◇第十一話 戦力外通告? ④
その時だった。私達に話しかけてきた女性が一人。
「こんにちは、お嬢さん方」
「サリー夫人! ご機嫌麗しゅう」
「えぇ、御機嫌よう」
何となく見たことのある女性。とっても素敵なブロンズヘアーの、大体私のお母様と同じくらいの歳の方。警備中に何度か見た事がある。確か、マダムと呼ばれていたような。
彼女は開いた扇子で口元を隠し、にこやかに微笑んだ。
「あら、見覚えのない方がいらっしゃるわ」
「テレシア・マーフィスでございます。マダム」
「あらあら、マーフィス男爵のお嬢さんだったのね。そうねぇ、何となく似ているわ。今日は交流会の方に?」
「はい」
と、いう事は私が騎士をしている事を知っているという事。
きっとマダムも私の婚約破棄の事は耳に入っているはず。私がここにいる理由は、何となく予測が出来たはずだ。次の殿方を漁りに来た小娘、だなんて思われてしまうかもしれないけれど、本当なのだから言いようがない。
そしてマダムは、私を頭の上からつま先まで品定めするかのように視線を動かした。
「とっても素敵なドレスね。贈り物かしら」
にっこりと微笑むマダム。果たして、その扇子は何を隠しているのだろうか。何となく、緊張感を覚える。
「マダムもそう思いますか? わたくし達もそう話していたのですよ。きっととっても素敵な殿方からの贈り物のはずだわって」
「そうねぇ、私もそう思うわ。だってとってもお似合いだもの」
「本当に、マーフィス嬢にお似合いだわ」
なるほど、マダムも女性騎士に対してあまり良い印象は持っていないらしい。マダムの事はあまりよく知らないけれど、服装からしてきっと上位貴族の方だ。
とはいえ、社交界に顔を出さない私にはあまり関係のない事。今日の交流会をやり過ごせばいいだけ。
「最近は殿方がレディにドレスを贈る事は珍しくなくなったわ。ウチのブティックでも、レディにドレスを贈る殿方が多くなったの。確か、つい先日はドレスを着慣れていないご令嬢に青色のドレスを贈りたいという注文を受けたわね」
うちのブティック? という事は、ドレスなどを製作して販売するブティックを経営している、という事か。知らなかった。
「もしかして、デビュタント用でしょうか? もしそうならとっても素敵なお方ですわね!」
「素敵ですわ~! きっと、誰かさんのドレスよりよっぽど素敵なドレスなのでしょうね」
そう言いつつ私をあざ笑うかのような視線を向けるご令嬢。
けれど、何か引っかかる。着慣れていないご令嬢に、青色のドレス。とはいえ、偶然なのだろうけれど。
マダムは夫に呼ばれ行ってしまった。マダムを味方に付けられたからか令嬢三人はだいぶ勝ち誇った表情を向けてくる。
「せいぜい男漁りに勤しむことね。あぁでも、そんなドレスを着ているご令嬢に殿方が振り向くか分かりませんけど」
「ふふ、独り身で一生を過ごすなんて可哀そうだわ」
3人は鼻を鳴らして、去っていった。何とも得意げな様子ではあったけれど、言わせておけばいい。
マダムがいらっしゃる前に、彼女達は私に分を弁えろと言っていた。彼女達の両親が動けばどうなるかは分からないとはいえ、私は国の騎士団所属。下手に手は出せないわけで。だからその件に関しては大丈夫でしょうね。
はぁ、こういう事があるから嫌なんだ。さっさとこのドレスを脱いで団服に戻りたい。美味しいご飯が食べたい。早く終わってくれ。
そして、全員が入場し国王陛下方もお揃いに。狩猟大会が始まるラッパが鳴らされ、狩猟大会の参加者が森に入っていった。
「マーフィス卿は予測出来ましたか? 今年の優勝者」
「そう、ですね……よく分からないので、難しいですね」
「騎士を務めていると忙しいですからね。それは仕方ありませんね」
同じ寮のご令嬢達とテーブルを囲み、振る舞われたケーキと紅茶を楽しんでいた。
狩猟大会には、王国騎士団所属の者達は参加を禁じられている。それでは他の者達にハンデがあったとしても優勝者は決まってしまい、所属していない者達が優勝なんて出来るわけがないからだ。
長年騎士団をしていると、社交界の事は何となくでしか知らず参加者名簿を見なくては名前すら出てこない。とはいえ、絶対に予測しないといけないわけではないから困りはしないが。
私達から一番遠くにいらっしゃる国王陛下と王妃殿下。その近くに立つ、近衛騎士団騎士団長。
あまり仕事をしている姿を見ないから、何となく新鮮に思う。このドレスを贈ってくれた方なのに、別人に見える。
そう、全くの別人。
いつも、そればかりだった。
私の着ているこのドレスは、今日終わったらどうしたらいいんだろう。女子寮のクローゼットにずっと掛けておく? しわになったら最悪だし。
今だって、しわにならないように、汚さないようにと気を遣ってだいぶ緊張している。こんなドレスは着たことがないから緊張で団服が恋しくなっている最中だ。一体何回心の中でため息を吐いた事か。もうさっさと帰りたい……
けれど、ケーキはとっても美味しい。うちには一応甘党の副団長がいらっしゃって偶にお菓子をおすそ分けしてくれる。とりあえず副団長に言っておこう。交流会で出たケーキ、美味しかったですって。
けれど、その時だった。私は一応耳がいいから、ふと森の方に目を向けると……寒気がした。
「えっ」
「あれ、って……」
「っ……逃げてっ!!」
森から飛び出し、こちらに向かってくる……――小さな動物。
奥からまた二匹出てくる。
待って、違うところからも一匹出てきてる。向かう先には……参加者達が乗ってきた馬車がある。御者達がいるところだ。




