◇第十話 戦力外通告? ③
首都でタウンハウスを所持する貴族は、大体が上位貴族や下位貴族の裕福な家のみ。首都にいる他の貴族は、私のように寮に入ったりと就職先に住んでいる人達ばかりだ。
そして、王城で働く使用人達は貴族の者達が多いため、国が主催するイベントに参加する事もある。そのため、王城では寮母が手伝いをしてくれる事もあり、乗り合いの貸し馬車もある。
「あらまぁ、とても素敵なドレスねぇ」
「……貰いものです」
「それにしてはサイズがぴったりね。とても仲が良い素敵な殿方に贈ってもらえたのね。テレシアちゃんのそんな噂聞かなかったけれど、隅に置けないわね?」
サイズがぴったり、という言葉に一瞬肩が上がりそうになった。顔の温度は上昇してしまったけれど、着替えを手伝ってくれる寮母は後ろにいるため見つかっていないはず。
その貰った相手が女性ではなく男性だと決めつけているのは何故なのか聞きたいところではあるけれど、正解なのだから下手な事は言えない。
「……そういうのじゃないです」
「そう? でもこの靴、靴底に有名なブティックのロゴが入ってるわよ? ドレスにだってほら、同じロゴだわ。上位貴族の方かしら? 今は殿方がご令嬢にドレスをプレゼントする事が増えてきてるって聞いたけれど?」
ふふふ、と笑い声が聞こえてくるが、そこまでして私の恋愛事情が気になるのか。そんなもの、期待したところで何も出てこない。むしろ、私の場合殿方との結婚よりクビになってこの寮から退去する可能性の方が高い。
青色で、Aラインと言うらしい形の、シンプルではありつつも見る人が見れば高級品だと分かるドレスらしい。ドレスに疎い私にはよく分からないな。
「テレシアちゃんの事を思ってこのドレス達を用意してくれたのね。とっても気配りの出来る方だわ」
「どう、でしょうね……」
これがリボンに宝石にレースにと色々な装飾が施された豪華なドレスだったら、きっと周りから批判を受ける事だろう。男爵令嬢のくせにこんな豪華なドレスを着るなんて生意気だわ、と。だから、その点は助かった。
この寮は下位貴族のご令嬢達が住んでいるから、皆準備が出来ると寮前に準備されていた貸し馬車に乗る。二階にある私の部屋から、ドレスの裾を気にしつつ階段をゆっくりと降りて寮を出ると、6人乗りの茶色の馬車が二台停まっていた。
私の部屋の隣に住むご令嬢が私を見つけたらしく、馬車の中から手を振ってくれた。そちらの馬車に向かうと御者の方がドアを開けてくれて、空いていた一番手前の席に落ち着いた。
「テレシア卿も交流会に参加するのね?」
「えぇ、両親に参加するよう言われてしまって……」
「そう……貴方も大変ね」
乗り合いとなったご令嬢達は、私がついこの前婚約破棄をされた事を知っているらしい。あまり触れないようにと楽しい話題を出した。
まぁ、これから上位貴族のご令嬢達に笑いものにされかねない場所に行くのだから、気分的にも明るい話題にしたいでしょうね。ここにいる皆は男爵令嬢や子爵令嬢と下位貴族ばかりなのだから。
私の場合、笑いものにされるのは慣れている。だからそこら辺のご令嬢からのいびりは、第三騎士団で鍛え上げらたこの私を傷つける事なんて出来ないだろうから問題ない。もしどうしても傷つけたいのであれば、第三騎士団長くらい連れてきてほしいものね。
狩猟大会の会場となっているこの森周辺には、もうすでに警備員となっている騎士達が緊張感を漂わせて準備をしていた。そして、使用人達もだ。私達は下の階級の貴族の為最初の会場入りとなる。
ガーデンパーティーのように丸いテーブルがいくつも並んでおり、その先に二段の大きな台が設けられ、その上に豪華な椅子が二つ。国王陛下と王妃殿下がお座りになる椅子だ。
会場のテーブル席には身分の高い者達から順番に席に着くため、私達はまだテーブルの近くに立つだけ。会場には身分の低いものから入場するため、ずっと立ちっぱなしとなる。
当然、足が疲れてしまうご令嬢も結構いる事だろう。私は足を鍛えているから問題ないが。ご令嬢達も大変だ。
そして、ぱらり、ぱらりと参加者達が入場してくる。私達は集まって話をしていたけれど、そちらに向ける視線が少し鋭いようにも感じる。
「あら、マーフィス卿ではなくて?」
「あら、今日はマーフィス嬢かしら? こんなドレスを着ている姿を見ることが出来るなんて、驚きましたわ。とっても、お似合いですよ?」
いつもの、上位貴族のご令嬢3人。余程、私の事が気になるらしい。私のドレス姿を見てはクスクスと笑ってくる。
一体これを贈ってきたのは誰なのかを言いたいけれど、それでは騒ぎになるからやめた方がいいだろう。
「ご令嬢なんですもの、この国王陛下主催の狩猟大会の警備員なんて務まるわけがないでしょう? 足手まといになるんだからここにいた方がいいわよ。マーフィス嬢は素晴らしいわ、自分の実力を弁えているんだもの」
「そうですか」
面倒な会話にいつものように返すと、ご令嬢達は気に入らなかったらしい。不満気な顔を向けてきた。
「……なんですの? わたくし達に文句がおありなのかしら。でも、マーフィス嬢はしょせん底辺の男爵令嬢。お父上が名のある騎士だったとしても、貴方は女性ですもの。まだ騎士をしていること自体がおかしいのよ」
「そうですわ。分を弁えなさい」
貴方はご令嬢なのだから分を弁えろ。よく言われる言葉だ。
女性は皆貴族の家に嫁ぎその家の後継者を産むことが使命であり、それが一番の幸せである。
これは社交界では基本である。とはいえ、それは王国憲法には全く載っていない。令嬢が騎士をしてはいけないとも載っていない。
これが当然のことだと誰かがそう言い出し、広め、権力で反対派を黙らせてきた。ただそれだけの事。
反対派からしたらこんなもの、迷惑でしかない。けれど、社交界の女性達は噂好きで面白がる人達ばかりなのだから、それを面白がって笑いものにする者達が大半だ。彼女達のように。
「……あなた方の中に、王国騎士団を管理する権限を持っていらっしゃる方がいらっしゃるという事でお間違いありませんか?」
「っ……!?」
「だってそうでしょう? 分を弁えろ、と仰るという事は王城騎士団に口出しが出来る権利を持っているという事でしょう。違いますか?」
「っ……」
「私は王国騎士団第三騎士団員です。騎士団の方から退職を命じられれば、ちゃんと退職届を出しますよ。まぁ、ちゃんと納得出来る理由があるのであれば、の話ですが」
彼女達の表情は、歪んでいた。自分の思い通りに行かないから腹を立てている、という事が目に見える。ご令嬢の身分で何を出しゃばっているんだ、と言われたのだから当たり前か。
彼女達の両親が動けばどうなるかは分からないとはいえ、私は国の騎士団所属。下手に手は出せないわけで。だからその件に関しては大丈夫でしょうね。




