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「あ! セルナ!…様だ」


 歩いていると村の住民、ボージに会った。彼は私と幼馴染だ。小さな頃からずっと仲が良くよく一緒に遊んでいた。しかし、私がテレスと婚約し、身分も変わると、当然のことながら段々疎遠になっていった。それでも無邪気なボージは久しぶりに会った私に声をかけてくれた。


 ボージと会うのは実に5年ぶりだった。さすがに5年という歳月は長かったようで、私よりもちびっこだったボージは、今ではすっかりたくましい大人の体格に成長し、私を若干見下ろしている。日に焼けた小麦色の肌こそ昔と変わらないものの、今では筋肉もがっしりと付き、頼もしさが感じられる。そんなすっかり大人になったボージ。体つきは立派になっても、目の輝きは少年の頃のまんまだった。私にはそれが嬉しくてたまらなかった。

 ボージを見ると、やはりいつの時も安心する。

あの楽しかった田舎暮らしが、私の元に戻ってきたのだ。どうせなら、ボージも私に気を遣わず、昔みたいに気さくに話しかけてきてほしい。今はもう、身分も何もかも対等なのだから、当然私たちの関係性も昔のように対等で問題ないはずである。


「久しぶりね、ボージ。様はやめてよ、私もう貴族じゃないし、それにボージとは長い付き合いなんだから」


「へへ、そうだな。ありがとよ。久しぶり、セルナ!」


 ボージは照れ臭そうにはにかむと、言い直した。笑った顔は、幼い時から変わらない。私は少し懐かしくなった。


「セルナ、お友達?」


「うん。幼馴染のボージっていうの。タッカーとも仲良くなれると思うわ。ボージ、こちら、タッカー。私の友達よ」


「ボージ、よろしく」


「フゥ〜! 2人、お似合いだねぇ!」


「ちょっと、やめてよ! ほら、嫌だよね、タッカー?」


 タッカーの方を向くと、彼は否定もせず、ただ嬉しそうに微笑んでいた。まったく。タッカーは陽気なのがいいが、何を考えているのか時々わからなくなる瞬間がある。掴みどころがないというかなんというか。いい人だということには変わらないが…。


「そういえば、ボージは今何しているの?」


「ウサギを捕まえに行くんだ! 俺の仕事でさ。この道をちょっと抜けていったところの草むらによく出るんだぜ! これからセルナたちも行かないか?」


「いいわね! 久しぶりに、ウサギたちに会いたいわ! どう? タッカー」


「ウサギ?」


 タッカーは目を輝かせていた。ウサギはダルハザン帝国にはいない。しかもタッカーはこちらの国にきてからも都会住みだったため、ウサギを見たことがないのだろう。ウサギを見たら、どんな反応をするだろう。楽しみだ。


「よし、決まりだな!」


 ボージが嬉しそうに叫んだ。そして私たちは草むらに向かって歩き出した。その時だった。


「なんだお前ら! 何しやがんだ!」


 少し離れた畑の方から、男性の叫び声が聞こえた。私たちは驚き、立ち止まる。すると何やら複数の男性が怒鳴り合いが聞こえてきた。


「親父の声だ! ウチのブドウ畑の方からだ!」


 ボージは叫び、私とタッカーを置き去りにして一目散に声のする方へ走っていった。残された私たち2人は慌ててボージを追いかけた。

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