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第三話

視界に壁に背を預けるラベルド様が見えたので小走りで駆け寄る。


「すいません、お待たせしてしまって。」


「いえ。」


急に開催される事になった、菜園デート。

いや、デートではなくて視察!そう、視察!


「それに着替えまでしてもらって…」


「急だったので驚きましたが、楽しみです。」


菜園に行くなら野菜取ってきてください!と直前に道具一式をジンジャーから押し付けられ、エプロン、帽子と長靴を着用する事になった私たち。なんなら視察でもなく収穫体感の装いだ。


『共同作業をすると距離がぐっと近づくそうですわ。』


と、自信げに耳打ちしたジンジャーの台詞が思い出される。

ジンジャーの狙いは最初からこっちだったようだ。

おかしいな、朝任せてと言っていたのに。


「では、行きましょう。」


「はい。あ、荷物は私が。」


私の抱えているカゴに目線を落としてラベルド様が言う。

カゴの中には2組の手袋と二本の鋏が入っているだけ。

どちらも、一つは使い込まれていてもう片方は真新しい。


「いえ、そんなに重くありませんのでお心遣いありがとうございます。」


あぁ、こういう時って婚約者未満ならどうするのが正解なのだろう。

お客様なら勿論私が持つべきだし、友人の申し出なら甘えてもいいだろうし、婚約者なら男性を立てるべきだろう。


「そうですか…では、お願いします。」


私の返答に特になにも不満はないような声色で少しホッとする。

優しく笑みを浮かべるラベルド様の首元で先程までしていなかったチェーンがキラリと光った。

チェーンの先には私が渡したチャームが下がっている。


ネックレスのトップとして使ってくれたんだ。

付けやすいし、あんまり邪魔にもならないし便宜上良いんだと思うのだけど…な、なんだか恋人にプレゼントを送ったみたいになってしまってる…!

分かってる、ラベルド様に他意はない。


「あ、きちんとチャームもつけてきました。」


私の目線に気づいたようでラベルド様がチェーンを手にとり見せる。


「雫型は生命力や成長を象徴するモチーフ…緋龍の生命力(加護)を感じます、なんだかほんのり暖かい気もしますし…。」


「暖かく感じるのですね…良かった、きちんと機能しているようで。」


加護をこんなにも早く感じとれる人、初めてだ。

加護を感じるのには自分の中にある「気」が馴染まないと感じれとない。普通は数日かかる。

緋龍の加護はラベルド様との相性が良いと言うことなのかな…。


「では、ご案内します。」


「お願いします。」


最終チェックを終えた私たちは、菜園へと歩を進めた。


「菜園ではどのくらいの種類を植えているんですか?」


「年間で20、30種類くらいでしょうか。」


「そんなに沢山作っているんですか!」


「目についたものはとりあえず試してみたくて…失敗することも多いのですけど。」


「その気持ちよく分かります。私も目についた商品はとりあえずなんでも買って試してしまいます。もう、癖みたいな…」


「癖ですか…私もそれに近いかもしれません。」


お仕事トークをしながら歩く私達の後ろ10mほど後ろをいつもまにかウォタソンさんが控えている。

さっきまで姿が見えてなかったのに。


「はじめはびっくりしてしまいますよね。」


後ろに控えているウォタソンさんにチラリと目をやるとラベルド様が私の驚きに応えた。


「腕は勿論なのですが、隠密も結構得意でして。」


「多彩な方なのですね。」


「ええ、とても頼れる存在です。」


ラベルド様のはっきりとした口調から本当に言葉の通りなのだと感じる。


「ウォタソンは幼馴染ですが多彩なのは昔から変わりませんね。」


「幼馴染だったのですか。」


「はい、もう腐れ縁と言っても良いくらいです。」


ラベルド様が微笑む。

幼馴染とはびっくり。

何十年も友として従者として相棒として…ラベルド様を支えていらっしゃるのね…。


「とても素敵な関係ですね。」


「何十年も…ほんとうにありがたいことです。」


知らない土地を歩く時、ウォタソンさんの存在はとても心強いだろう。


いく人かの友人の顔がパッと頭に浮かび少し寂しい気持ちになったところで、菜園の入り口が見えた。


「こちらが菜園です。」


面積にして大体3反のこの島の小さな菜園。

畑の入り口にはアーチがかかっており、私達を迎えた。


「綺麗なグリーンのアーチですね。」


「オカワカメと言う野菜を使って作ってみたんです。コリコリとした食感がとても好きで…ただ少し収穫忘れてると御覧通り、繁茂してしまって…。」


「食べ放題ですね。」


ラベルド様は手の甲を口元に当てて笑った。

あぁ、〝いい男″の笑顔はとても眩しい。

今日はツバのついた帽子で正解だった。


「なかなか消費が大変で…今日からは3人増えますし、食べるの手伝ってくださると助かります。」


「えぇ、もちろん。」


「ありがとうございます。」


ラベルド様に手袋を渡し、収穫の仕方を説明して一緒に収穫作業を始めた。

パチ、パチ、と菜園に響くハサミの音。

雨の日の音に似たような、安らぐこの音がとても好きだ。

そんな心地よい音が今日はフーガを奏で、耳を心地よく揺らした。


「今日はこのくらいにしましょう。」


「はい。」


アーチの柱と柱の間が風通しが良くなった所で本日は終了。

籠の中は明日食べるくらいまでありそうだ。


「さて…」


私は胸ポケットから2つに折りたたんだ紙を取り出して、ジンジャーからのお使いを確認する。


「左回りで収穫していきますね。」


そうして2人で畑を周り、紙に書かれていた

『ズッキーニ3本、ナス4本以上、きゅうり適当なもの全て、パプリカ6個(色はなんでも良)、葉野菜2つかみ、オクラ適正な大きさのもの全部、トマト好きなだけ』

を全てを取り終わり、籠もいよいよパンパンになっていた。


「今日は終わりです。」


「え、もうおわりなんですか!あっという間でした。」


「ラベルド様が手伝ってくださいましたから。」


「私なんていくらも戦力には…」


「そんなことありません、1人でやるよりも2人の方が楽しいですし、手数も進みます。」


「…確かに個々より2人の方が作業進んだりしますよね。」


ん?

2人で作業できて嬉しかったアピールをしてしまった事を今更ながらに気づく。

別に深い意味はありませんので!

と、とりあえず心の中で叫んだ。


「あ、採れたてのうちにジンジャーに届けてしまいますね。」


私は思い出したかのように声を上げ、胸ポケットから一つ折られた白い紙を取り出した。


「そちらは…?」


「クライウッドの先代ホワイト様が作られた魔法の折り鶴です。して欲しい事を念じながら頭を折るとお願い通りの事をしてくれます。」


私に頭を折られ、羽を開かれた折り鶴はパタパタと飛び始め野菜の入った籠に近づく。

チラリとラベルドを見ると驚きの表情を浮かべ折り鶴の行末を見守っている。

ちょうど籠の真ん中にちょんと乗った折り鶴はその足部分?で、くしゃりと器用に籠を掴んだ。

そしてゆっくりと持ち上げ、家の方に飛んで行く。


「凄い…!あんな折り鶴初めてです!」


ラベルド様は折り鶴の飛んで行く姿から目を逸らさず、興奮冷めやらぬと言った声色をあげた。


「あんなに繊細な体でどうやって運んで居るんでしょうか…」


「ええ、本当に凄い技術的ですよね。流石は先生のお師匠様です。」


先生の師匠でありこの島の先代ホワイト様。

世界の安寧の為、緋龍と共に戦った彼女は戦闘の腕もさることながらこう言った繊細な魔術に関してもピカイチで生前は色んな物を作ったと言う。

あの折り鶴もその一つ。


「あの折り鶴はどのくらいまで持ち運べるのですか?」


「大人1人は楽に運べると聞いています。」


「雨などに濡れてしまって使えないなどないのでしょうか?」


「防水も術に組み込まれているみたいです。」


「なるほど、色々考え巡らせて創造された抜け目のない折り鶴なんですね。」


ラベルド様は目をキラキラと輝かせているが声はとても真面目でストレートに空間を揺らしている。

これがラベルド様のお仕事モードなんだろうか。

言葉の要所要所に興奮の色が隠せていないが、またそれも良い味が出ているような気がする。


「あ、喉乾きましたよね。すぐ隣に四阿がありますのでそちらで休憩しましょう。ジンジャーが飲み物を配達してくれていると思いますので。」


「それはありがたい。」


エプロン姿のまま私たちは来た時と同じアーチを抜けて用水路の隣にある四阿に足を運ぶ。

テーブルの上には外気に当てられ汗をかくレモネード、その側には今朝ジンジャーと焼いたクッキーとコップ、そして藤色のフェイスタオルが鎮座していた。


あぁもう、ジンジャーときたらこんなところにまで。

私は少し胸の中で悪態をつきながらエプロンを脱ぎ、背もたれにそれをかけた。

やうやうしく鎮座しているタオルを掴み四阿の隣に設置されている水道で顔や手を洗う。


「はぁ、冷たくて気持ちいいです。」


「そうですね。さっぱりしました。」


地下水を引いている蛇口か流れ出る冷たい水で小1時間でしっとりとかいた汗を拭う。

バシャバシャ顔にかけて洗いたいところだが、ラベルド様の手前、そこは控えめにした。


汗を拭った私達は四阿のテーブルを挟み込むようにして座った。


「冷たいレモネードが体に沁みます。」


「ふふ、糖分もとってください。来て早々お手伝いをして頂いて申し訳ありません。」


「いえいえ。私から頼んだことですし。」


「でも、農作業は予定に入っていなかったでしょうし…。」


「予定外でしたが、結果とても楽しかったですよ。また一緒に作業させてください。」


「そう言っていただけて嬉しいです。ほぼ毎日していますから、ご都合つく時にお声がけください。」


「ありがとうございます。老後を待たなくてもここにいたら私の夢は叶いそうですね。」


「ここにいらっしゃいます間は是非。」


農作業気に入ってくださったみたいだ。

立てていた予定表に「畑作業」を後で追加しておこう。


「オルガ殿。」


不意にラベルド様に名前を呼ばれる。

先ほどまでの柔らかい声ではなく少しピリッとした声色少し緊張が出戻ってきた。


「はい、いかがなさいましたか?」


「あの、一つ伝えたいことがありまして…ラディの事なのですが…」


「ラディさん、ですか?」


婚約の事を何か言われるのかと思っていたら、思わぬ名前を出され少し困惑する。

ラディさんは明るくて、とても親しみやすいオーラがあって目の前にいる、ラベルド様の表情を曇らせるような事する人には見えなかった。

一体彼女に何が…。


「その前に少し昔話をさせてください。」


机に両腕を乗せ、ぎゅっと指を組みラベルド様は昔話を始めた。


「ラディは私より2つ上で、妹…ラムイアの侍女になります。」


あぁ、やっぱり。

何処かで会った気はしていたのだけど、ラムイア様の侍女様だったのね。

てか、私の記憶力!

ラベルド様の知らないところで私の記憶力の無さが露呈し脳内で少し反省をした。


「今回の訪問のメンバーにはラムイアの推薦で同行する事になりました。」


ふむふむとラベルド様の話を聞き入る。


「私が20の頃、中々浮いた話の上がらない私を心配してか、母が知り合いの卸問屋の娘さんとお話をする機会を設けました。今でもそうですが当時も仕事が楽しくてあまり女性関係には興味がなかったんですが母の気持ちも無下に出来なく、その時知り合ったお嬢さんとは暫く手紙を書いたり買い物に誘ったりと交流していました。」


ラベルド様の昔の恋愛事情。

婚約者という立場だったらあまり耳に入れたくないだろう話に私は耳を傾けた。


「ある日、仕事で暫く街から離れる事を伝えたら、家に押しかけてきてお守りやらぬいぐるみやら渡されて離れている間はこれを自分だと思って欲しいだとか、また魔鏡石での連絡を毎日して欲しいだとか…色々懇願され…私がやんわりと毎日の連絡は難しいと断ると泣きつかれいやはや大変でした。」


小説や漫画で良く聞くお話。

恋愛ものでは特に多く目にするエピソードだ。

現実世界では自身の周りでもあまり聞かないのだろうけど、不思議と私の周りでは逆も然り、意外と耳にする話だ。


「その頃から彼女は本性を徐々に表したと言うか…私の行動を縛るような事をし始めたのです。所謂オルガ様の前で言うのもアレですが重い女性で…徐々に仕事に支障が出始めました。そんな私を見てラムイアはラディと協力してそのお嬢さんと私を物理的に離そうとしたんです。そしてラムイアは、彼女は犬が自分の方に走ってくるのが苦手だと言う情報を仕入れました。それからは彼女が家の門に現れる度、愛犬を連れて彼女を出迎え、一緒にフリスビーをしょうと誘ったりするようになったんです。」


1人の女性の身辺の調査もだがそれを行動に移せる行動力、普通に尊敬してしまう。

ラムイア様は小柄で可愛らしい、の内側にはバルディア様のような行動力溢れているのかもしれない。

本当に人は外見だけではないのね。


「家で飼っていた犬を触ったり餌を与えていたりしていたので犬に対しての弱点があるとは驚きでした。それからラムイアのおかげで段々と私の家に来る頻度は少なくなり忽然と別れを告げられました…付き合ってもなかったのですが。」


「そんなことが…」


「その時からラムイアは身辺調査など警察や探偵がするような事の才能の頭角を表したと言うか…私の周りの女性に限らず調べてはちょっかいを出すようになってしまって…まぁ、彼女の時はとても助かったので強く言えなかったのが、いけなかったんだとは思います。」


「要するにラムイア様からのスパイってことでしょうか?」


もっと分かりやすく言うと、ラベルド様の結婚相手に相応しいかどうか妹君に査定されているっていうことか。


「ええ、簡単に言うと。ですのでオルガ殿に対し何かしら接触してくるかもしれなく…ご迷惑おかけしないといいのですが…」


「なるほど…伝えてくださってありがとうございます。ないとは思いますが今から心の準備ができます。」


私はただの一般人。

婚約だって、(仮)すらついていない。

ラベルド様が思いっているような事にはならないだろう。

私の事調べたとて何かが出てくるとは自分でも思わないし、ラベルド様には要らない心配をおかけしているようだ。


「オルガ殿…」


ラベルド様は申し訳ないなさそうに眉を下げ、わたしを見つめる。


「どうぞご心配なさらないでください。何かありましたらご報告致しますので。あ、そうだ…」


「?」


「ラベルド様良ければこちらを。」


私は胸ポケットから1つの赤色の折り紙を取り出し、ラベルド様に差し出した。

先ほどと同じく、鶴が折られている折り紙だ。


「ホワイト様のをお手本に私が作った折り鶴です。性能は劣りますが手紙交換くらいは難なくできるかと思います。こちらで今後は情報交換を致しましょう。」


「あの折り鶴を再現したのですか!」


「再現だなんて…。レプリカにもなってはいないので少々恥ずかしいですが。」


「オルガ殿は小瓶といい、チャームといい手先が器用でいらっしゃる。」


ラベルド様はそう言いながら優しい手つきで折り鶴を受け取った。


「お借りします。」


「はい。あ、その折り鶴なんですが物を運ぶだけでなく話し相手にもなってくれるんですよ。」


「え、喋るのですか?」


「喋べりはしないのですが、飛んだり跳ねたり回ったり…コミニケーションをとってくれるんです。」


「他にもできることとかあったりするのですか?」


その後は、ジンジャーが夕ご飯に呼びにくるまで実践を交えた折り鶴トークで盛り上がっていたのであった。


こんにちは、二会です。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

次回は12月25日更新予定です。


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