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 この日、私はタッカーとまた外の世界を探検してみることにした。タッカーと朝早くに起きて、緑の大地を踏みしめる。貴族社会よりもだいぶ大らかで、自然体でいられる場所。街頭も少ないし、騒がしくもない。夜は暗くなったら寝る支度をする。私にとってこの村における生活は、この上ないもののように感じられた。


「ねね、セルナ。今日こそウサギ、見てみたいな」


「そうね、ボージも呼んでこようかしら!」


 タッカーは、今まで王宮にいたとは思えないほど、村での暮らしが板についている。どこにでも馴染みやすいタッカーの親しみやすさもあるのだろう。

 ボージを呼びに、私たちは畑まで歩いた。


「セルナ、つかぬことを聞いてもいい?」


「何よ、改まって」


「セルナって小さな頃からここに住んでいたんだよね?」


「そうよ」


「でも、王宮にいた王太子と結ばれることになった」


 タッカーが何を探りたいのか分からず、私は恐る恐る頷いた。


「王宮太子とセルナってさ、どこで知り合ったの?」


「ああ、そういうこと?」



 なんだ、それが知りたかっただけか。

 何のことはない。私が生まれ、幼少期を過ごしたこのパーラック村では、毎年王宮の命により果物を献上していた。パーラック村の自慢の果物たちが認められたという、大変名誉であり光栄なことだった。国王に果物を食べてもらえる。貧しい私たちにとってこの事実が嬉しくてならなかった。生きていく上での原動力のひとつだったのである。

 もちろん、果物は村長が荷台に乗せて、1日かけて王宮まで引っ張っていく。出発の時は村のみんなでそれを見送るのだ。当時ませていた私は、都会に強い憧れを抱いていた。見たこともない王宮を想像しては紙にスケッチすることが1日の楽しみで、国王や王太子などは何度も夢に出た。そして夢の中で、私はいつも王太子と恋に落ちた。

 だからある時、私は村長に自ら頼み込み、果物を献上するのに一緒に連れていってもらうことにした。力のない私が一緒についていっても何も役に立たないどころか足手まといになるだけだということは明白だったにも関わらず、優しい村長は快く受け入れてくれた。私は村長の優しさに感謝しながら、決して邪魔にだけはならないよう、必死で食らいついた。


そしてようやく、私たちは国の首都に到着した。心が踊った。今までに味わったことのない華やかさ、高級感。あんなに高い建物を見たことがなかったし、あんなにカラフルな街並みも、石やレンガで整備された通りも、見たことがなかった。緑一色の田舎とは、何から何まで違かった。

 王宮の前まで来ると、村長は私にここで待つように言い、中へ入っていった。

 その間私は、妄想に心を躍らせた。国王や王太子はこの中にいる。何をしているのかな、どんな顔をしているんだろうな。

 そんな中、私は王宮の敷地内から美青年に声をかけられた。

バリっとしたロングコートにピカピカのブーツ。金髪に栗色の瞳。普通の人間とは明らかに雰囲気が違う。只者ではないオーラを感じた。それが、王太子テレスだった。


☆☆☆


「なるほど、そういう出会いだったわけか」


 タッカーはようやく腑に落ちたように言った。


「どう? 運命的な出会いでしょう」


「ああ、うん」


 気まずそうにタッカーは頷く。それもそうだ。運命的な出会いなどではないのだから。


「あ、もうすぐ村だね」


「話してたらすぐだったわね」


 しかし村はいつもの村ではなかった。村は一晩で、衝撃的な姿になっていた。

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