3初めての助け
「うわぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?」
今、僕は空中にいる。というか、落ちているのだ。
イノセンスさんの合図により、地面がすり抜け、スキルが目に映ったところまでは良かったが。
次の瞬間、自分の体が空中に放り出されていた。
僕はどうすることもできず、流れに身を任せることに。徐々に地面が近づき、もう目の前に。
体が地面と衝突――する事はなく、寸前で止まっていた。
体の大勢を整えると、頭の中に聞き覚えのある声が聞こえてくる。
『すみません。事前に説明しておいた方がよかったですね』
この声は、間違いない!
今まで毎日聞いていたのだ、聞き間違えるはずもない。
「イノセントさん!? でも、なんで声だけ聞こえるんだ?」
『フフ、それはですね。天啓の力を使っているからです』
イノセントさんの話によると、この世界でなら、天啓と言う力を行使できるらしい。
しかし、デメリットとして神々しい光が降り注ぐので、人前では気軽に使えないそうだ。
それとは別に、僕が地面に当たらなかったのは、イノセントさんが準備をしていてくれたおかげらしい。
『という事で、これからもよろしくお願いしますね』
僕は安心していた。
常識とかけ離れた異世界に、声をかけてくれる知り合いが居るだけで、心が軽くなる。
「こちらこそ、よろしくお願いします。イノセントさんが、見ていてくれるだけでも心強いです」
僕はイノセントさんに感謝しつつ、周りを確認した。
木々が生い茂り、見たことのない花や虫、蠢く植物など、改めて自分が違う世界に来てしまったことを実感する。
「さて、これからどうしたものか……」
そう考えているとイノセントさんが助言をしてくれる事に。
『まずは、家を用意しましょう。雨風を防ぐ必要があります』
「え? 街とかには行かないんですか?」
『はい。貴方はまだこの世界に体が慣れていませんので、話しかけても意味が通じません。逆もまた然り。話しかけられても言葉の意味を理解できないでしょう』
つまり、数日が経ったら話せるようにはなるが、しばらくの間は、この世界の人に話が通じないということらしい。
話を戻すが、家を作ろうにも作り方も知らないし、人手も足りない。
どうしようものか悩んでいたところ、後ろから突然、爆音が轟く。
そこには、見慣れた屋敷があった。
そう、最近まで暮らしていたあの屋敷だ。
『これで、暮らす場所には困りませんよね!』
「いや、これは流石にやり過ぎだーーっ!? そこまでしなくても良いですよ! それに危ない!」
僕は、目を白黒させながら叫んだ。
イノセントさんの思い切りの良さは、今までの生活で分かってはいたが、ここまでするとは。
『そうですか? 次から気をつけますね。それじゃ次は、水や食べ物ですね』
次は、どんな事を始めるのかと、そわそわしていたのだが――
『なんとか自分で集めてみましょう。この世界の食材に慣れる必要もありますし。これから先、役に立つ可能性もあるので』
――そこは普通なのか……。
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あの後、イノセントさんの手助けがありながらも、順調に水や食べれる物を見つける事ができた。
「ふぅ、食べれる野草が沢山あってよかった。水が湧いている場所も見つけられたし」
でも、ほとんど女神様の指示通りの場所に向かっていただけなんだが。
食べ物は毒が無いものを選んでくれたので、安心して食べる事ができる。
『よし、それじゃあ、食事の時間にしましょうか!』
僕はキッチンで野草を使った料理を始めた。
もちろん、料理をしたことも無いので、イノセントさんに教わりながら作る。
「――できたぞ! 初めてだから心配したけど、なんとかなって良かった」
食事の準備を済ませて、早速食べ始める。
僕は、自分で作った初めての料理を口の中に入れる。それは、自分の想像もしていない味だった。
「――あれ、味を感じない?」
一口また一口と料理を口に運ぶが、味を感じることは無く、気付くと料理がなくなっていた。
イノセントさんが心配そうな声で話しかけてきた。
『大丈夫ですよ。多分ですけど、まだ体がこの世界に慣れきっていないからだと。しばらくすれば、味を感じられるようになれますよ』
「そうですか……。しばらく、このままですか……」
初めて作った料理が何の味もしない事に肩を落としていると。遠くの方から声が聞こえてきた。
「――誰か、――助け――ださい」
途切れ途切れに聞こえてくる声は、明らかに助けを求めている。
僕の足は、勝手に動いていた。
イノセントさんが、『行ってはダメです』と言ってくるが、僕は悲鳴が聞こえた場所に急いで向かう。
山を落ちるように走ると、すぐに到着した。
そこには、悲鳴を上げたであろう女性が座り込んでいた。
その目の前には、狼のような魔物が今にも飛びかかりそうな大勢になっていた。
僕は、下り坂での助走を使い飛びかかり、魔物を羽交締めにして動けないようにガッチリ掴み、女性に逃げるように言う。
「早く逃げろ! 僕が押さえている内に!」
一向に逃げようとせず、不思議な顔をしてポカンとしている。
『貴方の言葉は、まだこの世界の住人には通じないんですよ』
そうだった、完全に忘れていた。
もう、これ以上押さえきれない。
そう考えていると、目の前に神々しい光が降り注ぐ。すると、座り込んでいた女性が立ち上がり逃げ始めた。
『私が天啓の力を使い、あの人に逃げるように伝えました』
「流石です! イノセントさん!」
僕は、女性が十分離れたら、魔物を遠くに放り投げる。すると、魔物は怒って追ってきた。
『朔至くん屋敷まで何とか逃げてください』
イノセントさんに言われるがままに逃げると、魔物は、屋敷から少し離れた辺りで追ってこなくなった。
「はぁはぁ、あれ何で?」
『この屋敷には、魔物除けの魔法がかかっています。なので、強力な魔物意外は近付くことできないのです』
イノセントさんの説明を聞き、安心して座り込んでしまった僕に。
『それより、なぜ、あんな危険な事をしたんですか! 自分の命を大切にして下さい!』
「――すみません。体が勝手に動いちゃって……」
『スキルの説明もまだなのに。無茶しすぎです! この際ですから、スキル名を言っておいてください』
スキル? そういえば最初にこの世界に来た時、手に入れたな。
今日は、色々あったからな――完全に忘れてしまっていた。
「確か【不老不死】って言うスキル名だった気がします。なんだか、長生きできそうなスキルですね」
『――【不老不死】ですって!』