表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騎士団長様、クビだけは勘弁してくださいっ!  作者: 楠ノ木雫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/29

◇第十七話 それはまるで夢のような ②


 誰か来てる、早く隠れなくちゃ。


 潤んだ目で騎士団長様に訴えると、大人しくなってくれるけれど口は離してくれない。ど、どうしよう……


 心臓の音が、どんどん大きくなって心拍数が上がっていく。見つかったらどうしよう。近衛騎士団長様と、ただの騎士団員がこんなところで、だなんて……恐ろしくてその先を考えたくない。


 話し声も大きくなり、そして、ガチャ、とこのドアの音が聞こえてきた。


 ……――終わった。


 そう思っていた時だった。



「あら?」


「どうしたの?」


「鍵がかかってるのかしら? 開かないわ。休憩室は、ここで合ってますよね?」



 か、鍵……? 鍵、かかってたの……?


 鍵がかかっている事に安堵してしまったけれど……目の前の騎士団長様の視線が、痛い。そむけると、口内に侵入している舌が、私の弱い部分をツンツンと触れてくる。つい声を出しかけて、すんでのところで止めることが出来た。危ない……


 だって、私の後ろにあるドアを隔てた先には、女性が何人かいるんだもん……お、恐ろしい……



「なら、あちらの休憩室に行きましょうか」


「えぇ、そうしましょう」



 そして、ようやく去っていった事を足音で確認出来て安堵したが……忘れるなと言わんばかりに舌が暴れ始める。


 また来たらどうするんですか!! と訴えたかったところなのに、頭が真っ白になってしまった。ようやく離してもらえたと思うと、力が抜けその場にしゃがみこんでしまう。足に力が、入らない……


 目の前には、しゃがみこみ抱きしめてくる騎士団長様。



「本当は、早く君に会って、今日の頑張りを褒めてあげようと思っていた。だが……腹の虫が収まらなくてな」


「っ……?」



 は、腹の虫……? 一体どうして……と、思ったけれど、さっきの様子ではあの元婚約者が原因だろうか?


 もしかして、あいつのせいで、こんな事になってる、と? もしそうなら……顔面を殴るぐらいはした方が良かったなと後悔する。



「嫉妬で頭がおかしくなりそうだ」


「っ……」



 この近衛騎士団長様からの口から、嫉妬というワードが出てきた。あの悪魔の近衛騎士団長がそんなワードを出てくるなんてあり得ないと普通は思ってしまうけれど、目の前のこの方は……いつも私のところに来てくださって、私に微笑みかけてくれる方だ。


 本当にこの方は、近衛騎士団長様なのだろうかと思ってしまう。



「テレシアに寄り付く元婚約者達も……」


「……」


「テレシアを拒絶する者達も……」


「……」


「自分の利益のために近づく者達も……」


「……」


「全て、排除したいと思ってしまう」



 排除。一体その言葉の意味を聞きたいところではあるけれど、この方は近衛騎士団長。もし、私が先ほどお返しした剣が、この方によって鞘から抜かれてしまったとしたら……


 そう思うと、生きた心地がしない。



「あ……あの……近衛騎士団長様……?」


「……テレシアは優しいな。仕方ない、君の望まない事はしないと心がけよう」



 そう言うと、少し身体を離しキスをしてきた。微笑みながら、甘いキスをしてくる。


 私は今、元婚約者達の命を救ったのだろうか。けれど、間違いないのは、私が先ほど第二騎士団副団長と会話しているところ、そしてあの騒ぎを見ていたという事。


 命拾いしたようだ。あの人達も。


 きっと、この方が剣を抜いたとしたら……この国の貴族達の人口が減ってしまうだろう。



「君はやはり素晴らしい。ドレスを着ていても、団服を着ていても」


「っ……」


「まさかケーキ用ナイフで仕留めてしまうとは思わなかった。だが、無茶に変わりはない。剣が間に合ってよかったよ」



 私は今、褒められているのだろうか。それとも、怒られてる?


 もし褒められているのだとしたら、その相手が近衛騎士団長様、雲の上の人達を率いる、エリート中のエリートの方だと思うと、嬉しさがこみあげてくる。


 さっきのもやもやした気持ちと、お父様が首都に来てしまうのではという危機感が、もう私の中から消えてしまうくらいの嬉しさだ。



「ん?」



 そんな彼に、顔を覗かれてしまった。まるで、心内まで覗かれてしまっているような気分だ。けれど、褒められ慣れていないから、どんな顔をしていいのか分からない。



「ぁ……ド、レス、汚してしまって、すみませんでした……」


「あぁ、あれはただの付属品だ。主役の君が何事もなかったのだからそれでいい。それに、そのドレスも、靴も、装飾品も私が君に贈ったもの。君の好きにしてくれていい」


「あ、いえ、その……」



 あの装飾品達に使われているものは、きっとジュエリーだ。あんな高級品を女子寮に置いておいてもいいのか全く分からない。それにどう保管した方がいいのかすらも。


 どうしたら、いいんだろう。



「やはり仕事中とはいえ名残惜しいな」


「あっ」



 そして、軽いキスを一つした後に抱き上げられ、部屋にあるソファーに降ろされた。私の頬に触れる手は、とても優しくて温かい。



「だが、この先は終わった後の楽しみにしておこう。君は休んでから仕事に戻ってくれ。私は先に戻る」


「……はい」



 キスを一つ残し、行ってしまった。


 途端、静寂が訪れる。そうだ、今は仕事中だ。こんな事をしている暇はない。けれど、近衛騎士団長が国王陛下のそばを離れていいのかと聞きたくなる。


 ……何残念がってるんだろう。自分は。


 とりあえず、私も落ち着いたらすぐに見回りに戻らなきゃ。


 残念、という気持ちはあるけれど……さっき褒めてくれたことが、嬉しくて舞い上がりそうにもなっている。私は子供かと言いたくなるくらい。


 でも相手が近衛騎士団長様なのだから仕方ない。私達とは比べ物にならないくらいの、雲の上の方なのだから。しかも、そんな方から剣まで貸していただけた。こんなもの、下っ端の騎士団員には贅沢すぎる。


 そう、贅沢すぎるんだ。贅沢すぎるにも、程がある。


 そう思うと、この部屋から出たくないと思ってしまう。この部屋を出れば現実に戻ってしまうから。もう少し、この幸福感に浸っていたいと思ってしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ