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 テレスとイザモアが立ち去ると、私たち家族は何事もなかったかのようにその日を過ごした。実際には何事もなかったなんて訳がない。目を背けたくなるなるような悲惨な現実にこれでもかというほど直面した。気にしないように努めたところで、状況が何か変わるわけではない。ただ、問題はそんなことではない。これは私たちの意地だ。意地でも、この時のことは話題に出さなかった。ただ、どことなくどんよりした空気が、家中に流れていった。


 それでも、こんな時こそ4人が手を取り合い、協力していかなければならないということは、家族全員が理解していた。だからたとえ今は痛々しくても、無理にでも前を向くしかない。後ろばかりみていも、過ぎ去った日々はもう戻らない。テレスが再びセルナを愛することもなければ、イザモアとの友人関係が戻ってくることもない。もっというと、テレスとイザモアが私たち家族に向けて放ったあまりに酷い言葉の数々が消されることも、もうないのである。


 しかしながら頭では理解できていても、そんな合理的な考えには肝心の心が追いつかない。私はブルーな気分のまま、家の外を眺めていた。私の家は、街から離れた農地にある。そのため、窓の外には一面に、美しい緑の世界が広がっている。小さな時から、この世界は何も変わっていない。嬉しいことがあったからといって薔薇色になることもなければ、今回のように嫌なことがあっても、ブルーな色に染まるなんてことはない。いつだってこの世界は中立なのだ。なんて能天気なんだろう。だけど、それがいいのかもしれない。


「セルナ、何ぼーっとしてるの!」


「タッカー…」


 タッカーも被害者の1人だ。タッカーは関係ないのに、私のせいでテレスからあんな酷いことを言われてしまった。きっと立ち直れないくらい傷ついているだろう。無理しなくてもいいのに。しかし、タッカーの屈託の笑顔を見ると、ひょっとしたらテレスの言葉なんて屁でもなかったのかもしれないという気がしてくる。

 タッカーは強い人間なのかもしれない。根拠は乏しいが、そう思った。



「セルナ、セルナ! 家の中でじっとしてても気分が塞がる一方だから、外に出て散歩でもしてみよう、そうだ。今から市場でも行こうよ!」


「でも、今はあんまり気分が…」


「大丈夫! 気分なんて、そのうち乗ってくるさ!」



 タッカーは私の手を引き、家の扉を開けた。


「ほらね、外の空気は気持ちいいでしょう」


「うん。あの、あのね、タッカー」


「うん?」


「ありがとう、ね。私に気を遣ってくれて」


 恐る恐る感謝の言葉を述べると、タッカーはなんでもないことのように言った。


「ははっ、何言ってるんだよセルナ! 気なんて遣ってないよ。外に出たら楽しいと思ったから誘っただけ!」


 そう言って爽やかに笑う。私も思わず笑ってしまった。それを見たタッカーも声を上げて笑う。2人で笑い合いながら、自然の中を歩いた。楽しい。こんなに心から楽しいと思えるのなんて、いったいいつぶりだろう。


 タッカーは私の中に眠っていた、「楽しむ心」を引き出してくれた。とても幸せな時間だった。

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