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 元の家に戻ると、匂いや家の景色に感じるものがあり、なんだかとても懐かしい気持ちになった。14年しかまだ生きていないが、色んなことがあった。嬉しいことや楽しいこともあれば、もちろん嫌なこともあった。そんな思い出が、この家には詰まっている。色んなことを思い出して、再び私は泣き出してしまう。そんな私を見て、父はまた、私を抱きしめてくれた。


「セルナ、大丈夫。大丈夫だからね。今日からは、ずっとここにいよう。いつまでも」


 父のありきたりの言葉が、自分でも驚くほど胸にしみた。


「お父さん、私、私っ! テレス様のことを、本当に、本当に…!」


「わかってる。セルナはいい子だからな。セルナは何も悪くない。そんなことは父さんも母さんもみんなわかってるさ。ありのままで、いたらいいんだよ」


 私は大好きなテレスのために、テレスの好みの女性であるために、今まで無理をしていた。慣れない派手なドレスも着たし、礼儀作法も完璧に身につけた。言葉使いも変えたし、価値観もがらりと変えた。自分なりにできることはなんでもやってきたつもりだった。しかしそんな私の努力は、テレスの心には響かなかった。


 父も母も絶対に口には出さないが、私たちバレンシア伯爵家は、屋敷を追い出されたのだ。これでもかというくらい徹底していて、国王なのかテレスなのか、主導者はわからないが、本当に残酷だと思う。しかしこれに関しては悔しいなどというような感情は湧かない。正直なところ、別に住む家なんかどこだっていいし、何より自分の本来の家に戻ってこれたという安心感の方が強いからである。

私にとってかけがえのないものは、お金で買えるものではないのだ。長いこと王宮にいても、それを忘れていなかった自分が誇らしい。

 本来の家で、家族みんなで談笑していた。少し休憩したらみんなで掃除をすることになっていた。


 しばらくすると、家の周りで騒がしい物音が聞こえた。家の扉を開けてみると、そこにはテレスとイザモアがいた。思いがけない再会に、私ははっと息を呑んだ。


「相変わらずボロ臭い小屋だな、なあ、イザモアよ!」


「本当にそうね、不潔極まりないって感じ! 病気になりそうだわ!」


 そう言ってイザモアは、母を見ながら下品な声を上げて笑った。少し前まで一緒に過ごして、自分を大切に扱ってくれた人に対してする物言いではない。はっきり言ってイザモアは、悪魔だ。


「何か、ご用件でしょうか、テレス様、イザモア様」


 ついさっきまで侍女だったイザモアに頭を下げる父。私は悲しくてたまらなかった。


「何のことはない! イザモアが忘れ物をしたから取りにきただけだ!」


「あるかしらね?」


「ハッハッハ! この下民共は盗みをしてもおかしくないからな」


 私は目をつぶってひたすら屈辱を耐え忍んだ。しかし、ふと目を開けて横を向くと、タッカーが、何も言いはしないが、歯を食いしばりながら拳を握りしめていた。まずい。気持ちはわかるがここは一旦、冷静にならないと。私はテレスとイザモアに気づかれないように、小声でタッカーを宥めた。


「うん? なんだ、そこの捕虜よ。お前は下民共の家が似合っているぞ。一生そこにおれ!」


 テレスはイザモアと顔を見合わせて笑った。テレスも悪魔だ。この2人は、悪魔以外の何者でもない。そう確信した。それと同時に、こんな悪魔と婚約をしていた自分を恥じた。そして関係を切ることができてよかったと、心の底から思った。


 2人は用が済んでもなかなか帰らず、いつまでも私たちに嫌味を言い続けた。品のない2人の笑い声が耳にこびりついて離れなくなるほど、私たちはひたすら笑われた。私のテレスに対する愛もさすがに冷めたし、心がボロボロになった。

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