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騎士団長様、クビだけは勘弁してくださいっ!  作者: 楠ノ木雫


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◇第十八話 ねぎらいとは? ①


 いろいろと問題はあったけれど、ようやく国王陛下主催の狩猟大会は終わりを告げた。今回の事件のおかげで、狩猟大会後も我々王族騎士団員達は大忙しとなっていたけれど、ようやく落ち着いてきた。


 約束通り、副団長達は私をお酒が美味しいお店に連れていってくれた。お酒は飲みませんと言えば、お肉も美味しい店だから心配すんなと言ってもらい安心しつつも連れて行ってもらった。


 そこは城下町にある居酒屋ではあるけれど、わいわい男性達が盛り上がってどんちゃん騒ぎをしているわけではない、女性客もいるカジュアルなお店だった。副団長が選んだお店らしい。



「さ、テレシア。何でも食っていいぞ。今回賭けた額は結構あるからな。日頃よく頑張ってくれてるテレシアへの先輩達からのご褒美だから遠慮するな」


「……明日は雪ですかね」


「今は初夏だぞ。雪なんて降るわけないだろ」



 いや、まさか先輩達がこんなに優しいとは思わなかった。今日は私を入れて6人だけど、本当は他の先輩達も来たかったらしい。でも人数が多くなると盛り上がりすぎて店に迷惑がかかるし酒も進みすぎるからまた今度だそうだ。


 私が絶対にお酒を飲みたくないからと気を遣ってくれたのだろうか。何ともお優しい先輩達だ。普段からそれくらいお優しいと嬉しいのだが。


 とはいえ、きっと次大勢でお店に行けば絶対に飲まされる事は分かっているから今のうちに覚悟を決めておいた方がいいかもしれない。いや、断る勇気も大事だから諦めないほうがいいかもしれないけれど。飲んだら最後恐ろしい事に繋がってしまう可能性があるから。



「はぁ、絶対緑だと思ったのに……まさか青だったとはな~」


「残念でした」


「赤にしとけばよかったのにさぁ。赤だったらあの血飛沫はごまかせただろ」


「血飛沫の付いた赤のドレスでナイトパーティーに参加しろって言ってます?」


「冗談だよ冗談」



 冗談に聞こえないですよ、それ。というより、そんな派手な色のドレスなんて絶対に着たくないですよ。


 けれどまさか、今回賭けた人達の誰も当てられなかったとは思わなかった。青は似合わないと思われていたのか。でも寮母にはとてもよく似合っていると言われたし……あのドレスの送り主にも、似合ってるって、言われたし……


 それを思うと、つい顔を火照らせそうになってしまった。危ないな。


 それにしても、狩猟大会後に王城の女子寮に戻った時は寮母に悪い事をしてしまった。血飛沫を浴びたドレスを着ていたから、必死になって「お医者様を呼ぶわねっ!!」と焦っていた。怪我はしていないと止めるのが大変だった。


 そして、ドレスの処分も心苦しく寮母にお願いした。本当に、本当に申し訳ない……



「にしても、あの会場での騒ぎは見ものだったな。土下座だぜ? 土下座!」


「あの、見世物じゃないんですけど」


「でも土下座させられるテレシアはかっこよかったぜ?」



 それはそれでおかしな話だが。あの会場内にいた騎士団員は第三騎士団が3人いたらしい。この中にいる先輩達は直接見ているか耳にしているらしく、皆さんご存じだったようだ。


 はぁ、本当にやってくれるなあの親子は。周りの目があれば行けるとでも思ったか。見当違いだ。



「まっ、テレシアがあんな身勝手なもんに目を瞑って白紙に戻してやるほどのお人好しではないと知ってはいたけどさ。でも何事もなくてよかったよ」


「……ご心配おかけしました」


「でも俺聞いたぜ? 親父さん来るんだよな?」


「……」



 それは、言わないでほしかったです。本当にどうしようと考えてはいるけれど、解決策が全く思いつかない。一体どうしたらいいのだろうか。お母様が一緒に来るか分からないけれど、もし来て下さったら助けてもらうしかない。



「お前の親父さん凄いんだろ? 一戦交えたいな~」


「もしそうなったとしたら、命はないと思っておいてください」


「……マジ?」



 簡単に転がされますよ、ガストン先輩。


 私が騎士団に入団すると言い出した後の父は、剣を持ち何度も鍛錬に付き合わされた。その時の父は本当に怖かったことを今でも覚えている。いや、一生忘れられないな。騎士団に入ったらそんな甘えは通用しないぞ!! と何度も言われた。


 ……本当に来るのかどうかを考えたいところだけれど、きっと来るんだろうなぁ。確か陛下がお会いしたいらしいけれど、冗談で近衛騎士団に引き戻すと言っていた。本当にそうなったら……恐ろしい。



「あ、そういえばテレシア、お前が着てたドレス、誰に貰ったんだよ」


「……」



 危うく、飲んでいた水を吹き出すところだった。ドレスの話ではあったけれど、いきなりそれは出さないでほしい。


 あのドレスは一体誰から貰ったか。さて、困ったぞ。



「ウチの母上がさ、それとな~く聞いてこいって煩くてさ。で、誰?」


「副団長、それもうそれとなくになってないっすよ」


「いいんだよ、どうせテレシアだし」


「あの、それどういう事ですか」



 もうそれはド直球のような気がするけれど、副団長の性格からしてそうなるでしょうねと納得してしまった。


 さて、困った。一体どんな言い訳をすれば納得してくれるだろうか。さすがに正直には言えない。



「どうせ女性だろ? 仲いいやつでもいるのか」


「……最近仲が良くなった、友人です。ドレスを買おうとして困ってた時、声をかけてくれて……サイズが一緒だったので、お古をもらったんです」


「へ~、意外だな」



 その意外とはどういう意外なのか聞きたいところだ。私は友達がいなさそうだとでも言いたいのだろうか。確かに騎士なんてやってるからあまり女性の友達はいないけれど、女子寮で顔を合わせる子達とは仲は良いと思う。


 酷いな、副団長。


 それにしても、副団長に聞かれるとは思わなかった。確か、寮母はシンプルだけど見る人が見ればこれは高級品だと分かると言っていた。副団長は伯爵家の嫡男。そのご夫人が聞いてこいと言ってきたという事は、上位貴族のご夫人ならあのドレスがどういうものなのかが理解出来るという事。


 という事は、他の夫人も見ていたという事になる。


 男爵家の令嬢で、社交界に全く顔を出さない私がこんなドレスを着ていた。誰だって不思議に思うだろう。


 第三騎士団員にも貴族の子息達が多い。だから他にも聞かれるかもしれないけれど、ちゃんと言い訳を考えておいた方がいいかもしれない。


 そんな事を思いつつ、美味しい骨付き肉を堪能した。


 色々と面倒な話に耳を傾けつつも、しっかりとデザートまで頼んだ。奢ってもらえるのだから遠慮なく食べるに限る。



「うわ、副団長それ食うんですか。いつも思うけど見た目とギャップありすぎっすよ」


「テレシアの方が食ってるけどな」


「先輩達の労いですから、ありがたみはちゃんと感じてますよ」



 確かに、副団長は身長高めで細身だけど筋肉ムキムキではあるからスイーツは似合わないかもしれない。


 まぁ、どうせ副団長は私が交流会で食べたケーキを羨ましいと思ってのそのケーキなんだろうけれど。


 それに代わって私は苺のケーキに、チーズケーキに、ガトーショコラだ。狩猟大会ではいろいろとハプニングはあったけれど私は頑張った方だと思う。なら、自分へのご褒美はちゃんと与えなくては。



「本当に先輩達は甘いもの苦手ですよね。こんなに美味しいのにもったいない。甘いもの食べれば疲れ取れますよ?」


「うるせぇ。肉で十分だろ」



 さすが脳筋。ケーキ美味しいのに、もったいないな。


 でも、前にケーキを食べていて「お前、そういうところ女子だよな」と言われた事がある。とはいえ、普通のご令嬢より食べるところは可愛くないと思う。つくづく女子からかけ離れたご令嬢だと自覚はしているけれど別に気にしない。


 お会計の額は見せてもらえなかったけれど、きっと相当な額になった気がする。ちょっと食べすぎたな。けれど、ありがとうございます、ごちそうさまでした。明日からも先輩達に置いていかれないように精進しよう。


 男子寮の先輩達と別れて女子寮のある方へ。仕事終わりに食事に連れていってもらったから、もう辺りは真っ暗。けれど王城は明るいので夜道には困らない。


 今回の狩猟大会では色々な事があった。そして一番は今回私が陛下とお話をした事が大きかった。その事を貴族達が目撃してどう思ったのかは分からない。けれど、私は第三騎士団団員。王城騎士団所属なのだから、下手に手は出せない。だから自分で気を付けていればいいだけの事だ。


 美味しかった食事を思い出しつつも、とってもいい気分で女子寮に戻った。


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