5ボロボロな女性
『スキル欄を見せてください』
「……はい」
何だ……この重苦しい空気は? そんなに変なこと言ったかな。
自分の言動を思い返すが、特に思い当たらない。
強いて言えば、女性を助けに行った事か? でも、結果的に助けられたしな。
そんな事を考えていると――。
『何故……このスキルがあり得ない……』
どうやら、スキルの事らしい。
そんなに良くないスキルだったのか?
「すみません。スキルがどうかしたんですか?」
そう言い、イノセントさんに質問をする。
独り言をぶつぶつと言っていたが、僕の質問に答えてくれた。
『――貴方のスキル【不老不死】は、少し特殊なスキルなのです』
「え? 【不老不死】がですか?」
『はい。簡単に言ってしまうと、【不老不死】のスキルは、王族にしか受け継げないのです』
ん? 変だぞ、王族にしか受け継がないなら、僕がこのスキルを持っているのはおかしい。
「ちょっと待てください。僕は王族でも、なんでもないですよ」
『その通りです。しかし、細かく言ってしまうと、誰でも受け継ぐ資格があるのです』
「――? 誰でも受け継ぐ資格がある?」
『【不老不死】のスキルは意志を持っています。ある目的を達成するために、そのスキルは持ち主を変えてきたのです』
「スキルが意志? ある目的? 持ち主を変える? だめだ、頭が混乱してきた……」
でも、今の話、王族関係あったか? 何で、王族にしか受け継げないんだ?
「結局、何で王族にしか受け継げないんですか?」
『それは……人間の王が儀式により、【不老不死】のスキルの性質を変えてしまったのです』
その後、小さな声で呟く。
『それが、この世界の戦争の始まりでした……』
「え? 戦争?」
『――話を続けます。性質が変わった事により、王族が優先的にそのスキルの持ち主に選ばれるようになったのです』
だから王族にしか受け継がれないと、言っていたのか。しかし、現にスキルを持っているのは僕だ。
『しかし、【不老不死】のスキルが優先順位を破ってでも、持ち主を貴方に決めた。その理由までは分かりませんが、きっと意味があるはずです』
なるほど。
ん? それじゃあ、僕が【不老不死】を奪ってしまった事にならないか……。
「あの……それじゃあ、大事なスキルを奪ってしまった僕は、どうなるんですか?」
『――もし見つかってしまったら、死ぬかもしれません』
「死ぬ!? そんなに悪いことなんですか」
『本来こんな事、起こり得ないのです。私も正しい判断はできません』
僕は、異世界でも迷惑をかけ続けるのか……。
いや、当然だな、あんな事をしておいて、人並みに生きれる訳がない。
『――顔が怖いですよ。まあ、いきなりこんな事を言わらたら、誰だって怖くなりますよね』
「怖いです……とても……とても、体の震えが止まらない」
『大丈夫! このままここで暮らし続ければ、バレることはありません』
イノセントさんの声を聞き、少しずつ震えが落ち着いて来た。
今はもう、一人で悩む必要はないんだ。イノセントさんが、話し相手になってくれる。
その後、僕は少し考え込み、ある結論に至る。
「――いや、返しに行こうと思います。この【不老不死】のスキルを本来の持ち主に」
『ダメですよ! 危なすぎます。第一、王国まで遠すぎます。辿り着けません!』
「それでも、大切なスキルを奪ってしまったのなら、返さないと!」
『返すだけじゃ済まないんです! スキルを誰かに渡してしまったら、元のスキルの持ち主は、例外なく死んでしまうのです……』
「――! ……死ぬのは怖いです。でも、困っている人をほっとけな――ん?」
目の端に何かが映る。
光が降り注いでいて気付かなかったが、誰かが近づいてきていた。
視線を向けると、ボロボロな体で今にも倒れそうな、女性の姿があった。
「―――、―――――――」
何かを言い、安心したような顔をすると、地面に倒れ込んだ。
僕は、急いで倒れている女性を抱き上げ、屋敷のベットまで運んだ。それから、イノセントさんの指示に従い必要な処置を施す。
しばらくした後気付いたが、この女性はさっき魔物に襲われていた子だ。後を追って来たのだろうか。
今はボロボロな服だが、元々は高級そうな服だったのは見て取れる。
そう考えていると――。
『さあ、ボロボロな服を綺麗な服に変えちゃいましょう』
「はい、どうやって変えましょう」
『脱がしちゃいましょう』
「はい、それじゃあ脱がし……ちょと待ってください。僕が脱がすんですか?」
『早くしないと、傷口に菌が入り込みますよ』
「うぅ……」
『私もサポートしますから、頑張って! あと体も拭いてくださいね』
「――え?」
僕は、一枚、一枚、ボロボロな服を脱がしていく。あまり見ないように、触らないように気を使う。
「よし、終わったかな……」
目を閉じながらそう言う。
ようやく脱がす事には、成功した。
ここからが、本番だ。
体を拭くには、ガッツリ体を触る事になる。
「……気をつけてやらないと」
まずは腕からだ。
正直なめていた、腕だから大したことないと思っていた。
手首から肩にかけて拭いていくが、柔らかな肌に手が吸い込まれそうになる。
昔から友達がいなく、人肌に触れる機会が少なかったこともあってか、余計にだった……。
次は足だ。
足先から足の付け根に向かって拭いていく、やはり、腕と同様に手が吸い込まれそうになる感覚に襲われた。
最後にお腹から胸にかけて拭く事に。
ここから、かなり犯罪臭が漂ってくる。
「んっ……」
喘ぎ声みたいな声を出さないでくれ、変なことしてるみたいだろ。
お腹を拭き終わり、最後の難問、胸周りだ。
そっと布で触れるようにして、軽く拭く。
何がとは言わないが、凄かったです。
「――ふぅ、これで終わりだ」
最後に服を着せる。
慣れてしまったからか、躊躇なくできた。
一言、言わせてもらおう。
「僕の人生に一片の悔いなし!!」