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騎士団長様、クビだけは勘弁してくださいっ!  作者: 楠ノ木雫


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◇第十三話 血濡れのドレス ②


 まさか陛下自らお礼を言われるとは思わなかった。とはいえ、怪我人が出るところであったのは事実だ。



「して、両親は元気か」


「えっ……あっ、はい、病気もせず健康だと、聞いています……?」



 の、だけれど……何故、私の両親の話が……?


 あ、まぁ、私の父は近衛騎士団員だったし……退職しようとしてそれを断ったのが陛下だし。



「ふふ、マーフィス男爵にお嬢さんがいたことは知っていたけれど、こんなに勇ましくて素敵なお嬢さんだったなんて知らなかったわ。そうねぇ、目元は父親似かしら」


「剣の腕も似たようだな。まさかケーキ用ナイフで仕留めるとは……無茶はあやつに似たのか」



 お父様に似ていたら、もっと器用に出来たはずなのだが。でもさすがに陛下方の前でこんな発言は出来ない。


 というか、何故私はお二人の前に立ってこんな話を聞かされているのだろうか。



「あやつが騎士団を辞めると言い出した時は本当に驚いた。剣しか頭に入っていないやつだと思っていたんだが、その一年後に娘が生まれたと聞き納得したものだ。だが、まさか娘を送り込んでくるとはな」


「……いえ、父は私が騎士団に入団する事にあまり前向きではありませんでした」



 その時の父の様子を思い出し、つい発言してしまった。


 お父様は小さい頃から剣を教えてくれた。けれど、全て護身用だ。騎士を務めるため、他人を守るためのものではなかった。お父様は最初から、私を騎士にさせるつもりは全くなかったのだと今なら十分に分かる。


 自分の身は自分で守れ。


 そう何度も何度も、小さい頃から聞かされてきた。お父様がその言葉に込めた思いは小さい頃の私には分からなかったけれど……今ならよく分かる。



「ほぉ、では父の反対がありつつも入団したという事か。自分の考えを全く曲げないあの頑固者がよく許したな」


「母が、本人の思うままにするべきだと父を説得してくださいました」


「なるほどな。それこそ家族愛、と言ったところか。あやつも立派な父になったな。あとで、たまには顔を出せと伝えておいてくれ」


「かしこまりました……」


「あわよくばお主を近衛騎士団に引き戻すと考えている、とも伝えておいてくれ」


「えっ」


「ははっ、冗談だ」



 陛下って、冗談言う人なんだ……知らなかった。すぐに手紙書いた方がいいんだろうけれど……本当にそれは、書かなくていいんだよね?


 確か、お父様は陛下の事を「酷いお方」と言っていた事が何度かあった。一体何が酷いのか分からなかったけれど……なるほど、そういう事か。


 というか、確かにお父様は頑固者ではあったけれど、陛下がそれを知っているというのはどういう事なのだろう。お父様、私聞いてませんけど。



 そして、狩猟大会は予定していた時間よりも早く終了となった。森の中を調査したところ、何やら大会で使用禁止とされている動物誘導煙を使った子息がいたらしい。使い方を間違え火まで出してしまい、こんな事態となってしまったらしい。


 素人が使えばそういった被害が出る。だから禁止したというのに……ちゃんとチェック出来なかったこちら側の責任だ。


 あとは、毎度のことながら警備員達を金で釣って狩りを手助けさせようとした子息やらもいたらしい。これに関しては本当に呆れるな。身分を振りかざせば従わせられるとでも思っているらしい。


 狩猟大会参加者が森から引き返すあたりで、交流会の方に参加していたご夫人達は一足先に王城へ移動となった。もちろん国王陛下と王妃殿下も移動となったが……何故か馬車までは私が護衛になってしまった。


 こんな血飛沫の付いた私が護衛だなんて、いいのだろうか。


 まぁ、ドレスでは馬に乗れないためその後参加者達の誘導の方に回ったが。



「あなたがこんなところでケーキ食べてサボっているからこんな事になったのよ!!」


「あら、私が警備に参加していればこんな事にはならなかったとおっしゃってくださるとは、それほど私の腕を買ってくださっているという事ですね。ありがとうございます。ではこちらの馬車にどうぞお乗りください」


「ちょっとっ!!」



 煩いご令嬢達もさらっと流してご移動いただいた。


 ……団服に着替えたい。今日一日で何回そう思った事か。血飛沫まで付けて汚してしまったし、破いてしまったところまで。最悪だ。せっかく有名なブティックであつらえてプレゼントしてくださった素敵なドレスをこんな事にしてしまったなんて。


 団長様にも、そしてこれを製作してくださったブティックにも顔向け出来ないな。


 そんな時だった。



「おい」



 そう声をかけたのは、顔をあまり見たくないと思っていた私の元婚約者。服装からして、この人も狩りに参加していたのか。果たして何匹仕留められたのか、運動音痴な彼には聞かないほうがいいか。もし一匹も仕留められてなかったら可哀そうだ。


 けれど、これ、と出してきたのは……私が付けていた白のイヤリング。無くなっていた事に今気が付いた。



「落としてたぞ」


「……拾っていただき感謝いたします」


「何でそんなに他人行儀なんだよ。元々婚約者だったろ」



 元婚約者、ね。自分で婚約破棄しておいて、自分から声をかけるなんて一体何を考えているのやら。普通関わらないはずなのに。



「今はもう婚約者ではありません。では子息、このまま速やかにご移動願います」


「お前は? 馬車乗せてやるけど」


「業務中でございますので、お気になさらず」


「ドレスだろ。仕事じゃねぇだろ」


「仕事です」



 舌打ちをし、そのまま去っていった。けれどまさか、私が落としたイヤリングを拾ってくれるとは思わなかった。私が剣を振るっていた時に落としたのだろうか。


 でも、あの人は森の中にいたのに拾うタイミングはあっただろうか。誰かが拾って子息に渡した?


 それに、あの人はこんなにご親切な方だっただろうか。あの人が私に婚約破棄を言い出した理由を思い出すと……怪しい。


 まぁ、もう他人で関係ないんだからいいや。それよりまだ誘導が完了していないのだからそっちに専念しよう。


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