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記憶喪失の姉弟魔法使い  作者: https://
プロローグ
1/4

握手


気が付いたらベッドの上にいた。

何が起きたのかわからない。

ここがどこかわからない。

いつからここで寝ていたのかわからない。

どうしてここにいるのかわからない。

そしてそこに座っている赤い髪の少女が誰なのかわからなかった。


(パスパス…)少し声をかけることを躊躇った僕は、少女に気付いてもらうためにわざと軽く布団を蹴り、音を立ててみた。


「あ、起きた。」

「大丈夫?怪我とかしてない?」


(怪我…?)怪我をしていないかどうかを確認するために、指先から少しずつ体を動かす。特に痛むことはなかったが、まだ身体は少し眠そうにしていた。


「怪我はない」


「とりあえずよかった。立てる?歩ける?」


重い身体をどうにか起こし、立ち上がり、歩いてみせた。


「本当に何もないのね!」少女の表情は少し驚いているようにも見えた。


「ああ…問題ないみたいだ。」


「じゃあ言わせてもらうけど、なんてことしてくれたの!」急に少女は怒り出した。


「え??」何のことかわからない。


「しらをきるつもり?こっちに来なさい。」先ほど心配してくれた彼女とはうってかわり、語気が強くなった。



何もわからないまま少女について行った。

家の玄関が壊れていた。その怒りようから、ここが彼女の家だとわかった。そして、何か大きな金属の塊が、玄関に突っ込んでいた。しかし、僕はそれと少女の怒りが結びつかなかった。


「これどうするつもり?」


何のことかわからなかった。


「どうして僕が?」


「どうしても何も、これぶつけたのあんただからでしょ。あんたこの中にいたし。大体何なの?これ?まさか、()()()()の指示じゃないでしょうね?それから…」


「待って!一旦、待って!」

少し深呼吸をした。状況を整理してみようとしたが、やはり何もわからない。それどころか、過去の記憶の大部分が抜けていることに今気がついた。

そして、僕が困惑している様子を少女も察したらしい。


「はぁ…ほんと何なのよ…」少女はため息と愚痴を漏らした。まだイラつきは感じるが、彼女もようやく落ち着いたように見えた。


「向こうの部屋で話しましょ。」



部屋に着いた。


「そこに座って。」椅子に座り、少女もテーブルを挟んで自分の前の椅子に腰をかけた。


「じゃあ質問するから正直に答えてね。」


「あ、はい…」


「名前は?」


「レジー・ハルモッド」


「レジーね。年齢は?」


「17歳」


「これが本題ね。何であんなものをうちの玄関にぶつけたの?というか、あれ何?」


「覚えてない…」


「まだしらをきるの??」


「ごめん。本当に覚えてないんだ。というか、自分の過去のこともほとんど何も覚えてなくて…」


「記憶喪失ってこと?本当に覚えてないの?」


「ごめん…」


(嘘をついているようにも見えないか。)


「じゃあどこに住んでるの?」


「それも覚えてない」


「はあ…逆に何なら覚えてるの?」


「昔母親に捨てられて、魔法使いと学生をやりながら、妹と一緒に生活している。それ以外の人間関係については思い出せない。」


「かなり重症ね。魔法使い……?は引っかかるけど、魔法で何をやってたの?」


「口から炎を出したり、右手から氷を出したり、左手から岩を出したり…」


「なるほどね。妹の名前は?」


「リア・ハルモッド。」


(手がかりは妹だけか…)


「妹は今どこにいるの?」


「わからない…」


「……………」


「……はあ…どうすればいいのこれ…」


「…………」

少しの間沈黙が流れた。少女は難しそうな顔をしながら、落ち込んでいるようにも考えているように見えた。

少し経った後、レジーが話し始めた。


「あの…僕からも質問いいか?」


「あ、うん…」


「僕と君に何があったんだ?」


「私がわかるわけないでしょ。今日の朝の8時くらいに急にあんたがあの金属の塊と玄関に突っ込んできたのよ。中にあんたがいたからベッドで寝かせておいたの」


「君の名前は?」


「ベリナ・ステイシー。歳は秘密。家族と居候の3人で住んでる。」


「ベリナって言うんだ。とりあえずよろしく。」


「よろしくじゃないわよ!今日は仕事も休みでゆっくりできると思ったのに!!せっかく寝てたのに!どうすんのよこれ!!お金はあるんでしょうね?!」


「……」


「弁償してもらうから。」


僕は本当に何もわからないので、少し理不尽に感じた。だが、その金属の塊の中に僕がいたということは、僕がやった可能性が高いのだろう。責任は取らなければならないとおもった。


「わかった。僕が何とかしよう。」


「どうやって?」

急に男性の声が聞こえた。

「うぇえ?!」レジーはいきなり声をかけられかなり驚いてしまった。


「ごめんな。驚かせるつもりはなかったんだ。まあ驚きたいのはこっちなんだけどね。初めまして、クロード・ステイシーだ」


家の玄関がぶっ壊されているのに随分と余裕がありげだと思ったと同時に、彼がベリナの家族だとわかった。年はベリナより7つほど上だろうか、父親というより兄に見えた。


「電話で聞いてたけど思ってたより酷いなこれ。建て直しも考えないとな。とりあえず業者呼ぶか。」


業者の人が来るまでの間、僕はクロードにも自己紹介と自分の記憶がないことを話した。


「なるほどね。魔法使いってのはよくわからんが、魔法が得意ってことなんだろう。少し見せてくれないか。」



勝手口から外に出て僕は魔法を見せることにした。玄関の中からはわからなかったが、かなり大きい家に見えた。


「よし、氷を出してみてくれ。」

クロードが合図をした。

僕は言われたように、ゲンコツくらいの大きさの氷を出した。

「んんっ!……」

すこし力をこめてそれを的に向かって発射させた。

弾丸のようなスピードの氷は、的を容易く砕いた。


「おお…」二人は驚いていた。


(基本的な魔法ではあるが、この速さ、質量。相当な努力の賜物か、あるいは…)クロードはレジーの魔法を見てこのように考えていた。



そしてしばらく経ち、業者の人が来た。

「1億3000万エンになります。」


金銭感覚も忘れてしまった僕はその金額を理解出来なかったが、ベリナの驚いた表情を見てとんでもない金額なのだと察した。さっきまで余裕ありげだったクロードもショックを隠せていなかった。


「少し話してくるから、ベリナとレジーさんはベリナの部屋で待ってて!」すぐにショックを隠すように、少し高い声でクロードが話した。



しばらくベリナの部屋でも沈黙が続いたあと、最初に口を開いたのはベリナだった。

「あんた…そんな大金出せんの?」

あれだけ怒っていたベリナが少し心配そうにこちらを見る。


「その金額がどれほどの額か僕にはわからない…でも、お金にあてはない」


「そんなことだと思った。私の給料20年分って言えば少し想像つく?」


「ああ……」想像は出来たが、実感は沸かなかった。


「仕事にアテはあるの?」


「………」

魔法を使って働いていたということは覚えていたが、どこで何の仕事をしていたかは全く覚えていなかった。


そこからさらに沈黙が流れた後、「おーい」とクロードが呼ぶ声が聞こえた。

「一旦飯でも食うか。あんたもいきなり記憶が飛んで今日は災難だったな。今日は一緒に食ってけ。あと医者も呼んでおいたから、飯食ったら見て貰え。今日は外の風が気持ちいいから家の中でバーベキューだな!!」


机の上にならんだ何かの肉のような料理は、見たことがないが味は美味しかった。


その後、医者に診てもらえることになった。外傷がないか改めて確認した後、記憶喪失の原因と治療法を調べてもらった。しかし、原因も治療法もわからず、わかったことは外傷が原因ではないということのみだった。


「さて、どうするよ。」少し真剣にクロードが話しかける。


「…………」

レジーはなにも返す言葉がなかった。

あれだけ怒っていたベリナも、今は少し気まずそうにしている。

途方に暮れていたその時、クロードが少しニヤッとした。

「なーんてな!とっておきの解決策を考えたんだよ。ここで住んで俺たちと一緒に働け!そして働きながら借金を返していけばいい!」

(さっきの魔法、うちのために役立ててもらうか)


「いいのか?」

「それ以外あんのか?今日からよろしくな」

クロードは右手を出した

「よろしく」

レジーも右手を出し、二人は握手した。



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