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2女神の寵愛

 私は女神イノセント。

 女神である私は、今日も世界の平和を守るため働いている。勇者の召喚に必要な準備も終わり、今は

休憩している最中だ。


 「優秀過ぎるのも罪なものですね」

 

 本来なら半年以上かかる準備を、一月で終わらせる事が出来るんだもの。今頃他の女神達は、必死に準備をしているのでしょう……フフフ。


 「さて、こんなことを考えていないで、早速見始めないと」


 手を振るうと空中に、ある映像が映りだす。

 私には最近熱中していることがある。それはある人間の観察だ。

 最初は何の面白みもなかったが、ある一人の人間の行動が、目立って映りこんでいた事がきっかけだった。


 その人の名前は朔至と言う。

 私は親しみを込めて、さっくんと呼んでいる。

 さっくんの世界では、魔法も無ければ剣も無いが、いつも突拍子もない行動で私の想像を軽く超えてくる。

 目の前に困っている人が居たら、助けずにはいられない性格であるからか、危険な事に首を平然と突っ込む行動力と最後まで諦めない心を持っていた。

 

 そのせいか近寄りがたい雰囲気が漂い、いつも一人っきりだった。

 だからなのか少しでも暇ができたら、さっくんの事を見守る様になっていた。


 考え事をしている間に、さっくんはすでに人を助けていた。

 するとさっくんは、その女性に優しく声をかける。


 「大丈夫ですか? 怪我はありませんか?」


 いつものパターンに入った。

 案の定その女性は、完全に恋に堕ちていた。

 

 さっくんは今までゴリゴリのヤンキーや怪しそうな女性でも、自分が正しいと思った方を助け惚れさせてきた。

 特殊なスキルでも持っているのだろうか? と疑うくらいには、異常なことが起こっている。


 こうして毎日様々なトラブルに遭って、やっとさっくんの一日が終わる。

 さっくんが眠りについている間、眠る必要のない私は、女神としての大切な仕事を進める。

 このサイクルを毎日繰り返している。


 そうこうしている内に、勇者を召喚する日に。

 ただし勇者に選ばれるには条件がある。それなりの善性を持っているものと今の世界にそこまでの執着がないものが選ばれる。つまり、異世界に行くのを拒まない人ほど選ばれやすいのだ。


 「ぅゎぁぁぁぁぁぁあああああああ!? 痛ッッ!!」


 時間通りに上から条件を満たした人が落ちてきた。私はこの時のための豪華な椅子に足を組みながら座り、事前に考えておいた自己紹介を言う。

 

 「我が名は女神イノセントと言う。貴様は何という名だ!」


 上から落ちてきた男性は、混乱していながらも自分の名前を渋々言い出した。


 「え……と名前は龍斗(りゅうと)なんですけど……なんですか?」


 私は威厳を保つため、口調を強めに保ったまま話を続けた。


 「龍斗貴様は、勇者に選ばれたのだ大いに喜べ!! そして異世界に行き世界を救うのだ!」


 そう言うと目の前の男は、勇者や異世界という言葉に反応し、急に話を聞き出した。


 「急に異世界に行かせるのは酷だろう、貴様に強力なスキルを与えよう! この中から選ぶのだ! 早く決めろ、他の者に取られるぞ!」


       スキル[絶剣]

       スキル[神剣]

       スキル[殲滅魔法]

       スキル[決戦魔法]

       スキル[完全回復]


 「展開が早い! というか、他に人なんて居ないんですけど?」


 「貴様以外にも、女神達により他の場所で勇者が呼び出されているのだ。早くスキルを決めんと選べんくなるぞ!」


 女神は私を除いてあと四人ほど居るのだ。つまり、勇者の数は合計で五人になる。

 スキルが偏ると勝てるものも勝てなくなってしまうので、最上位の五つのスキルを満遍なく配る事にしている。


 「あのスキルってどんなものか分からないんですか? できれば知っておきたいんですけど」


 私は選んだスキルが魔法やら剣技の成長率に絡んでくる事を伝えた。


 「なるほど……最初から無双出来る訳ではないんですね」


 龍斗は、悩んだ末[殲滅魔法]を選択した。


 「そのスキルなら、異世界に行けば歓迎されるだろう。仲間とはすぐ会う事ができる」

 

 私は「パン」と手を叩くと、龍斗の体は床をすり抜け下に落ちていった。


 「え……やっぱり展開早いってえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――


 私は早速さっくんの映像を集中して見始めたが、急に上手く映らなくなってしまった。

 どうしたものかと頭を悩ませていたところ、上から誰かが落ちてきた。


 「貴方誰ですか? 後からきた様に見えましたけど……」

 

 私は彼の姿に見覚えがあった。足を組むのをやめ、自信のなさそうな座り方に変わる。

 あまりの衝撃に言葉が出てこなかったが、私は自己紹介をしつつ名前を聞いた。


 「あ……私は女神のイノセントと言います。貴方のお名前は?」


 「あ……僕の名前は朔至と言います」

 

 この声と体と名前は、さっくんだーーーーーーーーーー!!

 でも何でここに、もしかして巻き込まれた!?  私はさっくんに恐る恐る質問をぶつける。

 

 「ここに来る前の事、覚えていますか。不思議なことが起こったりとか?」


 真相を確かめるべく、ここにくる前の事について聞いてみることに。

 この時の声は、我ながら棒読みがすごかったが、なんとか答えてくれた。

 

 「まるで落とし穴に落ちたみたいに、地面に体がすり抜けて落ちたのは覚えています」


 私は勇者を引き込むための穴をうっかり消し忘れていた。その後急いで穴を塞いだはいいが、既に呼び込んでしまった以上、元の世界に戻すことはできない。

 そう考え込んでいると、さっくんが顔を近づけてきたが、私はいい返事を返せなかった。


 「……すみません、勇者の召喚に貴方を巻き込んでしまいました。それにもう元の世界には戻れません……」


 そこで私はある提案をすることに。罪悪感のあまりこの時の私は、女神のルールを完全に忘れてしまっていた。

 

 「元の世界に戻れない代わりに、勇者達と同じ異世界になら送ることが出来ます。貴方が望めばそちらに飛ばす事が出来ます。どうしますか?」


 あまりに突然な話に、さっくんは少し考え込んだ後、質問をしてきた。


 「もし異世界に行かないと言ったら、僕はどうなるんですか?」


 私はさっくんに天国の事情について話した。

 天国は本当に何もなく、行かない方がいいことを伝え、私は異世界に行くことを勧める。

 

「ゆっくり決めてもらっても大丈夫ですよ。準備する時間は長いので」


 さっくんは少し考え込んだあと、返事を返してくれた。

 

 「はい。それまでには決めようと思います」


 私は自分の失念に頭を下げる。

 異世界に送る準備する期間、待ってもらうための屋敷を用意する事に。


 「それでは、異世界に送る準備を始めますので、こちらでお待ち下さい。どうするか決めたら声を掛けて下さい」


 申し訳なさから、少しでも良い暮らしをして欲しいので、最高級の屋敷を用意した。


 その屋敷で迷わないように、監視カメラのロボットを用意する。別に私が一日中見まくりたい訳ではない。


 食事の時間では、さっくんと一緒に食べる事になった。女神は味を感じることはできないが、一緒に食べるのは楽しく、少しだけだが味を感じた気がした。


 お風呂の時間では、もちろん監視カメラのロボットを動かしてはいない。


 寝る時間になると、さっくんの布団の中に入り込み、体調を崩していないか確認する。


 あっという間に一ヶ月がたった頃。

 さっくんが異世界に行きたいと言ってきたのだ。

 私は絶対に行って欲しくないそう思ってしまった。

また、一人になりたくないと。

 自分勝手に止めることはできない、その後自分の心を落ち着かせるため一日時間を設けた。


 さっくんには、これまで異世界に行くために必要な知識を教えていた。

 

 異世界では、この空間の十倍早い時間で進んでおり、勇者も既に戦闘に加わっているがそれでも状況は厳しい。


 そんな危険な世界に何も持たずに行くのは危険過ぎるので、選ぶことは出来ないがランダムにスキルを授ける事に。


 そして、遂にさっくんの旅立ちの時が来た。

 最後に間違えて召喚してしまったことを謝り、異世界に送るための説明をし終わる。

 内心では、行って欲しくないと思っているのに。



 「貴方を召喚に巻き込んでしまった事は、簡単には許されないでしょう。異世界に着いてからも貴方を見守っています」


 さっくんも最後の別れの言葉を言ってくれるようだ。どんな酷い言葉を言われても、自業自得だと覚悟を決める。


 「最初は巻き込まれて召喚されただけだったけど、今まで楽しかったです。ありがとう!」

 

 私はその言葉に救われ、生まれて初めて笑みが溢れていた。


―――――――――――――――――――――

          ――――――――――――


 この時の私は気付いていなかった、結果的に二つの過ちを犯している事に。



 




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