4エフォートの旅
人間の国、王城、玉座の間にて。
「落ち着いてくだされ、ヴォルク王」
必死に王様の怒りを鎮めようとする臣下達。
しかし、王様を鎮める声も虚しく、興奮状態の王様には逆効果だった。
「これが落ち着いていられるか! 世界に一つしかないスキルを、何処の馬の骨か知れない奴に奪われたのだぞ!」
王様が焦るのは仕方がない事。
こんな事態、本来起こるはずがない。
代々王族が受け継いできたスキルを、何者かによって奪われたのだ。
王の怒りも納得がいく、それに――
「よりにもよって今の時期に、タイミングが悪すぎる。このままでは魔王軍に侵略されるのは時間の問題だ!」
王様の言う通り、最悪のタイミングでスキルを奪われたのだ。
今期の魔王軍は、これまでもとは比べ物にならない程、勢いが異常なのである。そういった理由もあり、スキルの行方探しに時間を割いている暇はない。
代々受け継いできた貴重なスキルだが、国が滅びてしまっては意味が無い。
「王様お言葉ですが、勇者によって戦況が好転してきています。このままいけば――」
一人の臣下がそう言った。
――駄目だ、確実に間に合わない。
今の勇者は、まだまだ成長途中の半人前。
勇者が成長しきる前に、国が滅びるのは目に見えている。そんな事を考えていると王様が――
「それでは間に合わんのだ!」
今の王様には、心身ともに余裕が無い。
つい先日、現王様の娘が魔王軍の罠にハマり、行方不明になった事に続けて、前国王はスキルがなくなった事により死亡。
立て続けに災難な事が起こり続けている。
私では、王様の苦悩を測り知れないだろう。
その後も、口論が続いたが何の解決策も出ず、話が終わった。
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「お父様どうでしたか?」
私に話しかけてきたのは、娘のエフォートだ。
ずっと家の前で待っていたのか、顔が赤くなっている。娘を心配するように優しく言う。
「――家の中で話そう。ここじゃあ、寒いだろ」
「――はい」
その後、私達は家の中に入り、ゆっくり話せる場所に移動する。
椅子に座ると、早速話し始めた。
「残念だが、お前の期待するような返事はできない……」
「そんな……また、ダメだったんですか?」
「そうだ、口論になっただけで、国を挙げて探すつもりは無さそうだ。私の方でも、引き続き探し続けるが、あまり期待しない方がいい」
娘は、行方不明になった王女様を探すために動いているが、一向に情報を掴めていないようだ。
私も、出来る限りのサポートをしているが、やはり何の情報も掴めない。
娘には悪いが、既に命を落としている可能性が高いだろう。
「――いえ、必ず生きているはずです。約束しましたから」
娘は、昔から引っ込み思案なところがあったが、王女様のためとなると必死になる。
娘は子供の頃に、ある事件に巻き込まれたことがあり。それからというもの娘は、王女様のこととなるとムキになることが多々あった。
「そうか……無茶だけはするなよ」
「はい」
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私の名前は、エフォート。
子供の頃、王女様と一緒に攫われた事がある。
あの時の出来事は一瞬だった。
頭に袋を被せられると、一気に体を持ち上げられ、あっという間に攫われた。
お父様には内緒で、二人で城の外に抜け出していたため、当然護衛なんている訳がなく。攫われるがままだった。
その後は、檻の中に入れられ。手足を縛られた。
暴力を振るわれる事は無かったが、恐怖のあまり体の震えが止まらず、顔面蒼白に。
そんな私を励ましてくれたのが、王女様だ。
私は優しい言葉をかけられ、何とか平常心に戻る。すると、王女様が驚きの行動に出る。
素早く体に巻き付いている紐を解き、目の前の檻ごと、誘拐犯を魔法で吹き飛ばしたのだ。
「ほら、逃げるよ」そう言うと手を伸ばしてきた。
手足を軽く縛っているだけだったので、魔法を使い身体能力を上げれば、私でも簡単に抜け出す事ができた。
私は、伸ばしてきた手を掴む。
しかし、その手は震えていた。
王女様の顔はそれでも笑顔だった、私のために勇気を振り絞ってくれたのだろう。
王女様と私は一緒に、部屋の外に出る。
道中、誘拐犯の仲間と出会ったが、魔法で吹き飛ばした。
その後、私達は何とか逃げ出す事に成功した。
その時、王女様と約束した事がある。
「私がピンチの時は今度はあなたが助けてね! 約束よ!」
あれから私は努力を続けた、学校では剣と魔法で優秀な成績を残すなど、努力を怠らなかった。
――だが、いざという時に側にいないのでは、意味が無い。
私がいない間に、魔王軍の手により王女様は卑劣な罠に掛かり、どこか遠くに飛ばされ、未だに居場所が分からずにいる。
「待っていてください。必ず見つけに行きます王女様!」
私は、旅の準備を整える。
魔法具、食べる物、お金、杖、剣、地図、ありとあらゆる物を揃える。
お父様に伝えずに手紙だけ残して行く。
もし、知られてしまったら、必ず止めようとするだろう。動くなら、早ければ早い方がいい。
こうして私は、約束を果たすための旅に出る事となった。