで歩いてきては……
「あぁ、これからよろしく頼むよ」
「っ!?」
前髪を避け、額に一つキスをしてきた。火照っていた顔が、それ以上に熱を帯びてしまい、また「しっ失礼します!」と逃げるように引っ込みドアを静かに閉めた。
「あぁ~~~もぉ~~~~!!」
無意識に、心の声をさらけ出してしまった。後から気付いて、小さな声ではあったけれど絶対にドアの向こう側にいるであろう団長様に聞かれてしまったとまた恥ずかしくなってしまった。
最近は、本当にダメだ。あの微笑む顔も、優しい声も……――テレシアと呼ぶ甘い声も。
本当に、勘弁してくれ……




